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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第12話 『穏やかな日常の中に潜む悲しい影?』(加筆修正版)



真剣なお話は、なんとか無事に終わった。これで、防護策は張れたはず。





フォワードと隊長陣が両方敵に回る状況だけは、これで避けられるはず。










「ギンガさん、帰り大丈夫?」

「大丈夫だよ。近くにいる部隊員の人に迎えに来てもらうようにお願いしてるから」

「あぁ、アッシー」

「そういう人聞きの悪いことを言う口は、これかな〜」

「い、いひゃいいひゃいひゃら、ひゃにゃひへー」



ここは家の玄関。フェイト達は、保管庫で色々漁り中。せっかくだから漫画など借りることにしたらしい。

フェイトの車でみんな来てるから、1階に降りればすぐ帰れる。ギンガさんだけ、別ってことだね。



「ギンガさん、迎えの車って何時くるの? 時間かかるようだったら、中で待っててもらっても」

「あ、大丈夫だよ。もう来てくれてるそうだから」

「また随分と手早いね。やっぱアッシーだよ」

「なぎ君、私怒るよ?」



ギンガさんが睨んでくる。それも相当な勢いで。・・・・・・何故だろう。

あぁはいはい。分かってますから。僕が悪いんですよね? えぇ、分かっていますから。



「あ、それと・・・・・・ひとつだけお願い」

「何?」

「六課解散後なんだけど、うちに来て欲しいの」



真剣な顔でそう言うギンガさんを見て、ちょっと頭が痛くなる。

だって、僕の返事は決まってるもの。



「ごめん、ギンガさん」

「・・・・・・やっぱりだめか」



即答で返ってきた僕の答えに、ギンガさんの表情が曇る。申し訳ないと思うのは、きっと付き合いの長さのせいだと思う。



「お願いだから、少しでいいの。考えてもらえないかな」

「・・・・・・ギンガさん」

「もちろん、分かってるの。あんな事件があった後じゃあ、無理だなって。
でも・・・・・・やっぱり来て欲しい。決して悪いようにはしないから」






僕は108部隊の方で仕事を引き受けていた時に、この話を何度もされてる。

ギンガさんだけじゃなくて、部隊長であるゲンヤさんからもだね。

うち・・・・・・・・・108部隊に所属してほしいと。正式な局員になって、頑張ってみないかと。



普通に依頼を受けてやる分ならいくらでも構わない。でも、これはそれとは違う。



だからまぁ、何度か話したように嘱託の仕事が気に入ってるし、断ってるのよ。





「てーか、僕は問題児よ? 局員なんて無理」

「少しずつでも、変わっていけないかな。組織・・・・・・私達の事、信じて欲しいの。
他はともかく、うちは部隊長が部隊長だから、何とかなるとは思う。だから」

「ごめん、無理」



少しだけ語気を強めて、ハッキリそう言う。それで、ギンガさんの表情が曇った。

ただ、悲しんでるとか、そういうのじゃない。答えは分かってたような感じがする。



「・・・・・・うん、分かってた。あんな事件があったばかりだものね」



『あんな事件』と言うのは、JS事件の事。アレは、局の上層部の不正が原因の事件。

ギンガさんは元々僕が局を好きじゃないのも知ってる。だから、予測してたんだと思う。



「じゃあ、これだけで終わる事にする。もしも興味が出てきたら、必ず力になるよ?
なぎ君は、大事な友達だもの。だから、絶対。その時は、相談して欲しい」

「・・・・・・うん。ただ、その時が来るかどうかまでは約束しないけど」

「しなくていいよ。ただ、私と父さんには頼ったり甘えたりしていいよって覚えていて欲しい。うん、それだけ」



言いながら笑うギンガさんの笑顔を、そのままの形で受け取る事が出来なかった。

やっぱり・・・・・・傷つけてるのかな。うん、そうだよね。分かってたわ。



「それじゃあ、そろそろ私も帰るね。なぎ君、また来るから」

「うん。おやすみ、ギンガさん。ただ、連絡はしてね?」

「もちろんそこも絶対。迷惑って思われたくないもの」



僕の言葉に軽く返しながら、ギンガさんは手を振り歩いていった。

・・・・・僕は心の中で、ごめんと謝りながら見送った。それから、ため息を一つ吐いた。



「何ため息吐いてるんだよ」

「気にしないで下さい。男心と秋の空っていうじゃないですか。
人の心は、あの月のように移ろいやすいんですよ」

「詩人ですね」

「男は生まれついての詩人なんだよ、リイン」



後ろからかかった声は、当然師匠とリイン。

振り返ると、師匠と妖精サイズに戻ったリイン。それとフェイトも居た。



「・・・・・・ね、ヤスフミ。ひょっとしてギンガ、随分前からヤスフミのこと誘ってくれてるの?」

≪ギンガさんだけではなく、ゲンヤさんもですね。マスターの能力を買った上で、やってみないかと≫

「で、恭文さんは断り続けてるわけですか」

「そーだよ。僕は自由気ままな通りすがりが性に合ってるもの」



断る理由は・・・・・・さっき言った通り。みんなも、それは察しが付いてるらしい。

だから、どこか諦め顔。・・・・・・いや、一人違う人が居た。



「・・・・・・ね、もうちょっとだけ真剣に考えてもいいんじゃないかな。やるかどうかは別にしてだよ?」



それはフェイト。真っ直ぐに僕を見て、右手を胸元に当てながらそう言ってきた。



「ヤスフミの能力なら、108でも問題なくやっていけるよ。それになにより・・・・・・うん、なによりだよ。
ギンガやナカジマ三佐がどういう人か、知ってるよね? だったら、絶対に妙なことも無いだろうし」

「嫌」



即答すると、フェイトは何か言いたげだったけど、そのまま一言だけ返してくれた。



「・・・・・・そっか」

「そうだよ。てーか、あんな事件あった後で、僕は局員やりたいなんて思えないし。
というか・・・・・・あぁ、これが問題か。僕、フェイト達とは違う」

「違わないよ。絶対違わない」

「違うよ。僕、フェイトにとっての執務官とか、師匠にとっての教官職みたいなもの、無いんだもの」



例えばよ? フェイトとかなのはとか、師匠やはやてみたいにその中でやりたい事があるなら別だよ。

そこは、いいのよ。でも、僕はそういうわけじゃない。局員になって、やりたい事なんてない。



「そういう、事なんだ」

「うん」



だから、フェイトも納得する。ようするに局の現状どうこうを含めて、それでも通したいことが無いという部分を。

やっぱさ、アレコレ考えて入るならそこかなぁと思うのよ。悪い部分に目を伏せて知らんぷりは、無理っぽいから。



「まぁ、その話はいいじゃねぇか。ただよ、バカ弟子。断るにしても礼儀は守れよ?
向こうさんは、お前のそういうのも分かってはいるだろうが、それでもだ」

「えぇ、分かってます。それはもう重々と」

「ならいいや。んじゃ、帰るわ。・・・・・・飯、ありがとな」

「いえいえ」



そのまま、フェイトも師匠も、リインも玄関を出た。出て・・・・・・僕は一人の部屋に戻る。

戻って、リビングのソファーに一人突っ伏す。突っ伏して・・・・・・思う。



「アルト」

≪なんですか?≫

「つまんない」

≪でしょうね。だったら、どうします?≫



どうするもなにも、一つしかない。・・・・・・やるしか、ないのよ。



「一歩踏み出して、答えを探す。つまんないなら、そんな世界なんて壊す。
僕は、つまんないのもウダウダ馴れ合いするのも嫌だし」

≪そう言うと思ってました。まぁ、好き勝手にやっててください。
私もそうします。それで、勝手に一緒に戦いますから≫

「・・・・・・ありがと」










なんというか、重いもん約束しちゃったなぁ。おかげでアレコレ悩むハメになってるし。

二人とも、とんでもないもん遺してくれたこと、恨みますよ? いや、真面目な話だよ。

・・・・・・探さなくちゃいけない。僕が、守りたいものを守る騎士なら、絶対に。





だって、JS事件の時の僕は何にも守れなかったんだし。フェイト然り、リイン然り、その他のアレコレ然り。

とにかく僕は起き上がって、タンスの中からバスタオルとパジャマを取り出して・・・・・・お風呂に向かう。

いつもは朝入ってるけど、なんというか、今日は今すぐ入りたい。





とにかく、寝る前にリフレッシュといきますか。それで、お風呂入りながら考えようっと。




















魔法少女リリカルなのはStrikerS  外伝


とある魔導師と機動六課の日常


第12話 『穏やかな日常の中に潜む悲しい影?』



















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『・・・・・・そうか。また断られたか』

「はい。ただ、仕方ないんですよね」

『そうだな。今までとは全く状況が違う。アイツは元々、局員が嫌いだったんだしよ』

「そうですよね。・・・・・・あんな事件が無ければ、まだ良かったのに」





帰りの車の中、通信モニターに映っている父さんの顔を見ながら、私は苦い顔しか出来ない。

少しだけ、寂しい思いを含めながら思い出すのは、あの子の事。どうやら、少なくとも今は無理っぽい。

誤解のないように言っておくけど、なぎ君を誘うのは、私と父さんの個人的感情ではない。



まぁ、一部そういうのがあるのは認めるけど。ほら、なんていうかなぎ君って放っておけないじゃない? 

危なっかしいところは相変わらずだし。やっぱりフラフラしてるよりも、しっかりと腰を落ち着けて欲しいなと。

それで私の捜査官の仕事を手伝ってもらってもいいかな〜なんてちょっと考えたりとかしたりする。



あ、それだけじゃなくて、あの子達の更生プログラムも、今よりも突っ込んだ形で手伝ってほしいかな。



なんだか、あの一回で随分気に入られたみたいだし。なぎ君は、心さえ開いてくれれば人の心を掴みやすい子だから。





『とにかくだ、気長にやろうぜ? 今は局員への好感度がマイナスだろうしよ』

「私達も、同じなんですかね」

『全く同じじゃねぇさ。ただ、それと同時に局への不信ってのもある。
アイツ、なんだかんだでそういうのよく分かってるから、余計に不安なんだろ』

「・・・・・・そうですね。私達も、局の一員であることには変わりませんから」





それでなぎ君を誘うのには、ちゃんと部隊運営上の理由がある。

・・・・・・私の感情だけじゃないよ? なぎ君とやりたいことはたくさんあるけど。

まず、JS事件の影響で、地上部隊の編成や戦力の見直しが急務とされている点。



これについては、AMF装備の機械兵器・・・・・・例を挙げると、ガジェットだね。

そういう機械兵器相手の戦闘も視野に入れられている。

確かに、開発者であるスカリエッティは逮捕された。その身辺に居たみんなも同じく。



局ではガジェットの技術が流出しないように、スカリエッティが管理していた他のアジトの捜索と殲滅も急ピッチでやってる。

ただ、それでもなんだよね。現実としてガジェットが出来上がって、色々な所で出た以上、レプリカのようなものが出ない保証はない。

AMFだって、元々は高度なフィールド魔法の一種だもの。スカリエッティを止めて、ガジェットを全て壊せば終わりというわけじゃない。



実際問題として、ミッドの治安、少しだけ悪化してるしね。

やっぱり最高評議会や、レジアス中将の話は大スキャンダルだったから。

なぎ君だけがアレじゃないの。全体的に局への不信感は、強まっている。



悲しいことだけど、『世界は変わらず、慌しくも危険に満ちている』。

旧暦の時代から言われているこの言葉は、現在進行形のものになる。

そんな現状なのにも関わらず、地上部隊の大半の武装局員は対AMF戦は慣れてない。



これはレジアス中将が、アインへリアルという兵器に全精力を注いでいた弊害。

・・・・・・ううん、スカリエッティと繋がっていたことが、その原因かも知れない。

自分達は、ガジェット相手で本気でやり合う事はないと考えていたのかも。



とにかく、六課みたいな一部のエースやストライカーを除くと、一般局員はAMF戦の練度が低すぎる。

ここの見直しは、かなり早急に必要というのが、上の判断らしい。

そしてそれは私達、陸士部隊・第108部隊も同様。今説明した現状は、うちの部隊にも当てはまる。



うちの武装局員は、数を頼りになんとかと言ったところ。

私は何とかこなせるけど、まだ本調子じゃなくて、戦闘はマリエルさんから禁止されてる。

さすがに時間かかると言われてるから、無理は出来ない。というか、したら怒られるし。



つまり、もしうちが対AMF戦になった場合、有効手段が少ないのが現状。

だからこそ、なぎ君とアルトアイゼンに来て欲しいと思っている。

なぎ君の戦闘能力の高さは、よく知ってるもの。魔力無しでガジェットを両断とか出来るし。



というか、なぎ君は今話したAMF対策の取れるエース級の魔導師だもの。



めんどくさがり屋だから、ランクもAのままだし・・・・・・うん、かなり誘い易いのは事実。





「あの、私思ったんですけど」

『なんだ?』

「なぎ君に、AMF対策の戦闘技術を部隊員に教えてもらうというのは」

『無理だろ。てか、お前アイツの性格分かってるだろ?』



私はすぐに頷いた。・・・・・・自分で言って、これはないなと思ったから。

なぎ君、手札見せるの嫌うから。多分、頼んでも教えてくれないよね。



『つか、アイツらのスキルは全て特殊だろうが。剣術然り、魔法然り。
ノリやら勢い然り。アイツと相棒だからこそ出来るもんばっかりじゃねぇか』

「うん、そうだよね。分かってたの。だけど・・・・・・気付きたくなかった」





剣術やノリを抜きにしても、なぎ君の魔力コントロールの多彩さと錬度の高さと、瞬間的な魔法プログラムの処理能力は凄いから。

オーバーSランク揃いである六課の隊長陣の誰も、アレには勝てないって言うし。そして、それは私も同じ。

クレイモアの瞬間的な分散掃射もビックリしたけど、鉄輝一閃もビックリした。アレ、何気に高等技術なの。



魔力の圧縮だけを見ても、どうしてそこまでできるのかっていうレベルまで圧縮する。

私も、なぎ君と同じく近代ベルカ式だし、圧縮は得意だけど、なぎ君はそれより上。

本当に最低限の魔力で、全てを斬り裂く刃を生み出せる。だから、スバルだって一撃で墜とせた。



コツは魔力を薄く研ぐイメージで圧縮する事だと言ってた。

纏わせるんじゃなくて、刀身を軸にして、魔力の刃を打ち上げるイメージ。

漫画やアニメや、日本刀の製造工程なんかを参考に構築したら、そうなったと言っていた。



・・・・・・あれを真似っていうのは、難しいかもしれない。



というか、なぎ君のオタク知識を戦闘に持ち出すところはどうにかして直したい。





『こうやって考えてみると、AMF戦への対策は高町嬢ちゃん達教導隊に頼んだ方がいいな』

「そうですね。というより、本来はそうするべきなんですよね」

『ただ、アッチもアッチで忙しそうだしよ。今すぐってのは、中々難しいだろ』

「・・・・・・どこもかしこも、慌ただしいですね。もう1ヶ月経ってるのに」





窓の外・・・・・・ミッドは、もう冬に入りつつある。

この間まで制服の長袖が暑かったのに、今はちょうどいいくらい。

私が入院している間に、気候はちょっとだけ変わって、変化は今も止まらない。



なのに、局の慌ただしさは全く変わらない。なんだろう、これ。ちっとも進んでる気がしない。





『まだ1ヶ月・・・・・・いや、もうすぐ2ヶ月か。それだけじゃ、管理局みたいなデカい組織は変わらないさ』

「小さなところから、少しずつ・・・・・・なんですよね。他を変えるのは難しいから、まずは私達が変わっていく」

『そういう事だ。別によ、恭文の反応はおかしくないんだぞ?
今、市民の中には恭文みたいな考えを持ってる人間は、きっと山のように居る』



父さんの言いたい事は、分かった。市民からの信頼が、揺らいでいると言いたいんだ。

私達は中に居る人間だから、ついなぎ君の考えが突き刺さるんだけど、それは・・・・・・違うんだよね。



『俺達は、そんな人達からまた信頼されるくらいには、頑張る必要がある。
お前がさっき言ったみたいに、まず自分から変わっていくことでな』

「・・・・・・はい」

『で、例の話はどうだった?』

「何とか話せました。まぁ、ちょっとゴタゴタしちゃいましたけど」





・・・・・・実を言うと、なぎ君とそのパートナーであるアルトアイゼンは知っている。

私が戦闘機人だと言うことを。そして、スバルもそうだという事を。今日、ここを二人でフェイトさん達に説明してた。

私となぎ君が友達になってからしばらく後のこと。もう、大体2年くらい前かな。



ある事件がキッカケで、私が戦闘機人だと言う事がなぎ君に知られてしまった。

正直、どうしようかと悩んだし怖かった。私が人間じゃない。

その事実で、なぎ君が離れてしまうんじゃないかと。それで、それだけじゃない。



その事件のとき、なぎ君は命の危険に晒された。私が、巻き込んだから。

それが悔しくて、申し訳なくて、そして、その原因が私の身体の事。

余計にそれに拍車をかけてて・・・・・・私、なぎ君にどんな顔をすればいいのか、分からなかった。



でも、なぎ君は受け入れてくれた。私と父さん、それにマリーさんがかなり詳しく説明した。

戦闘機人について、本当にかなり詳しく。それでも、受け入れてくれた。

なぎ君は、私の身体の事も全部含めて、友達で・・・・・・一緒に居た時間は変わらないと断言してくれた。



断言して、そっと抱きしめてくれた。それが嬉しくて、ボロ泣きして・・・・・・それからかな。

なぎ君が、私にとって大事な男の子になったのは。私、男の子の友達なんてなぎ君くらいだから。

それから互いに色んな事を話して、伝えて・・・・・・現状に繋がってる。



それで、その時に一緒にスバルの事も触りだけ話したから、なぎ君は知ってるの。



ただ、この事を知らない人間も居た。それはスバルだったり、フェイトさんやヴィータ副隊長だったり。





「というか父さん、どうして教えてくれなかったんですか?」

『何をだよ』

「なぎ君があの一件で自宅謹慎を食らったり、フェイトさんや他のみんなに相当叱られた事です。
理由は私を守るために大暴れした事。・・・・・・当然知ってましたよね?」

『いや、まぁな。ただ、アイツから口止めされてたんだよ。お前に妙な負担かけたくないって言われてな』

「・・・・・・そうですか」










この話を聞いた時、当然のように三人は驚いた。それも特にフェイトさんが。

私は知らなかったんだけどなぎ君は、フェイトさんやなのはさん達から相当絞られたらしい。

その一件で私が関わってることは、内緒になってた。その、身体の事は基本秘密だから。





つまり体外的にはなぎ君が一人で過剰防衛ブッチギリな大暴れをしたという風に伝わってる。

だけど考えて然るべきだった。その場合当事者のなぎ君がどうなるかなんて、火を見るより明らかだもの。

それでその事も含めてフェイトさんがダウナーに入っちゃったから・・・・・・本当に大変だった。





特になぎ君があの態度だったのもあるんだよね。フェイトさん多分相当突き刺さってるよ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・ごめん」



リビングの椅子に座り、反省モードなのはフェイトさん。それを見てなぎ君が右手で頭をかきながら苦い顔をする。

というか、私も同じだった。まさか、フェイトさん・・・・・・ううん、なぎ君の周りの人達が、そんなに怒ってたなんて。



「私、何も知らなかった。というか、知ろうともしなかった。それなのに、思いっ切りヤスフミの事責めて」

「別にいいよ。大体、覚悟の上だったし」

「よくないよ。ね、どうして話してくれなかったの? 私、話してくれれば必ず力に」

「フェイトやみんなに話しても、意味ないから」



なぎ君は、ハッキリ宣告した。それで、フェイトさんの表情が悲しみに染まる。

なお、ヴィータ副隊長とリインさんは、普通。普通にコーヒーを飲んでる。



「アレは僕のケンカ。ギンガさんもフェイトも、関係ない。僕があの連中を徹底的に壊したかった。
だから壊しただけ。なのに、どうしてフェイトを巻き込む必要があるのさ。もうそれ意味が分からないし」

「それは・・・・・・その、うん」

「とにかく、そういうわけだから僕はギンガさんとスバルの身体の事は知ってる。で、ここからが本題。
・・・・・・実はさ、スバルとの距離をどうしたもんかとちょっと悩んでるのよ。ぶっちゃけ僕、どうすればいい?」

『・・・・・・・・・・・・はい?』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『その時、お嬢は特にお冠だったらしいからな。アイツは相当キツかったそうだ』

「そのようですね。念話でヴィータ副隊長とリインさんが、色々教えてくれました」

『ハラオウンのお嬢は、アイツの無茶な行動をやめて欲しいと常々思っているらしい。
だからしっかり説教したんだろうが・・・・・・アイツ、余計にダメージ増やしちまったか』

「そうですね。増やしました」





なぎ君、私が身体の事をそうとう気にしてると思ってて、それで黙っててくれた。

うん、なぎ君はそういう子だよ? 『自分のため』とか、そういう冷たい事を言うけど違うの。

なぎ君が戦ったり、一生懸命頑張る時は、必ず泣いている誰かが居る。



だからなぎ君が戦うのは、強がっちゃう時は、誰かを守るためという事が多い。

例えば、あの時の私がそれ。私には、お説教のダメージなんて微塵も見せなかった。

なぎ君が私へのフォローのために、父さんとアレコレ相談してた事なんて、知らなかった。



別の立場だけど私も、フェイトさんと同じ。・・・・・・うん、分かってるの。

ただ、ここで話して欲しかったと思っちゃうのが、自分でバカだと思う。

あの時話されたら、もっと申し訳なくなってたのに。今だから、大丈夫なだけ。



時間が経って、なぎ君が言葉だけじゃなくて、気持ちでも私と友達だって伝えてくれたから大丈夫なの。





『それで、どんな感じだったんだ?』

「八神部隊長や、なのはさん達にも、説明してくれるそうです。
スバルにはどう話せばいいか、一緒に検討しようという結論になりました」



正直、どう話すべきか迷ってる。私もそうだし、なぎ君も。

まさか、いきなり『お前の正体を知っている』・・・・・・なんていう風に言うわけにはいかないし。



『そうか』





スバル、なぎ君が戦闘機人・・・・・・もっと言うと、自分のような存在に対してどう思うか、かなり気になってるみたい。

なぎ君が隔離施設に来た夜に、それっぽいメールを送ってきた。それが、なぎ君の悩みの原因。

というか、いつものなぎ君なら普通に答えればいいと思ってたんだけど、理由があった。



・・・・・・私の軽いお願いが原因の、スバル達の特攻。アレで、どうしたものかと考えたらしい。

普通に答える事も考えたそうなんだけど、距離感の詰め方が凄すぎてちょっと引いてるとか。

これには、フェイトさんやヴィータ副隊長も何も言えなかった。というか、そうだよね。本当にそうだよね。



普通にストーカーだもんね。怖いよね。それだけじゃなくて、映画見れなくさせちゃったり・・・・・・あぁ、ごめん。





『・・・・・・で、アイツはその相談のために、隊長達に隠してた事まで話したと』

「そうなりますね」

『アイツ、ヘタレだろ』

「言わないであげてください。というか、なぎ君はなぎ君なりに悩んでたんですよ?」



かなり考えていたみたい。それで、一人で結論が出せなくて、私達に相談した。ここにも、まだ理由がある。



「これが普通に何時もの仕事なら、別にスバルの事は遠ざけてもいい。
ただ、六課はそれが無理。だけど、いきなり仲良くはしたくない。だったら・・・・・・と」

『・・・・・・あぁ、そういう事か。部隊員との人間関係にも、気遣う必要があると』

「そういう事です。それで父さん」

『分かってるよ。アイツの事だから何時もの調子で突っ込んだんだろうが、相手が悪い。
とりあえず、俺達でちょっと釘を刺しておくことにしようぜ? もうちょっと相手の距離感に合わせろってな』

「はい」



うーん、普段のスバルならここまでは無いんだけどなぁ。基本内気な子ではあるし。

もしかして、私となぎ君が友達だと言うのが、悪く作用してるのかも。私達が仲が良い所は、見せてるんだし。



『ただ、スバルの気持ちもまぁ分かるんだよ。アイツ、お前と恭文が仲良いから、余計に頑張りたいんだろ』



父さんも、私と同じ結論に達したらしい。だから、『やっぱヘタレだ』なんて言いつつも、そんな事を言う。



『誰でもいきなり友達になれるワケがないってのは、アイツだってよく分かってるだろ。
少し話せば、多少は落ち着くんじゃないのか? で、あとは時間をかけてだ』

「そうですね。・・・・・・本当に、それで落ち着いてくれると嬉しいです」





そこまで話して、通信を終える。車の窓から、外を見る。時刻はそろそろ10時。

本当だったらすごく疲れてるはずなのに、あのアイスのお陰でそんな感覚は全くない。

窓の外は、上に煌く星も霞むほどのネオンの光。それを見つめながら、思い出す。そして考える。



無茶ばかりする、私より背の低くて、とても強いあの男の子の事を。

私に少しばかりの悩みと。今という時間をくれたあの子のことを。

なぎ君が守ってくれなかったら、私・・・・・・ここに居なかったから。





「・・・・・・私、やっぱりおかしいのかな。どう思う、ブリッツキャリバー?」

≪おめでとうございますSir≫

「ブリッツキャリバー、スリープモードに入って」

≪えっ!? ちょっと待ってくださいSir!!≫










はぁ、別にそういうんじゃないんだけどなぁ。うん、大事な男の子というだけなんだし。

あ、なぎ君にメール打っておこうっと。今日のお礼メール。

・・・・・・なによ? 友達関係続けていくなら、こういうのは大事なのよ?





別に、そんなんじゃないんだからっ! よく父さんとかに『好きなのか』とか言われるけど、違うんだよっ!?

















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・帰る時刻になった。いつも通りに帰ろうとすると、机の中から手紙を見つけた。

内容は、あれですよ。一番大きい木の下で、待っててくださいってやつ。

まぁ、みなさんご想像の通り・・・・・・ブラックメールだろうね。もしくは、罠。





とにかく、僕は木刀なんて持って、そこで待っていた。よし、手紙をよこした奴は潰す。決定事項だ。

僕が、木を見上げながらそう思っていると・・・・・・待ち人は来た。

後ろを見なくても分かる。気配が・・・・・・足音がしたから。





それは、女の子っぽい足音だった。気配も少し弱々しいかんじ。

ははーん、最初は油断させておいてってパターンか? そうは問屋が・・・・・・え?

振り向いた僕の思考はストップした。だってそこに居たのは、僕の知っている顔だったから。





一人の・・・女の子。オレンジ色の髪をツインテールにして、強気な瞳をしている、僕の良く知っている顔。










「アンタ、なにしてんのよ」

「ピザ屋の宅配」

「バカじゃないのっ!? どこの世界にそんなモロに武装したピザ屋が居るのよっ!!」

「ティア、バカじゃないの? ここに居るでしょ」

「・・・・・・はぁ、予想はしてたけど、まさかモロに勘違いしてるとは」



その子は、僕の友達。というか、ティアだった。・・・・・・え? あ、そういうことか。

僕は納得すると、構える。なぜかって? 簡単だ。眼前の敵を、ただ・・・・・・斬り伏せるためにっ!!



「斬り伏せてどうすんのよこのバカっ!!」

「ぐはっ!!」



ティアの飛び蹴りが、僕に直撃してぶっ飛ばされた。



「そ、そんな・・・・・・見切ることすら出来なかったなんて。
さすがは『二代目海鳴の燃える女』の異名を、アリサから与えられただけのことはあるね」

「意味が分かんないわよっ! ・・・・・・あぁ、もういいっ!! この調子でツッコんでたら日が沈むわっ!!
いい? まず、その手紙を書いたのは私。だけど、決闘のつもりで書いたんじゃないの」

「え?」



それなら・・・・・・あ、そういうことか。うん、ようやく僕は納得したよ。



「やっぱりブラックメールだったんだね? それで僕が動揺するのを面白おかしく見物するつもりで」



言った瞬間、背中に衝撃。それに、思わず息を吐く。というか、背骨が鳴る。



「違うって言ってんでしょうがアンタはぁぁぁぁぁっ!!」

「い、痛いっ! 痛いからやめてティアっ!!」



ぶっ飛ばされてそのまま倒れていた僕は、ティアに踏んづけられてゲシゲシと制裁を加えられていた。



「なら、なんだよこの手紙はっ! ブラックメールでもなければ決闘状でもないんでしょっ!?
それなのに、こんな手紙を貰う理由が分かんないよっ!!」

「アンタそれマジで言ってるっ!? どんだけ潤いのない、寂しくて悲しい人生送ってんのよっ!!」

「うっさいわハゲっ! いいからさっさと答えろっ!!」

「よし、まず最初に言っておくわねっ!? ハゲてないわよっ! トンチンカンな逆ギレしてんじゃないわよっ!!
あと、それは・・・・・・その、えっと・・・・・・ようするに、アレよアレ。マジでアレなのよ」



言ってる意味が分からない。だから、当然のように僕は首を傾げる。



「・・・・・・に、決まってるでしょ」

「へ?」



ティアの顔を見ると・・・・・・俯いて、どこか顔が赤い。それで、なんか苦しそう。



「ティア・・・・・・?」

「ラブレターに、決まってるでしょ。・・・・・・私はっ! アンタの事が好きなのっ!!」

「え? ・・・・・・えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」





そう、それはあまりに衝撃だった。とてもビックリして。だけど、同時に胸も苦しいくらいに高鳴る。



でも、同時にどうするべきか考えてしまった。いや、考えるまでもない。僕の返事は、決まってる。



だって、僕の心の中には、もう・・・・・・もう、あの子が居るんだから。





「・・・・・・分かってるわよ。アンタは、フェイトさんが居るって。
だけど、ガマン出来なかったの。こうでもしなきゃ、アンタは私のこと、女として見てくれない」

「ティア、その」

「ゴメンなんて、聞かないわよ。てか、言わせない。
アンタが私じゃダメだって言っても・・・・・・今のままじゃ、私は諦めたりなんて出来ない」

「えっ!?」

「だって、アンタ、私のこと何にも分かってないっ! 女の子としてのティアナ・ランスターを、何一つ知らないじゃないのよっ!!
それで断るっ!? ふざけんのも大概にしてよっ! そんなの、絶対納得なんて出来ないんだからっ!!」



辺りにこだましたのは、勝手といえば勝手。だけど、必死な叫び。多分、僕と・・・・・・同じ想いをした叫び。



「だから、それを知ってよ。付き合うとか、好きになるとかは、それからでいい。それからでいいから、お願い。
私のこと、今よりも見てよ。お願い、だから。じゃないと、私・・・・・・アンタのこと、忘れることなんて、出来ないよ」










ティアが真っ赤な顔で、僕を見ながら・・・・・・涙を零し続ける。

紡ぎ続けた言葉は、既に形を無くした。今、口から出るのは、言葉ではなくて、吐息に近いもの。

感情の篭った息。僕は、ただ・・・・・・それを、見ていることしか出来なかった。





なぜなら、ティアの気持ちに、どう対処すればいいのか、分からなくなってしまったから。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・・・・・・・という夢を見たのよ」



ギンガさんやフェイト、師匠とリインに『コイツ、ヘタレだ』ときっと思われた会談から一夜明けた。

そして、僕は今言った通り、こんな夢を見てしまった。



≪なるほど、それでそんなに疲れた顔をしているわけですか≫

「もうね、すごかった。ある意味悪夢だよ。いや、ティアナの告白じゃないよ?
こう、シュチュエーション的な意味合いでだよ。自分の発想の無さが、とても悲しい」

≪気持ちは分かります。あまりにも狙いすぎですよそれは≫





などと言いながら、部屋の中にぷかぷか浮かぶ相棒を見る。



それで、朝食の炊きたてご飯を一口。・・・・・・うん、美味しい。



でも、夢の内容がアレだったから、どうにも美味しさが半減している気がしてならない。





「でしょ? 自分の夢ながらさ、設定がアレすぎるって。ミッド・チルダ学院ってなにさ?
小中高大一環で、街のど真ん中に東京ドームシティ5つ分の敷地面積って」

≪それだけではなくて、スバルさんとギンガさんは近所の幼馴染。しかも、ティアナさんとは一つ屋根の下で暮らしている。
・・・・・・まさにギャルゲーのシュチュエーションですよ、それは。どんだけ脳みそ病んでるですかあなた≫



お願い、それを言わないで。もうね、自分が自分で嫌になってるの。もう嫌。もう嫌。

なんでこんなに貧相な発想してるんだろ。



≪それよりもなによりも、私が猫というのは≫



なお、アルトも出てた。三毛猫で、名前がアルト。いっつも僕にくっついてくる可愛い子なのだ。



≪あなた、センスないですよ。そこは絶対ノロウサですって≫

「アレがペットっておかしくないっ!? アレ、ぬいぐるみじゃないのさっ!!」



・・・・・・でも、最近疲れてるのかなぁ? あぁ、きっとそうだ。疲れてるんだ。だから僕、あんな夢見たんだ。

心労積み重なってるしなぁ。まぁ、横馬はもう納得したからいいのよ。あとは他だよ他。



「あとさ、シャマルさんが家庭科の先生って・・・・・・・いや、確かにシャマルさんの料理は本当にアレだけどさ」

≪一種のロシアンルーレットですからね。ただし、最大6発装填可能のリボルバーに、弾丸を5発装填した状態でやることになりますが≫

「・・・・・・本人を前にしては絶対言えないけどね。アルト、間違っても言っちゃだめだよ?」

≪分かっています≫



夢の中の僕はその辺り容赦なかったけどね。もしかして、相当シャマルさんに思うところあるのかな。



「とにかく、僕は決めた。もうちょっと人生楽に」



なんて思っていると、通信端末が鳴る。・・・・・・正直、手に取りたくない。

絶対とんでもない事になるのは明白だもの。うん、間違いないよ。



「はぁ、しゃあないか」










それでも、僕は手に取る。それは、通信ではなくメールの着信音。





だから、まだ気が楽だった。なお、その送り主は・・・・・・八神はやて。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「恭文、朝早くから悪いなぁ」

「いーよ別に。・・・・・・で、用件はなに?」

「まず一つ。・・・・・・アンタ、ヘタレやな」

「うっさいボケっ!!」



あぁ、やっぱり昨日の話かっ! そうだよヘタレだよっ!? でもそれの何が悪いのさっ!!

何時もみたいにぶった斬ってさようならって出来ない以上、悩んだってしゃあないでしょうjがっ!!



「まぁ、ここはえぇんよ。人間関係にも力入れてくれるようになっただけでも、ありがたいしなぁ」

「別にそういうんじゃないよ。最低限はやらないと、仕事を通せないってだけ」

「分かっとるわ。あー、それとフェイトちゃんが相当ヘコんでるよ?」

「ヘコませといていいよ」



僕の答えが予測出来たのか、はやては小さくため息を吐く。というか、普通に苦笑い。



「まぁ、それしか無いわな。だって、どっちにしろ終わった事やし」

「そうだよ。それであーだこーだ言われても、困るよ。僕にどうしろって言うの?」

「とりあえずそこは、うちからもフォロー入れておく。でな、実はアンタにちょお頼みがあるんよ」



メールにも書いていたんだけど、はやては僕に頼みがあるらしい。

だから、ここに呼び出したのよ。もう早朝も早朝、仕事の始まる前にさ。



「頼み? ・・・・・・まさか、このメンドい時期に冬コミで本出そうって言うんじゃ」

「ちゃうよ。さすがに今回は見送りや。てか、もう時間足りないやろ。まぁ、頼みっちゅうんは・・・・・・かくかくしかじかなんよ」



・・・・・・結局、僕はこの頼みを引き受けた。いいストレス解消にもなりそうだしさ。

とにかく部隊長室を出てお仕事開始。色々話し込んでいる間に、いい時間になった。



≪・・・・・・いいんですか? 話の流れで仕方ないとは言え、また泥をかぶるじゃないですか≫



胸元のアルトが、そう言ってきた。なので、僕は頷く。



「いいよ。それに、僕も気にはなってたとこだもの」

≪そう言えばそうでしたね。だから・・・・・・ですか≫

「だから、だよ。それにだ、上手く行けばいいストレス解消になると思わない?」

≪それもそうですね≫



色々と、互いに納得した上でオフィスまでの道を歩く。すると、後ろから声がかかった。



「「おはようございますっ!!」」



そちらを振り返ると、小走りでこっちに走ってくるエリキャロが居た。なお、もうすっかり元サヤ。

だから二人とも、制服姿で息を弾ませながら来るのよ。



「二人ともおはよ。・・・・・・あれ、今日は朝練なかったんだっけ」

「はい。・・・・・・じゃなかった」



敬語になりそうになっていたエリオが、わざわざ言い直す。

・・・・・・別にそれくらいはいいのに。これでも、心は広いのよ?



「僕もキャロも、今日はデスクワークだから」

「書類仕事も、大事な業務の一つだもの」

「そっか」

「あ、それで」



キャロが、僕の方を見上げながら・・・・・・あれ、なぜに二人とももじもじ?



「今日、仕事が終わったら時間空いてるかな?」

「・・・・・・はい?」

「えっと、お菓子を食べながら、私とエリオ君とお話。というか、私達のおごり。
この間は、色々迷惑かけちゃったから・・・・・・その、お詫びと言うかお礼がしたくて」










少し辿々しい口調でキャロにそう言われて、僕は頷いた。





まぁ、断る理由も残念ながらないしね。それに、これは・・・・・・アレだよ。





さすがに受けなきゃだめかなって、そう思ったから。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「というわけで、エリオの部屋に来訪。・・・・・・てか、また面白みの無いくらいに綺麗だね」

「そうだね。エリオ君ダメだよ、つまらないよ」

「それはどういう意味っ!? 僕はそれはよく分からないんだけどっ!!」



とにかく、お菓子を食べながらかれこれ1時間。なお、普通にスナック菓子かと思ったら、美味しいお菓子ばかり。

それを年下二人におごってもらってるというのがアレだけど、でも・・・・・・僕はかなり、頑張ったと思うんだ。



「そう言えばなぎさん」

「何?」

「なぎさんは、フェイトさんとケンカってしたことある?」

「そりゃもうかなりだよ。今回の二人レベルなんて、何度もある」



クッキーを食べて・・・・・・あぁ、やっぱこれ美味しいなぁ。よし、あとで二人に買ったお店聞こうっと。



「そうなの? でも、僕とキャロから見ると随分仲良さそうなのに」

「仲が良い程ケンカするってやつかな。二人だって、そうでしょ」



僕がそう返すと、互いに顔を見合わせて・・・・・・苦笑する。



「「そうでした」」

≪というか、あなたは初対面からやり合いましたしね≫

「あー、やり合ったやり合った。てゆうか、実を言うと最初は・・・・・・じゃないな。
知り合って初日だね。僕は、フェイトのことが嫌いだった」

「「えぇっ!?」」



そんなに驚くかチビっ子二人よ。

確かに、普段の僕のフェイトへの態度を考えれば、そうなるのも仕方ないか。



「まー、この辺りは事情込みなんだけどね。ちょっと行動方針というか、そういうのでぶつかったんだ。
と言っても、その翌日にはもう解決したから、そんな長く尾を引いたわけじゃないんだ」

「でも、初対面の印象はよくなかったんだよね?」





エリオの言葉に、僕は頷く。そう、印象はよくなかった。

初対面の時、フェイトは局員としてあれこれ僕に言ってきたのだ。

後でフェイトに聞いたんだけど、自分の感情も交えて。



僕はどうしてもその辺りがしっくりこなくて、気持ち悪くてイライラする感じを受けた。



それで結構キツイことを言ったら・・・・・・まぁ、見事に臨戦体勢ですよ。





「なら、それがどうして好きになったの? 僕、そこが疑問だよ」

「・・・・・・一緒に魔法の訓練したりしながら、色々話したの。
さっき言った初対面のケンカの後にね。そしたら、まず印象が変わった」

「どんな風に?」

「最初は、キャリアウーマンみたいにテキパキした、しっかりした女の子だと思ってた」



実際、最初に見た外キャラはそうだった。敬語だったり、上から目線だったし。



「だけど、そうじゃなくて・・・・・・暖かいところを、まず一つ見つけた。
ちょっとボケボケとしたところとかもあって、穏やかで本当に優しい女の子なんだなって、気づいたの」





そう、まずそこからだった。まずは、外キャラだけじゃない中身を知っていくところから始めた。

もちろん、出会ってからそんなに経ってなかったから、互いのこととかをアレコレ話していたわけじゃない。

ただ・・・・・・フェイトと居る時間が、とても心地よかった。温かくて、安心した。



リインと居る時とは違う、幸せな時間。そんな風に感じてる自分が不思議で、頭をしょっちゅう捻ってた。





「でも、その時のなぎさんって、まだフェイトさんを好きだって自覚していたわけじゃないよね。こう、淡い感じ」

「そうだね。うん、この時は・・・・・・なんか話してて、一緒に居て、楽しい女の子だなって感じだった」

「じゃあ、どこでフェイトさんのこと、好きだって思うようになったの?」

≪簡単です。エリオさん、キャロさん、以前話したことを覚えていますか?
私がマスターの正式なパートナーデバイスになろうと決心した一件を≫



そのアルトの言葉に、エリオとキャロが頷く。



「もちろん覚えてるよ。結構衝撃的な話だったから。
恭文がオーバーSランク魔導師を相手取って、相打ち同然に決着をつけて」

「それで、2週間意識不明の重体で、完治までに、そこから1ヶ月かかったっていうアレだよね?」

≪そうです。その時からなんですよ。この人が次元世界の恋の敗残兵という汚名をつけられたのは≫

「失礼なこと言うなっ!!」










あの時のこと、ちょっと思い出す。まず目が覚めて、リインに泣かれて、師匠にぶん殴られた。

先生からゲンコツを喰らって、他の皆からこっぴどく怒られて・・・・・・あははは、アイツら容赦ないよね。

それでアルトと正式にパートナーとして、一緒に戦うことを決めた後。





別件で外に出ていたフェイトが、僕の病室に駆け込んできた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・ヤスフミっ!」

「あ、フェイト。あの、ごめ」



瞬間、左頬に衝撃。僕はベッドに倒れ込んだ。



「ぶはっ!」

「・・・・・・どうして、どうしてこんな無茶したのっ!?
みんな、すっごく心配して、リインだってたくさん泣いて・・・・・・あれ?」





フェイトの言葉が止まった。当然だ。だって、僕がベッドに蹲って、左の頬を抑えてうめいてるんだから。

というか、今フェイトに叩かれたとこ、さっきヴィータさん・・・・・・師匠から思いっきりぶん殴られたとこだもの。

そこを再び、掌底みたいな感じで掌が打ち込まれたことで、僕の顎と口内はいい感じ。



つか、脳が・・・・・・揺れて・・・・・・やば、気分悪い。





「ヤスフミっ!? あの、あぁ・・・・・・ごめん、しっかりしてっ! 死んじゃだめだよっ!!」

「フェイトが、止め・・・・・・刺したくせに」

「ごめんー!!」





とにかく、そのあとなんやかんやとあって、少し落ち着いた。僕も、フェイトも。・・・・・・つか、ここまでとは思わなかった。

あの人の言うとおりだった。僕がここから居なくなれば、悲しむ人間が居る。もう、そんな人間が出来ていた。

あの人は、リインだけを指したけど、きっと分かってたんだ。リインだけじゃない。みんな・・・・・・そうだって。



なんか、やりにくいな。心地いいというのもあるけど、やっぱりこういうのはやりにくい。





「・・・・・・ね、ヤスフミ」

「なに? あの、アルトを待機状態に戻したことならもう謝るから」

「そこじゃないよ。前に私に言ったよね。どうして、そんなに自分のことに干渉するのかって」

「・・・・・・うん、言った」



フェイトが、どうして僕にそこまで肩入れするのか、さっぱり分からなかったから。



「その時、私・・・・・・なんて言ったかな?」

「自分と似ているから。そう言ったよ」

「・・・・・・うん、私・・・・・・そう言ったよね。私もね、ヤスフミと同じだったんだ」



同じって・・・・・・家庭環境の話かな?

でも、ハラオウン家って家族があるわけだし、あれは特に不幸とかは。



「あの、私はハラオウン家の実の娘じゃないの」

「え?」

「養女なんだ。元の名前は、フェイト・テスタロッサ。だからそのテスタロッサの家が、私の元の家なの」



養女・・・・・・知らなかった。というかそんな気配はさっぱり感じなかった。

だって、リンディさんもクロノさんも、フェイトと家族に見えたし。



「というか、どうしてその話を?」

「・・・・・・聞いてほしいの。私、ちゃんとヤスフミと向き合いたいから。もう、こんなことしてほしくないから。
アルトアイゼンと同じように、ヤスフミに一人だなんて、思って欲しくない。だから、聞いてくれるかな?」



僕は、その言葉に頷いた。きっと、知らなきゃいけないことだったから。

それで、フェイトはポツリポツリと話して、伝えて・・・・・・教えてくれた。



「クローン?」

「そうだよ。さっきも言ったけど、私のお母さん・・・・・・プレシア・テスタロッサには、実の娘が居たの。名前は、アリシア・テスタロッサ」

「じゃあ、フェイトは・・・・・・その」



口から出かかった言葉は、そこで止まった。だけど、フェイトはその先が聞こえたように、頷いた。

認めたのだ。自分が、そのアリシアという女の子の・・・・・・クローンだと。



「母さんは、アリシアが亡くなった時・・・・・・すごく悲しんだの。だから、ある研究に手を染めた」

「それが、クローニング技術?」

「そうだよ」



まてまて。確かにクローンっていうのは、そういう技術だよ。

だけど、そうしたからって、そのまま復活ってほど簡単な話じゃ。



「そして母さんは、プロジェクトF・A・T・Eっていう、特殊なクローニング技術を完成させたの」

「プロジェクト・・・・・・ふぇいと?」

「うん、私の名前ね。そこから付けられたの」



そのフェイトの言葉を聞いた瞬間、口から出たのは・・・・・・ただ一言だった。



「ごめん」

「え?」

「だって僕、フェイトの名前、前に」

「・・・・・・あ、あの時?」



僕は、その言葉に申し訳なさと、後悔で心を満たしながら頷く。



「ごめん。本当にごめん」

「あの、謝らないでいいよ? それにね、私あの時すごく嬉しかったの」

「いいよ、そんなこと言わなくても」

「よくない。聞いて? ・・・・・・私の名前、響きが綺麗で、すごく素敵な名前だって言ってくれたよね?
あの時、本当に嬉しかった。ヤスフミの言葉で、自分の名前をもっと好きになれた」



そう、僕はフェイトにそう言ったことがある。

もちろん、そんな経緯があるなんて知らなかった。でも、すごく申し訳ない気持ちは消えない。



「だから、謝らないで。私、あの時のヤスフミの言葉で、心が温かくなった。嫌な思いなんて、一つもしてない」

「・・・・・・本当に?」

「本当だよ。だから、そんな顔・・・・・・しないで欲しいな」

「うん、分かった。フェイト、ありがと」





僕がそう言うと、フェイトが優しく笑ってくれた。それが、嬉しかった。

とにかく、話を戻そう。僕はさっきの話の中で、二つ、引っかかることがあった。

一つは、特殊という点。そして、それを完成させたという点。



つまり、そのプロジェクトFとやらは、既存の技術とは違うということになる。





「これは生み出したクローンに、素体となった人間の記憶を転写・・・・・・移し変えるの」

「はぁっ!?」



記憶の転写って・・・・・・つまり元の人間の記憶を、クローン素体に移し変えるってことだよね。



「つか、そんなことが出来るのっ!? だって、元となる人間は」

「うん、可能なんだ。もちろん、違法研究。本来なら、こんなことは許されていいことじゃない」

「・・・・・・そうなんだ」



少しだけ、その言葉が悲しかった。

どこかで、自分が生まれてきたことを否定しているような響きを感じたから。



「そうして生み出されたのが・・・・・・私なの。
でも、私じゃダメだった。私は母さんにとって、失敗作だったの」

「そんなことないっ!!」



フェイトがビックリした顔でこちらを見る。

・・・・・・バカ。僕なにやってるんだよ。こんなことしても意味ないじゃないのさ。



「あの、いきなり大声出して・・・・・・ごめん」

「あ、ううん。気にしないで。あの、私の言い方も悪かったから。
とにかくね、母さんにとって、私は望んだ形じゃなかったの。だから」

「だから、フェイトは僕と自分を重ねてた?」

「・・・・・・うん。最初の時にね、やたらとヤスフミに干渉しようとしたの、これが理由なんだ。
ヤスフミの事見てて、なんだかこう・・・・・・他人みたいには思えなくて」

「そっか。でもさ、フェイト」



フェイトは、僕の方を見る。見て、少し首を傾げる。・・・・・・思った事、ちゃんとぶつける。



「それを話したら、僕がフェイトと距離を取るかも知れないんだよ?」



一瞬、フェイトがビックリした顔になった。そして、すぐに悲しげなものに変わる。



「あー、あのマジで嫌いになったとかじゃないから。ただ、そういう可能性もあったって話」

「・・・・・・それなら、納得した。ようするに、それなのに私が話したのかが疑問なんだよね」

「うん。ボカす事も出来たよね。なのに、どうして?」

「なんだろ。私も最初はそのつもりだったんだけど、自然と話しちゃったんだ。
ヤスフミ、勘が鋭い子だから、隠したら見抜かれちゃうとか思ったのかも」



苦笑気味にフェイトはそう返してくる。自分でも、どうして話したのか分かって無い感じがしたのは、気のせいじゃない。



「私も自分の居場所が分からなくて、一人ぼっちで。でもね、助けてくれたの」

「助けて・・・・・・くれた?」

「うん。なのはがね、友達になりたいって、手を伸ばしてくれた。名前を呼んでって、言ってくれたの。
私、その時嬉しかった。あの時、なのはに始まりをもらったって、今でも思ってるんだ」



・・・・・・始まりか。確かに、同じかも。僕も、リインから貰った。

今という時間を。大事にしたいって思える繋がりを。



「だから、今度は私が助けたいの。ヤスフミのこと」

「・・・・・・大丈夫だよ。リインにも泣かれたし。
さっきも言ったけど、もうあんなことしない。約束、したしね。あの人に」





傷だらけで、意識を失った時に、ある人に会った。夢だけど、夢じゃない場所で。

その人は、二つのものを僕にくれた。

理不尽で、許せなくて、受け入れる事なんて出来ない今を覆す、二つの最高の切り札を。



そう、僕はその対価として約束した。貰った力を正しく使うとか、そんなんじゃない。

人を守るためにとか、そういうことでもない。ただ一つだけを約束した。

僕が居なくなるなんていう理由で、リインを悲しませたりしない。ただ、その一つだけを。





「さぁ、お前の罪を数えろ・・・・・・か」

「ヤスフミ?」

「小さな頃にね、聞いた言葉なんだ。誰に聞いたかも分からない言葉。
だけどずっと・・・・・・ずっと胸の中に残ってるんだ。それでね、ここに来てから考えてた」



罪を数える事とは、何なのか。僕の罪は・・・・・・一体、何なのか。何度も、何度も。

何度も考えて、その度に怖くなって、ようやく向き合えた。僕の・・・・・・罪の一つと。



「ヤスフミに罪なんて無いよ。ヤスフミは巻き込まれただけで」

「きっとそうやって逃げる事が罪なんだよ。・・・・・・罪を数える事は、きっと向き合う事」



右拳を、強く握り締める。握り締めて、数える。自分の罪を・・・・・・一つずつでも。



「間違えた事、フェイトを最初の時に傷つけた事、一瞬でも逃げようとした事。
そして自分を省みなかった事、全部数えるべき罪。数えて向き合うべき時間」



数えて、向き合って・・・・・・そうだ、ここから進むためにそうするんだ。

そうしなきゃいけない。逃げることはきっと許されないから。



「・・・・・・フェイト、その・・・・・・今まで言えなかったけど、ごめん。最初の時、ただ心配してくれてただけなのに」

「ううん、大丈夫だから。それでヤスフミ」

「なに?」

「私は・・・・・・普通とは違うの。一応人間の女の子ではあるけど、生まれ方が違う。
それでも、あの・・・・・・私、ヤスフミの助けになりたいの。大丈夫かな」

「・・・・・・大丈夫だよ」



そのまま、僕はフェイトに抱きつく。フェイトは一瞬身を震わせるけど、僕は離さない。

フェイトは、そのまま受け入れてくれた。少しだけ、口元から息を漏らしたりしてる。



「というか怒るよ? そんな理由で距離取ったら。それだと僕、最低な奴じゃないのさ。
てーか、それだって罪だよ。生まれを、人と違う事を理由に・・・・・・怖がってる」

「・・・・・・そうだね。うん、その通りだ」

「だからフェイト」



僕は、フェイトを抱きしめる力を強める。フェイトは・・・・・・ゆっくりと、だけど優しく、抱き返してくれた。



「友達で、いいかな。僕、フェイトとは違うけど・・・・・・フェイトの事、好きみたいだから」

「うん、それでいいよ。私もヤスフミの事が好きだもの。だから、それでいい」

「・・・・・・ありがと。それでさ」

「なにかな?」



フェイトの温もりを、服越しに感じながら僕は・・・・・・もうちょっとだけ、謝る。



「心配かけて、ごめん」

「・・・・・・うん。すっごく心配だったし、怖かった。このまま居なくなっちゃうんじゃないかって・・・・・・すごく」

「なら、約束する」



自分に、そして腕の中に居る女の子に誓いを立てる。理由? 僕が立てたいからだけど、何かな。



「あの人やリインだけじゃない。フェイトのことも、同じ理由で泣かせたりなんてしない。どんな状況に立っても、絶対に笑って帰ってくる。
やっと・・・・・・分かったから。僕になにかあったら、いっぱい泣いて、悲しむ友達が出来たんだって、分かったから」

「・・・・・・うん」



だから、絶対に帰ってこよう。どんな状況でも、絶対に。切り札は、もう僕の中にある。

それで・・・・・・罪を数えて、理不尽な今を覆していこう。



「フェイト」

「どうしたの?」

「ありがと。いっぱい、助けてくれて」

「あ、ううん。お礼なんていいよ。私がそうしたかっただけだから」

「なら・・・・・・一つだけ、お願いがあるの」



一つだけ、我がままを言う。ずっと、ずっと長い間聞いてなかった言葉。

リインに初めて言われた言葉フェイトにも、言って欲しい。



「なにかな?」

「あの、ただいまって言うから、おかえりって・・・・・・言って欲しい。
こんなことお願いするの変だけど、お願い」

「変じゃないよ。じゃあ、ちょっとやってみようか」





一旦、身体を離す。僕はフェイトの顔を見る。

優しくて、見ているだけで安心出来るような表情が、目の前にあった。

僕はそれに笑いかけて・・・・・・口にする。



リインだけじゃなくて、フェイトにも言いたかった言葉を。





「・・・・・・ただいま、フェイト」



フェイトは僕の言葉にさらに笑顔を綻ばせて・・・・・・言葉と共に、返してくれた。



「うん、おかえり。ヤスフミ」










それからしばらくあれこれ考えて、気づいた。自分の気持ちが、恋なんだってことに。





多分この瞬間から、僕は・・・・・・フェイトの事が、好きになってたんだと思う。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



≪その瞬間、次元世界の恋の敗残兵は生まれたんですよ≫

「よし、アルトは無視の方向で」

≪あなた、優しさありませんね≫



とにかく、二人にはこんな感じだったと話した。フェイトの出自関連の話はボカした上で。

いや、さすがにそこは話せないでしょうが。無理だって無理。



「そっか。・・・・・・その後だよね? 恭文がハラオウン家で暮らすようになったのって」

「そうだね。あー、でもそれも大変だった」





生活面がそうだな。一緒に暮らすようになると、色々とあるさそりゃ。

特に僕はずっと一人だったから、団体生活ってやつが分からなかったし。

でも、フェイトがなにかやらかす度に、一緒にどうすればいいか、考えてくれたりした。



ケンカしたりもしたけど、それでも互いに繋がりたいって強く思って・・・・・・どうにか今に繋がってる。

あー、それでたまに、フェイトがパジャマはだけた状態で出てきて慌てふためいたりとかしたなぁ。

下着洗うことになって顔真っ赤にしたりとか。しかも、サイズが変わるのを認識しなければならないのが辛かった。



だから、エイミィさんやアルフさんやリンディさんに、必死で抗議したのに・・・・・・却下されたしっ!!





「あははは。大変だったんだね」

「でも、楽しかった。・・・・・・一緒に居られたしね。
家族としてでも、笑顔がすぐ傍にあるって、やっぱ・・・・・・楽しいよ」





僕もフェイトもハラオウン家を出ちゃったから、今は一緒には暮らしていない。

けど、結構頻繁にメールやら通信のやりとりはしてる。

というかその・・・・・・毎日? でも、それが嫌とかじゃない。



あー、でもフェイトの負担になってないかどうかは心配だな。



なお僕は癒しだよ。フェイトとのメールも通信も癒しだから。





「で、こんな感じだけど・・・・・・二人の納得のいく答えになってないね。ごめん。やっぱ上手く言えないや」

「ううん、大丈夫。フェイトさんを本当に大事に思ってるってことは、分かったから。・・・・・・恭文」

「エリオ、またどうしたの。そんな真剣な顔で」

「一つ確認させて。恭文は・・・・・・プロジェクトFって知ってる?」



その瞬間、呼吸が止まった。だって僕は今の話で、フェイトの詳細な出自のことは話してないんだから。

簡単に自分が僕と似ていたから、心配になったと言っただけで。



「一応は知ってるけど、それがどうしたの?」

≪というかエリオさん、あなた、それをどこで知ったんですか?≫

「・・・・・・僕、フェイトさんに助けられるまでね。その手のことに興味のある連中に、軟禁されてたんだ。
その時に、その話は連中から聞かされた。そういう技術があって、それが違法技術だと言うことも」

≪なるほど。エリオさん、あなたの言いたい事が分かりました。つまり≫





アルトの言葉に、エリオが頷く。それに僕は、頭が痛くなってきた。



・・・・・・おいおい、まさか六課にスカリエッティがちょっかい仕掛けてたのって、これも原因?



フェイトやスバルやギンガさんだけの話じゃなかったってのっ!?





「僕は、プロジェウトFの技術で生まれたんだ。エリオ・モンディアルは、その元となった人間の名前」



エリオの言葉に、頭が痛くなった。・・・・・・つか、キャロもそのことは知ってるのか。様子があんま変わんないし。

なるほど、あの世紀の変態科学者からすれば、この部隊はサンプルの宝庫だったってわけか。改めて納得だわ。



「それで、続けて確認。恭文は、フェイトさんの親御さんや、出自について知ってる?」





エリオが言っているのは、僕がさっき伏せた部分。フェイトが、アリシア・テスタロッサのクローンだという事実。

あー、伏せた意味がないってどういうことさ? ・・・・・・でも、考えてしかるべきだったかも。

六課はその大元となった変態と関わってたわけだし。色々関係がないわけがない。



もしくはフェイト自身がエリオとの距離を縮めるために、話したのかもしれない。

聞くところによると保護した当初は、電撃出しまくって相当荒れてたって言うし。

それで・・・・・・あぁそうか。フェイトが中学生なのにエリオの面倒を見るって言ったのは、ここか。



自分と同じだから助けたいと思って・・・・・・あのバカ。





「知ってる。フェイトがそのプロジェクトFで生まれたってのはね。さっきの話の中で、フェイト自身から聞いたから」

「そっか。ごめん、いきなりこんな話して。でも気になったからさ」

「そう。じゃあエリオ、ちょっと痛いの我慢しようか」

「え?」



次の瞬間に右手が動く。そして、思いっ切りげんこつをかます。対象は当然ながらエリオ。



「エリオ君っ!?」

「い、痛ぁ・・・・・・!!」



で、殴ったのは当然僕。つーか、何気に右拳が痛い。普通に石頭だし。



「・・・・・・エリオ、どうして殴られたか分かるよね?」

「・・・・・・恭文」

「ふざけんなよ? お前、僕以外にフェイトが好きって相手が出来てもそれを聞くつもりか。
いちいち自分達の他人との違いを持ち出して、選別するつもり? バカじゃないの? 死ぬの?」

「なぎさん、そんな言い方ないよっ! エリオ君はフェイトさんを心配して」

「黙ってろ」



とりあえずキャロに視線を向ける。それだけでキャロは黙ってくれた。うん、話が分かってくれて嬉しいよ。



「誰がフェイトを好きになっても、フェイトが誰を好きになっても、基本生まれの事なんて関係ないよ。
今目の前に居る相手が全部に決まってるじゃないのさ。その人は過去も今も・・・・・・未来だって全部含まれてる」



エリオは右手で僕に殴られた頭頂部を押さえる。押さえて、そのまま僕を見上げる。

座っていても僕の方が座高が高いから、自然とエリオの視線は上に向く。



「だけど・・・・・・だけど僕はフェイトさんに傷ついて欲しくなくて」

「それを選ぶのはフェイトでしょうが。それで乗り越えられるかどうかは、当人同士の問題。
僕にもエリオにもキャロにも、なのは達にだって口出しは出来ない。強制も出来ない」



僕はそのまま立ち上がる。立ち上がって、帰り仕度を整える。

と言っても、色々道具を入れてるリュックを担ぐだけだけど。



「他人と、普通と違う事なんて、当たり前でしょうが。それをこんな事をする言い訳にするな。
お前は自分で自分の事を受け入れられてないから、こんな事をするだけでしょ」

「・・・・・・恭文、恭文に僕やフェイトさんの何が」

≪分かりますよ。この人の周りにはフェイトさんのように普通とは、人とは違う存在が沢山居ますから≫



エリオとキャロがビックリしたように目を見開く。

とりあえず余計な事を言ってくれたアルトは後でお説教するとして、僕は頷く。



「沢山居るよ。生まれ方もそうだし、普通の人とは違う力を持っている人も。だけど・・・・・・それでもだ。
それでも全部含めてみんなと友達で・・・・・・大切な繋がりだって言える。エリオ、お前はどう?」



丁度いい機会だから、このバカに問いかける。真っ直ぐにエリオの目を見返して、僕は・・・・・・事実を突きつける。



「自分と違う人間を、他人と自分との違いを、ちゃんと認められる? ・・・・・・認められるわけがないよね。
現にお前は今、フェイトや自分と違う存在である僕に対して明らかな疑いを持ってかかってたんだから」



エリオは何も答えない。答えずに視線を落として・・・・・・俯く。



「どうやらフェイトがお前を預かった事は間違いだったようだね。お前はフェイトの側に居ない方がいい。
てーかお前らは親子でもなんでもないわ。ただ互いの傷を舐め合って寄り添ってかなきゃ生きていけない弱虫だわ」

「なぎさんっ!!」

「黙ってろつったろうが」



キャロに視線を向けると、キャロは震えながらその場で崩れ落ちた。・・・・・・我ながら相当な顔をしているらしい。



「そう言えるのはなぜか。・・・・・・お前が今この場でそんな事を聞いたからだ。
お前は結局全ての人間をそういう目でしか見てないんだよ」





もし本気でフェイトが親になってるなら、傷との向き合い方を教えてるなら、こんな事言うわけがない。

本気で親子として信頼し合っているなら、こんな事を聞いて人を選定するわけがない。

つまり・・・・・・この親子関係はどこか歪んでしまっているのよ。フェイトは親の責務を果たしていない。



とりあえず僕はそう考えた。そうじゃなきゃ、コイツらがこんな事言うはずないし。あー、情けないったらありゃしない。





「僕はそれが凄まじく許せない。エリオ、キャロ、そんな事をそれ以上言い続けるならフェイトと縁を切れ。
お前らがそんな調子じゃ、フェイトは意識していてもしなくてもお前らを人形扱いしてるのと同じだ」



でも・・・・・・エリオは何も言わない。その様子に苛立ち混じりにため息を吐いて、僕は踵を返す。



「この場で何も答えられないなら、僕の言葉に一つでも突き刺さるものがあるなら、それがお前らの罪だ。
だから僕はお前らにこう言う。・・・・・・その罪、しっかり数えてろ」



それだけ言って僕は部屋を出た。なお、二人は止めなかった。・・・・・・あ、しまった。

あのクッキーの売り場、教えてもらうの忘れてたし。あぁ、まぁいいか。



≪・・・・・・珍しくキレましたね≫

「まぁね」



廊下を歩きながら僕は家路を急ぐ。若干早足なのは気のせいじゃない。



「人と、普通と違うってそこまでなのかな」

≪当人同士にとってはそうでしょうね。だから、エリオさんの気持ちもまぁ分かるんですよ≫

「でも、僕は認めないから。エリオのやってる事はマジで選民思想もいいところだし」

≪えぇ≫










これ、どうしよう。一応フェイトにも相談・・・・・・あぁ、まずいな。





くそ、なんでこんな面倒な事ばかり起こるんだよ。絶対色々間違ってるし。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



殴られた頭が痛い。ただの物理的な痛みだけじゃないかも知れない。





これは心が・・・・・・痛い、のかな。










「エリオ君、大丈夫? ・・・・・・なぎさん、ひどいよ。エリオ君は悪気があったわけじゃ」

「ううん、違うよ。多分・・・・・・いや、確実に僕が悪い」





確かに最低だよね。これはきっと、誰が相手でもフェイトさんが話すべき事だったはずなんだから。

例え知らなくてそれで揉めても、結局は当人同士の問題。下手に介入するべきじゃない。

なにより言われて改めて気づいた。僕はフェイトさんにそういう影が出来る度にこの話をするのかな。



フェイトさんの知らない所で、相手を選別するような事をして・・・・・・そこまで考えて気づいた。



本当にそれは最低だよ。最低過ぎて、自分で吐き気がしてくる。





「殴られたの、きっと当然だよね。そうだ、きっと当然だ」










それで一つ気づいた事がある。恭文は自分のために殴ってない。

フェイトさんや、フェイトさんとこれからそうなる人のために怒って殴った。

そんなんじゃ親子になれないって、心配して叱ってくれた。





なんだろ、痛いのは確かなんだけど・・・・・・安心も感じる。





あははは、僕はどっちにしても最低だな。選別した事は変わらないんだから。



















(第13話へ続く)




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