槻木くんは猫離れができない
二ノ一
そんなわけで僕は槻木君ではなく、彼の腕に傷を付けたであろういたずらな子猫ちゃんを思い、うっとりしていたのだ。
槻木君が問題を解き終わった。
黒板には丁寧に書かれた数字と符合が綺麗に羅列していた。
彼はそっとチョークを置き、先生の方を見る。
「先生、」
数学の蓮田先生は槻木君が問題を解いている間に、授業の始めにやった小テストの採点をしていた。
「あ、ああ。流石槻木、早いな」
小テストが行われた日は、生徒が難しめの問題を解いている間に蓮田先生が丸付けをする、というのが通例になっている。
出席番号順で今日は槻木君が問題を解く日だった。
先生は彼の解答があっていることを確認し、席についていいぞと言った。
「今日は槻木が問題を解く日だから時間稼ぎのために超難問を用意したんだが…」
先生はそう呟きながら、残りの小テストを慌てて採点している。
槻木君は窓際一番奥の自分の席に着く。
彼は指先についたチョークを拭い、捲くっていた学蘭の袖をゆっくりと元に戻していた。
引っ掻き傷が隠れてしまい、僕は心の中であーと呟く。
それにしても彼の動きは優雅で、どこか気品がある。
3日前から、彼を観察し続けている僕はふと、そんなことを考えた。
待て、秋臣。本来の目的を忘れてはならない。
ネコモフネコモフ
呪文のように詠唱する。
この3日間、僕はどうやって彼に近づこうかと思い悩んでいた。
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