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Marco×Ace
6
仕置が必要だねい、と心の中でつぶやく。
「どうしたんだよ、マルコ!いきなりこんなところ…」
驚いたエースの声をスルーして目星をつけていたところまで進んで行く。
マルコが答えてくれないとわかったのか、断念したエースは大人しく付いてきた。
やがて、連れてこられた場所は、人の少ない開け放たれた場所だった。祭りの会場からは遠く、人はほとんどいない。
近くは森になっており、鬱蒼とした茂みが夜の暗さを助長していた。
「なぁ、マルコ…どうしたんだ?」
エースは、先程から様子のおかしいマルコに声をかける。そう言えば、子供の親を探すのに夢中でマルコのこと全然構ってやんなかったな、と思い出す。
「なぁ、マル…え!?」
ごめん、と謝ろうとして口を開くと、木の幹に押し付けられる。そのまま顔が近づいてきたかと思うと、キスされた。
「マ、マル…ん、んん…っ」
乱暴に侵入した舌がエースの口腔を蹂躙する。
歯列をなぞって、弱いところを的確についてくる。息をつく暇も与えず、マルコはエースの唇を貪った。
「…っはぁ、はぁ………マルコ?どうしたんだよ?…」
乱れた息を整えながら、エースは少し上にあるマルコの顔を見上げる。
やっぱり、さっきの怒ってるのかな、と思うと少し気分が下がる。
エースとて、マルコと回りたくないわけではなく、むしろ、二人でいたかった。とは言え、迷子になった子供を放っておくような真似はできず、マルコも何も言ってこないのでそれに甘えてしまっていた。
「なぁ、マルコ…」
返事が返ってこないことに、ますます落ち込む。
下がってしまった頭の上で、はぁ、と小さくため息をつく音が聞こえた。
びくり、と体を震わす。
(マルコ、あきれちゃったかな…)
顔を上げられず黙っていると、悪かったよい、と言われた。
その言葉に驚いて、ぱっと顔を上げる。
「そんなことねェ!…悪いのは、俺だ。マルコ、わざわざ時間作ってくれたのに、それに甘えて好き勝手しちゃって…」
言いながらまた悲しくなってくる。マルコが怒るのも当然じゃないか。
あ、やべぇ、涙、出てきた。
どうしようもなくなって、ちらりと目だけをマルコの方へ向けると、少しバツの悪そうな顔をして、ふ、と笑った。
「気にしなくていいよい。…なぁ、エース。この島に伝わる話知ってるか?」
「……ううん」
少し冷たい大きな手が頬に触れる。目尻に溜まった涙を掬うと、ぐしゃぐしゃと頭を撫でて、マルコは話し出した。
「…そもそも、この祭りは、この地に伝わる神に感謝をして執り行われるらしいんだよい。その昔には、毎年行われていて、ついでに生贄として、若い女が出されていた。とは言え、今は生贄などと言うものは出されていないらしいがねい。しかし、時は経ち、生贄を差し出さなくなっても、その風習は変わらず、今尚この地に根付いてる。そうして、いつからか、四年に一度しか開かれなくなったこの祭りに、それまでの感謝を込めて、天まで届くように大きな打ち上げ花火を何十発と打ち上げる。それで、神に感謝をするようになったんだ。…実際には、この地に伝わるものは、天におわす神ではなく、オロチと呼ばれる巨大な蛇らしいが。…その大量の打ち上げ花火の中に、ごく稀にハートの形をした花火が混じっているらしいよい。いつ誰が始めたのかもわからないし、本当にそんなものが上がるのかも知らないが。しかし、ジンクスはジンクス。…いつからか、その花火の下でキスをした恋人は、一生離れないと言われている」
そこまで言って、マルコはエースを振り向いた。
「なぁ、エース。…信じるか?」
短い一言。
ただの、ジンクス。別段、この地に暮らしているわけでもない。けれど、その中に、なぜか、マルコの想いが詰まっている気がして。
「…っ、信じる。信じるに決まってんだろ。」
勢いよく頷く。それから、今日は甘えるんだった、と思い出す。
「……なぁ、マルコ。もし、それが本当ならさ。もしかしたら、見れるかもしれないんだろ?…その花火。」
顔に熱が集まってくるのが分かる。
心臓がバクバクいう。それでも、伝えないといけないと頭のどこかで自分が言う。だから。
カラン、と下駄特有の音をさせて、ぎゅ、と後ろから抱きつく。
回した手にマルコの手がふわりと重なってひどく安心する。大きく息を吸って、緊張している自分を抑えて、口を開いた。
「じゃあさ、マルコ。…もし、その花火上がったらさ……キス、してくれますか?」
その時、ドーン、という音がして、大きな大きな花火が夜空に咲き誇る。
思わずそれに見惚れるていると、ぐい、と腕を引っ張られた。
いつのまにか正面からこちらを見ていたマルコとぱちりと目があう。何となく気恥ずかしくなって視線をそらすと、ふわり、と頬を手で包まれる。
「エース」
花火の音に混じって聞こえる声は小さくて、聞き取りにくいはずなのに、鮮明にエースの耳に届く。
「エース」
縋るようなその声色に、視線に、思わず笑う。
「なんだよ、マルコ。…俺はここにいるぜ?」
そう言って少し上にあるマルコの唇に触れるだけのキスをした。まだ、もう少し。
花火はキラキラと輝きながらその残滓を残す。やがてそれらが消えないうちに次の花火が夜空に咲く。
繰り返されるその光景に、人々は釘付けになる。
不意に、ぎゅ、と手を繋がれる。珍しい、とエースは思った。
マルコは、外では手を繋ぎたがらない。マルコ自身が、人に見られるのが嫌だからではなく、エースが嫌がるから。
エースとしては嫌なのではなく、恥ずかしいだけなのだけど、一度拒んでしまうとなかなか言い出しづらく、そのままになっていた。
とは言え、街中だろうがなんだろうが、人目につかないところでは散々キスやら何やらしているので、手を繋ぐことなど、今更、なんて事もないような気がしてくるが。
そんなだから、マルコが手を繋ぐことは無かった。
嬉しくなって見上げれば、こちらをちらりと見て、ふ、と小さく笑う。その笑顔が不覚にもかっこいいと思ってしまって赤面する。
「あっ、あれ!モビーみたいじゃねェ!?」
恥ずかしさを紛らわすように、叫ぶように言って指差した花火は、少し形の崩れてしまった楕円の花火。
「そうかよい?」
穏やかな笑みを湛えながら、少し不思議そうにそう告げるマルコになぜかムッとして、思わずぎゅっと抱きついた。
「なんだよい、エース」
「だって!俺ばっかドキドキして!あんた全然余裕そうじゃねェか!なんかずりぃ!」
一向に鳴り止まない心音を隠すように少し体を離す。
そんなことをしても無駄だとは思っているけれど、やっぱり恥ずかしい。
その時、何を思ったのか、マルコがぐい、と体を引き寄せて強く抱きしめた。
「なっ、なんだよ!?」
恥ずかしくて、顔から火が出そうだ。エースの場合、例えで済まないのが困りどころだが。
頭上で小さく笑う声が聞こえる。なんだか子供扱いされているようで面白くない。なおも言い募ろうとしたエースの言葉をマルコが遮った。
「なぁ、マル…」
「エース。そろそろ、クライマックスだよい。」
その言葉に慌てて空を見上げれば、たしかに今までよりも大量の花火が打ち上がっている。
「すげぇ…」
言葉少なに呟いた言葉はしっかりとマルコの耳に届いていたようで、そうだねい、と頭を撫でられる。
それから、はっ、と思い出す。
「花火…ハートの形の花火は?」
見上げながら問えば、まだだよい、と少し拗ねたような口調で言われる。
「なんだよ、拗ねてんのか?」
そんなマルコが可愛くてからかうような口調で言えば、うるせェよい、とかえされる。
「ジンクスに頼んなきゃいけないくらいの仲なのかよい」
思わず呆気にとられる。まさか、いつも何考えてるかわからないようなマルコがそんなことを考えていたなんて。
それに、その話を持ち出したのはマルコだろ、と苦笑する。なんだか嬉しくなって、ニヤニヤと顔が緩む。
なんだよい、と相変わらず拗ねたような調子に、面白くて声を上げて笑ってしまう。
「わらうな」
ぶすっとして言われても効果なんてなくて笑っていたら、不意に手が掴まれて、木の幹に押し付けられる。
(やべ…)
先程と同じ状況に笑いが止まる。
それに満足したか、ニヤリ、と笑うと、マルコが口付けてきた。それは思いの外優しくて。
触れるだけのキスをして、だんだんと深くなっていく。
「んっ…ふ……」
飲み切れなかった唾液が顎を伝う。
それでも止まることなくマルコの舌はエースの口腔を犯す。くちゅくちゅと卑猥な音が漏れる。かくん、と力が抜けて、地べたに座り込んでしまう。
マルコにしがみついて、快感に耐えた。
(きもちぃ…)
空には花火が上がる。
不意に、唇が離されて、安心しているはずなのに、どこか寂しいと感じている自分に笑ってしまう。
マルコを見上げると、そのスカイブルーの瞳には明らかな欲が映っていて。
思わず、こくり、と唾を飲み込むと、そんなエースに気がついたのか、ふ、と笑って頭を撫でる。
「さすがに、こんなところではやらねぇよい。…それより、見ろ。ラストだ。」
マルコにつられて空を見上げると、一際大きな花火が空にその存在を主張するように大きく花開いた。やがてそれは名残惜しそうに残滓を撒き散らして静かに消えていく。
人々からは自然と拍手が起こった。
その時、何処からか、ヒュルルル、と花火の上がる音がする。
え?と思って見上げても、空にはなにも映らない。側に立つマルコの表情は、暗くてよく見えない。
心細くなって、思わずマルコの浴衣の袖を掴むと、しっかりと手を握ってくれる。
「なぁ、マルコ、今、花火の上がる音…」
空から目を離さないマルコに問いかけると、しー、とジェスチャーで合図される。
「黙って見てな」
その言葉に従って、黙って空を見ている。と。

ドーーンッッ

突然、空に、大きな大きなハートの花火が浮かび上がった。
え?と思う暇もなく、エースはマルコに抱きしめられる。それから、ふわり、と顎を掴まれると、優しいキスが降ってくる。
啄ばむようなそのキスに目を閉じると、唇が離された。悲しくなって、目を開けると、そこには、花火の光に照らされたマルコの姿があって。
「ジンクス、叶えられたな。」
そう言って、ふ、と笑った姿が格好いい。
嬉しくなって、キツくマルコに抱きつくと、ぐりぐりと頭を押し付けた。
ずっと一緒だよい、と言う彼に、おう!と満面の笑みで言うと、嬉しそうに優しいキスをくれた。


fin

白ひげ海賊団って、どこの海域を好んで船を進めていたんだろう?と思いまして、原作では書かれていないなと
ならばこの婆や、描いてみよう、と
ちょうど思い立った日が浴衣の日と言うらしくて
浴衣といえば夏祭り!と出来上がったものでございます。まぁぶっちゃけ浴衣マルエーが書きたかっただけっていう

2019/8/29

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