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小説
花見酒2
イギリスさんが来てから音沙汰なくなり、太陽が半分と少し沈んだ頃。

ガラッ

「邪魔するぜ」

「日本、イタリア!遅くなってすまない!」

「お待ちしておりましたよ、ドイツさん、プロイセン君」

意外と軽装で現れた2人は両手に持ったスーパーの袋を酒置き場へと置く。中にはうちのビール…あれ?こちらで調達したんですか?

「だってこんな重いもん持って歩くとか苦行じゃん」

「いいんですか?うちのビールで」

「日本のビールも旨いぜ!もっと誇っていいぞ、俺様が保証してやるぜ!」

「はあ…?ありがとうございます…」

なんだか分からないですが褒められたようで。とりあえず頭を下げておきます。
プロイセン君は満足そうに頷いて机の上に並んだ料理に嬉しそうに声を立てる。

「すげーじゃんこれ!こっちはイタリアちゃん、こっちはフランスか。これは中国?」

「ええ。あとスペインさんとロマーノ君も作って来るようです」

「酒もかなりあるな。おっ、これはショーチューだろ!」

「前回気に入ったようでしたのでご用意しました」

「おいヴェスト、ショーチューあるぞ!一緒に呑もうぜ!」

「ああ、分かったから兄貴、落ち着いて。貴方は子供か」

ウッヒョー!なんて声を上げてテンション急上昇中のプロイセン君を無理矢理座らせ、すまないとドイツさんは頭を下げる。私はそれに気にしていないと返し、今現在の人数を伝えた。

「なんだ?全然集まっていないではないか!」

「はい、そもそも企画及び主催のアメリカさんに連絡が着きません。携帯の電源が切れているのか、まったく応答せず…」

「何をやっているんだ、あいつは…。
ふむ、あといないのは…」

思案顔になったドイツさんに、メモを見ながら連絡が着いた人を読み上げる。

「スイスさんは少し遅れるとのことで。リヒテンシュタインさんもご一緒です」

「坊っちゃんとハンガリーは一緒のはずだぜ。トルテ焼いて持って来るってよ」

「ロシアさんからウクライナさんとベラルーシさんも遅れて来ると聞きました」

「あとは北欧と…おいイタリア!」

「なーにー?」

ドイツさんの呼びかけにイタリア君が台所から顔を出す。唇の端にソースが付いており、またつまみ食いをしたみたいです。

「お前、…ポーランドは来るか聞いてるか?」

ドイツさんは少し言いにくそうにポーランドさんの名前を出す。そう言えばドイツさんはポーランドさんに嫌われていましたね。だから苦手なのでしょうか。
一方のイタリア君はほんわか〜と笑顔で頷く。

「来るって言ってたよ〜。ポーランドものすごくマイペースだから、遅れて来るんじゃないかな〜」

「げっ、じゃああいつも来るじゃん」

「リトアニア?来るんじゃない?」

あの2人ほんと仲良しだよねーとイタリア君は台所へと引っ込み、入れ替わりでフランスさんが両手に皿を持って出てきた。

「ぷーちゃん遅いじゃない?あとすごいテンション高いね」

「メシウマの飯が目の前にあれば普通テンション上がらねぇ?」

「まあ分かるけど。そんなぷーちゃんにこれをキャドー(贈り物、プレゼント)♪」

フランスさんが差し出した皿の上には一口サイズのデザート。1つ1つ可愛らしい串が刺さり、食べやすくしてある。みんな1つずつどうぞーとロシアさん達にも渡す。

「わっ、可愛いねぇ♪」

「でしょーっ!」

「フランス、シー君食べてもいいですか?」

「いいよー」

「やったです!ほらイギリス、お前にはシー君がウサギさんを選んでやったですよ!」

「イギリス、ほら、受け取ってやんなよ」

「お、おう」

フランスさんの催促にイギリスさんはシーランド君からウサギの串を受け取り、おずおずと口に運ぶ。イギリスさんがもぐもぐする横でシー君はマリン(船の錨)ですー!とシーランド君がはしゃいでいた。

「どう、イギリス?」

「…うめぇ」

「美味しいですよ!シー君のはイチゴでした!」

「うん?オレはレモネードだった」

「ボクはハチミツだよー。ほら見て、熊さん」

ロシアさんの串には困り眉の熊が。その後ろではアジア勢が口を動かしていた。

「オレはマロン的な。あとスターがかっこよくね?」

「私はお花ダヨ、コーヒー美味しかった!」

「オレはコーラだったんだぜ!ヤオンイ(猫、ニュアンス的にはにゃんこ・にゃーにゃ)マンセー!!」

「韓国!おめーはうるせーあるよ!法国、我にも寄越すよろし」

「はいはい、どうぞ」

「もちろん我はパンダある!かわいーあるー、この串欲しいあるよー」

「それはうちの商品ですので、ぜひ買って下さい」

「日本のあるか…」

中国さんはジットリと私を見つめる。…見たってタダであげませんよ。
これチョコレートある…と溜め息混じりに呟く中国さんの背後から、イタリア君がサンドイッチがこれでもかと積まれた大きなバスケットを抱えてきた。それを机の上に置いて、オレもちょーだい!と皿へと手を伸ばす。

「日本ほらほら見てー、ハートだよ♪」

「イタリアちゃんに良く似合うぜ!ほらヴェスト、お前には犬をやる!」

「そう言うプロイセン君はひよこですか?」

「小鳥さん!」

「あっはい」

ほらどう見ても一緒だろ〜、とプロイセン君は肩に止まる小鳥さん(ひよこ)と串の飾りを並べる。…いや私はどちらもひよこに見えるのですが…。まあ確かに似ていますから、そうですねと頷いておきます。

「(むぐむぐ)俺様リンゴ!」

「オレさくらんぼ〜」

「うむ…オレンジだな」

「私は…」

可愛らしい串に迷って手をうろうろさせ、長く悩んだ挙げ句選んだのは桜で。口に含むとまずクリームの甘味が口いっぱいに広がる。続いて柔らかな塩味と甘酸っぱい香り。これは…。

「…桜?」

「そう!正解!日本の家でお花見やるならサクラのお菓子作らなきゃって思って。日本すごいね、よく引けたね!」

「運が良かった…でしょうか」

「そうだよ、サクラは1つしかないから。全部味が被らないように作ってるんだ」

「フランス君、お疲れ様ぁ」

「ロシアありがと♪」

にこにこ笑うロシアさんの頭に手を伸ばし、フランスさんは優しく撫でる。
あらあら、浮気なんてするとアメリカさんに怒られちゃいますよ?
そのアメリカさんはまだ来ません。本当にどこで何を…。

ガララッ

「遅れてすみませーん、日本さん、いますかぁー?」

「おい日本、塩鮭持っでぎだぞ」

「塩鮭!フィンランドさんにノルウェーさん、と言うことは」

「みんないるっぺよ!」

「だない」

「ダン、うるさい」

わらわらと北欧の皆さんがそれぞれお酒やおつまみを手に入ってきた。皆さん私服で…って、私北欧の方々の私服初めて見たかもしれません。
スウェーデンさんデンマークさんはジャケットをきっちり着ていますが、ノルウェーさんアイスランドさんはお揃いの色違いのニットでかなりラフ。フィンランドさんは…。

「…かなり…その…、ええと…?」

「日本、お前がらもっど言っでぐれ」

「…なしてお前はそれを…」

「これかっこいいじゃないですか!すごくロックでメタルな感じでしょっ」

「ロックでメタル…」

フィンランドさんは少々幼い顔立ちをしている(自分のことは棚にぶん投げる)。そのフィンランドさんはなんと言いますか、こう…だ、ダメージジーンズ?のジャケット版みたいな黒い服に、同じようなズボン、靴はええと…なんですっけこれ?スパイク?が付いていてその…。

「すごく…パンクです…」

「違いますっ、ロックでメタルです!」

「おめの頭ん中がパングだ」

「もう!ノルウェーさんまで!」

フィンランドさんはぽこぽことお怒りです。…最近はすごいですねえ、若い人のことは爺はよく分かりません…。
とりあえず上がってもらおうと酒瓶を回収、そろそろと焼酎に伸びていたプロイセン君の手を叩き、北欧の皆さんを席に着かせる。…やっぱり皆さんフィンランドさんに食い付きますね…。

「おい爺、まだ始めないのかよ?」

「もうしばらくお待ち下さい、夕焼けの桜は綺麗ですが、夜もまた息を飲むほど美しいですよ」

「オレ達あんまり花や月見て酒呑まないからなぁ」

「オレ知ってるー、そう言うのハナヨリダンゴって言うんでしょ?」

「まあ確かに、花よりは美味しい食べ物の方が良いかもしれませんが…」

「でもサクラが浮いた酒は格別だぜ?ニホンシュで呑むのがいいんだ」

なあ日本?とイギリスさんは嬉しそうにコップを並べ始める。ニホンシュは氷入れない方がいいんだぜーと前に私が教えたことを周りに喋っていた。

「器と酒自体は冷やすけど、氷を入れない方が旨い」

「ショーチューは入れるよな?俺様前入れて呑んだ」

「いえ、入れないで呑む方もいますよ。お酒に強い人とかそのままの味を楽しみたい人とか。日本酒に氷を入れる人もいます。要は好みです」

「じゃあオレは氷入れようっかな〜」

「氷と言えば、もうそろそろ固まりますね。崩しますか?」

「溶けちまうからあとででいいだろ。
つか、アメリカ遅いんだよ!どこで油売ってやがる!」

ぎぎぎぎぎ…とイギリスさんはカタカタと机を指で叩く。
…もう太陽が見えなくなりますね、もうアメリカさん抜きで先に始めましょうか。遅れて来ても大丈夫なように、どんどん追加で食べ物は用意しますし…。

「…それでは皆さん、アメリカさんが来ないので先に始めてしまいましょう。フランスさんやイタリア君には悪いのですが、アメリカさんのために料理を作らなくてはならないのでお酒は控えめに…」

「ヴェー、兄ちゃん達も来てないからしょうがないねー」

「ったくあの子は…!カナダはいつもスローペースだからいいとして、なんで自分で主催して遅れるんだか…」

「まったくです」

「もうアメリカとかいいから酒呑もうぜ!ほれヴェスト、お前はどれがいい!?」

「そうだな…やはり最初はビールだな」

「シー君はジュースね」

「メロンソーダがいいです!日本、ありますか?」

「はい、冷蔵庫に…」

私の開始の言葉にわらわらと酒が配られていく。私の前にはイギリスさんが注いだ日本酒が置かれ、柔らかく波打つ。そっと夜風が吹いて、夜桜を揺らした。
ひらりひらりと花弁が舞う。

「それでは失礼して…」

コップを高く上げて。

「…乾杯!」

「「乾杯!!」」

様々な言語で放たれた"乾杯"の言葉を皮切りに、皆の手が料理へと伸びていく。既に2杯目を注ぐ人もいた。庭のシートに降りる人もいる。
…アメリカさん、早く来ないとなくなっちゃいますよ?





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あきゅろす。
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