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槻木くんは猫離れができない
二ノ二


槻木君との接触を試みた生徒がどうなるのか、みんなよく知っていた。

うん、いえ、ありがとう、ごめんなさい。

この4種類の言葉と、ほんの僅かな微笑だけで優しく丁寧かつ、キッパリと相手をかわしてしまうのだ。

彼を憎むことも、近づくこともできない。
それはきっと恐ろしく切ないのだろうな。
それでも彼の声と微笑が欲しいために、傷つくとわかっていて接触を試みる生徒は後を絶たない。


慎重に動かねば。
僕はどう行動していいのかわからず、この3日間頭を抱えていたのだ。


蓮田先生が中々採点し終わらないので、あちらこちらで雑談が始まり、教室がざわついていた。

「桜沢くん、また"頭痛"でも痛いの?」

悩ましげな顔をした僕を見て、隣の席の雨宮さんが、くすくすと笑いながら話しかけてきた。
僕の席は廊下側の一番後ろで、その隣が雨宮さんだ。

「いや、や、あの、平気だけど」

赤面した。
それを見て雨宮さんはまた、くすくす笑う。

雨宮 菫(あまみや すみれ)。彼女は平凡で地味で背景な僕にも話しかけてくれる数少ない女子だった。
切り揃えられた前髪に、白い肌と黒目がちの瞳が、神秘的な雰囲気を持っている。
ただでさえ女の子に耐性のない僕は、彼女に話しかけられる度、どぎまぎしてしまう。

「ふーん…、」

と言いながら、彼女はちらり、と窓際の一番奥を見た。



僕はどきりとした。





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