小説
花見酒
「にほーん、遊びに来たよー!」
暖かな風が吹く春。本日は「日本の家で桜が咲いているから」との理由で会議後、私の家に花見へと集合しました。まぁ企画と主催はアメリカさんで、私は場所提供しただけなのですが。
桜が舞散る中、イタリア君が背中にバッグ、両手に袋と大荷物で歩いてくる。各自お酒やおつまみを持って集合(急なことで私が準備出来ていない)をかけているので、お料理好きなイタリア君はたくさん持って来たようです。
「イタリア君大丈夫ですか?私も持ちましょう」
「大丈夫だよ〜、チーズとかだからそんなに重くないし〜」
「…私の記憶ではチーズは重いのですが…」
「切ったやつだから重くないよ?
あ、兄ちゃんはスペイン兄ちゃんと来るって。先にいくつか調理して来るってさ」
「あらあら…申し訳ないです…」
アメリカさんが今日ではなく例え昨日にでも話して下さればなんとかご用意出来ましたのに…あとでお説教コースですね。
私が頭を下げるとイタリア君は慌てたように袋を持つ手を振る。
「良いんだよ、オレ達料理好きだからさ!だから日本は今日は座ってなよ〜、あとでアメリカはドイツに叱ってもらうから」
「いえ、私も簡単なものは作りますよ。説教も自分でしなければ気が済みません」
「ヴェー…じゃあ一緒に作ろっか!」
キッチン借りるよーとイタリア君は大荷物のまま歩いて行く。後を追おうと振り返るとこれまた大荷物のフランスさんが目に入った。
…と言うか、こちらの方が多くありません?
「やあ日本、キッチン借りていい?」
「もちろん!…また大荷物ですね」
「アメリカとかアメリカとかアメリカとかいるからたくさん作ろっかなーって」
「対アメリカさん用ですかそれは…」
「うん。タダでさえ日本に迷惑かけてるのに食事まではねぇ。あとで怒っとくから許してあげて」
ごめんねーとフランスさんは眉を下げる。
…アメリカさんはフランスさんにお任せした方が効果出ますかねぇ。お仕置き(意味深)とかしてくれそうですし。
「…ではアメリカさんのことはお任せします」
「メルシー。じゃあまたあとで」
眉を下げた顔のままフランスさんはよたよたと台所へと向かう。…大丈夫ですかねぇ。
花見会場は私の家。庭に面した部屋を開放、ついでに襖を開けてぶち抜き、縁側も全て取っ払い庭の桜が見えるようにする。庭にもシートを引いて大人数に対応。大きな机も複数用意しました。
これなら大丈夫でしょう(心配)。
「日本くーん、こーんにーちはー」
「ロシアさん、ようこそ我が家へ」
取り皿をまとめていると玄関からよっこいしょ、とロシアさんの声がした。慌てて向かえばはいこれー、と酒瓶が入った袋を渡される。
「お酒持って来たよー、こっちは暖かいねえ」
「ようやくこちらも暖かくなりました。
お酒はこちらへまとめて置いておきましょう、机には今料理が運ばれてきますから」
「イタリア君?フランス君?それとも中国君?」
「3人とも、です」
私の答えにロシアさんはわあ、と嬉しそうに笑った。
「楽しみだなぁ」
「私もです。
ロシアさんはこちらで座ってて下さい、宴会が始まったら(どんちゃん騒ぎで)座るところがなくなっちゃいますから」
「はーい」
ロシアさんは子供のように大人しく返事をし、先に集まっていたアジア勢へ加わる。
…もうすぐ夕方になるのにアメリカさんはまだ来ませんね…。
少し不安を覚え連絡をしようかと思案していると、台所から苛ついた中国さんの怒鳴り声とイタリア君の叫び声が聞こえた。
「日本、台所狭いある!こいつらどうにかするよろし!」
「ヴェー!そんなに怒んないでよー!ちょっと肩当たっただけじゃんー!」
「ああ、ケンカしないで下さい!出来上がったものから食卓に出しましょう、そうすれば少しはスペースが空きますから!」
「じゃあ運んだ方がいい的な?」
「私達運ぶヨー!」
私の悲鳴を聞いていたのか、香港さんと台湾さんが軽々と料理の乗った皿を運んでいく。1人我関せずだったフランスさんが驚いたように声を上げる。
「いやー2人とも力持ちだねー」
「むしろこれ重いとか貧弱っつー」
「私達の家の方がお皿も料理も大きいネー、これくらい軽いヨー」
「つか、センセイ他の人に迷惑かけないで下さい的な。マジ恥ずかしいし」
「お前じゃあるまいし、迷惑なんてかけてないある!」
「もうその発言がダメですヨ、老師(せんせい)」
はあ、と大皿を持ち上げながら台湾さんが溜め息を吐く。その台湾さんにイタリア君がハートを飛ばして声をかける。
心無し顔が引き締まりイケメンモードです。
「チャオチャオ!台湾今日も可愛いねぇ!
今度オレとお茶しない?美味しいドルチェのある店知っててさあ!なんだったら君のためにパスタ茹でるよ、もちろん愛を込めて!」
「こら意太利(イタリア)、うちの妹にちょっかいかけんなある!」
「イタリアさん不好意思(ごめんね)、私最近忙しくて中々遊べないヨ。次のお休みは女子会やるってハンガリーさんと約束してるし」
「なにそれ交ざりたい」
「法国(フランス)も黙るある!」
ニヤニヤとするフランスさんを鬱陶しそうに中国さんは肘で押し退け、台湾さんの背中を押す。またネーと台湾さんは部屋へと皿を運んで行った。
「ところでフランスさんは何を作っていらっしゃるんですか?」
「一口サイズのデザート。甘いワイン持ってきたからそれに合うように作ってる」
「オレもあとでジェラート作ろうっと♪兄ちゃん1つ頂戴!」
「つまみ食いは…」
「おい日本、いるか?」
「イギリスさん!」
ひょいとクリームの乗ったクラッカーを口に運んだイタリア君をたしなめようと口を開くと、背後からイギリスさんの声が。振り向くと申し訳なさそうに玄関に立っていた。
「その…遅れて悪ィな…」
「いえいえ、そんなことありませんよ」
「これ、ご所望の紅茶。オレブレンド」
イギリスさんが手提げから出したのは、私が頼んでいたイギリスさんブレンドの紅茶。なるべく短時間で濃い味の出るようブレンドしてもらいました。酔い醒まし、あとお酒の飲めない人用。
「それと、紅茶に合うジャムを。あとはスコッチやラム酒…カクテル用に」
「本当にありがとうございます。お忙しい時にお願いしてしまって申し訳ありません」
「そんなことねーよ。むしろアメリカが迷惑かけてごめんな」
「それは…説教係がいるので」
私が含みを持たせて言うと、イギリスさんはすぐに察したらしい。眉をひそめて不快感を表す。
「…髭来てんのか」
「ええ、すでに。今おつまみ作ってもらっています」
「…ッチ」
イギリスさんは小さく舌打ちをする。それに応じるように、台所から聞こえてるよとフランスさんの声が聞こえた。その声を無視してイギリスさんはキョロキョロと周りを見回す。
「アメリカは?」
「それがまだなんですよ。イギリスさんはお1人ですか?」
「いや、シーランドも一緒に…って!あいつどこ行った!?」
「イギリスこっちですよ!」
イギリスさんの問いに明るい声が料理の並んだ部屋から答えた。ひょこっと顔を出したのはシーランド君。既に上がっていたようです。
「イギリス早くこっち来て下さい!すげーですよ、お料理がいっぱいあります!」
「お前は勝手に…!」
「イギリスさんもどうぞ、上がって下さい」
「ああ日本ありがとうな。
…こらシーランド!人ん家に勝手に上がんな!」
イギリスさんは自分の靴を揃えるついでに脱ぎ捨てられたシーランド君の靴を揃え、私に頭を下げながら部屋へと向かう。部屋の向こうでは嬉しそうなシーランド君の声が響いた。
それを微笑ましく思いながら今現在の参加人数を数える。
「…ええと…まだ1/3もいませんね…」
アメリカさん…ドイツさんもプロイセン君も…あと北欧諸国…。ああ、ロマーノ君もまだ…。
「…間に合いますかね?」
舞い散る桜をオレンジに染めながら、太陽はゆっくり沈んでいく。
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