小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説) Stage07 『Gasp Gal』 ――二〇一一年・十月 茨城県行方市 「んー!」 今日は久々に忍者としてのお仕事。 ただ、ドンパチするわけではなくて……それゆえに長いバス移動の最中、ゆったりとした気持ちで伸びをしていて。 眼前に広がるコバルトブルーは、かの霞ヶ浦。 さすがに二時間近くバスに乗っていたから……もう最高ー。というか、久しぶりの霞ヶ浦ー! 「……恭文、芋はどこだ……というか、十分程度の休憩で何を食べればいいんだぁ!」 「そういう趣旨のツアーじゃないからね!」 「ほんとだよ! つーか昨日も言ってたよな! 基本は勉強会だってよ!」 「お姉様……芋のことしか考えてなかったんですね」 シオンとショウタロスともども呆れながら、時計をチェック……っと、そろそろ時間か。 「ほれ、バスに戻るよ」 「お前、待て! 名物バーガーもあるんだぞ! 美味しそうなお土産も」 「仕事だからね、仕事」 「私は食べるのが仕事なんだぁぁぁぁぁぁぁ!」 嘆くヒカリを引っ張り、またまた参加者のみなさんと……更に本日の護衛役である、起業塾講師の刈尾先生ともども、大型バスに乗り込む。 そうして全員の乗車を確認した上で、バスはまたゆったりと……この穏やかな田舎町を進んでいって。 『――えー、先ほどの霞ヶ浦では、鯉の養殖やレイクレジャーなどで、その貴重な資源を活用しています。 では、現在走っている内陸部はどうか……ご覧頂いた通り、丘陵台地を利用して、農作物を中心に作成しております。 特に大きいのがサツマイモですね。たとえばセブンイレブンの冷凍大学芋……それに使われるサツマイモは、この行方市で生産しています。 今回の≪行方市起業コンテスト≫では、特に注目すべきところだと……あ、見えてきましたよ』 こののどかな山間には不釣り合いなほど、近代的な大型工場が近づいてくる。 『生産した芋をあちらの工場で買い取り、加工する。 大学芋……加工食品に使うので、生産者も芋が小さいとか、形が悪いなどのデメリットもあまり気にせず、一定価格で販売することができる。 この後見ていただく≪なめがたファーマーズヴィレッジ≫もそうですが、サツマイモ産業は行方市を発展させる軸たり得るコンテンツです』 ――行方市は標高三十メートル前後の≪行方台地≫という丘陵台地により形成された町。 と言ってもほとんどが畑や山地などだし、県庁所在地の水戸市からは四十キロも離れている。 いわゆるベッドタウンというわけでもなく、繁華街などもない行方市は、人口減少などの過疎現象に喘いでいた。 ただ、広い土地と元々育てていた農業というタネはあったからね。それを活用する形で、現在改革の真っ最中。 今回のバスツアーも、そんな街起こしの一つなんだ。 地方起業に興味のある人達を呼んで、セミナーを行い、実際にアイディアを募るのよ。 それで優秀な人には、市と支援企業からサポートを受けて、実際にここで仕事を始めやすくなるってお話。 人が募れば……そこで生活する人が飢えれば、人口減少や少子化にも歯止めがかかる。 大きな産業の拠点となれば、それだけでもネームドバリューが高まり、今後の発展も期待できる。 こののどかな田舎町もまた、新しい風を呼び込もうとしていた。とてもたくさんの風を――。 ただ、そのためには行方市自体に、商売のタネたり得るものがないと駄目だし、それをコンテスト参加者が知っていないと駄目。 だからこそのバスツアー。起業ノウハウも含めて、専門家の先生や市の職員さんも同乗して、のんびり観覧の旅をしている真っ最中で。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 本日の目玉となるのは、なめがたファーマーズヴィレッジ。 行方市は少子化の影響により、数ある学校の統廃合を推し進めている最中なんだ。 ここはそうして生まれた廃校を利用し、作られたテーマパーク。 その軸はやっぱりサツマイモ。 大学芋の工場見学ができる施設が目玉で、いわゆる資料館でもあるんだけど……ここで一番賑わっているのは。 「芋だぁぁぁぁぁ!」 ファーマーズマルシェ……地元の野菜や、芋を活用したお菓子類などを売っているショッピングフロア。 サツマイモ以外の農作物もいろいろ作っているから、バリエーション豊かなんだよねー! フェイトに頼まれているから、少ない見学時間を生かしていろいろ買い込んで……! 「タルト、サツマイモクッキー……ここは芋の天国やぁぁぁぁぁぁ!」 「落ち着け……!」 はぐれるといけないので、飛び出そうとするヒカリを押さえ、籠一杯に野菜を詰め込む。 更に……五百円でできる、大学芋の詰め放題にもチャレンジ。 倒れないよう、緻密に組み上げるのがコツ。おかげでヒカリもようやく笑顔になりました。 「恭文、私は幸せだ……次はあのやきいもパイを買うぞ! 五人前だ!」 「分かっているってー!」 「お兄様、お姉様と同化しています」 「お前もやっぱり楽しみにしていたのかよ!」 ……でもこれだけじゃあない。 地元の特産品をフル活用した≪なめがた農業キッチン≫もあるし、お馴染みの干し芋に拘った干し芋BARもある。 惜しむべくは……与えられたのが本当に見学レベルの時間で、ガッツリ楽しむ余裕がないこと……! 仕方ないので僕達は、校庭に出て大学芋をポリポリと頂く。 「慌てちゃ駄目よー! 転ぶからー!」 「はーい!」 元々学校ということもあるんだけど、近所の子ども達や親御さんも遊びに来ているらしい。 まるで自分の庭だと言わんばかりに、たくさんの子ども達が走り回っていた。 なんかこういう姿を見ると、雛見沢を思い出すなぁ……。 「しっかし凄いよなぁ……。 確かに構築を見ると学校なんだが、中身は完全に興行施設だぜ」 「しかもお客さんもこんなに……」 でも、地元の人だけじゃあない。 僕達と同じように、ツアー的に訪れている人達。 霞ヶ浦でも見たけど、ツーリングで立ち寄ったと思われるバイカー。 中だけ見ると、都内のデパートみたいな混みようなのよ……! ここだけ滅茶苦茶栄えている感じ! 「このファーマーズヴィレッジは、貴重な成功例の一つだしねぇ」 ぽかぽか陽気を浴びながら、シオン達と一緒に改めてファーマーズヴィレッジを……生まれ変わった学校の校舎を振り返る。 「近くに高速道路が通る計画も立っているっていうし、これからもっと発展していくんじゃないかな」 ≪実際雛見沢も、高速道路の影響で別荘地としての需要が高まりましたからねぇ。 でも、まだ足りない……それでも少子化が加速し続けている≫ 「人を呼び込んで、地元で暮らしていける……そういう土台を作っている真っ最中だもの」 今回の地方起業者に向けたセミナーも、そういう活動の一つで……そしてそこには、大きな可能性がある。 だからこそ市も協力して、その探求を続けているわけで。 ――お昼を頂いた後は、午前中に見たいろんなものを振り返りつつ、本格的に起業塾が開催された。 僕も市の人達が控える、後ろの席に座らせてもらって……粛々と講義を聞いていく。 『――起業に向けて大事な要素は、『自意識目的と他意識目的』。 それに基づく将来のビジョンです』 狩尾先生がプロジェクターを指差し、笑顔を絶やさずにそう告げる。 『自意識目的というのは、自分が何をやりたいか――まぁこれは分かりやすいですが、次が難しい。 他意識目的というのは、自分の行動……業務によって、他者や社会にどういう影響を及ぼしたいか。 これはみなさんがこれから起業するに当たって、ターゲットとなる客層が見えているかどうか……そこにも繋がる部分です。 後半で行う起業シミュレーションに向けて、まずはそれぞれ三つ、上げてみてください』 自分が何をやりたいか……仮に料理屋なら、どんな料理を出したいかって話だよね。 でも、業務によってどういう影響を……あぁ、確かに難しいかも。 影響を及ぼせない……誰かに届かない商売は、商売として成立しないってことだもの。 しかも腰を落ち着けてやる商売なら、余計にだ。 その場所で……そこで生きている人達に、そっぽを向かれたらおしまいだし。 『それら二つの目的を持って、五年後……起こした業務がどう成長するか。 ここで大事なのは、数字を掲げることです。数字は自分にも、他者にも分かりやすい指針ですから』 「数字……数字かぁ……」 起業するつもりはないんだけど……なんかこう、起業塾ってワクワクするんだよねぇ。 実は何回か、こういう感じで参加したことがあるんだ。そのたびに思うけど、ここにも夢がある。 決して楽な道ではないけど、それでも進もうという気概が……勇気がある。 挑戦する側、それを受け入れる側……それぞれの夢、それぞれの希望。 それを持ち寄って、より大きな花を咲かせようとしていて。 だから、みんな……真剣な表情だけど、その瞳は煌めいていた。 魔法少女リリカルなのはVivid・Remix とある魔導師と彼女の鮮烈な日常/美城動乱編 Stage07 『Gasp Gal』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 常務の改革で美城が荒れる中、俺は美嘉と一緒に、うちの部署の連中と会議となった。 いや、会議というより……これは通達と言うべきか。 「これって……」 見知ったスタッフから並べられたのは、大人向け化粧品のサンプル資料。 まぁ大人向けって言ってもそんな高級なものじゃなくて、ターゲット層は二十代前半。 社会入りする前に、化粧品もよりシックなものに切り替えていく……その転換となるべき商品だ。 ファンデーションなんかの色味表が乗ってるんだが……ふむふむ、奇麗な色合いだってのは俺でも分かる。 「上からのお達しなんです」 「次は化粧品メーカーとのタイアップで、高級感ある大人路線でいくって」 「けど、アタシはこれまでギャルl系ファッションで!」 「……分かっています。 でもこれ以上突っぱねたら、うちの部署自体どうなるか」 そう言って真向かいに座る一人が、俺に伺いを立てるように見てくる。 「結果を出せていないところは、本格的な整理が始まるんじゃないかって噂も出ていて……」 「まさか、加蓮と奈緒のCDデビューが中止になったのって……」 「美嘉、落ち着け」 「でも石川!」 「……話は分かりました」 色味表は確認を終えたので、元の所へ丁寧に置いておく。 「この話、返答期限は」 「石川さん……それは」 「じゃあお断りだ」 「待ってください! 今もお話しましたけど」 「……だったらはっきり言えよ! 部署がヤバいから、美嘉には人身御供になれってよ!」 「我々は、そんなことは言ってません!」 「あぁそうだな! どっかの課長達みたいにあやふやーに流して、こっちに配慮させて……自分達は手を汚してないから無罪ーってやってるよな!」 そこは気に食わないのできっちり言い切っておくと、スタッフは揃って渋い顔を見合わせる。 「つーか、美嘉は北条さん達ともどもCPへ参加! 舞踏会の準備で忙しくなるんだ! タイアップをやっている暇はない!」 「そんな……! この先どうなるか、本当に分からないんですよ!?」 「そうです! ここは、我々を助けると思って!」 「だったら最初から言えっつってんだろ! 筋が通ってねぇんだよ、お前ら!」 「……やるよ」 そこで美嘉が、ゾッとするほどの決意を秘めて、小さく呟く。 「おい美嘉!」 「アタシ、やる……」 「プロデューサーとして許可できないぞ!」 「いいからやらせてよ! いいじゃん! 方針転換はいずれ必要だったかもって言ってたし!」 美嘉の目は必死だった。 自分が頑張れば……自分が我慢すれば。 そういう顔をしていて、見ていてキツいもので。 ……ここで強引に話を終わらせるのは、簡単だった。 だが……。 「……分かった」 「石川さん……!」 美嘉の今後を考え、一つ喧嘩を吹っかけることにした。 「ただし、条件が三つある」 「何かな」 「一つ、CP外殻メンバーとして、舞踏会の構築を手伝うのが最優先。 これはもう園崎臨時プロデューサーとも話したことだから、こっちの仕事を理由に、CPの手伝いから抜けることは許さない。 スケジュール管理は俺が全てやるし、それに異論を申し立てるのも認めない。……違法じゃない限りはな」 美嘉に……そしてこいつらに、暗に『意見は何も変わっていない』と告げると、揃って神妙な顔で頷いてくる。 「二つ、ギャル系路線は変わらずに貫く」 「石川さん、それは!」 「何が悪い。大コケした場合の保険だぞ」 「ですが、上からはそうならないよう、現場で全力のサポートをと頼まれています!」 「こっちが頑張っても無意味な場合もあるだろ。 企業側・美城側を問わず、大きなスキャンダルが起きる。 不意の災害・事故などでのタイアップ計画が滞る――。 そうそう、スキャンダルとかヤバいよな。どっかの課長の話とか」 「石川さん……!」 これまた暗に『こっちがスキャンダルを起こして、潰すって手もあるんだぞ』と告げると、どいつもこいつも頭を抱えやがった。 「……何情けない反応してんだよ。俺が姐さんや大下の旦那達に可愛がられていた頃は、もっと無茶振りされてたぞ」 「アンタのギャング時代を持ち込んじゃ駄目だから! ……じゃあ、三つ目の条件は」 「今回、俺はそっちの現場にはつかない」 「え」 「スケジュール管理だけはする。だが現場への挨拶も、スタッフと相談するのも、全部お前が一人でやれ」 「……石川さん、いい加減にしてください! どうして城ヶ崎さんのやる気を削ぐようなことばかり」 「卑怯者は黙ってろ!」 「ひ……!」 ごちゃごちゃ五月蠅い女を一括――。 「上から何を言われたか知らねぇが、さっきから緩みっぱなしの顔をしやがってよぉ! そんなに自分の立場が守られて嬉しいか! あぁ!?」 「石川さん、落ち着いてください! 彼女も……我々もそんな顔は!」 「してるんだよ! 美嘉を人身御供にして、最高ーってよ!」 「石川、やめてよ! アタシはそんなつもりじゃ」 「そういうつもりにしか見えねぇんだよ!」 美嘉にもそう断言した上で立ち上がり、帰り支度を整える。 「つーわけで……どういうものに仕上げるかは、全部お前で考えてみろ!」 「……アタシが勝手にやったことって、そういう話かな」 「あぁ! ……まぁ、半端なものしかできないだろうがなぁ」 美嘉を鼻で笑いながら、コンセプト資料を手に取る。 それをパラパラと捲って……鼻で笑いながら、あるページを開いたままテーブルに放り投げた。 ――コンセプト『大人の恋に向けて』―― 「今のお前が……男と手を繋いだこともなく、本気の恋の一つも知らないお前が、こんな化粧品の似合う女を気取るなんざ不可能だ」 「……いいじゃん」 ……これで正解だった。 美嘉は俺の挑発に奮起し、立ち上がり……自己犠牲の精神など吹き飛ばし、立ち上がってガッツポーズを取る。 「そこまで言うなら、最高のものに仕上げてやるし!」 「鼻で笑うのを楽しみにしてやるよ」 「それはこっちの台詞だっつーの! つーか、鼻で笑えなかったらどうしてくれるわけ!?」 「ラーメンショップでの飯、一年間驕ってやるよ! 莉嘉嬢と親父さん達も込みでな! つーかお前こそ……覚悟はできてんだろうなぁ!」 「いいよいいよ! そのときはアンタに紹介してあげるよ! アタシの大好きな……ちょー素敵な先輩! 現役女子大生!」 「「〜〜〜〜〜〜!」」 ――こうして、半ば俺達の喧嘩みたいな形で、新しい企画はスタートした。 ただその結果は……。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 謎は深まる……それに合わせて、騒動も混迷化する。 改めて美城常務について、私達は何も知らないのでは。そう智絵里ちゃんから提示されて……。 「……僕もそこんとこは同意見だ」 恭文さんも、腕組みしながら乗っかってきた。 「蒼凪くん……」 「特に智絵里がそう言いだしたって辺りで」 「え……あの、それって」 「おのれは臆病で気弱だけど、その分周囲への警戒……注意力や洞察力が高い。それに伴う危険察知能力もね。 自分では上手く言えないけど、美城常務をただのスネかじりとして見るのは、”危険”って感じるんでしょ?」 「……はい」 それって……そうか、超直感! 恭文さんも運の悪さから、危険を感じ取る能力があるそうですし! でも臆病さもそういう利点が……これは、私もしっかり覚えておかないと。 「……だったら、改めて考えてみるべきにゃ」 「みくちゃん……」 「常務さんが、会長さんが、美城をどうしたいのか……。 その謎を解くのも、きらり達の新しい部活なんだねー」 「結果的に舐められた礼もできるし……いいんじゃない?」 みくちゃんが、きらりちゃんが、李衣菜ちゃんが、その通りと頷く。 「そもそも舞踏会の趣旨だって、パワーオブスマイルだもの。 常務さん達も巻き込めなかったら嘘になっちゃう」 「だったらこの動乱は、のけ者を決めるためのものじゃないわね。 ……みんなを仲間として、手を繋ぐためのもの。ここまで間違えてきた”灰かぶり≪私達≫”だからこそ、選べる選択肢を掴む」 「でも簡単じゃないよねー。常務さんもみりあ達と同じで、自分で叶えたい夢があるんだもん。 もちろん他のみんなも……みんなのことも大事にして、みりあ達のことも大事にして……うぅ、すっごく大変だよ!」 「それでも、やりましょう!」 大変なのは承知している。 アイドルには大それた選択なのも……だけど。 「私も……こんな、罰ゲームがない戦いは嫌です! だったらその根源を叩き伏せる!」 それでも……アーニャちゃんのように、可能性を感じている子もいる。 それも一つの道筋だって示せたのなら。 共存は可能だと示せたのなら、もしかしたら……! 「うん、私もしまむーに賛成!」 「私も。まず私達にできることで示そう。 今までも……そしてこれからも、両方大事にできるって」 「卯月ちゃん……未央ちゃん、凛ちゃん……!」 「ははははははは! なんだいなんだい! あの甘ったれどもが揃いも揃ってまたたくましくなっちゃってー!」 「つーか……本当に馬鹿だな! 関係ないところで引っ繰り返るかもしれないのに、それでも手を伸ばすってのか!」 「はい! ……もちろん、舐められた礼はします」 無謀な賭けなのは間違いない。 それでも魅音さんも、圭一さんも……誰一人あざ笑わない。 常務達に痛い目を見た菜々さん達も、問題なしと頷いてくれる。 「みんなもそれで」 「もちろんだよ! というかね、莉嘉は”失敗してもいい”って思われていたの……すっごい頭に来てるし!」 「きらりだって同じだよ! まずはそこ! それから、ハピハピできるかどうかを探す!」 「だったらここからは総力戦だ! ――大丈夫! わたしと圭ちゃん達は泣く子も黙る部活メンバー! そしてアンタ達は、そんなわたし達が鍛えた部員達だ!」 新しい戦いは、こうして始まる。 「短い中で鍛え上げてきた経験全てを生かして、勝利するよ!」 『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』 道を決めるために、忌むべき敵だろうと手を伸ばし、知ることから逃げない。 まずは私達のやるべき戦いは、謎解き? えぇ、だったら解いてみせます! この世に解けない謎はないそうですから! デカレンジャーで言ってました! 「……でね、早速話があって」 「話?」 魅音さんがニコニコしながら、ある資料を私達に見せてくる。 えっと……バラエティー番組? 『とときら学園』……!? ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ きらりちゃんや十時愛梨さん、それにみりあちゃん……仁奈ちゃん……小学生から、中学生入りたての子達がずらーり! というかというか、莉嘉も出てるー! 何これー! 「竹達さん達に協力してもらって、新しいバラエティー番組を企画したんだ」 『えぇ!』 「出られるのは見ての通り、年少組だけになるがな。 ……アイドルの個性が際立つバラエティーも、やっぱり活動の花。 今回は学校の教室という設定で……先生と生徒によるバラエティーだよ」 「仁奈、テレビに出られるですか!?」 「みりあも!?」 「でも……今の情勢でバラエティー番組をねじ込むって、大変だったんじゃ」 美波ちゃんの問いかけに、魅音ちゃんと圭一くん、レナちゃんは。 「「「……♪」」」 にたぁっと……とても悪い顔をした。 それだけでよく分かる。 きっとまた、えげつない行為が行われたのだと……! 「言っておくけど、今回はさほどえげつなくないよ」 心が読まれたぁ!? あ……三人が、莉嘉の方を見てぇ! 「美城常務の方針に不満を持っているのは、アイドル部門だけじゃないってこと。 番組制作部門……今までバラエティーに携わってきたスタッフさん達も、実は憤慨しているの」 「そういう人達が、常務に抵抗していて……抵抗したくて、新しい番組を作っていたの?」 「CPが入れたのは、ある意味必然。他のところに打診しても、常務に逆らうも同然だからね」 あぁ……莉嘉達は最初から反旗を翻していたから、志しは同じと。 ……だったら、責任が伴うよね。 不満を持っている人達が……雇われている立場が、会社と戦える証明! 「何よりシンデレラの舞踏会を成功させるためには、各々の知名度を上げていかなきゃいけない。 それもアンタ達の学業を妨げないよう、効率的にだ」 「頑張るのは当たり前。目指すのは最高の勝利を……部活の基本だね」 「凛ちゃんの言う通りだよ。……このお話が纏まったことで、改めて分かったよ。 常務のやり方は痛みを伴いすぎる。まずレナ達は、それを止めるの」 「気持ちを同じくする人達と話し合い、利害を結び、連携していけば、強大な権力とも戦える。 ……まずは力を蓄えるぞ! 話はそれからだ!」 『はい!』 テレビ……莉嘉が、テレビ番組……! アタシのセクシーな魅力で、お茶の間のみんなをノックアウトするんだから! 「あと、小学生って設定だから、セクシーとかなしね」 ――また心が読まれた!? 魅音ちゃん、なんか凄い! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 会議が終わった後は、午後からだけど学校に……早速早速、学校のお友達にご報告! 「えー! 莉嘉ちゃん、テレビに出るの!?」 「すごーい!」 「ふふーん」 「……っつってもどうせ、ガキ向けの子ども番組だろ」 ……右隣を見やると、意地悪く笑う男子二人。いっつも莉嘉達に絡んで、嫌なことを言ってくる奴ら。 なんだけど……。 「なんたって城ヶ崎はガキだからな」 「だよなー!」 「……」 つい、その子どもっぽい行動には失笑を送っちゃう。 「人に向かって”ガキ”なんて暴言を吐いて、恥ずかしがりもしない……。 そんな恥知らずなアンタ達に言われてもねぇ」 「なんだとぉ!」 「そうやって人を見下して、自分を優位だと勝ち誇ってなきゃ、胸一つ張れない……なんて恥ずかしい奴らなの!」 「「り、莉嘉ちゃんー!」」 「お前……女のくせに、言わせておけばぁ!」 「ほら、そういうところ! 女のくせに……自分は男だから偉いんだぞーって、変に威張っているところ!」 鋭く指差しし、部活で鍛えた能力で指摘! 「はっきり言うけどアタシ、アンタみたいな奴は……大嫌い!」 「ぐ……」 するとこっちを見下していた子が、涙目で後ずさり、打ち震える。 「お、おい……やめろよ! そこまで言うことないだろ!?」 「仕掛けてきたのはそっちじゃん!」 「「そーよそーよ!」」 「魅音ちゃんは言っていた! 専守防衛――相手から手を出させて、ちゃんと”反撃”という過程を踏んだ上で殲滅しろと!」 「「そーよそーよ! ……え?」」 「それが無理なら、一撃必殺! 相手の急所を潰すべき!」 「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」」」 ガッツポーズをしながら断言すると、なぜかみんながどん引き。……なのでつい、小首を傾げちゃう。 「どうしたの、みんな」 「り、莉嘉ちゃん……それは、やり過ぎ……!」 「うんうん!」 「そんなことないよー。 これくらいの気持ちでやらないと、部活で負けて……猫耳スク水とかやらされるんだから!」 「「「猫耳スク水!?」」」 「そう、全ては敗者必滅! つまり……この程度で言い負かされるのなら、滅びてしまえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」 「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」 「「「いやいやいやいやいやいやいや!」」」 なぜか友達も、男の子と一緒になって止めてくる。 おかしい……戦いとはこういうものじゃ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 小首を傾げながらも翌日……番組開始としては、かなりの急ピッチで話が進んでいた。 ……それくらいしないと、常務さんに対抗できないってことなんだよね。まぁ、それはいい。 問題があるとすれば……それは……! 「……これ、何?」 「揃いの衣装があった方がいいからって、急にこれを着ることになったんだって」 「へー」 みりあちゃん? 納得している場合じゃないよー。 これは、これは……だって、”これ”はぁ! 「薫、大きくなっちゃったけど……着られるかなぁ」 「お馬鹿さんね。衣装なんだから、今の私達に合うサイズになっていますわよ」 「……せっかくもらったこのお仕事、頑張るでごぜーます!」 他の子達も盛り上がる中、仁奈ちゃんが更衣室のシャッターを開く。 「まずはこれを着て、園児の気持ちになるですよ!」 そう、園児服……園児服だった。 だからとりあえず衣装はちゃんと着て、『おぉー』とか盛り上がるスタッフさんに。 「……全員、滅びて」 『はい!?』 笑顔と殺気を向けながら、拳を鳴らす……! 「敗者必滅っていうでしょ!? というかどういうこと! 常識はどこ!? 一体どこに置いてきたのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」 「もう、莉嘉ちゃん……駄目だよぉー」 そこで莉嘉をひょいっと持ち上げるきらりちゃん……って、この異常事態に気づいていない!? 「お仕事なんだから、頑張らないと」 「そうじゃない! 幼稚園って学校!? 違うよね! まずそこだよ! まずそこが許せないよ!」 「あ、そういう……ごめんね! こう、そちらの方がピッタリなんだよ!」 「駄目じゃん! というか、そういうアドリブ変更が駄目だって、美城常務にも怒られてたのにー!」 『ご、ごもっともです……』 「莉嘉ちゃん、落ち着いてー! ほら、スタッフさん達も……なんか、落ち込んじゃったしぃ!」 もう、言ってもどうにもならなかった。 「魅音ちゃんー!」 「……そこは、おじさんからもきっちり言っておくよ。 つーか……おじさん達も聞かされたなかったとか、あり得ないからね!?」 「でもでも、みんなかあいいよぉ! よーし、レナが全員おっもちかえりー♪」 『やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』 その前に……レナさんだった。 仁奈ちゃんとか、髪の長い梨花ちゃん似の子とか、持って帰ろうとするレナさんを止めて……うがぁぁぁぁぁぁぁぁ! しかも、しかも、しかも……一番嫌なことはぁ! 「莉嘉ちゃん、頑張ろうよー。これくらいならほら、部活で」 「それで”スク水とかよりマシだなー”って思うんでしょ!?」 「うん」 「それがとても嫌なのー!」 受け入れている自分が……これでもやってしまえーと思っている自分が、どうしようもなく嫌でぇ! 「んんー! んんんんー! んー!」 もちろん柱に結わえられたレナさんが、なんか光悦した表情を向けているのも嫌でぇ! というか、どうしてレナさんを連れてきたぁ!? 園児服がなくても、こうなるのは見えていたじゃん! 予知できたじゃん! そこも魅音さんにはきっちり言っておこう……! そう決意している間に、リハーサルはスタートする。 「愛梨とー」 「きらりのー」 「「とときら学園ー♪」」 「……はい! タイトルコールはそんな感じでお願いします!」 「次、自己紹介よろしくー!」 あ、自己紹介……どうしよう、園児っぽくしなきゃいけないよね。 こうなったら割り切るしかない。全力で押し通すしかない……! 「竜崎薫です! 頑張ります!」 思い出して! 部活で味わった恥辱の日々を! スク水なんて序の口だった! 専務さんの頭を撫でにいったこともあるし、顔に落書きもあった! 李衣菜ちゃんの物まねをして、『私、そんなに知ったかなの……!?』ってヘコませたことだって! 「市原仁奈です! よろしくごぜーますよ!」 そうだ、あの地獄の日々で莉嘉は進化した! 強くなった! パワーアップというやつだよ! 「えっと、あの……みんなに喜んでもらえるよう、頑張ります……。 あ、佐々木千絵です」 ならできる……最高の園児だってできる! これは部活だ! ならば部活メンバーとして、勝利を目指さずしてなんとする! 「ごきげんようですわ。 この櫻井桃華に、不可能はありませんわよ」 思い出せ……アタシが園児だった頃を! アタシが分かった頃を! いや、今でも十分若いけど! 園児だったとき、何をしていた! 何にハマっていた! 呼び起こせ、細胞の一つ一つから、あのときの記憶をぉ! ……そうだ…………思い、出した――! 「お喋り大好き、赤城みりあです!」 だから立ち上がり、元気いっぱいにガッツポーズ。 「えっとぉ……じょうがしゃき、りぃかですぅ! しゃいきん、カブトムシを食べることにハマりましたぁ♪」 ふ、決まった……渾身の園児! ちょっと舌っ足らずだったところも完璧再現! アタシ、今……輝いている! 「……カットカットカットォ!」 なのに監督さんから、突然カットが入った。 「り、莉嘉ちゃん……もっと普通で」 「え、でも幼稚園児ならこんな感じ」 「分かる! 凄くこう……寄せてくれているのは、分かる! でもそこまで頑張らなくていいの!」 「そうそう! あと……カブトムシを食べたとか、駄目! みんな引いちゃうから!」 「でも、園児って食べない?」 『食べない!』 …………どうやら、頑張りすぎたようです。まさか全員から断言されるとは。 なので当たり障りがない感じに、普通に笑顔で挨拶……だけど、納得がいかない。 「……よし! 莉嘉ちゃん、今のはよかった……って、どうした」 「……これじゃあ駄目だ」 「え」 「これじゃあこの衣装を着て! この番組に出る意味がない!」 「り、莉嘉ちゃんー!? あの、落ち着いて。他の子もリハがあるから」 「はい! だから本放送までに考えてきます! この衣装も……設定も生かした、最高の挨拶とキャラを! そうだ、やってやる……こうなったらこの番組を、美城の一位に押し上げてやるんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 「莉嘉ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!? なんか凄い燃え上がっているけど、大丈夫ぅ!?」 壁は高い! 確かに……セクシーキャラとか無理だし、不満もある! だけど、それから逃げていたら部活で生き残れない! だからやってやる! そうしてみんなの道を開いて、アタシは……勝利するんだぁぁぁぁぁぁぁぁ! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 今日も今日とて、学校です。 それも無事に終わり、夕飯の材料を買って……日が落ちる前に無事に帰宅。 「ただいまー」 「お、おかえりヤスフミ……」 「ん、ただいまフェイト」 フェイトとただいまのキスと、お帰りなさいのキスを交わして……ほほ笑みながら、足下を見る。 ……見慣れない女性もののパンプスがあった。恐らくフェイトがおどおどしているのも、そのせいだ。 「あの、あのあの! あのー!」 「落ち着け。誰が来ているのよ」 「あ、うん! それが、あの」 「邪魔をさせてもらっている」 するとリビングから出てきたのは……灰色のスーツを着た女だった。 「なかなかに愛らしいペットを飼っているな。つい和ませてもらった」 「うりゅー♪」 「…………美城常務ぅ」 白ぱんにゃを抱いた美城常務だった。 しかも相当懐いたようで、白ぱんにゃは尻尾をフリフリ……美城常務はそれを面倒そうにもせず、優しくなで続ける。 「おい、なんでコイツが来ているんだよ! あ、まさか」 「残念だが今回は、美城へのヘッドハンティングではない」 「あぐ!?」 「コイツ、私達のことが見えているのか……」 「昔からな」 しゅごキャラも見えているのか……。 しかも悪意があるようにも見えないから、フェイトも戸惑っているんだね。 「フェイト」 「例の……ヘッドハンティングの話ではないみたい」 「君の経歴も調べさせてもらったが、我々で御しきれるとは到底思えないのでな」 「じゃあ何しに来たのよ」 美城常務はこちらへ近づき、白ぱんにゃを優しく渡してくる。 それを受け取ると、白ぱんにゃはぴょーんと飛んで、僕の頭に乗っかってきた。 「第一種忍者としての君に、頼みがある」 「頼み……」 「無論美城にも、765プロにも内密にだ。報酬も相応に払う」 「……そういうことならいいよ。話を聞こうか」 「うりゅ?」 「ん、大丈夫だよ」 白ぱんにゃが心配そうなので、問題なしと撫でてあげる。 でも第一種忍者に……しかも敵対関係の僕に頼むってのは、尋常じゃないね。 ……信頼調査も含めて、きっちり対処するとしますか。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ――――――季節は十月へ突入。 最近、渋谷センター街や若者向け雑誌に、ある公告が出された。 それは今までギャル系路線を突き進んでいた城ヶ崎美嘉が、新たな一歩を踏み出したもの。 そう……石川との勝負という形になった、大人向け化粧品とのタイアップだよ。 かなり大きめの公告やCMもバンバン打った……んだけどぉ……! 「……ねぇねぇ、城ヶ崎美嘉の新しいCM見た!?」 「見た見た! なんか似合ってないよねー!」 変装した上で仕事場に向かっているところ……電車の中で、同い年くらいの子達が話をしていた。 制服を着て、ギャル……ってわけじゃないけど、今時っぽくお洒落して。 「いや、顔が変とか、奇麗じゃないとかではないんだけど……」 「なんか、無理しているっていうか、変に大人ぶっているっていうかー」 「でも大人向け……その入り口って感じなんだよね。逆にそういう趣旨なんじゃない?」 「どういうこと?」 「最初は無理しちゃっているけど、これを着こなしてこそ大人ですよーって!」 「「あ、それかもー!」」 いや……そういうコンセプトじゃ、ない。 着こなして完璧ですってコンセプトで、撮影したのに。 なのに、無理している? 大人ぶっている? 変……!? 頭を抱えながら仕事場に着くと、部署のスタッフさんも……同じように頭を抱えていて。 というか、化粧品会社のスタッフさんも、やっぱり頭を抱えていて。 「撮り直し……ですか?」 「えぇ。……頑張ってくださった城ヶ崎さんには、申し訳ないんですけど」 「売り上げもそうですし、ネットの評判も予想より少し……いえ、かなり悪いんです。 どうも、大人向けに特化しすぎて、本来の客層に壁を感じられたようで」 「無理をしている……しなきゃ駄目とか、そういう感じ……でしょうか」 「……はっきり、申し上げれば」 頑張ったのに……アタシなりに、キャラ作って……なのに、撮り直し……!? 撮影時のことじゃない。 公告を出した上でのことだから、損害も相当。それは、つまりその……ああああああ! 「……ごめんなさい!」 「あ、いえ! 城ヶ崎さんが謝ることでは! コンセプトを提示したのはこちらですし!」 「でも、アタシが……もっとしっかりしていれば! ごめんなさい……ごめんなさい!」 もう、謝り倒すしかなくて……情けなくて、情けなくて。 それでもレッスンの時間だから、スタッフさん達に事務所まで送ってもらい、廊下を歩いていたら……。 「……ぷ!」 ……通りがかった石川が鼻で笑い……そのまま脇道に駆け込んでいった。 「美嘉ー! 女子大生のお姉さん、やっぱいいわー! もう今の状況だけで……最高ー!」 「………………石川ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 そこから事務所を駆け巡る追いかけっこが始まった。 でも、本来なら石川に切れる権利なんてなかった。 ――今のお前が……男と手を繋いだこともなく、本気の恋の一つも知らないお前が、こんな化粧品の似合う女を気取るなんざ不可能だ―― そう、なのかな……。 アタシ、恋も……男の子とデートもしたことがないから、駄目、なのかなぁ。 別にギャルを辞めたいとか、そういうのじゃない。でもね、ちょっと寂しく感じたんだ。 ……アタシは変わりたいって思っても、変われないのかなって……本当に、ちょっとだけ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ やすっちと765プロのみなさんには感謝だよー。おかげで一致団結、話もうまく纏まったしね。 で……それは他の提携組にも通すべきお話であって。 というわけでわたしらは、たるき亭に竹達さん、遊佐さん、石川さんを呼びつけ、かくかくしかじかで方針説明。 「……お前らは正気かよ!」 「そうっすよ! 安全圏を取るどころか、ガソリンをぶちかますって!」 「いいですねぇ、そういうのは嫌いじゃありません。やりましょう。 犠牲は遊佐と石川だけで十分です」 「「俺らは巻き添え!?」」 「ありがとう、みんな!」 「「ほんとに巻き添えぇ!?」」 そんな巻き添えな二人は、自分を指差ししながら睨み付けてくる。 それが怖いので”まぁまぁ”と宥めつつ、届いたばかりのニラ餃子を配膳する。 「でさ、専務達も言っていた飽和状態って……やっぱそこまで」 「偶像≪アイドル≫の幅はそれだけ広いということです。 二匹目のドジョウで言えば、シンデレラプロジェクトも適応されますし」 「卯月達が? ……あ、765PRO ALLSTARS」 「いえいえ、もっと前からですよ。おニャン子クラブやモーニング娘もありましたし、そういう意味では使い古された企画なんです」 あぁあぁ……はいはいはいはい。 そりゃそうなるよなぁ。おニャン子クラブとか、うちの父さんが凄いハマりようだったらしいし、よく知ってる。 「島村さん達やうちのサッチャーみたいなのをプロアイドルとするなら、それ以外にも活動の場はあります。 地下アイドルやら、ネットアイドルやら……ガンプラアイドルなんてのも確立しましたしねぇ」 「そういう意味でも飽和ってことかぁ。確かに常務の方針が大当たりするなら、美城独自の売りになるね。 それこそ二代目日高舞の再来ってレベルだ。……やっぱり狙いはそこかな」 「どうなんでしょうね……。 ただ、長山専務達から軽く聞いたんですが」 竹達さんはミョウガの浅漬けをポリポリしながら、にっこり笑顔。 「彼女は日高舞もそうですし、中森明菜さんや小泉今日子さん……アイドル黄金期に活躍した方々から、多大な影響を受けているそうです。 テレビはおとぎ話の世界であり、そこで活躍するアイドル達はお姫様。そんな輝きに魅入られ、彼女もこの道を志した」 「……それだけ聞くなら、正しくシンデレラストーリーですよね。今度は自分がお姫様を育てるんだから」 「ならお姫様本人になれば……とも思いますが、まだ一物アリですか」 そうは言うものの、この人は見抜いていたっぽい。大した動揺がないんだもの。 ……さすがはやすっちとタメを張れる女だ。今度部活に誘ってみようと思う。 「でも魅ぃちゃん、どうしようか」 「……今回の件、やっぱまだ見えていない手があると思うんだよ。 あの子達の筋も守るなら、そこもキチンとしないと」 「じゃあ美城常務は」 「向こうがその筋を示していくなら、CPは協力も辞さない」 「おいおい、嬢ちゃん……」 「確かに今日はしくじった。でも明日もそうとは限らない……わたしは少しずつでも変わっていけるなら、それを最大限評価したい。 その上で声をかけたい。それじゃあ駄目だ、足りない……もっと別の戦い方があると、考えられるなら一緒に考えたい」 「甘いですねぇ。というか、それならあの年で、戦い方も何も知らないということに」 「でも、変わりたいと思う気持ちに年齢は関係ない」 竹達さんの言うことも分かるけどと、笑って返す。 「なのでCPは、いの一番で申し出ておいたよ。まずは話し合いの姿勢を持つべきだ」 「嬢ちゃん、マジかよ……」 「で、本当の狙いは?」 「そうしないと、こっちが悪者にされかねないからねぇ。免罪符は必要ってわけ」 そう断言すると、遊佐さんと石川さんがずっこける。……足腰弱いなー。 「そういうことかよ!」 「ただ、それだけじゃないんだ。 ……このままわたしらが勝っても、結局常務の立ち位置にすり替わるだけ。 常務の掲げた方針……そこにある利や、魅力を感じた子達を踏みつけてね」 「俺達はそれも、解決手段を示さなきゃいけない。 じゃなかったら、武内さんが身を犠牲にした意味がないしな」 「だがそれは」 「まぁ、甘いとは思うんだよ。権力闘争だし? でも……臨時だけどわたし達、プロデューサーだから」 「智絵里ちゃんが……みんなが、それは嫌だって言ったんです。 だったら、考えなきゃいけないかなって」 レナと、圭ちゃんとそう断言すると……みなさんはあきれ顔でため息。 「全く……アイツらは、本当によぉ」 「でも、それでいきましょうか」 「竹達さん……いいの?」 「私は裁定者ではなく、プレイヤーでいたいですから」 「そうっすね。上手く周囲をまとめて、宥和政策でいきましょうか」 竹達さんが、石川さんが乗っかり、遊佐さんも頭をかいて、チューハイをぐいっと飲み干す。 「あぁもう分かった! だが、筋は通す! あのハイミスの責任逃れを手伝う真似は、絶対許さねぇからな!」 「分かってるってー。卯月達も”舐められた礼はした上で”って言ってたし」 「……アイツら、いつからそんな武闘派になったんだよ……!」 「あはははー! レナ達が目一杯鍛えましたからー!」 「飲み込みはよかったよな。特に智絵里と莉嘉ちゃん、みりあちゃんは成長著しい」 「ちびっ子二人と、あのクローバー娘がかよ」 「そうだよー。今の智絵里とみりあちゃん達なら、遊佐さんくらい手玉に取れるかもねー」 「んな!?」 ……莉嘉ちゃんは、やすっちっていう身近な憧れができたから。 ほら、やすっちも部活で鍛えているし、先輩としても目標にしているんだよ。 みりあちゃんはCP絡みの騒動で、ただの妹分じゃあ……子どもなだけじゃあ無理なこともあると知ったから。 でも子どもだからこその柔軟さも必要なんだと、梨花ちゃんや羽入と仲良くなったことで知ってね。なかなかのタヌキになりつつある。 智絵里は……粒子結晶体暴走事件でも戦ったし、もう言うまでもないのかねぇ。 レナっていう目標もあるけど、強くなろうっていう意識がひときわ高い。 最近は自分の臆病さ……慎重とも言える性格を、上手く活用する戦い方、考えているみたいだしね。 ……それは正解だよ。 臆病ってのは、ようは注意深く、周囲の変化に敏感ってことだからさ。 そういう奴がハマった戦い方をすると、おじさん達でも苦労するだろうねー。くくくくくー! 「……なら、その武闘派に頼った方がいいっすかね」 今後の成長を楽しみにしていると、石川さんが重たい表情で、ある書類を出してくる。 「おや、石川がらしくもなくお悩みで?」 「えぇ」 軽いジョークも流されたことで、竹達さんも表情を引き締め、それを受け取った。 おじさん達もチェックすると……あれ、これって。 「最近美嘉がやってる、化粧品のタイアップじゃん」 「ですが、評判は余りよくないと」 「美嘉も向こうの提示したコンセプトに徹して、一定レベルに仕上げました。 だけど……それだけなんですよ。 品良く、小ぎれいに、大人っぽく仕上がっただけで、このCMには人を引きつける花がない」 「確かにな……。これなら美嘉嬢じゃなくて、そこいらのマネキンでやっても同じだろ」 遊佐さんがまたヒドいことを……。 でも、どうしてなんだろう。 美嘉も仕事意識は高いし、真面目にやっていない……はずがない。 撮影したカメラマンがへぼってわけでも、ないだろうし? 一体何が駄目で、こんなに力がない……覇気のない写真になるんだろう。 「……だが石川、お前が付いていながら」 そう言いかける遊佐さんだけど、すぐに思い直しておでこを叩く。 「今回は美嘉嬢にお任せだったな……!」 「……正直人身御供に使われるのは腹立たしかったっすけど、ちょっと確かめたくて」 「何をだよ」 「美嘉が今の……ギャル以外の自分に、どう挑むのか。 もっと言えば、将来のビジョンがちゃんとしているか」 「それ……レナはちょっと分かるかも。 もし美嘉ちゃんがこういうのに憧れているなら、表情とかもまた変わるだろうし」 「それっすよ! この写真には……美嘉の感情が一切載ってないんです! 喜んでいるとか、緊張しているとか……そういうのも全くない!」 あぁ……だからマネキンと同じなのか。 見ている側に訴えかける、演者の感情……生きたものが見えないんだ。 ……それはおじさん達にも突き刺さることだよ。 シンデレラの舞踏会でも、そういうパワーが求められるだろうから。 「本当にマネキン……コンセプトに従い、言われたままをこなすだけ、かぁ」 「城ヶ崎さんのプロ意識が高いのも、今回は逆効果なんでしょうね。 内心抱えている不満を出さないよう、徹したことで鉄面皮が仕上がっている」 「美嘉も相当焦っているようで……何かてこ入れが必要だとは思うんっすけど」 「だったら最初から勝負なんてするなよ……」 「それを言わないでほしいっすー!」 「うーん……コンセプトは『大人の恋に向けて』でしたよね。 美嘉ちゃんがそういう意識を持てば、また変わりそうだけど」 「でもアイツ、超純情なんですよ! 男と手を繋いだこともないし、ABCなんてさっぱり! その上大人の男はガタイが大きいから、怖いーってちょっと言ってたくらいですし!」 「マジか……!」 圭ちゃんも驚く、城ヶ崎美嘉の意外な一面。 ……いや、遊んでいそうって意味じゃないのよ。 「でも石川さんとか、俺とかにも……かなりフレンドリーですよ! そんな、純情な感じには!」 「繊細なところに踏み込まなければ、ですよ。 ……一度車内で手が触れて、三日間くらいまともに話してくれなかったことが」 「あははははは! そりゃ筋金入りだねー!」 「でもヤバいなぁ。北条さん達のこともあって、やっぱり戸惑っているし……」 「じゃあ逆にいいじゃないですか。ちょっと優しくされればクイッとなっちゃう時期ですよ。私の同級生にもいました」 「やめろぉ! それが一番怖いんだよ! それが一番あり得そうで嫌なんだよぉ!」 「つーか、女のお前がそれを言うなよ……」 竹達さんのあまりにリアルな意見に、わたしらも戦々恐々……いや、分かるけどいね!? じゃああれだ、恋を知るとか、そういう方向性はなしにしよう! まずは気晴らし………………あ。 「……なら、遊ばせようよ」 「遊ばせる?」 「外に」 「外に!」 「さくっと」 「さくっとぉ!?」 「……嬢ちゃん、何するつもりだ」 「そりゃあもう……みんなが平和になる道だよ」 そう言いながら笑うと、なぜか石川さんともどもどん引きされた。 おかしい、マジでそうなのに……よし、説明しよう! そうすれば誠意は分かってくれるはずだ! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ とときら学園の収録……初回収録の本番は今週。 リハーサルは重ねた。とりあえず、カブトムシを食べるのは駄目だと理解した。 だけど、納得がいかない。 まだ何か……何か……掴んでいない気がしてー! 「………………がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 ベッドでのたうちながら、自ら建てたハードルに頭を抱える。 「勢いでもあんなこと言うんじゃなかったー! でもでも、やっぱり……なんか普通にするのは納得がいかないしー!」 枕を抱えてひとしきりバタバタして……少し考えた。 「……お姉ちゃんなら、どうするんだろ」 一旦廊下に出て、お姉ちゃんの部屋を見てみる。 「まだ帰ってないんだ……」 もう真っ暗……八時とかなのに。 やっぱ、例のタイアップ、上手くいってないのかなぁ。 学校でもあんまり評判よくないし、新しいのに切り替わるっていうし。 ……よし。 「……あ、莉嘉」 「お姉ちゃんー!」 「ひゃ!?」 思いっきり飛び込んで抱きついてみる。……するとお姉ちゃんは戸惑い気味に、莉嘉を下ろした。 「な、何よいきなり……ビックリするじゃない」 「聞いてよー。お姉ちゃん、テレビで幼稚園なんだよー」 「はぁ? 何言ってんの」 「今度のお仕事で、幼稚園の服を着るの」 とりあえず、莉嘉のことを相談する感じでうまーく話を回して……やっぱり、気になるし。 石川もかなり気にしていたから。お姉ちゃん、どんどん追い詰められているって。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ そっか、莉嘉も……自分の納得がいかない仕事なんだ。 アタシの影響もあるから、やっぱり……うん、そういうのは嫌だよね。 「でも、カブトムシを食べた話は駄目だって……」 「……当たり前じゃん」 「思いっきり幼稚園児に寄せたキャラも駄目だって……」 「アンタ、何やってるの……!?」 「幼稚園だから、頑張らなきゃいけないと思って……」 それで頑張り方を間違えたのか……! あぁ、でも突き刺さる! アタシもちょうどそんな体たらくだし! 「でも普通に元気よく挨拶するだけでいいとは、言われたんだよ」 「うん、それが一番だと思うよ!?」 「だけど、違う……何かが足りないの! それじゃあ園児服を着ている意味がないの! そうだ、園児にキャラを寄せるのはやり過ぎた。でもそれならあの服は何? 宇宙? ブラックホールなの?」 「それは絶対違う! ……アンタの何がそこまでの情熱を引き立てるの」 「お姉ちゃんだよ! お姉ちゃんみたいに……今やっているCMみたいにできればいいんだけど」 ……その言葉が突き刺さった。 というか……どうしてもクサクサした気持ちが吹き上がってしまって。 「だったら……だったらやめちゃいな、アイドルなんて」 「え」 自然と、声を張り上げていた。 分かっているのに、こんなの八つ当たりだって。 「好きな服着てるだけなら、アイドルじゃなくてもいいでしょ。 遊び半分じゃ、真面目にやっている他の子の迷惑になるから」 「お姉ちゃん?」 莉嘉の驚いた顔が……その視線が突き刺さって、部屋から出てリビングに入る。 ママが夕飯、温めてくれているから……だから。 そうだ、だから……この話はこれでおしまい。 あの子は考えが甘かった。それを叱った。 八つ当たりかもしれないけど、それで正解だった。 だから……だから……! 「…………ふん!」 でもその瞬間、後頭部に鋭い衝撃が走る。 クッションを投げつけられたのだと気づいたのは、それと一緒に床へ崩れ落ちてからだった。 振り返ると……莉嘉が、怒り心頭という様子で、拳を鳴らしていた。 「莉嘉、何をしているの!」 「ママは黙ってて。……なんで莉嘉が、八つ当たりされなきゃいけないの?」 ゾッとした。 莉嘉はアタシの感情を見抜いた上で、それを卑怯と断じてきた。 更に首根っこを掴んで、ぐいっと引き寄せてくる。 「ちょ、莉嘉……!」 「自分が上手くいってないからって、ぎゃーぎゃー喚いて……みっともない」 「何言ってんの! 今のはアンタが悪い」 「どこが!? お姉ちゃん、少なくとも莉嘉みたいに不協和音は起こしてないじゃん! 褒めたんだよ! 着こなしているって!」 …………そこで、アタシは自分の馬鹿さ加減を突きつけられる。 アタシみたいに……そうだった。莉嘉は、最初からそういう話を……。 「でも勘違いだった! アタシ、少なくともお姉ちゃんみたいに逃げてないし!」 「あたしは、逃げてなんて……」 「そうだよ、嫌だよ! お姉ちゃんみたいになりたいのに、全然真逆だし! でもね……アタシはもう、諦めないって決めたの! アイドルも辞めない! むかつく常務の横っ面も、みんなと一緒にぶっ飛ばす! でも誰かを蹴落としたりもしない! すっごくすっごく難しい部活だけど……これも勝つために必要だから、絶対諦めないって決めたの!」 「アンタ、何言ってるの! 会社の偉い人なんだよ!? それなのに」 「そんなの関係ない!」 莉嘉は裏切られたと言わんばかりに激昂。 「莉嘉、やめなさい!」 「莉嘉!」 ママが……慌てて飛び込んできたパパが止めようとしても、莉嘉はアタシを締め上げ続ける。 「よく分かったよ! あのCMのお姉ちゃんがつまんないの……負け犬だからだ!」 「――莉嘉ぁ!」 「諦めて、仕方ないって言い訳して! どうやったら楽しめるかも考えないで! ……お姉ちゃんこそ、アイドルやめちゃえば!? 好きな衣装だけ着て、一生ギャルしてればいいじゃん!」 「アンタ……ふざけんな! お姉ちゃんに向かって、何言ってんの!」 「お姉ちゃんなんかお姉ちゃんじゃない!」 そのまま、絶縁と言わんばかりに突き飛ばされ、床に崩れ落ちる。 「莉嘉の憧れたお姉ちゃんは……こんな、カッコ悪い奴じゃないもん!」 「莉嘉、落ち着いて。一体何があったの」 「そうだぞ。仕事のこと……だよな。それはお父さん達も分かったけど」 「なんで、そんなこと……言うのよ……」 涙が止まらなかった。 「アタシだって……アタシ、だって……!」 「一生懸命やってる? でもそんなのみんな同じだよ。 ……もう一度言うね? アイドルやめればいいじゃん。 遊び半分でやって、みんなの迷惑になる前にさぁ!」 「やめて……」 「やめないよ! お姉ちゃんが始めたことじゃん!」 莉嘉をそこまで怒らせた……そこまで失望させたことが、凄く突き刺さって。 「やめて……!」 「やめないって言ってるよね! ……どうしたの……なんで黙ってるの! 八つ当たりしたいんだよね! だったら付き合ってあげるよ! ほら……ほらぁ!」 「やめてぇぇぇぇぇぇ!」 ただ、吹き出しただけだった。 ただ、ほんの少し……八つ当たりしてしまった、だけだった。 なのに、なのに……そのほんの少しで、あの子の怒声は……永遠に思えるほど続いて。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 正直、かなり面倒な状況になっていた。 城ヶ崎美嘉がこちらのプロデュースに同意してくれたのはいいが……。 「……城ヶ崎美嘉のタイアップ、成果が……上がっていないようだね」 そう言いながら入ってきたのは、今西部長。 ここへ入れる立場ではないというのに……だが構っている暇はないので、キーボードを叩き、書類制作を続ける。 「まだ出したばかりですので。 これはほんの手始め……本当の改革はここからです」 今はまだ、古い殻に囚われる人間が多いだけだ。 だがいずれ気づく。城ヶ崎美嘉は、美城にふさわしき強度を得たのだと……。 そう、彼女こそが第一号。本当の美城アイドルとして、世間に新たな指針を示す。 ギャング上がりのプロデューサーが彼女の手から離れたのも好都合。 このまま美城のため進化した彼女を……新たな王冠の軸に。 「改革か……君の夢は変わらないんだね」 「あなたこそ、資料室の整理はどうされたのですか」 「……ぼちぼちと言ったところだよ」 「気楽なものですね」 「そうでもないさ」 部長はなぜかほくそ笑みながら、何度も頷きを返す。 「会長から話をもらってね。……アイドル部門の特別監査部長に就任することが決まったよ」 ……その意図を突きつけられ、忙しなく動いていた指が止まる。 「今回の再編成、急なこともあって、部署も一枚岩ではなくなっている。 そんな状況で君を支えられるようにと……ね」 「そのようなこと、私が許可をすると?」 「会長命令だ。君に決定権はないよ。 ……それと、一つ忠告をしておこう」 「忠告? 部門に不穏をまき散らした、戦犯のあなたが」 「君が外部の人間……美城の血筋以外から、後継者を探していることは分かっている」 しかも、そこまで気取られていたか。 つい顔をしかめると、今西部長は勝者の如くほほ笑んだ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ……莉嘉ちゃん、美嘉さんと派手にやり合ったらしいです。 それでもう、憤慨……憤慨……殺気立って、イライラして。 「莉嘉ちゃん、美嘉さんと仲直りしようよー」 「駄目! まずは罰ゲームだよ……! くくくく、どうしてくれようかぁ! スリングショットでハイハイお散歩とかどうだろう! お姉ちゃん、お尻もおっぱいも大きいから、きっと凄いことになるよー!」 「いいですね、それでいきましょう!」 「しまむー……!」 「そこに乗っかるってどうなんだろうなぁ!」 あれ、未央ちゃんと凛ちゃんが頭を抱えて……というか、みんながどん引き!? なんで! 「でも莉嘉ちゃん、さすがにいきなり罰ゲームはヒドいわよ」 「えー」 「だからね、ここは……仲直りってことで一緒に遊ぶの。 その上で罰ゲームをしても、問題ない状況に引きずり込んで……」 「……ミナミも十分、ヒドいと思います」 「どうして!? ちゃんと筋道を立てたのに!」 「いや、それ……計画殺人と同じ」 「にゃあ……!」 そうしてみんなでおどけて、なんとか莉嘉ちゃんを落ち着かせようと奮闘していたところ。 「失礼……するわね」 控え室のドアが開いて、ある女性が……というか! 『ちひろさん!』 それは、ここまで姿が見えなかったちひろさんだった。 更にあの、小さなおじいさんも入ってきて……! 「やぁ、久しぶりだね」 『今西部長!』 「今日は君達に話があるんだ。 今すぐに舞踏会の計画を中止して、常務と手を取り合ってほしい」 ……今西部長は、なんの反省もなくそう告げた。 そうするのが当然だと……ほほ笑みながら、迷いもなく。 「……今西部長、どういうことでしょうか」 さすがに見ていられないと、魅音さんが前に出て……厳しい表情で詰問する。 「あなたは資料室の部長さんで、アイドル部門とは関係がないはずですが」 「昨日まではそうだった。だが本日から私は、アイドル部門全体を監査する特別部長――統括重役(美城常務)より上の立場となった」 『はぁ!?』 「では、千川さんは」 「私は……その、専属秘書ということで」 揃って名刺を出してくるので、魅音さんは訝しげにしながらそれを受け取る。 私達も駆け寄って確認すると……本当です! これ、まさか……猫の鈴が復活ってことですかぁ! 「監査部長としての命令だ。君達は常務の計画に協力し、皆が手を取り合えるよう、調整してくれ」 「お断りします」 「頼む……命令とは言ったが、これは君達を信頼しての頼みなんだ」 「既に計画は動いています」 「彼女を蹴落とすための計画など、絶対に駄目だ。 どうか人としての誇りを失わず、誤った道を進まないでほしい」 「……一体、どの口で言っているんですか」 さすがに我慢できず……拳を握り締めながら、吐き捨ててしまっていた。 「みんなに散々迷惑をかけて、その上で受けた処罰からも逃げ及んで……またそれですか……!」 「卯月ちゃん、落ち着いて! 部長にも……守るベき家族が、生活があるの! そのために部長は」 「そんなのみんな同じですよね!」 「島村くん、君達も……分かっているはずだ。今の彼女は、以前の君達と同じだ。 みんなから仲間にしてもらえず、孤独なお姫様になってしまっている。 ……竹達くん達では駄目なんだ。彼女達は理屈に縛られ、仲間として大事なものを見失っている。 だが君達なら……常務と同じだった君達なら、きっと分かってくれると思う。どうか彼女を、助けてやってほしい」 部長は深々と頭を下げる。 どう考えてもあり得ない復帰なのに、それを恥じる様子もなく……堂々と……! 「それは困るな」 かと思ったら……今度は美城常務が入ってきてぇ! 「美城常務! あの、どうしてこちらに!」 「CP臨時プロデューサー、園崎魅音、前原圭一、竜宮レナ……君達に同盟を申し込みにきた」 ちひろさんの問いかけなどガン無視で、美城常務は堂々と宣言。 「現在私は、新たなアイドルユニットを……打ち立てた方針の指針となる王冠≪クローネ≫の始動準備に取りかかっている」 「クローネ……」 「そのユニットを、是非舞踏会に参加させてほしい」 『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』 そうしてまた、嵐を巻き起こす――。 とても大きな嵐を、この美しき城に。 (Next Stage『Hazardous Hope』) あとがき 恭文「というわけで……混沌としてきました、美城動乱編。 対する敵、忌むべき体質、そう言ったものを暗に示しつつも、次回へ続きます。 ……お相手は蒼凪恭文とー!」 イシュタル「はーい♪ 女神イシュタルよー! ……というわけでまたまた復刻……エレシュキガル目がけて、穴掘りよね」 恭文「……エレシュキガル、もう召喚できたのに潜る謎」 (素材が僕らを待っている) イシュタル「ただまぁ、復刻だから……ぷぷぷぷ、そう言えばあのシーンがあったわよね! 夏に人を散々堕女神扱いした奴が、実は元凶だったって分かった話! あれはおかしかったー!」 恭文「……」 (げしげしげしげし!) イシュタル「蹴るな馬鹿ぁ!」 恭文「蹴るよ。というか、実行したのはおのれだからね? やっぱりおのれが堕女神だからね?」 イシュタル「何よー! というか、アンタはこんないい女を蹴るってどうなっているの!? こころが痛まないの!? 抱き寄せ、愛の言葉を囁いて……とか思うでしょ! 普通は!」 恭文「いや、おのれは僕の中だとBBと同じカテゴリーだから」 イシュタル「やめてよ! 死にたくなるじゃない!」 BB「ちょっとー! 軟化凄いとばっちりなんですけど! BBちゃん、センパイにそこまで厄介者扱いされたんですかぁ!?」 (女神はいろいろ大変だ。 FGOが始まってから、すっごく痛感した蒼い古き鉄だった。 本日のED:SawanoHiroyuki[nZk]:LiSA 『narrative』) 恭文「今回ご紹介した行方市、実は鹿島アントラーズのホームタウンでもあってね」 あむ「え、そうなんだ! ……でも、廃校で商売って凄いよね」 恭文「使われていない土地や施設、そこに地元の名産を組み合わせた、いい事例だね。 ただ、廃校の有効活用っていうのは、全国的にも事例があるんだ。 商業施設だけじゃなくて、老人デイサービスや図書館に特化した形もあるし……セミナー用施設として活用している場合もある」 あむ「学校でセミナーするの!?」 恭文「運営している側の知名度もあるんだろうけど、かなり盛況みたいだね」 (おしまい) [*前へ][次へ#] [戻る] |