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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Stage08 『Hazardous Hope』


今西部長の行動は予測できた。

昨日……いろいろと手を出してくれたからな。


「――それと、一つ忠告をしておこう」

「忠告? 部門に不穏をまき散らした、戦犯のあなたが」

「君が外部の人間……美城の血筋以外から、後継者を探していることは分かっている」


しかも、私の真意までまで気取られていた。

つい顔をしかめると、今西部長は勝者の如くほほ笑んだ。


「なぜそんなことをするんだね。会長は君に、この会社を引き継いでほしいと考えている」

「……私にはもう、次代の王を産む力がありません」

「まだ諦めるには早いだろう。君は三十代だ。
今からいい相手を探せば、三年後には」

「何より私は、美城の柱足る新たなアイドルを育てたいと考えている」

「それも上手くできるさ。
会長と我々も支援する……そのために、私も再び力を得たんだ」

「あなたがこうして返り咲く体質そのものが、美城の問題点と考えています」


……本当に……本当に腹立たしいが……郷三郎氏の仰る通りだった。


「何より美城がより成長するためには、新しい風が必要でしょう」

「その風を、君自身が起こせばいいじゃないか」

「一時吹く強風では意味がない。……もう、次代に備えるときなのです」

「だから、会長の願いを踏みにじるのかね。父の願いを」

「伝説の再臨など生ぬるい。
今ここに、新たな栄光を築き上げたいのです」


……認めるしかなかった。

私自身が一社員として、美城の中を見てきて、強く実感したことだった。


「……どうしても、認めてくれないのかね」

「現にCPやあなたの件で、美城はその悪しき体質をさらけ出した」

「私は彼女達についても、仲間として受け入れてほしい……そう言い続けただけだ」

「つまり、私に……そしてあなたが迷惑を掛けた部下達に、嘘の謝罪をしたと?」

「美城常務……」

「ならばあなたのことなど信用できない」


払うには荒療治が必要だ。


確かに、悔しさはある。

叔父の言う通りだった。私は後継者としての職務を、貴重な時間を放棄した。

私自身、もっと意地を張らずに、上手く人生を設計していれば……だが、悔いても時間は戻らない。


……結局私は選んでいたんだ。

美城を継ぐことより、あの日憧れた輝きを……いや、それ以上のものを、この手で作り出したい。

それがあの日の私のように、焦がれ、見上げ、一つの指針として……夢の階として、未来に続く。


私はそんな……そんな”夢物語”を、形にしたくて仕方ないのだと。


……ゆえに折れるわけにはいかない。

こんな体たらくが続くような会社では、夢の受け皿としても不適格だ。


「――どうか考え直してほしい」


今西部長は、私の拒絶に対して、そんな甘い言葉をぶつける。


「会長も現役でいられる時間は、それほど多くない。
せめて最後に我々で……あの黄金時代を知る我々で、あの方の夢を蘇らせるんだ」

「過去の遺産にしがみつき、甘い汁をもう一度吸う……そんな卑劣な感情に流されるほど、今のビジネスは甘くありません」

「これはみんなのためにもなることだ。会長も、私も、そう確信している」

「今のあなたに……それを引っ張り上げる父に従うくらいなら、叔父に身売りした方がマシだ」

「馬鹿を言っちゃいけないよ。会長は君に美城を継いでほしいと」

「既に叔父もそのつもりで、水面下で動いているようですから」

「なんだと……」


……どうやらその話は知らなかったらしい。

ならば、こっちとしては好都合だ。


「……君は、まるで今の部門のようだ」


今西部長は私の言葉を受けても、哀れむようにため息を吐いた。


「会社の仲間だというのに、その意識もなく、利害関係のみを追い求め、心ではなく理屈で接する。
冷たく小さい……とても脆い砂上の楼閣だ。なぜもっと、家族や仲間が示す未来を信じないんだね」

「あなた方のやっていることは、仕事でもなんでもない。ただのおままごとです」

「そのおままごとのような優しさが、今の部門には必要なんだ。
そうして一つになり、新たなステージへ進む……その道を、君が示すんだよ」

「……」

「大丈夫。君は美城を受け継いでいいんだ。
会長もそのための指針として……彼女の再臨を望んでいるのだから」


今西部長はため息交じりに、再三の最終警告を飛ばしてくる。


「どうか、そのお心を……家族を裏切らないでほしい」


その上で、被害者ぶった空気のままで出ていった。

そうして場の空気が静かになっていくのと反比例して、私の感情は高ぶり……!


「……!」


……誰もいなくなった執務室で、一人拳を握り、デスクに叩きつける。


「俗物が」


その言葉が、その行動が、会社を私物化しているとなぜ気づかん。

……そうは思うものの。


「……もう無駄なのだな」


ため息交じりに、下らない未練は吐き捨てる。

このままではズルズルと……今だけ、今だけだからと甘えて、停滞していけば、本当に美城は……!


「……さて、どうする」


今は大人しくするしかない。

切り札についても、今は見せない方がいい。あれはいざというときの手段だ。


今西部長ももうろくはしているが、こちらにも相応の目を光らせているはず。

悟られてはいけない……さすがに、赤子や可愛らしいペットにまで迷惑をかけるのは、私の信条に反する。


そうだ、ならば大人しくするしかない。

防護策は打ってはいるが、それでも今は…………ふ。


「何を言っているんだ、私は」


それは結局のところ、”普通であれば”という話じゃないか。


「手立てならある」


上手く出し抜く手が一つだけある。

私の力を示し、味方を作り……その上で、奴らを糾弾する手が――!


あとは、私が自分のプライドを……自分の意地を、どれだけ捨てられるか。


「それも……問題ない」


改めて自分に問いかけたが、すぐに答えは返ってきた。


「何も……何一つ、問題はない……!」


なにせ時季外れの反抗期に浮かされ、実の親に中指を立ててしまったばかりだからなぁ。

プライドを捨てるくらいのこと、問題なく実行してくれる……!




魔法少女リリカルなのはVivid・Remix

とある魔導師と彼女の鮮烈な日常/美城動乱編

Stage08 『Hazardous Hope』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


前回のあらすじ――。


「――CP臨時プロデューサー、園崎魅音、前原圭一、竜宮レナ……君達に同盟を申し込みにきた」


突然CPの控え室にやってきた美城常務が、とんでもないことを言いだした。


「現在私は、新たなアイドルユニットを……打ち立てた方針の指針となる王冠≪クローネ≫の始動準備に取りかかっている」

「クローネ……」

「そのユニットを、是非舞踏会に参加させてほしい」

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』


そうしてまた、嵐を巻き起こす――。

とても大きな嵐を、この美しき城に。


「待ちたまえ……美城常務、どういうことかね」

「そ、そうだよ! 常務さん、きらり達の……というか、CPや今までの方針、駄目ーって感じだったんじゃ!」

「それは否定しない。だが統括重役として、今更舞踏会を中断されても困るのだよ。
普通に開催して失敗したならともかく、なんの成果も上げないまま……相応の金もつぎ込んだ上で立ち消えなど、大損失だ」


美城常務はつかつかとこちらへ近づき、腕組みしながら愉しげに笑う。


「監査部長殿は、我々の不和を解消するがゆえに、そんな無茶を仰られている。
となればそのご不安を解消するため、我々は相応に利用し合うべきではないか?」

「……いいでしょう。
CP臨時プロデューサー・園崎魅音の名に置いて、その申し出は前向きに検討させていただきます」


ちょ、魅音さん即答…………じゃないですね。

検討だから、まずは考える……その後ろ向きな返答に、美城常務は拍子抜け。


「検討か……」

「いやー、さすがに外殻メンバーやプロデューサーさんに相談なしってのも、
筋が通ってないしねー!」


そ、そうですよね。

さすがに今までの経緯もありますし、勝手にっていうのは……。


「決断速度が遅いのは問題……と言いたいが、それで舞踏会が瓦解しても私が困るな。
いいだろう。竹達プロデューサー達への説明は、私も参加させてもらう」

「ありがと。
圭ちゃん、すぐみんなに連絡。会議の手はずを整えるよ」

「分かった!」

「……待ちたまえ」


でも、圭一さんはそんなのガン無視。

すぐに備え付けのパソコンについて、メールを制作し始める。


「待ちたまえ……そう言っているじゃないか!」

「あなたの指示に従う必要性は、どこにも感じませんが」

「監査部長として命令は出した。君達は会社の一員として、それに従う義務がある。
美城常務、君もだ。ここは我々を信じ、その指示に従ってほしい」

「お断りします。処罰したければどうぞご自由に」

「なぜだ……昨日も話したじゃないか。これはみんなのためになることで」

「何より……」


……そこで常務が……表情と視線に怒りを載せ、今西部長を睨み付ける。


「……私との約束を違え、自らの不徳を背負うことからも逃げた貴様など……誰が上司として認めるか――!」

「……!?」

「常務、それは余りにも暴言が過ぎます!
部長は職務を持って、その不徳を払おうと頑張っています!」

「その前に通す筋があると言っている。
そもそも彼女達に、頭の一つも下げていないだろう」

「それなら、下げていたじゃありませんか!」

「自分の我がままを通すためだろう? 謝罪は何一つしていない」


な、なんですかこれ……なんで、敵同士で喧嘩している空気に?

というか美城常務、こんなキャラだったんですか!? やっぱり智絵里ちゃんの言う通りですかー!


「もう一度だけ言う……これは、監査部長としての命令だ。舞踏会は必要ないんだ。
ただ君達が常務を受け入れ、仲間となるだけでいい……その姿勢が皆の目を覚ましてくれる」

「よく理解できた。だからこそ貴様は赤子同然なのだとな」

「なんだと……」

「……あなた達のせいで大迷惑を被ったのに、話を聞いてもらえると思ってたんですか?」


だから、つい口を開かずにはいられなかった。


「そもそも、あなたのせいでプロデューサーさんまで巻き添えを食らったのに……それを謝りもしないで、人の悪口!? ふざけているんですか!」

「そうだよ! 莉嘉も納得できない!」

「その件を解決するためにも、どうか頼む。
君達が常務に力を貸してくれるのなら、きっと彼も」

「お断りにゃ! それでPくんを人質に、言うことを聞かせようなんて……卑怯だよ!」

「そんなことはしてない。なぜそう……君達まで曲解を重ねるんだね」

「……あなた達の言うことが、自分勝手な嘘だからです」


私や莉嘉ちゃん、みくちゃんに続いたのは、かな子ちゃんだった。


「そんな嘘に踊らされていた自分が、本当に恥ずかしい……!」

「かな子ちゃん……みんなも落ち着いて! どうしてそうなるの!?
……みんな、部長さんには助けられてきたでしょう? だからもう一度信じてあげてほしいの。
プロデューサーさんのこともちゃんとするから……だから、ね? そんなふうに疑わないで」

「お断り、です……!」

「智絵里ちゃん……!」

「こんなのは嫌です……。突然あんなことを言って、みんなを怖がらせて……まずそこが許せません……!
ううん、許しちゃいけない! それは、私達も犯してきた過ちだから!」

「緒方君、それも今言ったじゃないか。
竹達くん達が間違っていたんだ。君達が彼らの影響を受けることはない。
……仲間というのはもっと優しく、そして寛容なもので」

「だったらあなたは、最初から仲間なんかじゃない!」


智絵里ちゃんは激昂し、脇に控えるレナさんを見やる。


「私は、レナさんから……みんなから、教わりました……! 仲間になるって、とっても難しくて……でも、楽しくて。
竹達さん達も、同じです。仲間なら、ただ許すだけじゃなくて……叱って、手を伸ばす勇気も持てって……教えてくれました!
そんな……そんな人達の悪口を、みんながいないところでコソコソ言うような卑怯者、仲間じゃない……!」

「みんな、いい加減にして! これは会社の判断なの! だったらまず、その判断を信じて!」

「その通りだ。だから、聞いてくれ……そうでなければ、君達は」

「美城を去れというのなら、辞めます……」

「なんだと……!」

「智絵里ちゃん!」

「あなた達の言いなりにならなきゃ、アイドルになれないなら……。
”私達の仲間”をそうやって馬鹿にするなら……!
私は……そんな人達のプロデュースなんて……受けたく、ありません……!」


そう、それが総意……それが答え。

その意志を全員の沈黙でぶつけると、今西部長が、信じられない様子で打ち震え始める。


……そんな権利もないのに。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……確かに、私は……彼女達に迷惑をかけた。

だがそれでも、守ろうともしてきたはずだ。

武内くんのことは、私も不服だった。何とかしたかったのに、できなかった。


そうだ、彼女達が私を恨むのは必然だ。

だが、だが……それを取り返せるだけの力を、ようやく手に入れたんだぞ……!


「君達は、正気かね。
これは千川くんが言うように、会社の判断だ。
それに従えないというのなら、本当に」

「二度も言わせないでよ、今西部長」

「本田くんも落ち着いてくれ。
……私は、何も難しいことは言っていない。
ただ常務と融和を結び、共に新しいものを作ってほしいと」

「嘘吐き! 古いアイドルの真似っこの、どこが新しいの!?」

「新しいんだ。会長はそう判断したし、常務もそれが必要だと言っていただろう?
……君達は社のスタッフだ。だからそれを信じ、我々が示す頂きを目指してほしい。
大丈夫……仲間と一緒なら、きっと君達は限界を超えられる。君達はそれに怯え、足踏みをしているだけなんだ」

「だからあり得ない復活を遂げたあなたみたいになれと? お断りです」


島村くんは私の言葉を鼻で笑い……とても鋭く、憎しみも込めた瞳を私に向ける。


「島村くん、君はアイドルになりたかったんだろう?
だから養成所で一人ぼっちになっても、必死に耐えて」

「えぇ」

「だったら、そんなことを言うものじゃないよ。これは君がより輝く道でも」

「だからって”みんな”を踏みつけた……あのときのほしな歌唄やイースターの同類になんて、従えません」

「それは、違うよ!」

「違いません!」


なぜ、そんなことを言うんだ……!


「自分の都合でみんなを振り回して、夢や希望も踏みつけて……あなた達は悪です!
それも自分が悪だと気づいていない、もっともどす黒い悪! そんな悪を、私は許しません!」


あとは君達の協力だけなんだ。

君達が常務と手を取り合い、我々が示す再臨の礎となれば……それが新たな指針となる。


会長はそう考えていたのに……私も、それが正しいと考えていたのに……。


「……もうさぁ、面倒だから納得してよ。私達はロックにレジスタンスだって」

「多田くん……そんなことをする必要はないんだ。まずそれを理解してくれ」

「こんな不当かついい加減な人事が通る会社、いつ辞めたっていいよ」

「それも誤解だ。君達は年若いから分からないかもしれないが、私は正当な流れでこの場にいる」

「胸を張れるの?」

「あぁ」

「それは、私も保証するわ。会長の命令だもの」

「じゃあ世間に問いかけてみようか」


……その言葉には、千川くんともどもゾッとさせられた。

それは、安部くん達を引き込むときにも使った手……!


「君達は……会社を……我々を、脅すというのかね……!」

「どこが? 胸を張れるなら、世間様にも問題ないって言い切れる……そういう話をしただけだよね」

「多田くん……!」

「ちひろさん、私……脅したかな」

「そ、それは……あの、そうじゃないの。
会社によってやり方があるから、だからそれを知ってほしいという話で」

「そっかそっかー。じゃあ……ちゃんと問いかけないと駄目だね。
お父さん達にもちゃーんと相談しないと」

「やめるんだ!」

「どうして?」


そう問いかけられて、息が詰まる。


「アンタ達が、その口で言ったんだよね。私達がガキだから、分からないこともあるって。
それを勉強しようって言っているのに、なんでそれを、アンタ達が止めるのかな」

「我々は、間違ったことは言っていない! 誰に聞いても同じだよ!」

「そうだっていう証拠はどこ」

「証拠など……我々が、そんなに信じられないのかね!」

「当たり前じゃん!」


…………そこまで、断言されるとは……想像していなかった。


「というかさぁ……家族に相談することすらやめろ!? アンタにそんな権利があるわけないよね!」

「だから、待ってくれ。それは守秘義務というもので」

「今の話のどこに守秘義務が絡むの!?」

「多田くんの言う通りだな。常務としてもそういう発言は見過ごせない……立派なパワーハラスメントだぞ、今西監査部長」

「美城常務!」


彼女達にも……美城常務にも、ここまで手を払われるとは思わなかった。

特に美城常務だ。昨日も誠意を持って、我々が正しいと話したはずなのに。


「この際だからはっきり言うけど、私はCPに入ったこと……何度後悔したか知らないよ。
みくが馬鹿をやったとき、いっそ解体してくれたらって思ったこともある」

「李衣菜ちゃん……!」

「その一番の原因はアンタだよ、今西部長……!
信頼だなんだと薄っぺらい言い訳を並べ立てて、権力でそれを押し通して!」

「だから、待ってくれ……!」

「うちのお父さん達も、何度も言ってたはずだよ! そんな会社は信用できないってさぁ!」

「私は……間違ったことをしているつもりは、最初からないんだ!
それが間違いになってしまう今の部門がおかしい!
それをなぜ君達が……その間違いに踏みつけられてきた君達が、理解できないんだね!」

「もうアンタのズルに巻き込まるのは散々だからだよ! いいや……クズの所業って言った方がいいのかなぁ!」

「――!?」


彼女達なら……私が助けてきた彼女達なら、分かってくれると……信じて、いたのに……!


「李衣菜ちゃん……みんなもいい加減にして! 今すぐ部長へ謝って!」

「だったらまず、アンタ達が私達に……ううん、卯月達に謝ってよ」

「凛ちゃん!」

「私はまだいい! 散々迷惑もかけたし、アンタ達のことはどうこう言えない!
でも、卯月達は……みんなの両親は何度も伝えてきたはずだよ! これじゃあ信用できない……怖くて疑うことしかできないって!
その声を無視して、こんな真似をして、反省もしていないけどもう一度信じろ!? さすがに納得がいかないよ!」

「わたしも……それは、違うって……思います……」

「アーニャちゃんまで……みんな、お願いだから……もう一度だけでいいの! 私達をちゃんと信じて!
絶対、絶対後悔するようなことにはしないから! プロデューサーさんも戻れるように頑張る!
あなた達がアイドルとして輝けるように、全力を尽くす! だから」

「千川くん、もういい……」

「部長!」


こうなっては、もう仕方ない。


「本当に、残念だよ……!」


今は背を向け、その場から立ち去るしかなかった。


「……本当に情けない人」


なのに島村くんからの辛辣な言葉で、足が止まる。


「卯月ちゃん、やめて!」

「まるで子どもの駄々……欲しいおもちゃが手に入らないからって、自分に従わない人達を批難して、反省もできないで」

「やめなさい! どうして大人の言うことが聞けないの!?」

「あなた達が大人だなんて、絶対に認めらない」

「――!」


島村くんの筋が通らない罵倒には、さすがに腹が立ち……振り返り睨み付けると。


「……なんですか、その目は」


…………後悔、してしまった。

彼女はふだんの様子からは絶対に想像できない……鬼の目をしていた。


「あなたももう加害者なんですよ?」


赤く……血のように赤い瞳で、殺気を込めながら私を睨んでいた。


「だったら」


そうして当然だと、それほどに軽蔑して当然だと、その姿勢で物語っていて。


「全力で叩き潰す――!」


その覇気に、その威圧感に尻餅を付き……。


「あ、ああああ……ああああ……………………!」


情けなく悲鳴を上げながら、逃げることしかできなかった……。


……手を、考えなくては。

彼女達が我々を信じてくれる……それが正しいと痛感させる手を、考えなくては。


そうしなければ私はまた、あの末路へ放り込まれてしまう。

それは駄目だ……それだけは、駄目なんだ……!


私にも……守るものがあるんだ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


本当に腹立たしい……!


「卯月……目が……」

「あぁ……これですか?」


また赤くなってるんだ……。凛ちゃんや未央ちゃん達、滅茶苦茶驚いているし。


「あれ以来、時折赤くなることがあるみたいで……お医者さんはオーバーロードの発動前兆って言ってたんですけど」

「いや、みたいって……!」

「しまむーにそんな、中二病要素があるとは……って、そういう問題じゃないかー!
大丈夫なの!? それは大丈夫なの!? 脳に負担とかないの!?」

「大丈夫です。それより……」

「みんな……ヒドすぎるわ!」


それはちひろさんも同じだった。


「部長はあなた達のために、本当に苦心していたの! 結果的に間違っていたかもしれない!
だけど……それでも、守るべき家族がいるの! せめてそれを理解して!」

「どうだっていい」

「ひィ……!?」


さすがに鬱陶しくてちひろさんを睨み付けると、ようやくその……小うるさい口が黙った。


「私達の邪魔だから、根こそぎ叩き潰す……それだけです」

「う、卯月……ちゃ……!」

「何を驚いているんですか。あなた達だって……私達や竹達さん達の理屈をすっ飛ばしたじゃないですか。
……だったら、自分達がそうやってすり潰される覚悟くらい……ありますよねぇ!」


部長も。

会長も。

この期に及んでなお、今西部長を庇おうとするちひろさんも……!


邪魔する奴らは全て叩き潰す。そう断言すると、ちひろさんが顔面を真っ青にして、尻餅を付いた。


「……島村くんの物言いは乱暴ではあるが、正論だな」

「じょ、常務……!」

「幾ら融和を説いたところで、貴様らのそれは一方的……正しく蹂躙だ」

「それは……誤解、です……! あなた達は、恩義を捨て去るんですか!? そんな人でなしが……どうしてできるんですか!
今ここで……受けた恩義を返すために、部長や会長の示す道を進んでいく! それが人として……正しいはずです!」

「黙れって言ったはずですけどねぇ……!」


さすがにあり得なくて踏み込もうとすると、常務が私を左手で……さっと制してくる。


「その恩義のために、会社を傾けるわけにはいかない」

「そのようなことは決してありません!」

「では、ここでそれを証明してみせろ」


常務の毅然とした態度に、ちひろさんが息を飲む。


「は……!?」

「何を驚いている。君は今、明確に”事業プラン”があると曰ったのだぞ?
だったら理路整然と提示できるはずだ。
……舞踏会が継続し、私がそこに参加するとどういう不利益があるか。
またそれらを中止した上で、どういう利益があるか。
キチンと数字を示し、将来的にどういった効果があるか……さぁ、話してくれ」

「そんな、理屈の話はしていません!
人と人との信頼が大事だという、当たり前の話をしています!」

「つまり君は、感情論だけで会社の事業を……金を動かしていいと、そう思っているわけか」

「ですからそうじゃありません!
今はお金の話など関係ないんです! まずそこを理解してください!」

「甘ったれるな、三下が――!」


そう、甘ったれだ……。

なのにそれすら理解できないちひろさんは、自分が被害者と言わんばかりに、更に困惑して……。


「今西部長に守る家族がいる? だから配慮しろ?
笑わせるな……その家族がいながら、守る努力を怠ったのは奴だ」

「なん、ですって……!」

「よくそんな逆ギレができるものだ」

「訂正……してください! 私はもちろん、今西部長も逆ギレなんて」

「している。
君もそんな今西の”駄々”を当然にしたからこそ、職を追われたと理解しろ。
……今、”使い捨ての駒”となっているのもな」

「――!」


使い捨ての、駒?

え、それだと今西部長も…………魅音さんを見やると、”そういうことだ”と頷きが返ってくる。


「ここが分水嶺だぞ、千川ちひろ」

「どういう、意味でしょうか……」

「私に付くか、部長達の金魚のフンで終わるか……もし後者の場合、島村くんの手を患わせるまでもない。
この私が、部長ともども徹底的に叩き伏せる。無論アイドル業界で今後働けるとは思わないことだ」

「なぜ、そこまでするのですか……!」

「そこまでしなければ、貴様らのようなだだっ子を会社から叩き出せないからだ」


明確に宣言した。

常務は今西部長達を……会長達を、追い出したいって……!


さすがに衝撃過ぎて、ついみんなとざわついてしまう。


「我々は、そこまで……愚かだというのですか――」

「あぁ、愚かだ」

「我々は、本気です。全力を尽くすと約束します……それでも――!」

「それで一体、幾ら稼げるんだ」

「あなたは、それを示せると言うんですか!
それが信頼し合うことより……受けた恩義より大事だと、本当に言い切れるんですか!」

「当然だ。
……私は、”恩義を受けたこともない人間達の人生”も背負っている」


でも一番衝撃を受けているのは、ちひろさんで……。


スケールが違う。

結局身内のことしか見ていない連中とは、人間の器が違う。


少なくともこの人が、本気で社を思っているのは……よく分かった。


「う……!」


だから涙をこぼし、ぼう然としながらも立ち去ろうとする。


「答えは保留か。それでもいいが……次に行動を起こすときは、覚悟しておくことだ」

「――!」

「保身であろうと、崇拝であろうと、私はその意義を問わない。……それは忘れるな」


その念押しに何も答えず、ちひろさんは控え室から出ていった。

ドアがぴしゃりと閉じられたところで、美城常務が大きくため息。


「すまなかったな。こちらのごたごたに巻き込んでしまった」

「あ、いえ……」

「……ただ、事情は聞かせてもらえるかな」


さすがに納得がいかないと、凛ちゃんとアーニャちゃんが一歩前に出る。


「その示すってのが嘘じゃないなら……私達だけじゃなくて、部門全体に届けてほしい」

「そうです! 常務、昔のアイドルみたいな……素敵な星、作りたいって言った! 嘘だったですか!?」

「嘘かどうかで言えば……嘘だな」

「……!」

「私が目指すのは、それより遥か上だ」


どうやら事情については、話してもらえるみたい。

改めて周囲の気配に気をつけつつ……いや、ちょっと危ないかも。


「魅音さん」

「皆まで言うな! ……それなら今日は社外学習といこうか! 常務もこのまま付き合ってよ!」

「……一〜二時間程度なら構わないが、どこへ行くんだ」

「バー」

「バー?」

「そう、バー……バーだよ」


バーという表現に、美城常務が訝しげにする。

でも問題なし……なにせあそこがありますから!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


何やら夏は大騒ぎだったらしい。で……秋は秋で大騒ぎだ。

あむの奴が魔法の格闘技大会に出るっていうし、それならばと楽団にはちょっと長めの休みをもらった。

というか、渡航関係の手続きで一度日本に戻る必要があって……次いでだから母さんに親孝行もしろと、みんなに追い出された。


一応感謝しながらも日本に戻ったら……ちょうど専務さんとも顔を合わせて。

まぁいろいろあったが、もう気にしちゃいないので軽く挨拶したら。


「――それはちょうどよかった」


専務さんはうちのリビングに座りながら、ホッとした様子で声を漏らす。


「それならしばらく、歌唄や奏子さんについていてもらえないか」

「なんだよ、それ。まるで誰かに狙われているみたいな言いぐさだな」

「以前約束した通り……イースターを健全な形で返せる段階になった」


あぁ、そういう……母さんを見ると、その通りと笑顔で頷いてきた。


「ただ、私はもちろん、幾斗さんも、歌唄も、経営関係はさっぱりでしょう?
だから株主として恩恵がもらえる形にして、誰か……信頼できる方にお預けしようと思っているの」

「なら俺も賛成だ」

「大丈夫だろうか。今から身を入れることが条件となるが、君自身が会社を引き継ぐ道もある」

「俺の鍵はそっちじゃない」


俺の鍵ならもうとっくにある……親父のヴァイオリンを軽く親指で指すと、専務さんは自嘲しながら頷いた。


「では、そちらはバニングス社や月村重工の方々にも協力してもらい、慎重に選出する。
その面通しもあるので、やはりしばらくはここにいてほしいが」

「面倒だなぁ……」

「そう言わないでくれ。君は仮にも、イースターの正統後継者なのだから」

「分かっているさ」


旅をしながら、俺も大人になった。

そういう面倒を背負うことも必要なんだと、その一言で納得する。


「でも一之宮さん、お話では少々気になる動きがあると……」

「気になる動き?」

「……346プロというのは知っているな」

「あのどでかい芸能事務所だよな。三条さんが散々ライバル視してたから、忘れられねぇよ」

「その346プロで、君達も経験したような……後継者騒動が近々起こりうるかもしれない」


……さすがにそれは、軽口一つですっ飛ばせない。

つい視線を厳しくしちまうが……これは理不尽か。専務さんが悪いわけじゃあない。


「今だから言えるが、私は君のことが怖かった」

「俺が?」


しかも専務さんから、とんでもない告白が飛んできた。


「私が叩き出した親族達が、神輿として祭り上げる可能性もあった。
……だから恐がり、君をいたぶり尽くした。その命さえ奪ってもよいと考えた。
そうすれば私は、ひかるに最高の遺産を送ることができるから」

「神様か何かかよ……」

「それだけ重いんだ。歴史ある企業の血族は」

「美城も同じとして、そっちの後継者さんは無能なのか? それとも俺や親父みたいな門外漢」

「むしろ有能……だが女性である上、結婚と子育てで次代に備えるべき時間まで費やした。
ただ現会長には弟さんもいらっしゃるし、直系血族自体の途絶は免れるが……その彼らに道を譲るつもりもないらしい」

「で、そのはた迷惑な奴らとイースターがどう繋がるんだよ」

「金融恐慌だ」


……なかなか物騒な話が出てきて、さすがにゾッとした。


「リーマン・ブラザーズの騒動は分かるだろう」

「……そういやあれ、国の助けもなく潰れたんだっけか」

「本来はあの手の企業が潰れると、経済に多大な影響がある。それを防ぐため、国家が予算投入して救済するものだ。
誰もがそう思っていた。リーマンですらそう思っていただろう。……だが、それはなかった」

「一之宮さん、でも……リーマンは住宅ローンとかに絡む会社さんだったから、ですよね。
346プロはあくまでも芸能事務所さんのはずですし、それで」

「346プロ本体はともかく、取り引きしている企業・金融機関が多数存在します。
美城本体の経営が揺らげば、それらが一気に破綻する恐れも」

「ゾッとしねぇな、おい……!」


あぁ、なるほど。だから『しばらく』と念押ししていたわけだ。

それは芸能部門も有するイースターにも絡むかもしれないから、俺がいてくれると都合がいいわけだ。

しかも会社を信頼できる奴に渡そうって大事な時期だ。専務さんも万が一を恐れているんだ。


……現にリーマンは、とんでもない前例を作ってくれているしな。

会社のやらかしが笑えないレベルなら、最終ラインも絶対じゃないってよ……!


「……そういうことなら余計に納得した。好きなように使ってくれ」

「助かる」

「ただ一つ条件が」

「こちらの予定をすっぽかさなければ、好きにしてもらってくれて構わない」


……専務さんとツーカーなのがおかしくて、ついお互いに笑っちまう。


思えばこの未来も、あむや唯世達が開いてくれたものだ。

母さんや歌唄……おじさん達の力添えがあればこそだ。

だったら少し足を止めて、血の義務ってやつを果たすのもいいかもしれない。


今は……専務さんも、俺の夢を応援してくれる一人だから。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ここはガンプラBAR≪やきんどぅえ≫――トオルさんの幼馴染みでもある≪コシナ・カイラ≫ちゃんがバイトをしているところです。


その関係から、ユウキ会長やヤナさん、恭文さんとフェイトさんもよく出入りしていて……それは私達も同じです。

もちろん夜の本格営業時ではなくて、昼間のフリータイムに。

ガンプラ実習とか、会社内でできない秘密の会議とか、こういうところでさせてもらっているんです。


「……いい店だな。
本来は”未成年を連れてくるな”と言いたいところだが」


常務はシックな内装を一瞥しながらも、呆れた様子だった。


「ガンプラ実習と言われると、納得せざるを得ない……」

「バトルが稼働していれば、強い相手もずいずいいたんだけどねー」

「うんうん! あのね、カイラちゃんもガンプラ塾に通っていたから、すっごく強いのー!」

「ではバトルが復活したら、改めて来るとしよう」

「興味あったんだ」

「アメリカでも大人気だからな」


はしゃぐみりあちゃんにも表情を緩めないけど、常務はそれでもどこか嬉しそうに……その切れ長な瞳を閉じた。


「さて……同族経営というのは知っているだろうか」

「それなら、蒼凪プロデューサーから……最近、そこから脱却している会社さんも多いって」

「いろいろ失敗している企業もいるけど、任天堂とかは成功しているんですよね」

「では前提の説明はいらないな。
……結論から言うが、私の狙いはその脱却だ」

「じゃあ……常務さん自身が、美城を引き継ぐとかは……」

「引き継ぐにしても、十年が限度だろう。
そこから先は社の内外を問わず、優秀な人員を探し、任せようと思っている」


それは、乗っ取りを企てているっていう親戚さん達と同じ……。

やっぱり常務さん、その辺りはちゃんと分かっていたんですね。


「じゃあ、なんで……日高舞さんのように……そうなるのが、嘘になりますか?
それくらい素敵な星、目指す……それ、きっとアイドルにとって大事なこと」

「そうして誰かの物まねで終わりたいのか、君は」

「それは……」

「それはあくまでも会長……そして今西監査部長の意志だ。
もっと言えば、日高舞ショックの甘受を忘れられない老害どもの夢想」


それどころか、遠慮なく老害って言い切りましたよ……!


「確かに私も……その一人なのは否定しない。彼女のみならず、同世代のアイドル達が作り上げた黄金時代を取り戻せたらとは、思う。
だがそれは、過去の事例を物まねするだけでは成り立たない。もう一度言うが、私はその伝説を……超える」

「伝説を……」

「君達に提携を申し込んだユニットも、そんな足がかりの一つだ」

「そう思うキッカケって何かな。やっぱりその、年齢?」

「それもあるが……」


凛ちゃんの問いかけに、常務は少し困った様子で……私達を一瞥した。


「一番は君達CPへ行われた、数々の懇意的処置だ」

「みく達が、原因……!」

「もっと言えば今西部長だな。
さっきも触れたが……君達を守りたいのであれば、利益を周囲に示すべきだった」

「莉嘉達を残したら、美城がどれだけ得か……お金を稼げるかってこと?」

「それならば、少なくとも経営サイドは君達を味方する……味方しても致し方ないと判断していただろう。
なのに奴は手を抜いた……個人的感情を取り繕うこともせず、島村くん達が言うように駄々をこねたんだ」


あぁ……そう、ですね……。
つまるところ、これはやっぱり復習なんです。新事実が判明ーって流れでもなくて。

「だから常務は、考えたんですね。
これがCPだけではなくて……社全体に広がったらって」


そう問いかけると、常務は苦々しく頷いてきた。


「そうなれば美城は統率を失い、瓦解するからな。
白紙化計画を打ち立てたのは、それを戒める意味もある。
……無論今西をあそこまでこき下ろしたのもだ」

「部長さんを見せしめとして利用する……ってのも、一面にすぎなかったって感じかねぇ。
アンタの狙いは、明確に部長を主流から外すこと……同時に会長さんの干渉を払うこと。
それと反省なしだった今西部長に、今一度自省を促したかったってところかねぇ」

「……結局無駄だったがな。
今回のことで確信したよ……奴も、会長も赤子同然だと」


知人や親をあえて……赤子だと罵倒した上で、常務は目線を鋭くする。


「……よく”最近の若者は”などと言われるが、実は勘違いだと思っている」

「はい?」

「マナーや常識関係で言えば、むしろ君達のような若者はよく守っているからな」

「それ、サリエルさん……恭文くんの兄弟子なんですけど、そのおじさまもちょっと言っていました。
ルール整備がされた”後”の世代は、それが常識になっているから……そもそも破ろうとする思考がないって」

「その通りだ。
……ゆえに一番マナー低下が目立つのは、そのルールが常識になる以前から生きていた高年齢層……父や今西部長がそれだ。
若者と違い柔軟性もなく、時勢による常識や情勢の変化に適応できず、そもそも現代の社会常識に”適応するつもりがない”人間」

「ま、またキツ……」

「だが実際にあるだろう。ご老体が喫煙などのマナーを守らず、注意した側に暴行を加え、逮捕されるという事件が」


それなら私もニュースで見たことがある。

こう、逆ギレ同然に暴れて、捕まって……反省していなくてーって。

うちのおばあちゃんとかはそういうことがないのにって、実は不思議だった。


「まぁ問題があるとすれば……それが、ただの赤子の駄々にならないことだな」

「……ちひろさん、だね」

「レ、レナさん……」

「あのね、智絵里ちゃん……まず会社の命令だから、従わなきゃいけないって言うのは間違い。
従うべきは『合理的かつ合法的で、業務に関係のある命令』だけなの。これは法律でもキチンと決まっている」

「それ、みりあも勉強した! だから今西部長達、筋が通ってないって……」

「うん、みりあちゃんは正解。
……でもそういうことを判断するのは、とっても難しいの」

「は、はい……私も、実際経営とかはよく………………あ……!」


そうか……レナさんの言いたいこと、分かりました!

私と智絵里ちゃんだけじゃない! 凛ちゃん達も『あ……』って声が漏れています!


「そっか……ちひろさんが、あんなに従っていたのは……」

「そもそも判断できない……判断しようとしていない。
会社の一番偉い人が、上の人が言うんだから、間違いない」

「というか、それっぽいことは言っていたにゃ!」

「でもそれだけじゃないよ。
それが美城のルールとして新しく切り替わったら、そこから後の人達には抵抗が難しい」

「……それを破る思考が出にくいから!」

「結果、スルガ銀行みたいな体たらくをやらかして、会社は潰れるわけだ……」


……私、勘違いしていたのかもしれない。

会社が潰れるとか、壊れるって……そんなに難しいことじゃないんですね。


「本来であれば半年ほどかけて、会長の方針を遵守……するように見せつつ、部門を立て直すつもりだった。
更に私自身もプロデューサーとして成果を示し、上への足がかりを作る。
もちろん社内でめぼしい人間を見つけ、後継として育てる手はずも整えたかった」

「あの、もしかして独自にプロデュースをしようとしていたのは……手駒って言ったらあれですけど、自分の管轄を増やすというか」

「……そうでもしないと、会長がどういう横やりを入れるか……予測できなかった」

「そうして重役……引いては次の社長に納まれば、あとは好きなようにって寸法だったと」

「全て台なしとなったがな」


魅音さんの言葉に頷きながら、常務は大きくため息。


「初手で今西部長を払ったのが失敗だったね。あれで疑われたんでしょ」

「部門メンバーの心情を考えた、致し方ない犠牲と伝えたんだが……我ながら短気が過ぎた」

「まぁ気持ちは分かるけどねー」


あぁ、それなら私も分かります。

あのおじいちゃん、いつ常務のためーって暴走するかも分からなかったし……というか、現時点で暴走していますし。


「……でも、日高舞より上ってマジ?」

「時代も、業界のノウハウも以前よりずっと進んでいる。
ならばより高みを目指すのが必然というものだ」

「それはそれは……」

「笑いたければ笑え」

「いやいや、むしろ気に入っているんだってー」

「どうだかな」


それで魅音さんと常務さんは、やっぱり馬が合うのか……隣同士、顔も見ないままそんな軽口をたたき合って。

もう親友と言わんばかりの空気に、私も……レナさん達も、ついほほ笑みを送っていた。


「でもまぁ、そういう事情なら了解ー。
改めて竹達さん達とも相談して、受け入れ体制は整えるよ」

「助かる。こちらも……もう意図を隠す必要もないので、部門全体に改めて方針を通達する。
今西監査部長殿の横やりについても、防護策が必要だからな」

「敵の敵は味方……まずはそこでよろしくって感じだね」

「なのでこれだけは言っておく。
私は今のところ、君達のおとぎ話を認めてはいない」

「それも問題ありません」


そんなことは分かっていると、笑いながら断言。

それで常務さん、とっても驚いた顔をされて……。


「私達も利を示しますから。細かいお話はその後ってことで」

「そうか……」


でも、そんな私の軽口にも何か納得がいったようで……スタスタと、お店の玄関へ歩いていく。


「仕事に戻らせてもらう」

「気をつけてね」

「あぁ」


そのまま常務さんは出ていって……私達はつい、気が抜けて大きくため息。


「つ、疲れたわね……」

「みなみんに賛成ー。……でも、これで図式はハッキリした」

「常務も改めて自分の方針を打ち出すし、後継者問題については……沈静化して、お願い……!」

「凛ちゃん、懇願ですか……」


……実際は激化するでしょうけどね。

会長さん達がそういう思わくで、赤子なら……手段を選ばないかもしれませんし。


「でもでも、会社のトップが相手なんだよね! このまま権力ですり潰されるーとかは」

「ギリギリでラインは残っているよ。美城常務と同盟が組めたしね」

「死なば諸共で人質ってこと!?」

「違う違う。そんな卯月みたいなことはしないってー」

「魅音さんー?」


あれ、おかしいなー。私に対して、今凄い誤解のボールが飛んだようなー。

ちょっと気になって笑顔で手招きすると、魅音さんはなぜかファイティングポーズを取り始めた。


「そうじゃなくて……ほれ、やすっちが調べてくれた話もあるでしょ」

「やっくんが? …………あ、もしかして!」

「そう……株だ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


CPに……彼女達に手ひどい裏切りを受け、その足で会長に現状を報告する。

……常務が会長の……我々の期待を、家族として通すべき筋を違えたことを。


「そうか……」

「申し訳ありません……。すぐに、説得の手はずを整えます」

「どうするつもりだ」

「全ては竹達くん達や、あの臨時プロデューサー達の入れ知恵でしょう。
なので彼らにその責任を問い、厳正に処罰します」


そうでなければ、あれだけ素直だった……純粋だった彼女達が、竹達くん達のように悪逆へ染まるはずがない。

理屈に囚われ、信頼を忘れ……私があの僻地で感じた、部門の冷たさに飲まれるはずがない……!


目を覚まさなければならない。

彼女達はこのままでは、アイドルとしての輝きを失うのだから。


「そうすれば舞踏会も瓦解するしかありません。ご安心を、会長……」

「今はやめておけ」

「は……!?」

「やめておけと言っている。残念だが、舞踏会はこのままやらせるしかない」

「お待ちください! なぜですか!」

「馬鹿か、貴様は」


会長は私を呆れ気味になじり、大きくため息。


「常務が……敦実が郷三郎達の方に付いたらどうする」

「ですから、それも説得をすれば」

「もっと言えば、敦実の持ち株だ」

「持ち株…………あ!」


そうか……私としたことが、裏切りの衝撃で失念していた。


「敦実がCPへの参加をわざわざ……お前達の前で表明したのは、そういう理由だ」

「本当に脅迫……好きにやらせなければ、郷三郎氏達に与すると……!?
でしたら余計に、今すぐ説得を! そんな馬鹿なことはやめるようにと!」

「それで通じるなら、お前の話で引いていたはずだろうが」

「それは……でしたら、会長自ら」

「あれは一体何が気に食わないのか、私と口も聞こうとしない……」

「そもそも聞くつもりがないと……!?」


……美城常務はオーナー一族の直系として、会長に並ぶ大株主となっている。

会長が三十パーセント、常務が二十五パーセントを分けて持つ形となっている。

本来ならあり得ないことだが、それだけ常務に寄せていた期待と信頼が大きいということだ。


つまり常務は、それすらも脅迫の材料とし、部門を私物化しているんだ……!

なんと卑劣な……そうまでして、なぜ親すらも裏切ることができるんだ。


「ですが」

「……時期を待て、今西。
逆を言えば、今CPと敦実を守るものは……敦実が持っている株だけだ」

「何か、手が打てるでしょうか」

「チャンスはある。
なんにせよ敦実の改革は性急でもあるからな……」


そこで付け入る隙があれば……常務とCPの結託を、結果的に破壊できれば、我々の誠意は彼女達に届けられる。

そういう流れなのは理解できたので、いろいろな疑問は飲み込み、静かに一礼。


「承知いたしました。監査部長として、彼らの動向には気を配っていきます」

「頼むぞ。……それと」

「なんでしょう」

「お前をその役職に据えた意味、キモに銘じておくことだ」

「もちろんです」


美城は……会長は、今まで仕え、尽くしてきた王は、私の示す道を認めてくれた。

今の冷徹な部門には、真なる信頼と情愛の融和が必要だと理解してくれた。

ゆえに私は、ここにいる。彼らにその間違いを認めさせ、正しき道を示すために。


そして……私の家族を守るために、ここにいる。


もう失敗はしない。必ずこの事業を成功させ、恩義に報いなければ。


「――た、大変です!」


すると、千川くんが慌てた様子で戻ってきた。


「どうしたんだね、千川くん……というか会長の前なのだから」

「美城常務が、部門全体に緊急通達を!」

「緊急通達?」

「はい! それも……我々が会社の害悪であるかのような内容で!」

「なんだって……!」


――守りたかったものが、崩れていく。

家族を、今まで仕えてきた長を守りたい。

冷め切った理屈だらけの部門を、それを構築する皆を、本当の信頼に導きたい。


そんなささやかなものが、崩れていく……壊されていく。

それも、守るべき彼女の手によって――!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


とても、とても衝撃的な一夜が終わりを告げ……。


「……で、莉嘉さんに八つ当たりだと論破されて、情けなく泣いたと」

「うん……!」

「親御さんに庇われて、しくしく泣いたと」

「うん!」

「しかも莉嘉さん、一晩経っても見る目が冷たかったと」

「謝ろうとしたけど、無視……された」

「それはあなたが悪いからですよ」


竹達さんのオフィスで話を聞いてもらったところ、なんの慰めもなかった。


「で、石川に話を聞いてもらおうとしたけど、やっぱり無視されて」

「アタシの裁量でやるって言ったのに、今更泣きつくのは……卑怯だって……」

「それもあなたが悪いですね。
……人身御供を自分で選んでおきながら、今更泣き言って」

「でも、どうしたらいいか……もう分かんないのぉ!」

「だからって担当外のプロデューサーに泣きつかないでくださいよ……面倒くさい」

「面倒くさい!?」

「美城常務からあんな通達も出されたのに」


そう……わけが分からないのは、美城常務も同じだった。

竹達さんはため息交じりに、一斉送信されたメールを見ていた……見続けていた……。


「それ、具体的には……どういう話なの?」

「あなたもメールを受け取ったでしょ」

「内容がぶっ飛んでて、パンクしてるの……! というか、メールで通達することなの!? これ!」

「そういうことなら気持ちは分かります。各部署も大混乱でしょうねぇ……」


よ、よかった……そうだよね、そうなるよね!


今西部長が、監査部長……統括重役より上の役職で懇意的に復職したこととか!

その目的は”日高舞の再臨”という、美城会長の悲願を達成させるためとか!

常務は統括重役としてある程度の意向を組み、現状に沿う形で改革を進めるつもりだったとか!


でも……監査部長の横やりで無理になったこととか!

その責任を取り、同時に部門を一つにまとめるため、CPと提携を結び、舞踏会成功に尽力するとか……ぶっ飛び過ぎているしぃ!


「これ、完全に今西監査部長と会長へのリコールですよ」

「どうしてこうなった……」

「そこは前原さんからのメールで経緯説明をされました。
どうも監査部長……というか会長は、舞踏会を中止するよう命令したそうです」

「なんで!?」

「日高舞という”究極のアイドル”を再臨させる……そのための白紙化計画なら、それを否定するプロジェクトは邪魔なんですよ。
で、美城常務は会長達の意向を”そのまま通されると”困るから、敵性勢力であるはずのCPに協力することを決めた」

「だからなんで!? 常務もCPが邪魔だったんじゃ!」

「それ以上に会長達が邪魔なんでしょうねぇ……。
なにせ目的が日高舞の物まねアイドルですから」


竹達さんはまたため息……そうして見やるのは、メールじゃなくてアタシだった。


「でもあなたみたいに、物まねすら通せない子もいるんですよねぇ」

「アタシは、物まねのつもりなんて……」

「そうでしたね。物まね以下……正しくマネキン」

「な……!」


さすがに納得できなくて、ソファーから立ち上がるけど。


「違うと言うなら答えてください。あなたはこの仕事で、何を表現したかったんですか」

「それは……コンセプト通り、大人の」

「あなたはどんな大人になりたいんですか」

「アタシのことは、関係ないじゃん!
大人の化粧品だから、ちゃんと大人のイメージで」

「あなた自身にそのイメージがないのに、どうして写真に反映されるんですか」


……その問いかけに、アタシは何も答えられなかった。


「何より、完全な大人向けじゃあない。大人向け化粧品への入り口でしょ?」

「……うん」

「だったら今のあなたにピッタリのはずなのに、どうしてイメージが見えていないんですか。
……答え、教えてあげましょうか」


竹達さんはそれを見抜いて、触れられたくない部分に容易く触れてくる。


「それはあなたが……莉嘉さんが言ったように、”好きな服だけきてアイドルをしたい”だけの半端物だからですよ」

「う……!」

「そりゃあ莉嘉さんも泣きたくなりますよ」


それどころか遠慮なくボールを……それも剛速球を、顔面に連続で投げつけてきて。


「莉嘉さん、最初はお怒りだったらしいですよ?」

「……例の、園児服」

「でもそれは、自分が着るのが嫌って意味じゃありません。
学校だって設定だったのに、関係者に通達もなく変更したことですよ。
……そういうのが駄目だって、美城常務にも叱られたばかりなのに」

「じゃあ莉嘉は……」

「そこはきっちり言った上で、頑張ってたらしいです。
……ディレクター達が猛省していましたよ。あそこまで本気なら、自分達もへらへら遊べないって」


なのにアタシ……そっかぁ。

莉嘉が踏ん張って、意地を張って……それでもって頑張ってたのに、踏みにじったんだ……!


「アタシ、やっぱり駄目な奴なんだぁ」


もうなんの反論もできず、膝を抱えて蹲るしかなかった……。


「その通りです」

「莉嘉にも口げんかで負けちゃうし、姐の威厳ゼロになっちゃうし……石川や竹達さんの言う通り、半端なものしかできなかったしぃ!」

「ちょっと、”妹に八つ当たりした”ってところが抜けているでしょ。
そのサイズ詐称のバストを揉み揉みしながら叫びなさい」

「なんでぇ!?」

「罪とはそれくらいしなければ、拭えないものなんですよ」

「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!」


……なんでだろう。

なんで、こんなに怖いんだろう。

そんなの決まっている。大人になれない……変われないって言われているみたいで、辛いんだ。


アイドルなのに……前に進めないって、突きつけられて。

莉嘉は、前に進もうって頑張っているのに。なのにアタシは……!


「なので荒療治です」

「へ?」

「撮り直しまでの三日間、この人が面倒を見てくれます」


竹達さんはアタシの心情を読んだ上で……両手をぱんぱんと叩いてきた。


「お願いしますー」

「失礼するよー」


すると入ってきたのは…………恭文だった。


「……って、恭文ぃ!?」

「美嘉、僕のメイドさんをやってもらうから」

「はぁ!?」

「大丈夫、ご両親の許可は取っている」

「どうやってぇ!?」

「……お前が莉嘉に情けなく負けたから、すっごく素直だったぞ」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


ショウタロスの補足で、つい頭を抱えてしまう。


「え、あの……あの……」

「……えぇ、そのせいですよ。城ヶ崎さん」

「そもそも莉嘉がお前に激怒したのも、初めてだったんだろう?
それも仕事絡みとなると、手出ししていいのかって困り果てていてなぁ……もぐ」


それはつまるところ、手に負えないって放り投げたのではぁ!

なにそれぇ! アタシ、どんだけ厄介に思われているのー!


「まぁ落ち着いてよ、美嘉」

「そうそう……落ち着いてください、城ヶ崎さん」

「落ち着けないし! え、何……どういうこと!? そもそもなんでメイドさん!?」

「だってあなた、常々言っていたじゃないですか。恭文くんが男性の理想体型だと」

「それは言っていたけどぉ!」


いや、ショタコンとかじゃない! ちっちゃい子に偏執的な愛情とかじゃない!

ただ、その……普通の男の人って大きいから、こう……がばーって来られたら、やっぱ怖いかなーって……うん……。

恭文ならアタシよりちょっと小さいくらいだし、顔立ちや体型もほぼ女の子だし、そこまでじゃないから……理想かなって!


だから違う! そういう偏執的なものはないの! ただあたしが…………恋愛経験とか、ない、だけで……!


「だから僕の側でこき使おうって話よ。よかったね、美嘉」

「それちょっと怒っている反応じゃん!」

「怒ってないよ?」

「じゃあこの状況は何!?」

「「……」」


すると、大人二人はとてもいやらしく笑った。

あぁ、分かった……。


これは、いわゆる無茶苦茶ってやつだ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……もっと強くならなくちゃ。


強い人達に従うことでしか……それを信頼という膜で包んで、誤魔化し続ける今西部長達。

そんな人達に抗ってでも……誰を敵に回してでも、理想を貫こうとする常務さん。


対極的とも言える二人の姿を見て、以前……古手梨花ちゃんがしてくれた話を思い出す。


「強い意志には、同じだけの意志が必要……」

「かな子ちゃん?」

「気分、悪いのかな」


卯月ちゃんと凛ちゃんが心配そうに声をかけてくるので、大丈夫と手を振る。


「あの、気分が悪いとかじゃないの。……古手梨花ちゃんがしてくれた話、思い出しちゃって」

「……静岡で、かな」

「そう」


買い出しに出たカイラちゃんと店長さんが戻るまで、留守番を頼まれた私達……。

仕事の方も大丈夫ではあるんだけど、だからこそというか……ちょっと思い出して。


「今西部長達も甘えて、間違ってはいると思う。
だけどその気持ちが強いなら、私達にも同じだけの強さが必要になる」

「それなら私達だって負けません! あんな甘えた人達には」


卯月ちゃんはガッツポーズを取るけど、すぐに大きくため息を吐く。


「……とは、いきませんよねぇ……」

「そうだよ、卯月。
それなら常務が反旗を翻した時点で、勝負は付いている」

「もちろん、私達が拒絶した時点でも……」


だから、梨花ちゃんの言葉を思い出して、自分を奮い立たせていた……。


「だから、私も強くならなきゃって……杏ちゃんもいないなら、しっかりするのもプラスで」

「じゃあさ、CANDY ISLANDの活動はどうするの?」

「それもありました! 常務にも方針を立てるようにって言われていますし!」

「……どうしようかぁ……!」

「「先行き不明!?」」

「あの……それなら、大丈夫……みたい……」


そこですっと近づいてきたのは、おトイレに行っていた智絵里ちゃん……それに、やたらと胸を張っている魅音さんだった。


「ですよね……魅音さん」

「そうだよー! 智絵里にはさっき、トイレを一緒にしたがてら説明したんだけど……かな子、アンタは智絵里と一緒にテレビへ出てもらう!」

「私達が!? え、それってとときら学園」

「そのVTR出演……外に出てのインタビューだ!」

「インタビュー!?」

「あの、園児服は着ないそうだけど……外で、いろんなところでお話を聞くとか、そういうお仕事みたい……」


わぁ、本当にテレビに出る人みたい……って、テレビだから当たり前かー!

でもよかった……! 園児服を今の年齢で着るのは、さすがにキツい!


「ついさっき、スタッフさんから連絡が来て、決まった仕事だ。
まずはそれを足がかりに、コンビでの選択肢を増やしていく」

「後は、私達の頑張り次第……」

「そうだよ、かな子ちゃん……!」

「わりとあっちこっち行ってもらう感じになるから、予習もしっかりね」

「「はい!
……あ、でも……」」


そこでつい、智絵里ちゃんと声を揃え……震えながら、魅音さんに確認を取ってしまう。


「……い、いきなり予定が変わることとかは」

「クイズだと思ったら、アトラクションゲームとか……!」

「……前の番組収録がトラウマなんだね」

「常務さんも問題視するくらい、ヒドかったですしね……」

「今回は大丈夫だよー。というか、莉嘉ちゃんがばしーっと言ってくれたおかげで、綱紀粛正っぽい感じになっているから」

「「よかったぁ……」」

「というわけで、これが初回の資料ね」


魅音さんから資料を渡され、智絵里ちゃんと一緒に手早くチェック……えっと。


「江戸切子……」

「確か、伝統工芸の」

「いわゆるカットガラスだね。職人さんへのインタビューもあるから、きちんと予習しておくように」

「もちろんです!」

「部活の流儀……目指す勝利のため、努力は惜しみません……!」

「よろしい」


満足そうな魅音さんには、全力を尽くすと改めて約束……とはいえ。


「でも江戸切子って名前だけで、実際に見たのも……覚えがないけど」

「私も……となれば、かな子ちゃん」

「取材前に現地調査だね」

「うん……!」

「かな子、智絵里、頑張ってね」

「応援してます!」

「「ありがとう」」


強くなる……今よりももっと、強く……強く。

信じるために、信じ合うために、まずは私という札を鍛え上げる。


……泣き虫で甘ったれのお姫様じゃあ、夢を掴むことなんてできないから。


(NextStage『I pass through』)







あとがき

恭文「というわけで、お待たせしました! いろいろ纏めていたら時間がかかったー。
……常務が予定より早く反旗を翻し、会長一派との衝突状態に突入。
そこで鍵となるのが、常務の持っている株……果たしてこの闘争の決着は」

卯月「会長達を暗殺とかは、駄目ですよ?」

恭文「卯月……」

卯月「そんな目をしないでください! 違います違います! あの、最近魅音さん達とやった推理ゲームでそういうのがー!」


(ゴルゴ13っぽいのが出てきたそうです)


恭文「というわけで、お相手は蒼凪恭文と」

卯月「島村卯月です! ……恭文さん、いよいよ今年のFGOクリスマスイベントがきますよ!」

カルノリュータス・カスモシールドン「「カルカスカルカスー♪」」

卯月「あれ、カルノちゃん達がはしゃいで……」

恭文「サンバだから、テンションが上がっているのよ」


(キョウリュウジャーを思い出すようです。
カルノ達もそれにバージョンチェンジしたアイディアももらったしね)


恭文「でも今年は例年以上に狂っている……あらすじから狂っている……!」

卯月「クリスマスでサンバで、ケツァルさんがルーラーサンバですからね……」

恭文「もうこの際暴れん坊将軍が召喚されてもおかしくない」

卯月「落ち着いてください!」

恭文(OOO)「いや、そこはお兄ちゃんでしょ。なにせそのサンバを映画で踊っていたし」

卯月「火野さんも落ち着いてくださいー!」


(というわけで、仮面ライダーOOOの話でした。
本日のED:KNOCK OUT MONKEY『RIOT』)


恭文「今回はRIOTってる話が書けた……ふぅ」

卯月「どんな動詞ですかぁ!? いや、ひっちゃかめっちゃかでしたけど!」

恭文「でも美城常務、相当腹に据えかねたんだろうなぁ。
こんなリコールしたら、社内情勢も悪化するだろうに……」

卯月「でも分かりやすくていいです! あとは潰すか潰されるかですし!」

恭文「卯月……」

美城常務「……君は、少し落ち着いた方がいいぞ。
じゃないと私みたいに行き遅……いや、なんでもない」

卯月「恭文さんに引かれるのは心外なんですけどぉ!? というか常務までー!」


(おしまい)







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あきゅろす。
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