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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第9話 『とある魔導師の休日 二日目』(加筆修正版)



「ティア、ここからあそこまでってどれくらいかかるの?」

「そうね、あと1時間くらいくらいかしら」

「そっか」



ティア、疲れてるのかな。今、『くらいくらい』って言ったし。まぁ、ツッコまないけど。



「ねぇティア、ノーヴェ、今日は会ってくれるかな?」

「どうだろ。チンクさんやウェンディ達の話だと、まだ凝り固まってる所があるらしいから」

「・・・・・・ちゃんとお話出来たらいいんだけどな」





私とティアは、お墓参りを済ませた後、近くの宿泊施設で一泊。

それで、今日はあの子達のいる海上隔離施設へと向かう所。

今は、ハンバーガー屋さんで、少し遅めの朝食中。



ここの朝限定のマフィンが美味しいんだよね。フカフカしてて塩味が絶妙で〜♪

あ、ティアが食べている新作マフィンも美味しいんだよ?

生地の中にメープルシロップが混ぜ込んであって、甘くてフカフカ。



これが、目玉焼きやチーズやベーコンによく合うの。・・・・・・って、そうじゃなかった。

私たちが今から向かう所には、あの子達がいる。あの事件で出会って、戦ったナンバーズのみんな。

それに母さんの同僚だったメガーヌさんの娘であるルーテシアに、その友達のアギト。



あれから、何回か暇を見つけてはティアと行って、みんなと普通にお話が出来るようになった。

でも・・・・・・その中で、ノーヴェだけは、私たちの誰とも話す事を拒んだ状態だった。

仲良く、できないのかな? うーん、色々凝り固まった子ではあるけど、それは嫌だなぁ。





「てーか、とっとと食べて出発するわよ? もたもたしてたら、お昼が夕方になって夜になるじゃないの」

「あ、うん。分かった」



ティアの言葉に促されて、私は食べかけの特大マフィンにかぶりつく。



「美味しいー♪ ・・・・・・あ、そう言えば」

「何よ」

「恭文から、メールの返事が来ないの」

「寝てるんじゃないの? てゆうか、アイツはそんな逐一でメール返すような、マメな奴に見えないし」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「よし、そろそろメールの返事送らなくちゃ」

≪・・・・・・真面目に5分おきにチェックはおかしいでしょ。というか、返信時間まで考えるなんて≫

「何言ってるの。こういうところでのヤキモキが、恋愛感情に繋がるのよ」

≪繋がるといいですね。8年ダメでしたし≫




















魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝


とある魔導師と機動六課の日常


第9話 『とある魔導師の休日 二日目』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



時刻はお昼前、僕とアルトは、無事に到着していた。





まぁ、海上にあるから、最寄の専用転送ポートに着いたと言うのが、正しいのかも。










「いやぁ、結構かかっちゃったね」

≪そうですね。あなたが5分おきにメールするからですよ≫

「気のせいだよ」



そうして、近くの警備員さんの方へ行って、話しかける。

・・・・・・あ、メール来てる。うーん、今はお昼時だし・・・・・・ちょっと遅め返信でもいいかな。



「あの、すみません。届け物で来たんですけど、ここからどうやって入れば?」

「あぁ、配達の方ですか?」

「あ、違います。・・・・・・えっと、機動六課所属の嘱託魔導師で、蒼凪恭文と言います」



自分で名乗って、ちょっと気持ちが疲れてしまう。

僕、普通に部隊所属してるんだよなぁ。あはは、頭痛いや。



「同じく六課所属のライトニング分隊・副隊長のシグナムさんから頼まれて来たんです。
シグナムさんからは、話は通しておくと言われたんですけど」

「そうでしたか、これは失礼しました。少し待っていてください」



警備員さんが空間モニターを開いて、中の局員になにやら確認している。

・・・・・・うーん、大丈夫と分かっていても、こういうのは緊張するぞ。



「・・・・・・はい、確認できました。蒼凪さんでしたよね? それでは、あそこの角をを右に曲がってください。
そうすると、職員用の通用口がありますので、そこで用件を言ってください。そうすれば、すぐに転送ポートに入れますので」

「はい、分かりました。ありがとうございます」



警備員さんにお辞儀をして、駆け出す。そうして僕は、言われた通りに、施設の中へと入っていった。



「さて、メールの返信内容を考えないと。うーん、幸せだなぁ」

≪この努力が実ればいいんですけどね≫




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「いやぁ、到着したね。というか、結構時間かかっちゃったなぁ」



施設に到着したのはお昼頃だった。私のお腹は、もうペコペコ。



「ティア飛ばし過ぎだよ〜。私、ちょっと怖かったよ?」

「うっさいバカ。アンタがもたもたしてるのがいけないんでしょうが」

「あぅー、ひどいよティア」



バイクを駐輪場に止めて、ヘルメットを外しながらティアとそんな会話をしていると、ちょっと気づいた。



「ティア、見て? 向こうの方にもバイクが止まっている」

「あ、ホントね」



でも、あれ? でもあのバイクって、災担に居た時に資料で見たのと同じやつだ。

カウルとかは違うけど、フレームというか全体の形状が似てる。確か・・・・・・なんだっけ。



「オフロードタイプのバイクね。山とか川とかを走るためのやつよ。
軽量で車高を高めにして、走破性を良くしたタイプ。タイヤは違うみたいだけど、基本は同じ」

「そうそう、それだよそれ。確か、災害救助用に使えないかと研究してるって話だった」



でも、ティアの言うとおり、これってちょっと違うような。

こう、ヒーローっぽいっていうかなんというか・・・・・・うーん。



「そんなこといいから、ほら、早く行きましょ? ギンガさん達も待ってるんだし」

「あぁ、待ってよティア」



ティアに連れられる形で、中に入る。転送ポートに入って、施設にひとっ飛び。

それで、施設の中を歩く。・・・・・・もう何回も来てるから慣れちゃった。



「なんだかんだで私達、慣れてるよね」

「そーね。ただ一つ疑問なのは、ここに来てまであんたとセットに数えられることよ。さっきの警備員の人までそういう目で見てたし」

「あははは、いいじゃん別に。私は、ティアと一緒って思われるの嬉しいし」

「アンタがよくても私が嫌なのよ」

「うー、ひどいよティア」



うー、ティアが意地悪だ。・・・・・・恭文も意地悪でお仕事モード全開だし、ひょっとして二人って似てるのかな。



「ティア、恭文とキャラ被ってない?」

「被ってないわよ。一緒にしないで」

「えー、でも同じような感じだし」

「だから・・・・・・! 一緒にするなって言ってるでしょっ!!」

「い、痛いっ! 痛いよティアっ!!」



ティアは、私のほっぺたを持ってむにーと引っ張る。い、痛い。これは普通に痛い。



「大体っ! あーんな意地悪でひねくれてて素直じゃない奴と、この私のどこがどう似てるっていうのよっ!!」」

「・・・・・・へぇ、そんな奴がいるの」

「えー、居るわよっ! 私たちの部隊にいるお騒がせ要員よっ!!」

「ふむふむ、そりゃ大変だねぇ」

「大変どころの騒ぎじゃないわよっ!? アレよアレ、災害よ災害っ! 試しに経歴調べてみると、とんでもないことばかりしてるしっ!!」



とんでもないこと・・・・・・え、そうなのっ!?



「局の不正してた上層部の人間を半殺しにしたとか、常勝無敗の凶悪犯罪者を叩き潰したとか」



恭文、そんな事してるのっ!? それって色々大問題なんじゃっ!!



「・・・・・・とりあえず、根はある噂だね。さ、続けて?」

「えぇ、そうするわっ! もうアイツとんでも無さ過ぎ・・・・・アレ?」

「どうしたの? その先が聞きたいんだけどな」



この声・・・・・・聞き覚えがある。すごく聞き覚えがある。というか、あって当然だよ。仕事仲間の声だし。



「な、なんでアンタがここに居るわけ?」

「そんなことはどうでもいいじゃないのさ。それよりティアナ、人が居ないと思ってまた随分好き勝手な事言ってくれてるね。
しかも、勝手に経歴調べるってどういうことさ? よし、こっちも調べて上げるよ。それでバラしてやる。スリーサイズとかバラしてやる」

≪なんというか・・・・・・ティアナさん、短い付き合いでしたが、あなたの笑顔はきっと忘れません。15秒くらい≫










にっこりと笑顔で、体中から怒りのオーラを滲ませている恭文が、私達の後ろに居た。





そして、胸元で諦めがちに不吉な発言をしている、アルトアイゼンも居た。





・・・・・・って、なんで恭文達がここにいるのっ!?




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「僕は、あそこが好き。あそこの白玉が、いいお味なのよ。タピオカ入りで、感触が素敵で」



施設に入ってから、トイレに行きたくなったので、用を足してから歩いていると、奴らは居た。

そう、暴れまわる凶暴怪獣ツインテールと、それにいじめられている豆芝が居た。



「恭文、さっきから何してるの?」

「え、フェイトとメールのやり取り」



なぜだろう。そう答えただけなのに、スバルが膨れた顔をした。



「何それっ! 私もメール送ったのに、返事無かったよねっ!?」

「そうなの? あー、ごめんごめん。気づいてなかったよ」

「嘘だよねっ! しかも・・・・・・朝からずーっとフェイトさんとメールのやり取りしてるっ!!」

「スバル、人のメールの受信トレイを覗き見るなんて、最低だよ?」

「そう言われたらその通りだけど、その前に私にメールの返事しないってどういうことっ!? まずそこからだよねっ!!」



とりあえず、僕は目の前の女性に目を向ける。丁度ここに来ていた、更生プログラムの担当者。



「ギンガさん、スバルにストーカーはダメだって教えてないの?」

「ストーカーじゃないよねっ!!」

「・・・・・・いや、あの・・・・・・確かに行動だけ見ればそうなるんだけど」

「そんなことないよっ!!」



で、現在その人の先導で、面会場所に向かってる所。ちなみに、それはギンガさんです。



「ギン姉も何とか言ってよっ! 恭文がひどいんだよっ!?」

「なぎ君、スバルともメールしてくれる?」

「嫌だ。てゆうか、目の前に居るのにメールする理由ないじゃん」

「それもそうだね」

「ギン姉までひどいよー!!」



ひどくないし。てゆうか、それなら僕の隣で憮然としてる女はどうなる。

・・・・・・よし、メール送信っと。返信時間は、いい感じで間が開いてる。



「どんだけフェイトさんが好きなのよ」

「人を性悪呼ばわりする、ツンデレガンナーの10倍は好きですけど、何か?」

「アンタ真面目に性格悪いわよねっ! てゆうか、ツンデレって何っ!?」

「ググれカス」

「誰がカスよっ!!」



こんなやり取りをしている間に、一つのドアにたどり着いた。だから、ギンガさんがこちらを見る。



「今日はなぎ君も居るし、いつもの面会室じゃなくて、大部屋の方で、会ってもらうわね」





ギンガさんが、IDカードをセンサーに通してドアを開く。

・・・・・・あれ? おかしいな、僕とスバル達、なんで一緒に案内されてるの?

これでいいの? セキュリティ的なアレコレとかでさ。



でも、なんつうか・・・・・・軌道拘置所とかに比べると緩めとはいえ、さすがに厳重だ。



あっちこっちに監視カメラ付きまくってるもの。





≪しかし、あの人は入らなくて済むはずなのに≫

「普通ならね。スカリエッティのテロ行為自体への関与は、薄いそうだし。
ただ・・・・・・なんか心配だったからとは言ってたね。あれだよ、やっぱりツンデレだと思う」

「二人とも、なんの話してるの?」

「色々あるのよ」



そんな話をしつつ、僕達が通されたのは、かなり広い空間。

芝生に木に、でっかいモニターって、なんだこの部屋?



「みんなが更生プログラムを受けるときに使ってる部屋の一つよ」

「そうだよ。みんな普段は、ここでお話したり、休憩したり、ギン姉と一緒にお勉強したりするの」



へぇ、なるほど。リフレッシュルームも兼ねてこの作りってわけか。納得納得。

しかし、実際に顔合わせるのは初めてだな。さて、どうなるか。



≪鬼が出てこないことを祈りましょう。しかし、どんな方々なんでしょう。やはり不安な面はありますね≫

「実際に話してみないと、その辺りは判断できないしね。資料だけじゃあどうにもわかんない」





人間って言うのはそういうもんでしょ。誰であろうが、それは変わんない。

・・・・・・でも、僕とアルトがそう言うとスバルの表情が、一瞬暗いものになった。

それを残念ながら僕は、見逃さなかった。というか気付いてしまった。



ちょっとマズったかなと思い、なにかフォローを入れようとした時に、それは起きた。





「・・・・・・スバルー! ティアー!」



背の高いスレンダーな女の子を先頭に、何人もの白い服を着た女の子達が出てきた。



「元気してるっスか?」



その後ろに、赤毛の髪を後ろでアップに纏めている、明るい印象の女の子。



「・・・・・・久しぶり」



どこかもの静かな印象を持った、ショートヘアーで栗毛の・・・・・・女の子だね。



「元気そうですね」



スタイルのいい、栗毛のストレートのロング。そして、どこかショートヘアーの子と同じ印象を受ける子。



「なんか、悪いね。忙しいのにいつも来てもらって」



ロングヘアーの髪を、リボンで一つに纏めている、どこか大人びた女の子。



「二人とも、いつもいつもすまないな」

「スバル、ティア。ごきげんよう」

「元気してたか?」





僕達が入ってきた所とは別の入り口から、その集団はやってきた。

というか、妙にフレンドリーな空気だしてるね。おい。あの人達、本当に収容者ですか?

そして、ギンガさんやそこの二人は、ホントにその収容者に殴られたりしてるの?



なんつうか、やたらと笑顔だし微笑んでるし・・・・・・普通に疑問を持つよ。

でも、映像では見てたけど、実際見るとギンガさんやスバルとそれほど変わらないな。

体型に差はあるけど、ほぼ同年代か。あ、一人だけ違う子が居るな。



とにかく、背が高いのから低いの、大きいのからぺったこなのまで。バリエーションに富んでいる。



・・・・・・なんか、リインサイズのちっこいのも居るな。





「誰がちっこいだっ!? あのバッテンチビと一緒にするんじゃねぇっ!!
・・・・・・って、お前らなんでこんなとこに居るんだよっ!!」





リイン、聞いてはいたけど、未だにケンカしっぱなしなの?

もうちょっと仲良くしようよ。せっかくの仲間なんだしさ。

とにかく、僕は良い感じで反応を返してきてくれた子に視線を移す。



赤毛を二つのおさげにしている、30cmほどの身長で、宙に浮いている女の子に、手を振る。





「つか、元気そうで安心したよ。アギト、久しぶり」



・・・・・・あぁ、ようやくお届け物が出来る。なんか前段階で色々疲れたけど、ようやくだよ。



≪お久しぶりです。あなたに不吉を届けに来ましたよ≫

「いや、違うからっ!!」

「そんなもん届けにくるなよっ!!」

≪始まりはいつも〜そう♪≫

「「歌うなっ!!」」



・・・・・・あれ? ギンガさんもスバルもティアナも、なんで僕とアルトを見るの?

それも、なんつうかビックリしたような顔でこっち見てるし。どうしたんだろ。



「恭文、アギトと知り合いなの?」

「うん」

「はぁっ!? アンタ達が・・・・・・なんでよっ!!」

≪何でもですよ。まぁ、ちょっとだけ顔を合わせた程度ですが≫



そう、顔見知りなのよ。本当にちょっと顔を合わせて、ちょっと斬り合いしただけの関係。

そんなの、どこにでもあるよ。少なくとも、そこで驚いた顔してる三人も同じくだし。



「え、ちょっと待ってっ! なぎ君、私はそんな話聞いてないんだけどっ!!」

「当たり前でしょ。話してなかったんだから。全く、なにを当たり前のことを言っているのか」





あ、一応説明しておくと、なぜ話さなかったかというのには、理由がある。

・・・・・・アギトと会った時の状況について話すと、間違いなくお説教になるから。

モロ犯罪ど真ん中だったし。いや、僕がね。覚えておくといいよ?



例えば・・・・・・そうだな。局の重要施設に屁理屈つけて、強行突入する。

そうして上層部の幹部を締め上げてゲロさせようとするのは、悲しい事に犯罪なんだよ。

そんな話をしている間に、白い服を来た女の子達が近づいてきた。



そして、まるで物珍しい物を見るかのような目で僕を見る。





「ね、スバル、ティアナ、この子誰?
アギトさんと知り合いっぽいけど・・・・・・てーか、ちっちゃっ!!」

「ホントっスね。いやぁ、ちっちゃくて可愛いっスねぇ〜♪」



あれ、僕の何かが音を立ててちょっと目覚めてしまった。



「ほんとだ、ボクとそんなに変わらない」

「そうですね。むしろ低いです。まだ子どもですね」



あれれ、なんかこう怒りがこみ上げてきたよ。なんでだろ。



「そうだね。背丈だけ見れば、13歳前後って感じかな? 僕、どこから来たのかな?」



ほぉ・・・・・・? よし、良く分かった。だから、僕は笑顔でこう言い放つ。



「お前らいい度胸だな。そんなにアルトの錆びになりたいのか。あ、あと最後の栗毛でお下げのあなた。
その微笑はとても素敵ですよ。なので、あなたにはやりません。よし、他は覚悟しとけ」

「あぁぁぁっ、恭文落ち着いてー!!」



怒気を全力全開で放つ僕に対して、スバルとギンガさんとティアナがなんか言ってるけど気にしない。

・・・・・・言っておくけど、別にこの子達がナンバーズだからとかそういう理由じゃない。失礼な奴は、殴りたいだけだ。



「・・・・・・こらこらお前達、余り小さいやら子どもに見えるやら言うもんじゃない。
この人は間違いなく、お前達やスバルとティアナよりも年上だぞ? いくらなんでも失礼だろうが」





キレかけた僕の溜飲を下げてくれたのは、まだ幼女にしか見えない背丈の女の子。

でも、それが彼女の全部とは思わないほうがいいというのはすぐ分かった。

だって、彼女の一言で、さっきまで好き勝手言っていた女の子達が、一瞬にして押し黙ったもの。



つまり、彼女はこのメンバーの中ではリーダー格ということになる。

それに、腕も立つと見た。同じ身長であるスバルはともかくよ?

僕より身長が高いティアナや彼女達も含めて年上だと見抜いた。



場数の多さゆえの観察眼とでも言えばいいのかな?

それはかなりのものだと思う。ハッキリ言ってこれは、簡単に養えるようなもんじゃない。

あと、歩き方や身のこなしが、そういう人間と同じ雰囲気を漂わせている。



例えば、シグナムさんやヴィータ師匠みたいな感じと言えば、わかるだろうか?





「そうなんですよ。僕、基本この連中より年上のはずなんですよ」

「あぁ、そのはずだ」



自然と、自分の口調が敬語になっていることに驚いた。本能で見抜いたのだ。

この人が僕より上で、敬うべき存在だと。それは理屈ではなく、生物が生物たる所以からかも知れない。



「初めまして。姉はチンクと言う。こんなナリだが、この子達の姉になる」

「あ、はい。チンクさんですね。初めまして、僕は蒼凪恭文と言います。
こんなナリですけど『18歳』でスバルやティアナより年上です」





・・・・・・その瞬間、チンクさんと僕は強く見つめ合う。そして理解する。

相手が、自分と同じ悩みを抱えていることに。これが男同士なら熱い抱擁へと発展するところである。

ちなみに、チンクさんの妹の女の子達は、そんな様子や僕の一言にバツが悪そうにしている。



まぁ、これで我慢しておこう。てか、別にこの連中殴るために来たわけじゃないし。





「そうか。あなたが。それでは蒼凪殿」

「あー、やめてください。普通に恭文って呼んでくれていいですから」

「そうか、ならば・・・・・・・恭文、妹達が無礼なことを言ってすまなかった。許してくれ」



そう言って、チンクさんが頭を下げてくる。やばい、ちょっとビックリしてる。

予想よりもずっと素直というか、礼儀正しいというか、そういう匂いがする。



「あー、頭を上げてくださいチンクさん。僕は別に気にしてませんから」



うん、ほんとに『今は』気にしてない。ここまで頭を下げられたら、さすがに拳を引くしかないでしょ。



「そう言ってくれるならありがたい。・・・・・・ほら、お前達もちゃんと謝るんだ」

「あー、なんていうかごめんね。ちっちゃいとか言って。私はセインって言うの、よろしくね」

「私はウェンディっス。・・・・・・うーん、かわいいってのも含めてホントの事だと思うんっスけど。
でも、チンク姉がそういうなら謝るっス。ごめんなさいっス」



うん、別にいいけどさ。なんて言うか赤髪、というかウェンディ。

反省してないでしょ? あと、男に可愛いっていうのはやめておきなさい。へコむから。



「・・・・・・ごめん。ボクはオットー、よろしく」

「私は、オットーと双子でディードと申します。知らなかったこととは言え、失礼しました。お許しください」



あー、うん。こう言ってもらえるとこっちとしても許す気になるわけですよ。

ウェンディとティアナ、おのれら二人はこの人たちを見習え



「で、私はディエチ。よろしくね。・・・・・・でも、ごめんね。
私もまだまだだなぁ、チンク姉が見抜いたのに、君が大人だってことを見抜けなかったなんて」



うん、この人もいい人っぽい。というか、この中で一番好みかな? こう、感じが○である。

さて、それじゃあそろそろ目的を達成しよう。そのためにここに来たわけだし。



「あー、アギト。届け物だよ」





例の物を渡す・・・・・・って、サイズが違うな。とりあえず、その物をリュックから出す。

それから、その隣りに居たこの子の友達である、紫髪のストレートヘアの女の子に渡すことにする。

そっか、この子がルーテシア・アルピーノか。写真データで見たのと・・・・・・そっくりだね。さすが親子だ。



僕の行動に、当然のようにその子は首を傾げる。





「・・・・・・これ、なに?」



女の子が、キョトンとした顔でそう聞いてくる。僕はそれに対して笑顔で、答える。



「うんとね、シグナムさんから、アギト宛てに持ってきたんだ」

「アギト宛てに? そっか、これはアギトには持てないよね」

「それでお前来たのか」

「うん」



まぁ、そういう事にしておく。とりあえず元気そうなので、一応安心はしてた。



≪あと、中に手紙もはいっているそうなので、後で読んであげてください≫

「・・・・・・そっか、わかった。わざわざあんがとな」

「ううん、それじゃあ僕はこれで」



そのまま、ゆっくりと自然な形でフェードアウトしようとした。だけど、不意に右肩を掴まれた。



「ちょっと待ってっ! 恭文、どこ行くのっ!?」



当然のように、それはKYなスバルだった。あははは、コイツ空気読めてないなぁ。



「そんなの決まってるでしょうが。もうやることないから家に帰って、フェイトと楽しくメールするのよ」

「どうしてっ!? せっかくここまで来たのにっ! というか、アギトと友達ならお話すればいいよねっ!!」

「やかましいわっ! 僕は知り合いとは言ったけど友達になった覚えないんですけどっ!?」



アギトの方を見る。アギトは、僕がルーテシアに渡した荷物を手で撫でつつ、首を縦に振った。



「はい、疑問は解決したね。じゃあ、僕は帰るから」

「だからダメだってっ!! ・・・・・・せっかくだし、みんなとお話しようよ」

「なんでっ!? 僕は普通にお休みを満喫したいんですけどっ!!」

「だから、お話して満喫すればいいよね」

「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! なんでおのれに僕の休みのアレコレを指図されないといけないんだよっ!!」










・・・・・・結局、ギンガさんにも説得されて話することになった。





くそ、スバルはマジでKYだし。僕がこの連中と何を話せって言うのよ。





僕、事件当時は六課メンバーじゃないのよ? なのに、なんでそれなのさ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



さて、最初こそ色んな意味で腹が立った。

でも、話してみるとチンクさん以外の子達もすごくいい子である。

印象を順番に上げていくと、まずセインとウェンディだね。





二人は元気で、見ているだけでこちらまで明るくなりそうな勢いがある。

みんなのムードメーカーってところかな? うん、スバルと同じタイプだ。

でも、スバルとは全く違う所がある。それは、空気が読めそうな所。





なんというか、特にセインに対してはそれを強く感じてしまう。










「・・・・・・ぶっちゃけさ、そっちも困るよね?」

「あははは、まぁね」

「スバル的には、アギトさんと顔見知りだからオーケーって感じだとは思うっスけど」



ウェンディは、何気に察しがいい。スバルの行動を見て、そこまで分かるとは。



「でもほら。私達みたいな可愛い子と仲良くなれるーとか考えれば、それほどダメじゃないかもよ?」

「あー、そうっスね。ほれほれ、感謝するっスよ〜」

「・・・・・・黙れ、アホの子」



よし、コイツらはアホの子だ。そして自信過剰だ。評価としては、これくらいでいい。



「ひどっ!!」

「恭文、優しさなさ過ぎっスっ!? 私達こんなに可愛いのにっ!!」

「あははは、ごめん。僕のタイプは年上で金髪のお姉さんだから。あぁ、二人は適合しないね」

「むきーっスッ!!」

「それはそれでムカつくんだけど、どうすればいいっ!?」





・・・・・で、アホコンビは置いておくことにする。次にお話するのは、オットーとディード。

双子だからなのか物静かなところがよく似ている。体型は真逆だけど。

でも、決して無表情などと言うことはなく、穏やかというかそういう印象を受けた。



一緒にいると落ち着いてゆったりとした気持ちになれる。うん、いい感じだ。





「・・・・・・ねぇ、スバルのKYってどうやったら直る?」

「それは、ギンガもだね。ボクも普通に引き止めるとは思ってなかったよ」

「ティアナが頭を抱えていましたしね。というより、どうしましょう」



三人揃って、まず自分達が何を話すべきかという事について、話している。

それも当然なのよ。後ろから何かを期待するようなスバルの視線が、突き刺さってる。



「ぶっちゃけさ、事件中の事とかを話しても、互いに気分が悪くなるだけでしょ?」

「それはそうだね」



オットーの言葉に、ディードも頷いた。・・・・・・なので、事件中の事は触れない。

そこに触れると、どうしても恨み辛みの篭った言葉になってしまうから。



「君はスバル達の友達なわけだし」

「あいにく、あのKYとツンデレと友情育んだ覚えはない。ギンガさんや六課の隊長陣は友達だけど」

「これまた、手厳しいね。スバルが怒るよ?」



あははは、怒っても全然怖くないし。僕、もっと強くて恐ろしいの知ってるしさ。



「とりあえず・・・・・・無難な所から始めるべきでしょうか」

「ディード?」

「自己紹介や、現状について話すんです。・・・・・・すみません、これしか思いつきませんでした。
事前知識があれば、まだ会話も色々広げられたと思うのですけど」



少しだけ、表情を曇らせてディードはそう口にした。だから、僕は首を横に振った。



「なら、まずそこから始めようか。ディード、謝る必要なんてないよ?
もしもこれから仲良くしてくなら、きっといいアイディアだと思うし」

「・・・・・・そう言っていただけると、ありがたいです」





そして、しばらく自己紹介とか今の現状とかあれこれを話した。

でも、ディートはいい子だなぁ。オットーもだけど、また可愛い感じが◯だし。

次はディエチ。・・・・・・真面目に僕、どこのホストだろ。気分がそんな感じなんですけど。



てゆうか、確かに栗毛お下げなディエチは好みなんだけど、話し辛いって。



本人が、僕が六課隊長陣と友達だと聞いて、ちょっと萎縮してるし。





「・・・・・・その、困るよね」

「そうだね、困ってるね」



否定しても今更なので、ディエチの言葉を肯定した。うん、困ってるよ?

あのKYのせいで、僕は擬似ホスト気分だよ。その上ディエチは、罪悪感から固まってるし。



「ごめん」

「・・・・・・謝る必要ない。てーか、僕に謝るのとか申し訳なく思うとか、そういうのもう無しだから。
つーか、僕にはみんなを責める権利も何もない。だって、六課に居なかったもの」



最初から居て、あれこれ関わってれば・・・・・・まぁ、言いたくもなる。

例えば、ギンガさんがお人好し過ぎるんじゃないかとか、色々ね。



「でも、そうじゃない。だから僕はみんなに対しては何も言わないし、言う権利もない。
だって、戦って誰かが傷つくのも傷つけるのも、死ぬのも・・・・・・全部当たり前なんだから」



そう、当たり前なのよ。どっちが正しくて間違ってるって話は抜きにしてよ?

何度か言ってるけど、僕は自分が居なかった場の戦いのアレコレ言うのは、嫌いなのよ。



「だから、ディエチもそれでいい。もしここからみんなの事を嫌いになったりしても、それは事件のせいじゃない。
僕が、ここからディエチやセインにウェンディ、ディードにオットー、チンクさんと始める時間の中で判断した事だから」

「それは中々に突き刺さるな。まるで私達の事、嫌いになる事前提みたい」

「だって、積み重ねが0だもの。ここからどうなるかは・・・・・・やっぱり、ここからの時間次第じゃない?」

「それもそうだね。なら、事件の事は抜き・・・・・・ううん、それも全部含めてだね。
君とも仲良くなれるようにしていきたいな。せっかく、こうやって関われたんだから」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ルーテシアとアギトは・・・・・・まぁ、アギトと僕が出会った経緯なんかも話したりした。

ちょっとだけ重い話なんだけど、それでも必要な事だから。

もちろん、詳細な所はギンガさん達の耳に入らないようにした。





入ったら、色んなものが終わる。つか、ギンガさん達には知る権限は無い。










「そうなんだ。ゼストの・・・・・・アギト、私知らなかったんだけど」

「悪い。なんか話辛くてさ」

「あー、だったら僕は早めに帰った方がよかった?」

「いや、大丈夫だ。どっちにしろ、伝えておく必要あっただろうしさ」



ルーテシアは、事件中ずっとゼスト・グランガイツとアギトと一緒に居た。

だから、この中では1番あの人と距離が近いし、思い入れも強い。



「コイツは、キッチリあの糞野郎に落とし前をつけてくれたんだ」

「話通りなら、そうなるよね」

「お前らには、本当に感謝する。本当だったらアタシがやんなきゃいけないの」



言いながら、アギトが頭を下げる。僕はそれから視線を外して、右手で頭をかく。

なんつうか、辛い。僕の勝手で引き受けただけなのに。



「礼を言われるような事をした覚えはないよ。僕は、僕の勝手でやっただけ。ただ、それだけだから」

「・・・・・・そっか。あのバッテンチビも、同じこと言うんだよ。なんつうか、お前ら似てるんだな」

「長年のパートナーだもの。アギトとゼストさんには負けるかも知れないけど、それでも」

「そりゃそうさ。アタシと旦那のコンビには、遠く及ばねぇよ」



言いながら、アギトはそっぽを向く。少しだけ目に涙が溜まってたけど・・・・・・知らんぷりをした。



「恭文、アルトアイゼン」



そんな時、ルーテシアが少しだけ迷ったような顔をして、僕の目を真剣に見つめてくる。



「どうしたの?」

「・・・・・・ありがとう。こんな事でお礼言うの間違ってるのかもしれないけど、やっぱり言いたいの。
二人とも、ありがとう。ゼストの事だけじゃないの。アギトの事も・・・・・・守ってくれて」

「ううん、いいよ。大丈夫だから」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そんな会話を繰り広げつつ時間は過ぎていった。というか、帰る時間だよ。

あ、もちろんチンクさんとも話をした。どんな感じかと言うと・・・・・・こんな感じ。

みんなの輪から少しだけ離れて、チンクさんと二人で話をしている。結構真剣な話を。





チンクさんは、更生組の中ではリーダー格であり、事件進行中のあれこれも、かなり詳しい。










≪そういえばチンクさん、一つ質問があります≫

「あぁ」



その辺りの事を、話してたのよ。みんなから離れて、こそこそとね。



≪あなたは先ほど、マスターのことを知っている口ぶりでした。
やはり、ジェイル・スカリエッティという人は、マスターに注目していたのですね≫

「その通りだ。ドクターは恭文の師であるヘイハチ・トウゴウに、強い興味を抱いていたからな。それは、弟子である恭文も同じだ」





やっぱりか。まぁ、先生の戦闘能力はすごいからなぁ。

レアスキルがあるわけでも、大量の魔力があるわけでもない。

にも関わらず、エースやストライカーを超えた存在として認められてる。



それを局では、達人マスターと呼んでるの。





≪そして、それゆえに・・・・・・ですよね?≫

「そうだ」



だから、事件中僕に対してスカリエッティは、非常に迷惑をかけてくれたわけだよ。

僕が、先生の弟子で・・・・・・先生に似ているから。



「チンクさんは、フォン・レイメイに会った事は」



僕がそう言うと、チンクさんの声が更に小さくなった。僕が名前を出した意図、理解してくれたらしい。



「もちろんある。・・・・・・随分な男でな、姉妹達からは相当評判が悪かった。かく言う姉も、同じくだ」

「でしょうね」

「そうか、お前は奴と・・・・・・こういう時、どう言えばいいのだろうな」

「とりあえず、安い謝罪ならいらないです。それはさっきディエチからもらいました」



お手上げポーズでそう言うと、チンクさんは苦笑した。多分、そういう顔をするしか無かったんだと思う。



「まぁ、ディエチに言いましたけど、そういうのマジで無しでいいですから。
・・・・・・別に、全部無かった事にするとかじゃないです」



というか、出来るわけがない。ここのみんなが僕の仲間を、友達を傷つけた時間は、絶対に消えない。

それを無かった事にしようとするなら、僕はマジで斬る。そんな緩い解決方法、許したくないし。



「ただ、殴られたご本人様達が本気で殴ったチンクさん達と、仲良くしたいと思ってるんですし。
・・・・・・ここに来てるの、スバルやティアナだけじゃないんですよね?」

「あぁ。エリオとキャロ、高町教導官にフェイトお嬢様、八神部隊長も顔を出してくれる」



一応話は知ってた。だって、今は六課の中だから、誰がどこに居るのかとかそういうの丸分かりだし。



「だったら、僕が言う権利なんて無いですよ。そんな真似したら、スバル以上のKYだし」

「・・・・・・なんというか、姉は肯定するべきかどうか迷ってしまう」

「別にしなくていいですよ。ただ・・・・・・ここからは許しませんから」



だけど、僕は凡人で俗物なので・・・・・・一言釘を刺しておく。



「ここから、僕の大事な友達を・・・・・・荷物を傷つけたら、絶対に許さない。
そん時は、誰がなんと言おうと容赦しない。アンタ達全員、叩き潰す」

「・・・・・・あぁ、分かっている。全部はこれからの姉達の行動次第ということだな」

「そうなりますね。あ、別に痴話喧嘩くらいだったらいいですよ? そこは認めます。
で、スバルとティアナはこの中から除外で。アレは友達じゃないですし」

「何気にヒドイなっ! 二人が聞いたら色んな意味で頭を抱えると思うんだがっ!!」



気にしてはいけない。てゆうか、普通に気にするのもめんどいので、放置でいいの。



「というわけで、暇な時は来ますんで」

「そしていきなり話が変わるなっ!! ・・・・・・だが、いいのか?」

「いいんですよ。てゆうか、元々ギンガさんに更生プログラムを手伝って欲しいって頼まれてたんですよ」



なお、頼まれたのはこの間お見舞いに行った時の話だね。



「そうなのか?」

「そうなんです」



まぁ、手伝うというよりは色々話し相手になって欲しいということだね。

僕、ここには居ないけどセッテと因縁があるしさ。無関係ではないという事らしい。



「まぁ、そういうわけなのでこれからちょっとずつ仲良くなってくって事でどうでしょ。
さっきディードが言ってたんですけど、僕達はまずそこからじゃないかと」

「・・・・・・そうだな。今は互いに0の段階だ。マイナスにしていくのもプラスにしていくのも、やはりこれからか」

「はい」



ゆっくりと、チンクさんと二人で空を見上げる。見上げた空は・・・・・・とっても青くて、綺麗。

海の上だからかな。街の中とは少し色合いが違う感じがするのが、ちょっと不思議。



「うし、それじゃあそろそろ」

「帰るのか?」

「えぇ。やることやりましたし、お話も出来ました。・・・・・・なんつうか、下手に長居しちゃいそうなんですよね」



我ながら温いと思うのよ。なんかこう、居心地いいなぁとか思ってる部分がある。

そして、それを知ってか知らずか嬉しそうな顔している豆芝が居る。だから、帰るの。



「あ、六課のみんなに伝言があるなら聞きますけど」

「いや、大丈夫だ。通信も、許可を取れば出来るしな。
・・・・・・恭文、ありがとう。姉はお前と話せて、少し刺が抜けた」

「なら良かった」










こうして、僕は海上隔離施設を出た。なお、豆芝の叫びは無視した。

ギンガさんは若干不安そうだったけど、とりあえず普通に見送ってくれたよ。

・・・・・・・・・・・・まぁ、少々キツイ感じにはしたけど、大丈夫だよね。





なんかさ、感じたの。みんなの中から『変わりたい』って思う力みたいなのを。

上手く言えないんだけど・・・・・・こう、感じちゃったんだ。

あぁ、それとあそこには、あともう一人更生組が居るらしい。





よく考えたら、更生組の人数一人足りなかったし。

なんか色々事情があるらしく、みんなと一緒には、顔を見せてくれなかった。

だけど僕が帰る直前に、その子がスバル達と話したいと言い出したらしい。





スバルとティアナ、あとギンガさんにチンクさん達もやたらと嬉しそうだったけど・・・・・・うーん、引篭もりの子なのかな。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そうして、僕とアルトは来たときと同じようにデンバードに乗って、家へと走っていった。

スバル達は、近くの宿泊施設で一夜を明かした後、またあちこち寄りながら帰るそうだ。

かくいう僕とアルトは、ハイウェイをひた走る。もちろん、湖の騎士さんに怒られたり暴露されたりするのは嫌。





なので、アルトのナビゲートのもと細心の注意で走っている。





フェイトとメールしつつ、渋滞を潜り抜け家に帰り着いた時には時刻は夜の7時を回っていた。










「・・・・・・ちかれたー」

≪そうですね。さっと行ってさっと帰るつもりが、ホントに長丁場になりましたから。
あなたがフェイトさんとメールしたりメールしたりメールしたりしてるせいで≫



なお、帰りもフェイトとメールしまくっていた。あぁ、癒しだ。やっぱりフェイトとのメールは癒しだ。

なお、スバルのメールには返事してない。だって、実物に会って話してるのに。



「だって、フェイトとのメールは癒しだもの。なんていうかさ、アルト」

≪なんですか?≫

「明日は、というか明日こそは・・・・・・ダメに過ごしたい」



なんだかんだで、僕は二日間働きまくってる。学校見学付き合って、届け物して。

それでアギトとルーテシア、チンクさんやディード達とお話して・・・・・・あはは、忙し過ぎるって。



≪そうですね。それでいいと思います≫



幸か不幸か、明日はなんの予定も入っていない。だから、ダメに過ごせる。



「・・・・・・溜まってるアニメチェックしようっと」





そんなことを思いながら、疲れた身体に鞭を打って夕飯を作る。

朝に作って、残しておいたお味噌汁と例のサトイモを軽く暖めて、ご飯を茶碗に入れる。

主菜は、帰りの途中に買ってきたブリの切り身(タイムセールで半額)。



それを、お手製の照り焼きのタレに絡めてさっと焼く。けっこう手抜き感が漂っているけど、いいじゃない。

ホントに疲れたんだもの。その分楽しかったけどさ。でも、手抜きと言えど味はそこそこ。

そんなちょっと遅めな夕飯をしっかりと食べて後片付けしたあと、お風呂に入る。



ゆったりと足を伸ばして疲れた体をリフレッシュ。・・・・・・うーん、入浴剤も買って来ればよかったな。

バスクリンとかさ。とにかく、お風呂に入りながら、今日一日起きた事を考える。

・・・・・・なんか、チンクさん達と色々と話せたのは大きかったかもしれない。



六課でやってく上でってのもあるし、自分の中での色々なことってのもあるし。





「戦闘機人、かぁ」





お風呂の中で、一人呟いてみたりする。なんというか、はやてがきっかけだよな。

ギンガさんやゲンヤさんと関わるようになって、JS事件終結までの間にやたらと絡むことになったなぁ。

縁、あるんだろうなぁ。セッテの事もそうだし、今日のアレコレもそうだし。



そして、それにスバルが反応してた。てゆうか、普通に僕に対して言葉が強かったのは、そこが理由だよ。

僕に、戦闘機人のみんなを嫌いになって欲しくないと思ってるのよ。だから、仲良くなって欲しくて引き止めた。

スバル、知らないからなぁ。ギンガさんがスバルを止めなかったのも、間違いなく同じ理由だよ。



あははは、なんかすっごい頭痛いんだけど。あぁもう、なんで休日なのに爆弾増える?

チンクさん達と話せたのは大きいけど、スバル達と遭遇したのはミスもいいところだよ。

どっちにしても、今後の立ち回りはそうとう気を付ける必要があるな。



・・・・・・あの事、スバルに話す必要があるのかな。でもなぁ・・・・・・うーん、どうしよう。

そうなると、下手すれば連鎖的にフェイト達にもバレる危険性があるのよ。

だけど、展開によっては話さなくちゃいけない? いやいや、ありえないから。



よし、絶対隠し通そう。もうありったけで隠し通してやる。

程よく温まった所でお風呂から上がり、昔から愛用しているパジャマに着替える。

それで、布団を敷いて寝る準備をする。・・・・・・っと、一応メール送っとかないと。



シグナムさんに、今日の首尾を説明したメールを、送信。





「うし、これでよし。・・・・・・あれ?」



新着メールが来たや。おかしい、フェイトへのお休みメールはこれからなのに。

てゆうか、普通に気付いてしまった。だって、知り合いからのメールなんだもの。



「・・・・・・噂をすればなんとやらとはよく言ったもんだ」

≪スバルさんからですか?≫

「正解だよ。そして、内容には察しが付いてしまったわ」










アルトの言葉に頷きつつ、モニターを操作してメールを開く。





色んな意味でさ、こう・・・・・・爆弾だろうなぁとか思いつつ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



件名:無事に帰りついた?



恭文、無事に帰りついた? 途中でコケて怪我とかしてない?

私もティアも、今日泊まるところにちゃんとついて、今はそこの部屋の中だよ。

料金安いけど、結構いい部屋取れたんだ。景色もいいし、もう最高だよ。



今はね、ティアはお風呂入ってるんだ。私は後にしてもらってメール打ってるの。

・・・・・・お風呂の話したからって、エッチなこと考えちゃだめだよ?

うんとね、恭文にまたメールしたのは、ちょっと聞きたい事があったんだ。



どう切り出したらいいのか、色々考えたけどいいの思いつかなかったから、単刀直入に聞くね。

チンクさんやセイン達のこと、どう思った? 恭文は、戦闘機人とかのことについても多少は知っているよね?

それに、JS事件でのナンバーズ達の行動も。そういうのを含めて、どう思ってるかを聞きたいんだ。



今日みんなと会って、どんな風に思ったのか。その、確かにあの子達はみんな・・・・・・悪い事をしたよ? 

でも、それはある意味では仕方・・・・・・なくないんだけど、でも、どうしようもない部分があったんだ。

だから、嫌わないで欲しい。恭文、みんなに随分気に入られたみたいなんだよ?



恭文が帰った後も、みんなで『また会ってみたい』って言ってて・・・・・・あぁ、ごめん。上手く言えない。

とにかく、今の恭文の気持ち、正直に話して欲しい。

返事は、いつでもいいから。ちゃんと考えがまとまってから、聞かせてほしいな。



それじゃあ夜更かししないで早く寝るんだよ?



スバルより





















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・やっぱ気にしてたのか。というか、無茶苦茶気にしてるね、これ。

それは別にして、実は戦闘機人については、多少どころかかなり詳しい。

出自から現状まで、分厚い詳細レポートを作れるくらいに詳しかったりする。





あー、やっぱりギンガさんやゲンヤさんから、その辺りは聞いてないんだ。










「ねぇアルト、下手したら・・・・・・あの事話す必要あるのかな」

≪あるでしょうね。あの人が今日みたいな行動に出るのは、そこが理由ですよ。
高町教導官達は、間違いなくスバルさんとギンガさんの身体の事を知ってますし≫

「でも、僕はいきなり飛び込んで来た人間。だから知らないと思ってる。
そこは、スバルだけじゃなくてフェイト達もだよ。だから、余計に色々気遣ってるのかも」



つーか、そこでそう思わない理由ないって。僕はスバルとは、ほとんど面識無いのよ?



「だから、知った場合に備えてついつい色々確かめたくなると。あはは、マジで頭痛いし。
いや、待てよ。この調子で行くと・・・・・・エリキャロとかヴィヴィオとかも同じ行動しそうだな」

「その可能性は、全く否定出来ませんね。六課の人間は、そういう意味では複雑な人間ばかりですから」

「あぁもう、どうして気分良く休日を終われないわけ? これ、ありえないし。・・・・・・よし、寝よう」





スバルのメールの返事は、まだ出さない。てーか、出せるわけがない。

ここで下手に上手く対応してしまうと、余計にややこしくなる。

僕は、基本六課では通りすがりで居たいのよ。自分の仕事を、通したいだけなのよ。



つまりその場合、このスバルのメールにも色々今後の事を考えた上で返事する必要がある。





≪ただ・・・・・・あなたの答えは、決まってるんでしょ?≫

「決まってるよ。決まってなかったら、チンクさん達なんてガン無視するし。
うん、決まってる。ただ、今の状況でそれを普通に言っていいのか躊躇う」

≪とりあえず、ギンガさんと相談でしょうか≫

「それしか・・・・・・無いよね」










とりあえず、僕はギンガさんにスバルのあれこれを書いて、相談したいという旨を伝えるメールを出した。

それで、フェイトとの癒しメールをする。・・・・・・あぁ、癒しだ。癒しがこの文面の中にはある。

フェイトにお休みとメールして、今日やり取りしたメールを最初から読み直しつつ、僕は眠りに落ちた。





まずいな。僕・・・・・・普通にフェイト病かも。というか、フェイトに首ったけだわ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



休みも最後なのに、ついつい早く起きて早朝ランニング程度はしてしまっった。

そうして、早朝ランニングから帰ってきたら、ベランダに木刀を持ち出して素振りをこなす。

その後にお風呂に入ってご飯。これまた昨日や一昨日と同じだけれども、ご飯のメニューは違う。





今日のランニングは少し足を伸ばして、ちょっとウキウキなお買い物。

朝早くに開店している、美味しいと評判のパン屋さんで調達してきたパンの数々がご飯になる。

一応、頑張って目玉焼きなど焼いておかずにしたりする。





バターロールにクロワッサン、ウィンナーロールなどが沢山。

あと、甘いのが欲しかったの。だから、ブルーベリーデニッシュなど買っている。

それをよく噛んで、牛乳を飲みつつ食べる。食べる。とにかく食べる。





一応食パンや、一緒に売っていた手作りジャムなども買っているので、お昼はそれになる。



で、なんで昨日と比べて手抜き感が増えた食事になるかと言うと、目的は当然一つ。










「・・・・・・知らない間に、キバがパワーアップしてる」

≪してますね。私達があれこれ大変だった時にやらかしてくれたわけですか≫



そう、取り溜めしていたアニメや特撮の鑑賞会。で、今は仮面ライダーキバを鑑賞中。

そして、衝撃を受けていた。JS事件のせいで見逃していた間に、キバがパワーアップしていた。



「エンペラーフォームって、金ピカだね」

≪そうですね。百式と被ってますよね≫

「そうだね、金ピカだしね」



でも、衝撃はまだある。・・・・・・普通に、戦闘時に流れる挿入歌も変わってる。



「というかさ、最初の挿入歌より上手くなってない?」



紅渡役の瀬戸康史さんが歌ってるんだけど・・・・・・あの、普通に上手いんですけど。

Supernova、普通にいい歌なんですけど。歌唱力上がってるんですけど。



≪なってますね。そうとう頑張ってボイトレしたんでしょ≫

「そうだよね、そうとしか思えないよね。・・・・・・なんか、すごいね。
前の曲も好きだけど、これはそれ以上だよ」

≪あなたもこれくらい頑張った方が、いいかも知れませんよ?≫

「そうだね、そうするわ。僕、最近ダメ過ぎだし。もっと言うと、自分のノリを通せてないし」



普通に、このままではダメかも知れない。そんな事を考えていると、インターホンが鳴り響いた。



「・・・・・・・よし、無視だ」

≪そうですね。というより、Supernovaをもっと聴かないと≫

「うんうん」





どうせ『神様を信じますか?』とかいう宗教の勧誘でしょ。

今日の僕は引きこもりモード全開だから、外部とは一切接触をもちませーん。

『知り合いじゃないの?』と考えるかと考えたそこのあなたは、まだまだ人生経験が足りない。



僕の知り合いなら、予め連絡は入れてくるから。うん、絶対入れてくるよ?

普段から、『待ちぼうけとかさせたくないから、来る時は必ず連絡』と、伝えている。

それはもう口を酸っぱくして通達しているので、みんなそうしてくれている。



・・・・・・一部例外が居るけど。もっと言えば、タヌキとか魔王とか。



そんな事を考えたのが悪かったのかも知れない。普通にピンポンが連射される。





「だぁぁぁぁぁっ! しつこい、しつこ過ぎるっ!!」

≪全く、Supernovaが聴けないじゃありませんか≫

「うし、ヘッドホンだ。それで全部解決だ」



でも、その間にも連射される。普通に連射される。・・・・・・どこのどいつだよ。

てゆうか、どこのストーカー? あんまりにも悪質過ぎるし。



「うし、ちょっとぶっ飛ばしてくる。どこの宗教の勧誘だよ」

≪その方がいいですね。この調子だと、キバ見れないじゃないですか≫





ひょっとしたら、一部例外の可能性もあるかもしれないし。今思いついたけど。

そう思いながら、プカプカと待機モードで浮いているアルトを、部屋に残す。

残して玄関の方へと行き、ドアを開ける。・・・・・・いや、その前に扉の前の気配確認。



数は一人。殺気とかそういうのは、無し。てゆうか、この気配は・・・・・・あれ?



なんだろう、なんとなく嫌な予感がした。したから、正直開けたくなかった。でも、開けた。





「なんですか? 宗教の勧誘ならお断りますが?」

「宗教じゃないよ。・・・・・・恭文、おはよー♪」

「すみません、どなたかとお間違えじゃないですか?」





とりあえず、開けた瞬間にそう言いながら、ドアを閉めた。

もう一度、しっかりとチェーンも含めて施錠するのも忘れない。

再び、チャイムが部屋の中に激しく鳴り響くけど、それは後だよ。



とりあえず、念話の回線もシャットアウトしとく。なんでかって? 色々とあるからですよ。





「アルトっ! アルトっ!!」

≪どうしました?≫

「正直に吐け。僕がここに住んでるって六課の誰かに教えたの?
なのは達じゃないよ。六課に出向になって初めて会った人間にだからね」

≪・・・・・・はい? いや、全く教えてないですけど≫



・・・・・・そうすると情報源は、どこのどいつですかっ!? もうこれ、イタズラってレベルじゃないでしょうがっ!!



≪あの、一体どうしたんですか。というか、なんですかこのインターホンの連射音。普通にストーカーでしょ≫

「・・・・・・ストーカーより性質が悪いよ。今、ドアを開けたんだよ。そうしたら」

≪そうしたら?≫



僕はそこで一旦言葉を止めて、自然と荒くなっていた呼吸を、深呼吸して整える。

そして口にした。目の前にあった真実を。



「・・・・・・スバルが居た」

≪・・・・・・はい?≫

「だから、スバルが居たんだよっ! なんでかわかんないけど、スバルが部屋の前に居るんだよっ!!」

≪・・・・・・サーチして、確認しました。確かに居ますね。
というか、あともう一人もコレだと居ますね。それで、出ちゃったんですか?≫

「出ちゃったよ。だから大失敗だったよ」










あぁ、どうすればいいのコレっ!? てか、僕はスバルに家の事なんて教えてないしっ!!





あぁ、マジでどうなるー! というかどうすればいいのさ、コレはっ!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・なんで出てくれないの?」





私は、ドアの前でインターホンを鳴らしながら少しだけ悲しい気持ちになっていた。

さっき開けてくれた時、私だって分かったはずなのに、すぐに閉められた。

・・・・・・念話しようにも、回線を閉じてるから話せない。



なんで、なんで出てくれないの? 宗教の勧誘がどうとかって言ってたけど、だからかな。



でも、私なんだから違うって分かったはずなのに。・・・・・・私、何か悪いことしたかな?





「スバル、お待たせ・・・・・・って、何してんのよ」

「ティア?」

「いやいや、その前に私の質問に答えて。アンタ・・・・・・なんでピンポン連射?」



私は自分でも気付かないうちに、沈んだ表情になってたみたいだった。

ティアが、そんな私を見て慌てて駆け寄ってくる。



「恭文、出てくれないの。さっき開けてくれて顔合わせたんだけど、すぐに閉められた」

「なるほどね。全く、アイツ何やってんのよ。わざわざ来てやったってのに」





私たちは、ある人から恭文の自宅を教えてもらった。

それで驚かせようと思ったのと、ちょっとした用事のために遊びに来たのだ。

時刻は11時になるくらいの時間、これくらいなら恭文も起きていると思ってきた。



だけど、これなの。うぅ、恭文やっぱり冷たいよ。昨日のメールが原因なのかな。





「ただ、正直それも納得出来るのよね。・・・・・・スバル、アンタそれやめなさい」

「どうして?」

「いや、ピンポン連射し過ぎだから。それ、単純に怖いから。どっかのストーカーだから」

「・・・・・・あ、ごめん」

「アンタ、気づいてなかったのっ!?」



いやぁ、こう・・・・・・ついついやってしまた。うーん、なんでだろう。こうしないといけない感じがしたんだ。



「・・・・・・マジで気づいてなかったんだ。てーか、ヤバい。
普通にこの子はヤバい属性持ちなのかも。なんか、気づいちゃった」

「ティア、何か言った?」

「何でもないわよ。とにかく、通信かけてみましょうか。
ほら、いきなりでビックリしちゃったかも知れないしさ」



なるほど。私達は恭文から住所は教えてもらってないし、そのせいなのかも。

うん、それなら納得だ。あー、それなら悪いことしちゃったなぁ。ちゃんと謝ろうっと。



「なら、通信通信・・・・・・と」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・静かになったね」

≪そうですね。ただ、部屋の前にまだ居ますけど≫

「とりあえず、お茶飲ませて。てゆうか、落ち着かせて。普通に僕、まだ心臓がドキドキしまくってるの。
だめ、今は出れない。絶対無理。今スバルの顔見たら、恐怖で震え上がって呼吸困難になる」

≪それは間違いなく、悪い意味での動悸ですね≫





というわけで、ソファーから立ち上がってキッチンに行く。というか、お茶を煎れる。

僕の部屋は、広めのベランダ付きの2LDKのマンション。まずここは、広めのダイニングキッチン。

15畳前後のリビング。ここでテレビを見たり、テーブルを置いているのでそこでご飯を食べたりする。



さっきまで仮面ライダーキバを見ていたのはこの部屋になる。

そこから、ドア無しで繋がっている和室10畳の一部屋。

普段はそこで寝起きしている。あとは着替えたりとかね。



あとは、和室の部屋と同じ広さの書庫・・・・・・というか保管庫。

脱衣所付きで、足をゆったりと伸ばせるお風呂。それとトイレを忘れてはいけない。

で、この部屋がどこにあるかというと、地上6階。というか、最上階。



天気のいい日は、ベランダから地上本部がくっきり見えるの。

すっごく眺めが良くて、お気に入り。あとは首都のネオンとか。

以前、ゲーム合宿と称して泊まりにきたシャーリーに、こう言われた事がある。



『この部屋なら女の子を連れ込めば最後まで行ける』と。あははは、バカじゃないのかと思ったよ。

だって、シャーリーとは最後まで行ってないのに。そして、フェイトとも行けなかったのに。

部屋のシチュエーションだけで落とせるほど、女の子は単純じゃないのよ。



ヤバい、なんか色々思い出したら悲しくなってきた。よし、昨日のフェイトとのメールを読み返そう。

話は逸れたけど、このマンションは確かにミッドの一般的な賃貸からすればそこそこ高い。

しかし、そこは魔導師。一種の危険職である。問題は無い。あとはほら、犯罪者捕まえた賞金もあるし。



それだけでなく、戦闘職ならではの危険手当とかその他諸々な賃金保証がつくのよ。

なので、まぁまぁなんとかなるのである。ただ、オーナーの好意に、甘えてるってのもあるけどね。

オーナーが友達で、すっごい格安で貸してもらってるのよ。もう申し訳ないくらいの料金。





「・・・・・・紅茶ー♪ 紅茶紅茶ー♪ 紅茶を飲むとーフィアッセさんを思い出すー♪」





フィアッセさんとは、なのはのお兄さんとお姉さんの幼馴染で、僕にも良くしてくれているお姉さん。

フルネームでは、フィアッセ・クリステラさん。それで、職業は歌手さん。

今は、それと同時にクリステラ・ソング・スクールという歌手養成所の校長も務めている。



なお、諸事情込みで・・・・・・あははは、考えるのやめようっと。





「あ、フィアッセさんにもメールしないと」



JS事件の最中、全く連絡が取れなくて心配かけちゃってるからなぁ。

事件後に電話でお話とかもしてるけど、元気な様子も伝えておかないと。



≪でも、端末の電源は・・・・・・あぁ、そうでしたね≫

「うん。スバルには、仕事用の番号とアドレスしか教えてないもの」



明らかにそれ用だと分からないように作ったものを、スバルには教えてる。

なので、そっちを使わなければ問題はない。据え置き端末だってあるもの。



≪でも、スバルさんはいいんですか?≫

「いいのよ。・・・・・・とりあえず今は落ち着かせて欲しい。
あれは怖かったの。ナチュラルに怖かったの」

≪それもそうですね≫




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「・・・・・・スバル、やっぱアンタのピンポン連射がダメなんだって。
普通にアレは怖いわよ? そのせいで警戒してるのよ」



通信は全く繋がらなかった。どうやら電源から落としてるらしい。



「うぅ、反省してます。というか、あの・・・・・・謝りたい」

「とりあえず、今日はダメかも知れないわね。書き置きポストに入れて、帰ろうか」

「それで、明日かな」

「うん、そうなるわね。でさ、『つい加減出来無くてやっちゃった』って謝ろうか。私も一緒に言ってあげるから」





とりあえず、落ち込んだスバルへのフォローは、これくらいにしておく。・・・・・・でも、そこまでか。

まぁ、そうよね。いきなりピンポン連射してたのが自分の知り合いだったらビビるわよ。

これ、最悪隊長達にも相談した方がいいかも。やっぱり私達は付き合いが浅いしなぁ。



こういう時、アイツがどういう行動に出るかを全く分からないもの。





「・・・・・・あれま、スバルとティアやないか。二人ともどないしたんや?」

「ですです。どうしたですか?」



そう考えを纏めた時、左横から声がかかった。そちらを見ると・・・・・・一人の女性と小さな女の子。

驚いたように私達にかかった声の主は、私達の知り合い。当然、私とスバルも驚く。



「八神部隊長にリイン曹長っ!!」

「あの、こんなところでどうしたんですかっ!?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『・・・・・・でも、本当に久しぶりだね。ふふ、また声聞けて嬉しい』

「いや、ついこの間お話したじゃないですか」

『それでもだよ。恭文くんの声を聞いていると、元気が出てくるもの』



・・・・・・メール送ったら、フィアッセさんから電話がかかってきた。

なお、今はレコーディングの休憩時間中らしい。



「僕も、同じです。・・・・・・フィアッセさんの声や歌を聴いてると、元気が出ます」

『なら良かった』



フィアッセさんは、日本・・・・・・ううん、世界的に有名な歌手なの。だから、とっても多忙。

そんな人にこんな事言われるから、すごく嬉しい。うん、とっても・・・・・・嬉しい。



『ねぇ、恭文くん』

「ほい?」

『一応ね、細かい話は前に聞いたじゃない? あなたが最近関わった事件中何があったのかとか、どう感じたのかとか』



フィアッセさんとは、その昔に色々有って、理解者というかワガママ仲間というか、そんな感じの関係。

それで、その・・・・・・そんな人だから隠し事出来無くて、全部ぶちまけたの。



『答え、見つかりそう?』

「・・・・・・さっぱりです。本当はフィアッセさんにもアドバイスされた通り、ゆっくり答えを探そうと思ってたんです」



しばらく休養して、そんな時間の中で心も身体も休めて・・・・・・本当に、少しずつ。

なんて言うかさ、切り替える時間が欲しかったのよ。それもかなりさ。



『でも、それは無理になったんだよね。あなたはまた、飛び込むことにした。
・・・・・・なのはやフェイトちゃん達が居る部隊に、お仕事で入る事になったから』

「えぇ。まぁ、ここはいいんですよ。結局折れちゃったのは僕ですし。
ただ、抱えてるものを考える前に、色々周りが思惑してる所があるみたいで」





もっと言うと、もうそろそろここから離れてると思われる豆芝関連で。

もうちょっと言うと、僕に六課出向を依頼したリンディさん関連で。

更に言えば、六課を居場所にして欲しいと思ってるフェイトとなのは達関連で。



あははは、アイツらマジで僕にどうしろって言うの? ちったぁ楽させて欲しいよ。

大体、色々考えて欲しいなら考えられるだけの余裕を作れってーの。

現時点で、そんな余裕かましたら潰れそうなのが居るのよ? 力抜けるわけがないし。





『そっか。やっぱり周りの人達は、あなたが局に入らないのは嫌なんだね』

「・・・・・・みたい、ですね」



フィアッセさんは、すごく聡明で・・・・・・すごく綺麗で優しい人。

だから、なんとなく察しがつく。こういう所は凄いと思う。



『ね、もし辛くなったりしたら・・・・・・イギリスに来て欲しいな』



フィアッセさんが、優しい声でそう言ってくれた。なお、さっき話したスクールはイギリスに拠点を置いている。

だから、フィアッセさんも基本的にはイギリス在住なの。だから、来て欲しいと言ってくれる。



『お仕事放り出しちゃうのは、本当はダメな事だよ?
でも、そのために恭文くんが潰れちゃうのは、見てられない』

「・・・・・・そうさせてもらっても、いいですか? もし、マジにダメっぽい場合は」

『うん、いいよ。いつでも歓迎する。だって私達、ワガママ仲間なんだから』



・・・・・・にっこりとした優しい笑顔が頭の中に浮かんで、少し肩の力が抜けた。

フィアッセさんは、やっぱり不思議。話してるだけで・・・・・・何かが解れてく感じがするから。



「フィアッセさん、ありがとうございます。あの・・・・・・本当に嬉しいです」

『ううん。・・・・・・あ、ごめんね。私そろそろ休憩時間終わりみたいだから』

「いえ、大丈夫です。レコーディング、頑張ってください」

『ありがと。えへへ、恭文くんに応援されたから、きっといい曲に仕上げるね』

「はい」





そのまま、フィアッセさんが電話を終えた。互いに『また』と伝え合った上で。

・・・・・・元気、出てきた。うん、やっぱりフィアッセさんとお話すると元気が出る。

フェイトやリインとはまた違うけど、すごく大切で・・・・・・大好きな人だから。



そのまま、元気が出ておしまいならよかった。でも、そうはならなかった。





「・・・・・・通信? てか、リインからか」





通信を繋ごうとした。でも、すぐに手を止めた。・・・・・・胸騒ぎがする。

この通信を繋いだら、凄まじく後悔すると本能が声をあげる。

もっと言えば、戦闘者として培ってきた勘が囁いてる。



だから僕は・・・・・・通信を取らなかった。





≪通信、取らないんですか?≫

「その前に、確認する事があるのよ」



僕は、瞳を閉じて周囲の気配を探る。特に玄関前を念入りに。

自分の家だもの。その周囲の気配くらい、軽く察知出来無くてどうするのよ。



「アルト」

≪はい?≫



やばい、顔が青ざめてると思う。というか、さっきまで感じてたドキドキがまたぶり返した。



「玄関前、気配が増えてる。それも二つ」

≪・・・・・・誰ですか≫

「多分、一つはリイン。もう一つは・・・・・・はやてかな」










あぁ、やばいっ! 絶対やばいっ!! あの通信、間違いなく家の外からだよねっ!?





普通になんでリインが来るっ!? 色々間違ってるでしょうがっ!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



うちとリインは、まぁ仕事暇になったんでちょお遊び来たんよ。

あれや、隊舎では話せないあれこれとか、ちょお聞いておきたい言うんもあった。

前にも言うたけど、アイツは事件中大変やった。その辺りもフォローしておきたかったんよ。





・・・・・・ただ、そのフォローは遅かったかも知れん。普通にアイツ、リインの通信にも出んし。










「・・・・・・恭文、リイン曹長の通信にも出ないんですか?」

「ですね。これ、リイン達が外に居るって気づかれてるですよ」

「間違いないな」





恭文は、ぶっちゃけ勘がえぇ。第六感と言うか、そういうんがめっちゃ強い。

普通にトラップとか嘘とか隠し事とか、理屈抜きで見抜く時があるんよ。

何かの予言みたいなレアスキルともまたちゃうし・・・・・・うーん、アレは不思議や。



でも、今はやっかいや。絶対見抜かれてこれやろうから。





「あぁ、サーチで・・・・・・って、アイツどんだけ念入りっ!? いくらなんでも警戒し過ぎでしょうがっ!!」

「あぁ、サーチ使わんでも出来るよ?」

「さっきも言ったですけど、恭文さんは凄く危険察知能力が高いんです。
普通にリインからの通信を取ろうとして、気づいたですね」

「「えぇっ!?」」



あー、でもこれは相当やな。何気にアイツヘタレやから、怖がってたんやろ。

スバルがまたオロオロし出したけど、これはしゃあないって。



「リイン、どないしようか」

「恭文さんは基本強情ですし、こうなったら出てこないですよ。
日を改めて、お話するのが基本と思われます」

「そやな。ちゅうわけやから、二人とも今日の所は」

「あら、みんな揃って・・・・・・どうしたの?」

「はやてもリインも、寄る所があるって、ヤスフミの所だったんだ」










声は、後ろから。うちらはみんな、その声の主を見る。そうして、思った。





どこにでも、救いってあるんやなと。そう、今やって来た二人は、まさしく救いの神やった。




















(第10話へ続く)




















おまけ・荷物の中身




















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「アギト、シグナムさんからの荷物の中身・・・・・・なんだったの?」

「あぁ、これだよ」

「指輪? これ、ひょっとして」

「ゼストの旦那のだよ。証拠品としての役割は終えたから、無理言って形見として引き取ってきたんだってさ。
・・・・・・バカだよなアイツ。指輪1個包むのに、どんだけ包装紙やら衝撃吸収剤使ってるんだよ。荷物の大半ソレだぜ?」

「・・・・・・そうだね。きっと、壊れないようにって一生懸命包装したんだね」

「だな。ごめんルールー、ちょっとだけ・・・・・・胸、貸してくれ」

「ん、いいよ」




















(本当に続く)




















あとがき



≪えー、どうも。座談会形式のあとがき。第三回目です。今回のDJは、私、古き鉄・アルトアイゼンと≫

「は、初めまして・・・。フェイト・テスタロッサ・『ハラオウン』ですっ! 決して、『ハラウオン』ではありませんっ!!
あの、私のかつ舌が悪いのが原因でしょうけど」

≪フェイトさん、お願いですからそうやってダウナー入るのはやめてください。さて、今回は休み二日目ですが≫

「ナンバーズのみんなのところへ行ったんだよね」

≪そうです≫





(ウサギが、首を縦に振る。そうして、台本を手に取る)





「あ、あの・・・アルトアイゼン?」

≪なんですか?≫

「なんというか・・・リインに聞いてたのと違うんだけど。動くって知らなかったんだけど」

≪あぁ、進化しましたから≫

「その一言で片付けられるのっ!?」

≪片付けられるんですよ。さて、マスターと私が、アギトさんと顔見知りという話が出てきたり、マスターがおっぱい魔神と判明したりで激動の回でしたね≫

「そんなこと判明してたっ!? ・・・・・・でも、胸好きなのかな」

≪男ですから、当然ですよ。現にマスターの部屋にはあの本やこのディスクが・・・≫

「でも、ヤスフミは男の子だし、それくらいはいいと思うんだ。あ・・・でも、あんまりにもこう・・・現実離れ過ぎてるのは、ダメかな。悪影響だと思うし。
やっぱり、ヤスフミにはちゃんとした恋愛をして欲しいんだ。それで、好きな子と付き合うようになって、私にも紹介してくれたりとかして・・・」





(顔を赤くして、アレでもないコレでもないと慌てているフェイト。青いウサギ、それを見てため息を吐く)





≪エヴォリューションしましたから≫

「まだなにも言ってないよっ! とにかく、次でお休みも最期なんだよね」

≪はい。なお、『とある魔導師と機動六課の日常』始まって以来の前後編でお送りします。
そして、マスターをある一つの事件が襲います。その中でマスターは≫

「ど、どうなるのっ!?」

≪まぁ、もう分かってるじゃないですか。最後アレでしたし。というわけで、次回のお楽しみです。というわけで、次回もこの時間に≫

「テイクオフ」

≪・・・そこは、『リリカルマジカル頑張ります♪』でお願いします≫

「そ、それは恥ずかしいよ・・・」










(そうして、いつものように画面がフェードアウトし・・・暗転。テロップと共にEDテーマが流れる。今回のED・『悲しみの向こうへ』)










≪なお、ここからは頂いた拍手の返事となります。いや、みなさん本当にありがとうございました。
なお、作者はここだけ参加です≫





※コルタタさんへ とある魔道士と機動六課の日常の感想 更新楽しみにしてい ます。



コルタタ「ありがとうございます。そう言っていただけるとうれしいです。今後も、ご愛顧の程よろしくお願いします」





※コルタタさんへ 第7話 『彼女なりの『これから』の理由』の感想 これはギンガフラグ!?
はっはっは、古鉄よ、フラグは割と普通にたってしまうものなのだよ(現実以外 は)。



古鉄≪・・・やはりフラグでしたか。リアルな友人にツッコまれて、気づいたそうです。全くの無自覚です。そして、フェイトさんはどうしたと、言われました。
ちなみに、現実以外ではフラグは簡単に立つ。まったくその通りだと思います。伊○誠氏などがそれですし。
そして、マスターもしかりです。まぁ、そこはおいておいて・・・どうですかギンガさん?≫

ギンガ「あの、違いますからっ! わ、私となぎ君はただの友達ですっ!!
まぁ、その、友達になって3年。色々とあったので仲はいいと思いますけど・・・」

古鉄≪まぁ、そうですね。・・・大丈夫ですよ。私は分かってます。ギンガさん、影ながら応援してますからね≫

ギンガ「うん、ありがと・・・って、違うからぁぁぁぁぁぁっ!!」






※これからも楽しみにさせていただきます



古鉄≪ありがとうございます。もう、この一言でしか表現出来ないのが悔しいのですか、これに尽きると思います。
なお、次回はかなりドタバタすると思いますので、お楽しみいただければと思います。
そして、苦労するのはマスターです≫

恭文「そんなん嫌じゃぁぁぁぁぁっ!!」










(おしまい)





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