★ スタホ殺人事件 ★
開戦A
馬場は良馬場。
1枠に入った『シグマヴォルテクス』が好スタートを切って飛び出す。『レッドブルータス』は後方待機だ。
『シグマヴォルテクス』がスイスイ逃げて1,000m通過、タイムは1′00″6。
駿介は我が目を疑った。
「1′00″6」
『シグマヴォルテクス』は単騎逃げている。しかしこのタイムは…
「重馬場だったか?」
駿介がサテを見直すが、そこには「良」の文字がしっかりと表示されている。
「なんじゃ、このペースは???」
駿介の頭が混乱してくる。
隣では必死に居闇がペイボタンを連打している。
3角過ぎから『レッドブルータス』がまくり始め、居闇が
『よしよし』
とニヤつきながら呟いた。
しかし、その一呼吸のちの4角から、一旦ランプの光り方が弱まっていた『シグマヴォルテクス』のランプが猛然とMAXに向かって光り出した!
「さあ先頭はシグマヴォルテクス、先頭はシグマヴォルテクスたぁ〜っぷり貯金を貯め込んで、後ろからはなぁ〜んにも、後ろからはなぁ〜んにも来ない影をも踏ませぬ大逃亡ぶっちぎったぶっちぎった〜待ちに待ったスーパースターの誕生です」
延々と続く杉本アナの実況に、呆れるほどの大差でシグマヴォルテクスが逃げ切ってしまった。
MAX光った『レッドブルータス』も、見せ場のかけらもないほどの圧勝劇。見ている駿介ですらぽか〜んと口を空いて大画面モニターを見つめていた。
『いやいや、お見事、お見事』
伊井の声で駿介は我にかえった。
『いや、途中のペースがいやにスローで重か不良かと思ってさぁ。』
『あぁ、俺もあのタイムには目を疑ったよ。「なんだこのドスローは?」ってな。』
『最後の直線は何なんだよ、あれじゃ後ろの馬はどうにもなんねぇだろう。』
隣では居闇が微動だにせずに固まって、じ〜っとサテを見つめていた。
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