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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Stage06 『Fanging fangs』

久野くんは市原くんの家庭環境絡みで……相当、激しくやり合ったそうだ。

ようするに気性の荒い子だった。嫌な予感を感じていたから、付き添っていたんだな。


そしてそれは……通達した我々が言うのも間違っているが、事実だった。


――お天気コーナーを交代、ですか?――

――急で申し訳ない――

――番組のカラーをシフトさせていくことになったんです――

――君に限らず、こういう変更は今後も行われるだろう――

――……申し訳ないってレベルじゃないでしょ!――


それは安部くんのプロデューサー……猿渡くんも同じだが。


――番組リニューアル後も続ける予定だと聞いていたから、その時間は年単位で空けているんですよ!?
そこには他の仕事は入れられない……次の改変までぽっかり空くことになる! あなた達も業界の人間なら知っているはずでしょ!――

――プロデューサーさん!――

――それは、本当にすまない。だが、こういう状況なんだ――

――何よりそんな重大な話を、子ども達だけに聞かせる!?
後継者候補だからって、どうすり寄ったらそんな恥知らずなことができるんですか!――

――猿渡くん、いい加減にするんだ! 我々は決してそんなつもりでは――

――そうとしか見えないんですよ! ……その通達は、お断りします――

――断って、どうするのかね――


そして彼女の言う通りだった。


――会社員として、上司の命令に従う……当然のことだ。
理不尽に感じることもあるだろう。だがそれでも歯を食いしばって付いていくんだ。それが――

――話の筋をご理解されていないようなので、はっきり申し上げます。
私は、あなた方を上司として信頼できません。だからそんなことを言われても、何一つ心に響かない――

――…………いい加減にするんだ! なぜ”分かりました”の一言が言えない!――

――そっちが言ったことでしょうが! 辞めたいのなら辞めていいんでしょ!?
だったら辞めますよ! お言葉通り……あなたが言った通り!――


だからこそ彼女は、私を悪鬼のごとく責め立てる。


――あれは君達に自覚を促すためで、本意ではない! それはどうか理解してほしい!
約束する……そうしてくれるのなら、課を上げて君達のことは守り抜く! そのための用意もある!――

――だったらなんで、最初から私達≪プロデューサー≫を呼ばなかったんですか!――

――それは……――

――結局そういうことなんでしょ!? だったら、あなた達のことなんて信用できない!――

――プロデューサーさん、落ち着いてください! ……プロデューサーさん!――


交渉は決裂――。


彼女は違法な取り決め及び理不尽なだと、厳重に抗議すると息巻いていた。

実際美城には健全な組織運営を目的とした、査察部も存在している。

そこへ訴えれば、相応の手は取られるだろうが……それより問題なのが。


「……辛い通達ばかりですね」


最後までついてくれていた伊藤は、沈痛な面持ちでため息を吐く。


「申し訳ありません。彼女達には、改めて私から説得を」

「頼む。……会社の決定なんだ、仕方ない……」

「課長……」


そうだ、仕方ない。我々はできることをやっていくしかない。

彼女達もすぐ冷静になるだろう。いや、ならなくてはいけない。


社会に出れば、こういうことは往々にしてある。きっと……分かってくれるはずだ。


「……分かるはずがないでしょ」


そう言いながら会議室のドアを蹴破ってきたのは……。


「君は……」

「蒼凪プロデューサー!」

「すみません。今回は僕、第一種忍者……というか、本業の”スイーパー”としてきているんです」

「スイーパーだと……」

「CP臨時プロデューサー、園崎魅音の依頼で。
……課長、このままだと……美城常務に切り捨てられますよ」


彼は問答をするつもりがないらしく、端的に用件を……私の姿勢がどんな未来をもたらすかを、伝えてくる。


「みんなが美城から去るだけならまだいい。
でも、課長達のやったことはパワハラになり得ます」

「待ってください! 我々はそんなつもりでは!」

「だったらどうして、プロデューサーを同席させなかったのか……。
仁奈ちゃん辺りはどう考えても、この話や情勢を理解できないでしょ」

「君達が曲解しているだけだ。
我々に悪意などはなかった。それが全てだ」

「なら親御さんが抗議をしても、そうして受け止められるんですね」

「無論だ」

「そうして騒ぎを大きくすると」


…………その、余りに端的な表現で、背筋が冷たくなる。


「ただでさえ美城常務の改革は曰く付きなのに、親御さんとも揉めたら……そりゃあもう汚名と言えるでしょ。
仮に裁判をやるとしても、数か月は続く。その間はずーっと……パワハラ疑惑が世間の目に触れ続ける」

「何が言いたい!」

「今西部長の二の舞になりたいのかってことですよ」


その、通りだった。

美城常務は知人であるはずの元部長を、徹底的にこき下ろし、潰した。

自分の改革に邪魔と判断するのであれば、我々に責任の押しつけることも……十分あり得る……!


「なお、久野さん達はそういう方向で、派手に騒ぎ立てる算段も建てています」

「なんですって……!」

「そもそも……課長さん、方針転換したとして、美城の売り上げはどれくらい伸びるか理解しています?」

「部外者の君に話すことではない」

「それは分かっていますよ。でも、久野さん達にも話していないでしょ」

「……蒼凪プロデューサー、どういうことでしょうか」

「……久野さん達が怒っているのは、美城常務の事業計画が不透明だからです」


そこで彼は、なぜ我々が不誠実と取られたか……それを改めて突きつけにくる。


「方針転換して、売り上げはどれくらい伸びるのか。
美城ブランドの顧客≪ファン≫はどれくらい増加するか。
……それは今までのファンを切り捨てるような真似をしてまで、相応の損害を出してまで、行う価値があるのか。
常務はもちろん、あなた達からも明確に数字を示されていない……だから従えないと」

「それは……」

「……今は、体制変換のときだ。まだ具体的なビジョンを出す段階ではない」

「だとしても、新規事業のやり方としては異質すぎます。
課長さん……まさか、”何も聞いていない”とか、ありませんよね」

「……!」


その通り、だった。

私は……常務の側から、そう言った数字の話は、一切聞いていない。

恐らく他の課も同じだろう。だが、それでも……それでも上の命令と、私は飲み込んだ。


それが、そもそも間違いだったというのか……!?


「……まぁお互い事情もありますし、どっちが悪いかって話はやめましょうか」

「蒼凪プロデューサー、それで……よろしいんですか」

「結局水掛け論ですよ」


しかもこの若造、さらっと『こちらの事情など知ったことではない』と言い切ってきた……!

第一種忍者というだけあって、こういう腹芸も得意なのか。であれば、一般人の我々に勝ち目などない。


……既に刃を突きつけられているも同然だ。


「では、どうするというんだ!」


その圧力に耐えられず、子どものように喚き、話を進めるしかなかった……。

だがその瞬間、彼は楽しげに笑い出して。


「今回離脱表明をしたアイドル及びプロデューサー達は、全てCP預かりにしましょう」

「なんだと!」

「助け船ですよ。このままじゃあみんな揃って、本当に美城から出ていきかねない。
これをゴシップ記事とかが嗅ぎつけて、騒ぎ立てたら……大変なことになりますよねぇ」


そこでまた念押しがされる。

出ていけば、騒ぎになれば、彼女達は私達諸共心中しかねないと――。


「だから、全く別の課に……バイト気分の臨時プロデューサーに、アイドルを預けろというのか……!」

「そちらにも旨味はあります」

「旨味だと! バイト気分の学生に、一体何が」

「みんなが舞踏会に参加すれば、その溜飲を下げ、騒ぎになることを抑えられる。
あなた達は美城常務に逆らったわけでもなんでもなく、アイドル達を”避難”させた功労者に早変わり。
みんなが仮に成果を出せなくても、それは”バイト気分の臨時プロデューサー”に押しつけられる。
もちろん成果を出した上で課に戻せば、今後の仕事にも弾みがつく……これも”前例”ですからね」

「………………」

「まだ続けます? あと二十個くらいあるんですけど」


そこまでの利を……未成年の彼女達が、考えついたというのか……!?

しかもこれでは脅迫ではないか!

このまま押し通せば、ゴシップ記事にしてでも騒ぎ立て、追い込む……そう宣言しているじゃないか!


だが、事実ではあった。

現状で常務に……会長に逆らうのは得策ではない。彼女達が命令を聞かない時点で、既に我が課にとって厄介者だ。

それを体よく追い出せる上に、後々こちらの利益にできるとしたら……それは……!


「あと、バイト気分と舐めるのは感心しませんね。
……魅音達、政治結社の陰謀とやり合って、勝ったことがあるんですよ」

「なんだと……!」

「その政治結社が出身地……雛見沢って村ですけど、それを壊滅させかねない悪事を建てていまして。
僕もその絡みで魅音達と知り合って、協力してもらったんです。……もちろん実働部隊の一員としても」

「そんな馬鹿な! 園崎臨時プロデューサー達は、忍者などではありません……よね」

「地元の地の利と情勢を知り尽くした子は、鍛え抜かれたプロの兵隊より上なんです。
そう言った人間が局地戦を仕掛ければどうなるか。それはベトナム戦争で、アメリカが嫌ってほどに味わっています」

「……!」


つい歯ぎしりを響かせてしまう。


屈辱だった。

この提案を……部外者と、バイトプロデューサーに提案された事実は、想像以上に重い。

我々が提案するのであれば、主導権もこちらで握れる。だが向こうからでは無理だ。


こちらは、CPに対して多大な恩を作ってしまう。それが今後の仕事で、どう影響するか……!


「……話は分かった。だが」

「もちろん各々のプロデューサーも交えて、正式な場でお願いに伺います。僕は単なるメッセンジャーですよ」

「了解した。
では園崎臨時プロデューサーには……よろしく頼むと、伝えておいてくれ」

「はい。……で、話を戻しますけど……ぶっちゃけどうなんですか」

「数字の件、だな」

「僕には言わなくていいです。
でも久野さん達に言える部分があるなら、伝えた方がいいです」


……美城は一体どうなってしまうんだ。


「そうしなければ、彼女達は本当に」

「みんなも、余所の家族から大事な子どもを預かっている……そういう責任がありますしね」

「……きちんと考えておく」

「お願いします」

「だが、分かっているのか……このままCPが大きくなれば、それは」


常務が好き勝手するだけではなく、あんな……半端物どもが権力を持ちかけている。

各部署にこうやって恩を売り、勢力を伸ばし……とんでもないことに。


「分かっているに決まってるでしょ。とっくに」

「な……!」

「そういう”戦い”を、僕達は楽しんできたんです」


…………我々はリスクを避け……逃げているから、置いていかれる。

こんな若造達にすら劣る……ここまで、歯を食いしばって頑張ってきた人生そのものが、彼らの密度に劣る……!?


「――!」


圧倒的な格を突きつけられ、悔しさの余りデスクを殴りつけていた。




魔法少女リリカルなのはVivid・Remix

とある魔導師と彼女の鮮烈な日常/美城動乱編

Stage06 『Fanging fangs』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

前回のあらすじ――美城常務の改革で、バラエティー組が隅に追いやられていく。

だけど、魅音ちゃんが先んじて手を打って、CPと提携を結んで何とか命拾い……そう思っていたら。


『よ! 元祖部活部長ー!』

「はーはははは! おじさんに憂いなしってね!
さぁ、早速作戦会議を」

「あ、あの……待って、ください」


勝利モードの中、困り気味に菜々ちゃんが手を挙げて。


「菜々は、その……少し、新しい方針についても、考えたいなって……」

「………………え」

「つまり、その……課長さん達が言うみたいに」


とても、重たい……何かがひび割れるほどに重たい一言を放つ。


「新しい夢を……追いかけるのは、どうかなーって……」

「菜々、ちゃん……?」


ひび割れたのはきっと、今まで積み重ねた夢の輝き。

だけどその意味が……そうまでする意味が、みくには分からなくて。


「あの、常務さんの言うことって……ようはもっともっとパワーアップーって感じだと思うんですよ!
だったら、別にそこまで……否定しなくてもいいのかなーって!」

「冗談じゃないのでごぜーます!」

「菜々さん、悔しくないんか!?
わけ分からんことで、出番まで取り上げられて! 課長さん達もあの有様で!」

「でも、課長さん達だって悪気があったわけじゃ……今まで一緒に仕事をしてきた仲じゃないですか!」

「悪気がなかったら、だまし討ちしてえぇと!? そんなわけなか!」

「だかれそれも、ちょっと失敗しちゃっただけですよ! 許してあげましょう!」

「許せることと許せんことがあるやろ!」


菜々ちゃんの言うことも、分かる……分かりたい。

でも、それにしては課長さん達のやり方がヒドすぎた。

だからみんな、全然納得できなくて……。


「でも、課長さん達も言ってたじゃないですか! 新しい夢って! それを応援したいって!」

「そのために今までの自分を捨てるくらいなら、ここにいる意味なんてなか!」

「そんなこと言っちゃ駄目です! あの……」

「おのれら、落ち着け」


……そこで入ってきたのは……恭文ちゃん!?


「やすっち、お疲れー。……で、課長達は?」

「納得させたよ。
……菜々さん、課長さん達は大手を振って、CPへ送り出してくれたよ」

「え……!」

「CPが成果を出せば、今まで通りの方針でもいいってさ」

「本当でごぜーますか!?」

「お膳立ては済んでいたし、これくらいはね」


…………つまり、相当エグいやり方で追い詰めたにゃ? 部活方式にゃ?

あぁ……仁奈ちゃん達が笑顔になる分、心が痛い……部活メンバー、やっぱ最恐すぎにゃ!


「……蒼凪プロデューサー、何をやったの?」

「何も?
ただ正直に、現状を伝えただけだよ――」


凛ちゃんが疑わしく聞いても、恭文ちゃんは態度を崩さずお手上げポーズ。


「久野さん達がお怒りで、本当に事務所から出ていきかねない。
そうなればマスコミやらが嗅ぎつけて、大騒ぎになって……その責任を誰かが背負うことになりかねないってね」

「完全に脅迫だよね! その場合、キッカケを作った課長さん達が危ないよね!」

「だからみんなをCPに押しつけて、問題から逃げてしまえーって提案したんだけど……何か問題?」

「……圭一さん……あの、言っても無駄だとは、思うんだけど……!」

「お前もこれくらいできるようになれ」

「だよねー!」

「ま、待ってください!」


凛ちゃんが頭を抱えて絶望する中、入れ替わりで動く影。

菜々ちゃんが不満全開で恭文ちゃん達に踏み出す。


「そんなの駄目です! 菜々達は、また新しくパワーアップできるかどうか、考えたいんです! だからやめてください!」

「アホ抜かせ! アンタがなんでうちらのことを勝手に決めるんや!」

「それは、このままだとみんな……絶対、絶対後悔します! ここは、歯を食いしばって頑張りましょう!
そうしたらきっと……これでよかったって、思える日が来ますから! 菜々だって、そうして346プロに」

「だったらあなた一人で戻ればいいじゃないですか!」

「仁奈もそう思うです! あのおじさん達、ママと同じで言い訳ばっか……信用できないのです!」

「春菜ちゃん、仁奈ちゃん……!」


それで仁奈ちゃんは言葉が重い……!

というか、どうしよう……このままだと菜々ちゃん、完全に四面楚歌だし!


「だからおのれらも落ち着け」

「そうそう。というか、菜々ちゃんもだよ」


それを見かねて間に入ってきたのは、恭文ちゃんと早苗さんだった。


「菜々は、落ち着いています! でもみんなが冷静じゃないから!」

「……かつてイースター社にいたほしな歌唄は、デビュー前にイースターミュージックの扉を叩き、こう言ってのけた」

「え……」

「ほしな歌唄、知らない?」

「いえ、知っていますけど……それをどうして今」

「今だからこそだよ」


恭文ちゃんは鋭く菜々ちゃんを指差し、鋭い眼光を放つ。


あなた達、今すぐ私をこの事務所に所属させなさい。
――私を取らないと、後悔するわよ?


「ひぃ!?」


しかも声真似付き!? というかそっくり!


「――で、歌唄は無事にイースターへ所属し、揉めて叩き出されるまでは大躍進だったわけだよ」

「そ、そんなことしてたんですか!? ほしなさん……!」

「というか、それで所属させるってどういうこと!?
卯月や未央達だって、オーディションを受けてようやくだよね!」

「しぶりんの言う通りだよ! もはやテロだよ! 不法侵入だよ!」

「なおそんな歌唄を引っ張ったのは、後に歌唄が所属する三条プロダクションの社長≪二階堂ゆかり≫だ。
……ゆかりさんはこう言っていた。歌唄のギラギラした瞳には、強烈な意志が宿っていた。
プロになってやろう……夢を叶えてやろうと、自分で扉を叩く意志」


……それは、みくにも突き刺さる言葉だった。


みくは立てこもり事件のとき、結局……みんなに甘えて、自分で扉を叩いていなかったと思うから。

というか、そんな無茶苦茶で大成功した人と比べられたら、大抵の人間は霞むよ!


「菜々は……意志が弱いって、ことですか」


ほらー! 菜々ちゃんが逆に落ち込んじゃったし!


「うん、よく分かったね」


しかもそこで認めちゃうの、恭文ちゃん!


「以前、いわゆる起業塾の付き添いをしたことがあってね」

「なんですかそれ! 関係ない話は」

「あるとすら気づかないから、お前は駄目なんだよ」

「な……!」


恭文ちゃんは必死な菜々ちゃんを一蹴――。

右人差し指をピンと立てて、笑って解説。


「そのときの講義で知ったんだけど……ビジネスで新しい事業を始める際、必要なことは幾つかある。
一番は”数字を示すこと”。
将来的に商売のお客さんは何人で、売り上げはこれくらいーって感じにね」

「将来のビジョンを、明確に建てられているかってやつだね。
思いつきじゃない……数年先の需要を見越した上で、きっちり数字を示せるかだ」

「で、菜々さん……もう一度聞くね?
みんなの”事業”を方針転換して、”成果が出るのは”一体いつ?」

「そ、それは……」

「アーニャ、おのれにも言ってるんだからね?」

「わたしも……ですか……!?」

「おのれ、美城常務の企画に魅力を感じているんだよね。でもビジネスでは”頑張ります”は通用しない。
欲しいのは、頑張って、どういう経緯を通った上で……目標にたどり着くか」


恭文ちゃんはそう言いながら、右手でホワイトボードを……舞踏会の企画が書かれたそれを、パンと叩く。


「なお、最低でも五年後は見えていないと駄目」

「五年後……そんなに先、ですか!?
でもわたし達、予言者じゃない! 先のことなんて分からない!」

「アーニャ、別に予言者になる必要はないのよ。
自分の商売が五年先も続けられるかどうか……今ある状況から推測し、きちんと道筋を考える。
それくらい”必死になったかどうか”を、支援してくれる人達は見るのよ」

「……だからわたし……必死じゃ、ありませんか……!?」

「うん、必死じゃない。挑戦者ですらない」


その断言にアーニャちゃんは嗚咽を漏らし、両手で顔を覆ってしまう。

菜々ちゃんも痛感する……さっき……意志力の話をした意味を、理解して。


「……だから菜々は……それが示せないなら……信じられないんですか」

「そうだよ」

「でも…………私は……チャンスを掴んで、ここにいます」


それでも……それでも納得がいかないと、菜々ちゃんは声を振り絞る。


「それも数少ない……ずっと待っていたチャンスを。
夢なら、今までのことで十分叶いました」

「菜々さん……」

「だから……そうです、これでいいんです! 私はこの会社に感謝しています!
みんなはそうじゃないんですか!? だからこんな手の平返しをするんですか!?
たった一度……理不尽な扱いを受けたからってこんなことしたら、本当に居場所がなくなっちゃいます!」

「でもおのれは、その先を示せない」

「確かに、菜々には分かりません! 数字なんて示せません!
でも、必ず来るってことだけは分かります! それだけは、分かるんです!」


菜々ちゃんはそう叫んで、必死に……必死に、仁奈ちゃん達に語りかける。


「きっと……きっといつか! これでよかったと思える日が来ます!
だから……大事に、しましょう? ここにいることを……ここで、頑張れることを……」

「それまでに346プロが潰れたら、どうするの?」

「え……!?」

「みんなが大病を抱えて、アイドルが続けられなくなったら。
……家庭の事情もあるかもしれない。
何らかの事故で、突然亡くなるかもしれない。
改革の主導である美城常務が、同じように倒れて……改革そのものが取りやめになるかもしれない」

「そ、そんなの」

「ズルい? でもおのれは”あり得ない”とは言い切れないよね」

「――!」


論法の切り返し――少なくとも菜々ちゃんに、そこを責める権利は存在しない。

だって、菜々ちゃんもそうやって道を示しても、仁奈ちゃん達になんの責任も取れないんだから。

アイドルで……雇われる側で、なんの役職にも就いていなくて。


「別に迷ったっていいよ」


すると恭文ちゃんは放り投げるようにそう言って、軽く頭をかく。


「それはおのれが聡明で、たくさんのものを積み重ねた”大人”だから得られる権利だ。
……でも、仁奈ちゃん達を巻き込むな」

「みんなは子どもです……。
だったら、ちゃんとそれは違うって、教えてあげなきゃ」

「なんのビジョンも示せず、いつ来るかも分からない”いつか”に縋らせる……それが本当に正しいと思うの?」

「……」

「少なくとも僕は、そんなの耐えられなかった」


そう告げられて、菜々ちゃんが少し、悲しげに笑う。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


仁奈ちゃん達外殻メンバーへの提携は、無事に済んだ。

恭文ちゃんも魅音ちゃんから依頼を受けたって形で、向こうの部署さんにがつんと言ってくれたらしい。

だから、話し合い自体は本当に……とても上手くいった。恭文ちゃんも『オルフェンズのアフレコがあるから』と帰っていった。


でも、菜々ちゃんは……やっぱり迷いが深いみたいで。


「菜々ちゃん……」


控え室(地下)のソファーに座り、ついため息。


菜々ちゃん、プロデューサーさんである猿渡さんと恭文ちゃんの提案で、一旦はCPで預かりつつ考えるって感じになった。

なった……なったんだけど……!


「……菜々さんみたいな人、実は多いんだよねぇ」


すると魅音ちゃんが、困り気味にみくの前に座ってきた。


「ようやく就職できたから――。
一生懸命頑張らなきゃ駄目だから――。
そうやって自分を縛り付けて、企業側の嘘や理不尽を見過ごし、ついていっちゃう」

「石の上にも三年って言うけど、それも前提があるんだよなぁ。
……その石に相応の誠意があることだ。
残念ながら企業の中には、その誠意も見せず、会社という”密閉空間”で人を閉じ込め、常識から都合良く染め上げる人間もいる」

「……今回課長さん達がやったのは、そういうことにゃ?」

「プロデューサーも交えたら、通達もさっくりいかない……そう危惧したのかもしれないけど、馬鹿だよねー。
そういうことが横行するようになったら、企業としては破綻の兆しアリだよ」

「スルガ銀行とか、ヒドかったらしいしな……!」


スルガ銀行……携帯で検索すると……うわぁ、なんか問題ありそうなニュース記事がいっぱいにゃ。


「しかも常務と会長が打ち立てた方針が、現行の流れに逆行しているのも問題だ」

「あの、どういうこと……ですか」

「例えばアンタ、今すぐ死んだ人を蘇らせることができる?」


当然無理なので、アーニャちゃんは戸惑いながら首を振るしかない。


「あの、それは関係が」

「実はある。
今圭ちゃんが話に出したスルガ銀行の場合……まぁ簡単に言うけど、上層部が現場の状況を見ず、ノルマを決めていたんだ。
それに現場が応えようとすると、かなり無茶な営業をしなきゃいけなくてね……。
結果書類の偽装やら、お金が絡む部分の改ざんが日常的に行われてしまった」

「改ざん、ですか」

「借り入れをする際に書く必要のある資産やら、収入やらをぽりぽりとね。
で、ノルマが達成できない感じだと、上司が部下を罵倒する……というか、暴力行為や脅迫が行われる」

「完全に駄目なやつじゃないですか!」

「今回についても、同じ流れが生まれつつあるのかも」


魅音ちゃんは自嘲気味にそう言って、お手上げポーズを取る。


「常務の方針って、ようは現場に出す”ノルマ”だからね。
それが現実に即していないと、どっかで帳尻あわせが必要になる」

「スルガ銀行みたいに、”変えちゃいけない部分”まで変えるようになったら……本当におしまいだぞ……!」

「でも、346プロにはほら、審査部とかもあるよね。
それでアイツや今西部長も、査問委員会を受けて」

「……それなんだがスルガ銀行の場合、全く機能できなかった」

「いや、それは問題のある銀行だから…………できなかった?」


凛ちゃんは……卯月ちゃん達はそこで引っかかったのか、小首を傾げる。


「……凛ちゃん……卯月ちゃん達も、そうみたいにゃ。
おかしいってツツいても現場や上から圧力がかかって、流すしかなかったって」

「何それ……! コンプライアンスってどこに行ったの!?」

「どっかだろうねぇ。
しかも査問委員会が出した結論、常務と会長はとっくにひっくり返しているでしょ」

「……今西部長! でも島送りに……ううん、それでも復帰できたことが問題!」

「……それだけじゃありませんよね。部長さんは上からの話ですけど、今度は……現場からツツかれることだって」


おかしいところがあっても、流せ……流してくれ。

そうしないと、成果が出せない。うちの部署が駄目になる。

だから従ってくれ。ノルマを受け入れてくれ。まずはそれで……!


それって、今回あっちの課長さん達が言ったことそのままだよね!


「……マジで先を考えないといけないねぇ。このままじゃ本当に、わたしらが美城を乗っ取ることになる」

「やっぱり数字……ビジョン、大事……。
だけどわたし達、アイドル……そんな力、どうすれば……」

「アーニャちゃん……」

「学ぶしかないね。……言ってたでしょ、やすっちもさ。
予言者になる必要はない。でも、その無理にどれだけ頑張ったかを見られるってさ」

「……はい」


アーニャちゃんは戸惑いながらも頷き……そのまま俯いてしまう。


……アーニャちゃんはやっぱり、常務さんの方針に魅力を感じているんだね。

それは、いいことだって思う。だけど……それだけになるのは、やっぱり……。


「ん……」


すると、未央ちゃんが上の空。というかずーっと……控え室の玄関を見ていて。


「未央ちゃん、どうしました?」

「……蒼凪プロデューサーの話、結構……ショックだった」

「ショック?」

「あの、蒼凪プロデューサーが悪いとかじゃないの。
ただ……迷うことが権利って、思いつかなかったなぁって」


あぁ……菜々ちゃんに言ってたことだね。

確かにあれは……みくも、菜々ちゃんの言ってること、信じられなくて……噛みつきかけたから、ショックだった。


「だからこそキチンと考えて、答えを出さなきゃいけない。
その権利を半端に流すと、絶対後悔することになるから」

「それでお前達もいずれ分かるさ。
たとえ小さくても、積み重ねたものがあるなら……な」


菜々ちゃんが大人って言ってたけど、それは年齢的なお話じゃない。

精神的……菜々ちゃんがいっぱい努力してきたから、迷ってしまうもの。


……だったら、みくは……みくだって……!


「……ねぇみく、それなら週末、開けておいてよ」

「にゃ?」

「菜々さん、週末にイベント……というか、東京ゲームショウでリズモンのイベントに出演するんだよ」

「リズモン!」


リズモンは今、ちまたで流行っているアプリゲーム。

ぷよぷよリズモンを上手く揃えて、パズルで戦うーって感じなんだ。

それで菜々ちゃん……そうだそうだ。リズモンの宣伝とかにも出ていたよね!


「せっかくだから見てみない?」

「見るにゃ!」

「私も行くぞぉ!」


そこで唐突に飛び込んできたのは………………!


『長山専務!?』

「イベントではレアリズモンがもらえるからな! ゲットしなくては!」

「専務さん、ハマっているの!?」

「昔からパズルゲームは大好きなんだよー!
……これでもルービックキューブとテトリスの世界記録を出したことがある」

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』

「しかも今回は、安部くんの状態観察もできるから一石二鳥!
園崎くん、待ち合わせは何時にする! 早めに席を取らないとゲームショウは混むぞー!」

「あはははは……どうしようか、これ」


いや、みく達に言われても……専務さん、本気すぎるにゃあ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


菜々さんは本当に……いや、仕方ないのかなぁ。

元々は自費でアイドル活動を続けていて、そこからスカウトされたって経歴だし?

そう、だから……キララさんとかと同じなわけだよ。どおりで二人の匂いはとても近かった。


まぁそれはさて置き……納得がいかない仁奈ちゃん達には、落ち着かせる意味も込め、お食事に誘った。

と言っても、みんなでハンバーガーを買って、近くの公園でのんびり食べるだけなんだけど。


「……まぁさ、おのれらの憤りは分かるよ。裏切られたような気持ちになるのもね」

「でも……迷うのも権利、なんやろ?」

「うん」

「それが分からんたい! 夢に迷うなんて、あかんたい!」

「人それぞれってことだよ」


ダブルてりやきバーガーをガッツリかじり、もぐもぐ……。


「美味そうだなぁ……てりやき」


かぶりついてくるヒカリをサッとガードし、バーガーをもう一口……うん、美味しい。


「……貴様ぁ! 私にまたキャベツ生活を送れというのかぁ!」

「お姉様、また飛べなくなりたいのですか?」

「つい最近やらかしただろ……」

「あれは……気のせいだ」

「気のせいじゃないからね!? 僕の肩が外れたからね!?」


ほんと注意しないと……! 僕はともかく、それでぱんにゃやアイリ達に乗っかったら、ほんと大けがだから!

というか、しゅごキャラって太るの!? 妖精だから自由なの!? よく分からないー!


……まぁ、それはさておき……。


「魅音達と知り合ったとき……実は雛見沢を舞台に、政治結社が暗躍していてね」

『政治結社!?』

「せいじけっしゃ……って、なんでごぜーますかー?」

「国のお仕事に絡んで、いろいろ企む怖い人達。……ソイツらが危うく、村を滅ぼしかけるような事件でね。
その事件を間接的に追いかけていた刑事さんがいたんだよ。大石さんっていうんだけど」


今は北海道で、ラーメン作りにはまっている……あの気持ちのいいおじいさんを思い出し、空を見上げながらほっこりする。


「そいつらが雛見沢に手を出していたのは、雛見沢に希少な風土病……ウィルスが存在していたからなんだ。もう今は撲滅されたんだけど」

「なんと……!
では、恭文殿はその政治結社と戦い、園崎臨時プロデューサー達とお知り合いに!」

「というか、魅音達も一緒に戦ったんだよ。それで圧倒的勝利で壊滅させた」

『えぇ!』

「でも僕達だけの力じゃない。
公安、警察庁、地元警察――いろんな人の協力があって、初めて政治結社と対等に戦えた。
大石さんもね、そんな大立ち回りを手伝ってくれた、頼れる大人の一人なんだ」


現場主義で、一刑事として事件を追い続けていて……とても飄々とした、頼れる刑事さん。

……だから大石さんが見せた迷いには、僕も……とても考えさせられて。


そこからはかくかくしかじか――。

大石さんが雛見沢症候群が起こした事件で、父とも、兄とも慕っていた人を亡くしたこと。

その主犯も行方知らずになったから、事件を必ず解明するって……定年までの短い時間に、全精力を費やしていたこと。


それが村の重鎮……魅音の実家だと睨み、情報をかき集めていたこと。

そんな中で政治結社と風土病の存在を知り、地元警察の一員として阻止を決めたこと。


でもその障害となったのが……退職金。


「……お金は大事……でもそれだけじゃない。
退職金は老後の生活を支える基盤であると同時に、人生への評価だ」

「評価……」

「汗水垂らして、ときに悔しい思いをしながら、必死に……必死に勤め上げてきた数十年間。
それに対する、組織からの評価と最後の報奨が、退職金という……何千万というお金なんだよ。
……それが全部パーになる。老後の生活が破綻するだけじゃない……組織から、”お前は評価するに値しない”と言われるも同然だ」

『……』

「だから大石さんも迷った。
長年探していた真実があるのに、迷って迷って……苦しんで。
もっと余裕のある、先にツケを持ち込まない生活をすればよかったと、小さな後悔も積み重ねて……」


お金の話になって不満そうだった、笑美や裕子……他の子達も、その余りに冷淡な結論に、言葉もなく俯いてしまう。


「でも、それでも……その刑事さん、戦ったでごぜーますよね!」

「うん、戦ったよ。それでうまく切り抜けて、無事に退職を迎えた。
……だけど、大石さんがあそこで……あの選択で、迷うだけの人生を送っていたのも事実だ。
そしてTOKYO WARでは特車二課・第二小隊の初代メンバーが、その選択を取って辞職している」

「選択するにしても、やっぱり……リスクはある……」

「おのれらの選択が薄いとは言わないよ。
でも菜々さんの積み重ねが重いものだっていうのは、覚えておいてほしい。
……そこに立ち入れるのは、同じだけのものを積み重ねた誰かか……神様だけだ」


みんなが神妙な顔で頷いてくれたので、安心しつつ立ち上がり、ゴミを近くのくずかごへ全て投入……これでよしっと。


「あとは、おのれらも選ぶ以上は覚悟を決めて……楽しみなよ」

「楽しむ……」

「だって夢を追いかけるんでしょ?」


みんなの瞳に迷いはなかった。

欠片も……ほんの一欠片も。


あったのは怒り。

未来を示す力もない扇動者が、自分達の夢を阻むことへの怒り。


だから、これなら大丈夫だって……そう確信もできて。


「たとえ事務所を出ることになっても――。
たとえお城のお姫様じゃなくなっても――。
今貫かなかったら、もっと大事なものを失うから」

「蒼凪プロデューサー……」

「大事なのは、考え尽くしたかどうかだ。だからそれでいい」

『――はい!』

「じゃあ話はこれで終わり。僕も現場に行かないと」

「あ、はい。……蒼凪プロデューサー、今日はありがとうございました」


久野さんも立ち上がり、仁奈を抱えながら笑顔でお辞儀。


「今のお話、仁奈にも……この子達にも、ちゃんと伝わったみたいですし」

「いえ。……でも久野さんは」

「私は突っ走ります。
この子を預かったときから、そう決めていましたから」

「プロデューサー!」


仁奈ちゃんの笑顔に安心しつつ、みんなにも『またね』と言って走り出す。

さて、今日もまた…………女の子役だぁ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


東京ゲームショウ――世界的にも有名な、一年に一回、九月の後半に行われる、ゲームの祭典。

基本はPS4やWiiなどの据え置き機が中心だけど、昨今のスマホゲー隆盛に伴い、そちら方面のステージも多く開催されている。

今回、菜々が出るのもそんなステージの一角で……でも、化粧台を前についため息。


「もう、いらないのになぁ……」


つい持ってきてしまっていた、ウサミンを見て、またため息。

……プルプルと震えるスマホを取ると、母からメール。


――もううちに戻って、花嫁修業でもしなさい――

「……でももうすぐ、夢……叶いそうだったんだよ?」


本当は諦めたくない。だけど……拾ってくれた会社の、言うことだし。

もし失敗したら、もし放り出されたら……もうきっと、チャンスなんてない。

それが怖くて、情けなくて。もっともっと……他の子達みたいに、若いうちからアイドルでいられたら。


だったらやっぱり、しがみつくしか……ないよね。

そうすればいつか、新しい菜々が本当の菜々になって……それで……。


「……安部さんー」


すると控え室のドアをノックする音。


「あ、はいー!」

「そろそろ出番ですー!」

「はい! 分かりましたー!」


そうだ、ここで……頑張るんだ。

新しい菜々でステージを盛り上げたら――でもそこで、また別のノックが響く。


「あ、はいー! すみません、もう出て」

「……菜々ちゃんー」

「……みくちゃん!?」

「僕もいるよー」

「蒼凪プロデューサー!?」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ゲームショウ……実は初めてきたけど、凄い盛況。というか、光と声がいっぱい!

魅音ちゃんと一緒に軽く場を回って、いろんなゲームや音にドキドキしていると……一つ、凄い姿を見つけて。


『――みなさん、テイルズスペシャルステージへ、ようこそおいでくださいましたー!』

『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』


……そのステージの中に……ひときわ小さい、黒コートの男の子がいて。


いや、ジャンプとかはしていないんだけど。

行儀良く観覧してはいるんだけど。

なんかこう、存在感がすごくて……瞳の輝きがやけに引きつけられて。


それで、ちょーっと注目すると。


「――――つまり蒼凪プロデューサー、完全にプライベートですか!?」

「うん! だって今日は……テイルズステージに、スパロボステージに、ゆかなさんが出るからー♪」

「声優さんの!?」

「……やすっち、十歳くらいの頃から大ファンなんだよ。ライブとか欠かさず行くの」

「だってゆかなさん、すっごく素敵でー♪」


そしてキャラがおかしい! テンションが高すぎる! デレデレだし、完全にぶっ壊れているにゃ!


「まぁついでだから引っ張ってきたんだけど」

「リズモンのステージは見られないしね。……だってスパロボステージが別のところでやってて!」

「あー、はいはい分かってます! ゆかなさんですよね!」

「そう!」

「でもやすっち、懲りないねー。幽霊だと思われてたのに」

「ぐげぼぉ!」


いきなり吐血したぁ!? というか、崩れ落ちて頭を抱えたぁ!?


「み、魅音ちゃん……幽霊って」

「……やすっち、ほんと今の調子で……目をキラキラさせながら見るからさ。
ライブとかで覚えられてたんだよ。”目が星みたいに輝く小さい子”って」

「や、やめて……魅音、やめて……その話は」

「ただそれが一年、二年、五年……十年近く経っても、外見に全く変化がなく、ほぼ毎回見に来るからねぇ。
当人や他の声優さんも気になって、”実は幽霊じゃないか”って噂されていたそうなんだよ」

「「えぇ……!」」

「やーめーてーよー!」

「まぁやすっちが世界大会に出たおかげで、”外見が子どもみたいな大人で、ハーレム王”って認識されたけど」


それは最悪にゃあ! というか、それだと逆に引かれたんじゃ……。


「ぁあぁぁぁ……あああああ……!」

「お兄様……」

「お前、もう諦めろよ……。ゆかなさんルートは存在しねぇよ」

「ああああああ――」


引かれたにゃ! しかもどん引きにゃ!

というか魅音ちゃんがヒドいにゃ! 天国から地獄へ叩き通したにゃ!


「そ、それは……ご愁傷様、でしたぁ……!」

「……僕、菜々さんのファンになる」

「いいんですよ、スパロボステージに行っていただいて! 無理しなくて!」

「ウサミンコール、する……どうせやらないんだろうけど」

「とんだ迷惑行為ですよ」


……そうだ、ウサミン……やらないんだ。

だってうさ耳、化粧台の上に置きっぱだし……なんかメイクも、大人だし……。


「まぁこんなやすっちも強く生きているから、菜々さんも這い上がっていこうよ」

「この地獄を経由してのことなら、是非お断りしたいんですけどぉ!?」

「……地獄へ落ちようぜ……姉弟。ここはいい……僕達に光なんて似合わない」

「いきなり地獄兄弟はやめてもらえますかぁ!?」

「僕、作るからさぁ……ホッパーゼクターとベルト……。ちゃんとクロックアップもできるやつ」

「へぇ! それはむしろ見てみたいですねー!
じゃあ作ってもらいましょうか、それ! 菜々はパンチホッパーでお願いします!」

「なんの話にゃあ!?」


だ、駄目にゃ! 恭文ちゃんのペースに合わせたら、脱線しまくって話が進まないにゃ!

それより……やっぱり気になるのは、あのうさ耳で。


「……菜々ちゃん、ウサミン……やめちゃうの?」

「あ、いえ……その……」


つい泣きそうになりながら聞いちゃうけど、気持ちを入れ替えて……首を振る。


「ごめん、今のは忘れて」

「みくちゃん……」

「……本当はね、納得してない。ウサミン、やめてほしくない……みくは菜々ちゃんのこと、目標だって思っているから。
だけど……そのために、菜々ちゃんが一生懸命追いかけていたこと、軽く見たくない」

「……!」


恭文ちゃんもしていた、迷う権利……その話だと察してくれたのか、菜々ちゃんが瞳を潤ませる。


「でも、でも……だから、なのかな。
……みくは菜々ちゃんが後悔するようなことは、絶対嫌だ。
今日はね……それだけ、言いに来たの! 迷惑、かもしれないけど」

「そんなことありません!」


みくの手を取って、菜々ちゃんはぎゅっと……大丈夫だって伝えるみたいに、握ってくれる。


「ありがとうございます……みくちゃん」

「菜々ちゃん――」


……恭文ちゃんを何とか引っ張り上げて、お仕事に差し支えがないよう、控え室を出た。


「じゃあシオン……ショウタロス達も大変だろうけど、任せたから」

「はい。……お兄様、しゃんとしてください」

「でも、姉弟のステージを見なきゃ……どうせ地獄へ落ちるだろうし」

「落ち着け……!」


憔悴しきった恭文ちゃんが不安だけど、それでもシオンちゃん達に任せつつ送り出す。

それからみく達は舞台袖に入らせてもらって、ようやく始まった菜々ちゃんのステージを見学。


……だけど。


『えーと、みなさんこんにちはー!』


全く盛り上がっていなかった。


会場の誰も……菜々ちゃんを見ていない。

スマホや一緒にきた人達を見て、全然一体感がなくて。


『今日はリズモンイベントにようこそ! 司会進行のウサミ……あ』


菜々ちゃんはそれを纏められるはずなのに、何もできなくて……。


『……安部菜々です!』


会社の言う通りに、ウサミンなんて、捨てちゃって……!


「誰ー?」

『えーと、みなさん、リズモンはプレイしてますかー!?』


それが見ていられない。


『……してるー』


菜々ちゃんなら……ウサミンなら……!


『ですよねー!』


なんで、こんなのが正しくなっちゃうの?

昔の凄いアイドルみたいになれって言われて、自分のやり方、捨てることになって。

菜々ちゃん、全然輝けなくなって……でも、会社はこういうアイドルじゃなきゃ駄目って……。


納得いかない……こんなの、絶対おかしい……!


「……魅音ちゃん」


部活メンバーなら、こんな泣き言は禁句。

でも、空回りする菜々ちゃんを見ていると、つい口から漏れて。


「みく達、どうすればいいの? 会社のやり方に従うべきなの?
キャラなんて……自分のやり方なんて、変えちゃうべきなの……!?」

「――今日ね、李衣菜も改めて誘ったんだよ」


……魅音ちゃんは叱り飛ばすことなく、ステージを脇から見ながら、そう呟いてきた。


「今回の件、*(アスタリスク)のイメージやバランスにも関わることだからね。
でもそうしたらあの子、レッスンして待ってるーってさ」

「え……」

「アンタに決めてほしかったんだよ」


李衣菜ちゃんが……みくに。


「アンタがどうしたら笑顔になれるのか」


……どうしたいのか?

そんなの、もう見えている。

みくはこんなの、一ミリだって納得できない。


だったら後は、覚悟だけ。

自分で扉を開けて……邪魔するものを蹴散らして、道を開くだけ。


あるよ……。


覚悟なら、もうとっくにある――!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


変われる、変われる、変われる……。

私は、会社の言う通りな、アーティスティックなアイドルにだってなれる。

そう思って、叫んで……なのに、全然届かない……!


でもこうしなきゃ……。

必死にメイドカフェで働いて、自分のお金で、アイドルの真似事……頑張って。

それでしがみついて、ようやくプロデューサーさんに見いだされて、あんな大きな事務所さんに所属できて。


そうだ、大丈夫だ。

今までと同じように、しがみついて、笑って……。

そうすればきっと、また認めてくれる。


誰かが……誰かが……誰が……誰かが……!


『えー、それでは……えっと……』

「――――ミミミン! ミミミン! ウーサミン!」


……その声は、ステージの中から響いた。


「ミミミン! ミミミン! ウーサミン!」

「ママ、あれなにー?」

「なんか始まるのか?」

「ミミミン! ミミミン! ウーサミン!」


みくちゃんが、必死になってコールを飛ばしていた。


「ミミミン! ミミミン! ウーサミン!」


やめて。


「ミミミン! ミミミン! ウーサミン!」


私、アイドルでいたいの。


「ミミミン! ミミミン! ウーサミン!」


アイドルで……今までとは、違う形だけど……でも……!


「ミミミン! ミミミン! ウーサミン!」


でも――!


「――ミミミン! ミミミン! ウーサミン!」


……って、長山専務ぅ!?


「ミミミン! ミミミン! ウーサミン!」

「ミミミン! ミミミン! ウーサミン!」

「「ミミミン! ミミミン! ウーサミン!」」


あ、いる……ステージにいるぅ! あのお爺ちゃん風貌で、ウサミンコールしちゃってるぅ!


「ミミミンミミミン! ウーサミン!」


……って、蒼凪プロデューサーもぉ!

嘘、どうして!? ゆかなさんのステージは…………蹴って、くれたんだ。

菜々のために……あんなに大好きで、憧れていた人のステージなのに。


「「「ミミミン! ミミミン! ウーサミン!」」」


胸がざわつく。

どんどん、胸が熱くなっていく。


だって、これは……この声は!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


まぁ部活メンバーとしては愚直すぎて……とも思うけど、こういうときはコレでいいか。

おじさんも空気くらいは読めるんでねぇ。……だからこそ。


「あの、いいんですか?」

「えぇ。それよりこれをお願いします」


……猿渡さんから借りてきた、ウサミン関係のBGMとライブ音源。

それをスタッフに渡し、手早く準備してもらう。


あとはアンタ次第だよ……みく! それでな、あんあななななな……長山、専務……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


三人は止まらない……全く止まらない。

その姿を見ながら、でも、でも、でも……自問自答を何度もそう繰り返して、ようやく気づく。


「「「ミミミン! ミミミン! ウーサミン!」」」



変わらずに……周りから白い目で見られても、決して諦めずに叫ぶみくちゃんと長山専務、蒼凪プロデューサー。

その声に、何もできない今の私。

その姿に……ようやく気づく。


「「「ミミミン! ミミミン! ウーサミン!」」」


あぁ……なんだ。


「「「ミミミン! ミミミン! ウーサミン!」」」


しがみついたのは、美城じゃない。



「「「ミミミン! ミミミン! ウーサミン!」」」


なくしたくなかったのは、美城のアイドルという肩書きじゃない。


「「「ミミミン! ミミミン! ウーサミン!」」」


絶対になくしたくなかったのは……自分が、”最高だ”って思った輝きで。


「「「ミミミン! ミミミン! ウーサミン!
ミミミン! ミミミン! ウーサミン!」」」


絶対に譲れないのは、この声に――たった一人でも、私を応援してくれる声に応えられる私。


「「「――ミミミン! ミミミン! ウーサミン!」」」


それができないのなら。

あの子の優しさに応えられないのなら。


『――――――ピピピ! ピピピ! ウサミン星より受信!』


私は……アイドルでいる意味がない!


『ウサミンコールにより、メルヘンチェンジを妨害していた不確定因子が排除された模様!
ウサミンに施された封印を、解除します! せーの!』


笑って、笑って、笑って――!

右手を振り上げ、声高らかに復活宣言!


『メルヘン! チェェェェェェェンジ!』

「……菜々ちゃんー!」

「やったぁぁぁぁぁぁぁ!」

「姉弟ー!」


すると、私の持ち歌が派手に流れ出して……慌てて舞台袖下手を見ると、園崎臨時プロデューサーがサムズアップ。

そっか……全部、あの子が……! それに感謝しつつ袖へ向かい、うさ耳をさっと受け取りステージ中央へ戻る。


うさ耳を装着して、改めてステージ再開! ウィザード風に言うなら……ここからがショータイム!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……菜々ちゃん、ウサミンになった……!


「専務さんー!」

「あぁ!」

「恭文ちゃんも……いいの!? ゆかなさんのステージ!」

「い、いいい……のぉ……いい、からぁ……!」

「「すっごい後悔してる!?」」


二人と手を取り合いはしゃいでいる間に、菜々ちゃんはいつもの笑顔をステージに振りまく。


『おっまたせしましたぁ!
本日のリズモンステージ! 最初の目玉イベント――。
愛と希望を両耳にひっさげ、ウサミン星よりやってきたわたくしウサミンから、レアリズモンをプレゼント!
さぁ、みなさん! 準備はいいですかー!? せーの!』


菜々ちゃんはマイクを持って、軽やかに一回転。

それだけでも星がきらめくみたいに、とても鮮やかな空気が走る……!


『ハートウェーブ! ピリピリーン!』

『うぉぉぉぉぉぉぉぉ!』


客席のあっちこっちから声が響く。

長山専務の携帯を見ると……うんうん、ちゃんとレアリズモンが届いているにゃー!


「ありがと、ウサミンー!」


リズモン好きな子どもも笑顔になって……。

興味なさげにスマホを見ていた人達も、笑顔で菜々ちゃんを見上げる。


その姿が……そのステージが、とってもとっても、みくには嬉しくて。


『――皆さん! ウサミン星からの愛の電波、びびっと受け取ってもらえましたか!?』

『はーい!』

『リズモンワールドを、ウーサミン♪
ウサミンと一緒に楽しんでいってくださいねー! ……キャハ☆』

『いぇぇぇぇぇぇぇい!』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――この日のリズモンステージは、もう大盛況!

ウサミン復活……となれば、あとはやることも決まってくる!


ステージが終わってから、菜々ちゃんの楽屋を訪ねたところ。


「みくちゃん、蒼凪プロデューサー……それに、長山専務もそ、そのそのその……ありがとうございましたぁぁぁぁぁぁぁ!」


ただその前に……長山専務がやってきたことで、滅茶苦茶恐縮しまくりだけど。

うん、そうだよね……おかしいもんね!

みくも改めて考えると、戦慄だよ! 専務さんがウサミンコールって!


「あー、私のことは気にしないでくれ」

「気にしますよぉ! 専務さんなのにぃ! 滅茶苦茶目立っていたのにぃ!」

「……なお、Twitterでは『ウサミンコールするおじいちゃんと娘達』って感じで顔写真が幾つか広まってたよ」

「本当かね!」

「「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」


それは、取り返しの付かないことではぁ!

だけど専務さんは、『仕方ないかぁ』という様子で笑っていた。


「え、待って。娘達って……僕、男なんだけど!」

「……恭文ちゃん……」

「何それぇ! ゆかなさんのステージ……ステージィ!」

「はいはい落ち着いて! 血の涙を流さない!」


あと、恭文ちゃんはその……うん、頑張ったから……あとでみくから、お礼をしようと思う。

……ゆかなさんのステージには負けるかもしれないけど、とっても素敵な時間をプレゼントするにゃ。


「まぁあれだよ」


専務さんは苦笑気味に、崩れ落ちる恭文ちゃんを宥める。

優しくその肩を叩きながらも、菜々ちゃんの目を真っ直ぐに見た。


「私はもう、前川くんが必死だったから……引っ張られたようなものだしね。
……感謝するなら彼女にしておきなさい」

「専務さん……」

「いえ……やっぱり三人ともです。
最後にちゃんとウサミン、やり切れてよかったです」

「こらこら、最後じゃないだろう? CPとの提携があるんだから」

「でも……菜々、せっかく纏まった場を乱しかけたし、仁奈ちゃん達だって」

「安部さん、我々は提携を解除した覚えなどありませんよ」


魅音ちゃんは、何を今更と菜々ちゃんの迷いを笑い飛ばす。


「というかね、あの子達には改めて……やすっちが話してくれているんだよ」

「蒼凪プロデューサーが!?」

「だから大丈夫……みんな、誰も怒ってなんてないよ」

「でも、どうしてそこまで……!」

「それもちょろっと言ってたじゃんー。……やすっちもね、夢を諦めかけたことがあるんだ」


だから放っておけなかった……その通りと頷くと、菜々ちゃんが頬を緩めて。


「菜々ちゃん、これからだよ!」

「みくちゃん……」

「会社に言われたからって、それが何!?
未来や菜々ちゃん達が大事にしていること……みんなに認めさせてやるにゃ!」

「――――はい!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


菜々さんの問題も無事に解決。

CPは改めて外殻メンバーを迎え、舞踏会を纏めていくことになりました。


ただ、その前に――棚上げになっていた美城常務や乗っ取りの話を、改めてすることになって。


『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』


さすがに事務所内で話すのは危険と判断して……なんと、なんと……765プロの方に、呼んでいただいてぇ!

律子さんや社長さん、赤羽根さん……もちろん恭文さんも交えて、大まかな状況を説明したところ……それはもう、ヒドい悲鳴が響いて。


「じゃああれですか! もうアイドルの菜々達には、どうしようもない感じと!」

「常務に乗っかったら、いつ乗っ取り絡みで飛ばされるかも分からんと!」

「なんてはた迷惑な疫病神たい! その上、ガンプラマフィアに狙われる危険もあるって!」

「そっちは僕の方で上手く理由を付けて、網を張っている。
……今回765プロに招待したのは、みんなに第一種忍者としてお願いがあったからだよ」

「仁奈達に、お願い……ですか?」

「怪しいことがあったら、すぐに教えてほしい……教えてくれるだけでいい。
その場合一番危険なのは、やっぱり美城のアイドル≪子ども≫達なんだ」

≪現に第七回世界大会では、未成年のタツヤさんにもやらかしてましたからねぇ。こちらとしても目が多いと助かるんですよ≫


そういうことならと、仁奈ちゃんも……菜々さん達も、顔を見合わせ頷き合う。


「分かりました! 菜々もカフェのバイトがありますし、目を光らせておきます!」

「仁奈も何かあったら教えるでごぜーます!」

「ありがと。
……乗っ取りの話に戻るけど、こっちはもうどうしようもない」

「ただ、それは不安材料が取り除かれたってことでもある。
どういう形であれ、美城常務の治政は十年ちょいが限度だ。346プロはその後に備える期間なんだよ」

「仮に常務との闘争に勝ったとしても、後のことは新会長や新しい上層部が組み直すと……」

「でも……私達もそれなら、姿勢を示さなきゃって……思います……」


……すると、智絵里ちゃんがそう呟いてきて……。


「智絵里ちゃん?」

「私、この間……レナさんが言っていたこと……違うって、思うんです」

「……うん」

「あ、あの……否定しているとかじゃ、なくて……その……ごめん、なさい」

「謝らなくて大丈夫だよ。何がどう違うのかな」

「……確かに、常務さんも悪いことを……しているって思います。みんなを不用意に怖がらせて、巻き込んで。
だけど……私達だって、同じでした! でもいろんな人に叱ってもらって、戦い方を……少しずつ、教えてもらって」


そう……それが私達CPの軌跡。

私達は最初から、私達じゃなかった。


みんなの力があって、転がりながら……なんとかここまでやってきて。


「だから、常務さん達が負けたら追い出すなんて……絶対、違うと思います!
もしそれが……今、私達がどうしても進んでしまう道のりなら……戦うべきです……!
そんな、誰が決めたかも分からないルールと……それに従うしかない、私達の限界と!」

「ちえりん……でもそれは」

「……私、思うんです」


すると智絵里ちゃんが……驚くべきことを言いだした。


「常務さん……自分が、美城を引き継ぐつもり……ないのかな……って……」

『えぇ!?』

「……もし常務さんが……本当に、日高舞なんて象徴を……崇拝する人なら……。
私達の部活も……認めないんじゃ、ないかな……って……」


…………最初のあれですか!

そうです、そう言えば説明では一応納得していました!


「いや、だが……会長ともどもこちらへ来たとき、彼女達はその話をしていたんだ」


そこで同意してきたのは、高木専務さんだった。

えっと、社長さんのいとこらしくて……とてもそっくりなんですけど。


「さすがにそれは……」

「でも……今西部長……追い出し部屋に、入れました……よね……」

「あぁ……最初にやらかしたアレだよね」


それならとても鮮烈で…………そう、鮮烈だった。

だからこそ見過ごしていた”可能性”に、今更気づいて。


「…………ちょっと……ちえりん!」

「そう言えば部長さん、言ってたよね。会長さんから常務さんを助けるようにって……」

「それは逆に考えれば”猫の鈴”だ。
まさか、美城親子にもまた何かあるってのか?」

「それは、分かりません……。
でも……ちゃんと、駒を……盤面を見て考えないと……失敗するって、思うんです……」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


安部菜々を筆頭としたバラエティー組は、CP預かり……上手く逃げたと言ったところか。

とはいえそれは、こちらにとっても好都合。失態を犯した課長達には、処分を下す必要もないか。


「……しかし、ここまで理解が浅いとはな」


だがそれはそれとして……つい一人、執務室で愚痴ってしまう。


「アイドル部門は、歴史ある美城の一角。となればその成果も、所属するアイドルも、相応の質が問われる。
一人一人の個性に合わせてなど必要ない。それでは時間がかかりすぎるし、何より答えは元から一つ。
……輝かしいお城には、輝かしいお姫様……それだけでよいというのに」


その筆頭が日高舞。

だからこそ父も、伝説の再臨を狙っている。


そして私は――。


「これでは、見つけられそうもないな」


正直予想外だった。

まさかここまで、部門が……本社の人間がぬるま湯に浸かっているとは。

手元の資料……めぼしい候補者を見比べるが、どれもこれも大した石ではない。


「いっそのこと外部から……いや、それでは父に気取られる」


これでは、あのバイトプロデューサーの方が百倍マシ……いや。

彼女の才能が、経験と努力が、並みいる大人達より際立っている。そう言うべきだろうか。


……その選択も考えておくべきかもしれない。


「一体どこにある」


もう時間は残されていない。


私は結局、愚かな後継者だった。

自らの夢に邁進する余り、王としての役割を放棄してしまった。

だからもう、割り切るしかない。だからせめて、私の手で見つける。


「美城を受け継ぐ、新たな王の器……一体どこだ」


私の手でこのアイドル部門を立て直し、力を示し……そうして、玉座を器に明け渡す。

私が選ぶ後継者ならば、なんの問題もないと父に、美城に示す。


私が目指すのは、再臨などではない。……新たな伝説の創造だ。


(Next Stage『Gasp Gal』)








あとがき

恭文「というわけで……こっちでも……こっちでも言われたぁ! 幽霊だってぇ!」

フェイト「ヤスフミ、落ち着いて! そこはいいから!」


(もうどうしようもない)


恭文「というわけで、こちらでも…………幽霊、幽霊……幽霊……」

フェイト「どうして自分から振り返っちゃうのぉ!?」

恭文「なお、ウサミンゼクターは変身というよりマスコット……」

フェイト「本当にいつ作ったの!?」

恭文「ジャンクパーツを組み合わせたんだって」


(麺斬りもできます)


恭文「それで次回は……既に四分の一は書き上がっていて」

フェイト「というか、シーンを追加していったから、尺的に切った部分だよね……」

恭文「そうとも言う。
……それでフェイト、ONILANDも無事に終わり、高難易度も令呪ありきでクリアしたけど」

フェイト「あ、うん……カルナさんが、どがんって」


(神性特攻は便利)


恭文「FGOは1500万ダウンロード突破記念帰還に突入!
トップでも書いたけど、いろいろ楽しいことが待っているよー!」

フェイト「やっぱり注目は、アビー(アビゲイル)が一年ぶりにピックアップされるのと……星4サーヴァント一体配布だよね」

恭文「ストーリー召喚限定のサーヴァントももらえるので、この機会にイロイロ……とは言うものの、うちのカルデアはそれほど選択肢があるわけでもなく」


(ジークフリードは宝具レベル5になったし、カーミラさんは宝具レベル4。
ニトクリスやエレナ、段蔵ちゃんに宗矩様もいるし、剣ランスロットもいる。
アサシン・パライソもこの間のシトナイピックアップで出た……ミドラーシュのキャスターもゲットしている。
実はケイローン先生もゲットしたし、パールヴァティーの宝具も重なっている)


恭文「三年もやっていると、それなりにねぇ……。
アストルフォやマルタさんも宝具が重なっているし……。
限定ありなら、是非ヒロインXXを重ねたいんだけど」

フェイト「となると……。
ランサー・アルトリア(オルタ)か。
ワルキューレか。
ギルガメッシュ(術)?」

恭文「……金ぴかをこういう形で初獲得は、ネタとして迷いもあったけど……この機会にいくしか……!」

凛(渋谷)「ケイローン!」

恭文・フェイト「「ひゃあ!?」」

凛(渋谷)「ケイローン先生しかいない……そうだ、今獲得できなかったら、一生かかる……!」


(しぶりん、ケイローン狙いに絞った模様です)


卯月「私は……茨木ちゃん、宝具レベルマックスですし、誰にしましょう」

白ぱんにゃ「うりゅー?」

茨木童子「ならばシトナイだ!」

卯月「星5だから駄目ですよー!」

茨木童子「がーん!」


(何をもらうか考えるのが、一番楽しい時間です。
本日のED:UVERworld『CHANGE』)


百合子「恭文さん、デートをしましょう!」

恭文「いきなり何を言っているの!?」

百合子「ONILANDという遊園地があると聞きました! 生すかでまたデートスポットの紹介とかするかもしれませんし、練習もかねて」

恭文「……百合子、それはえっと……あと八分で閉園する」

百合子「え……」

恭文「閉園、する」

百合子「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


(おしまい)





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