小説
花見酒3
太陽もすっかり姿を隠し、春の肌寒い風が吹く頃。宴会が始まってすぐ、スイス・リヒテンシュタインさん組とオーストリア・ハンガリーさん組が一緒に来た。なんでも空港で会ったとか。
「ああ、遅刻などお恥ずかしいことを…!」
「遅れてすまない。チーズの選定に時間をかけてしまってな…」
「はい日本さん、トカイの貴腐ワイン」
「はっ!またこれは貴重なものを!」
「チーズと菓子パンです。お兄様と私の手作りですので…お口に合いますでしょうか」
「ありがとうございます、きっととても美味しいと思いますよ。
皆さん、上がって下さい。今ちょうど始まったばかりですから」
部屋に入るとすでに大騒ぎになっていた。主にプロイセン君がロシアさんに絡む絡む。ちなみにロシアさんは半泣き。
完全にいじめの現場です。
「こらプロイセン、その恥ずかしい姿を晒すのをおやめなさい」
「あぁん?…お、坊っちゃん来たのかよ?おっせぇなぁ!」
「出来上がるの早すぎよ。ほら、お水あげるから絡むのをやめなさい」
ハンガリーさんは水の入ったコップを手にプロイセン君を拘束。はい飲んでーと笑顔で水をぐいーっと強制的に飲ませる。続いて平手1発。小気味良い音が響く。
「目が醒めた?」
「…はい」
「そう。なら荷物の片付けを手伝ってくれないかしら?」
「…喜んで」
片頬を赤く腫らしたプロイセン君は素直に頷く。だからおやめなさいと言ったのに、と隣でオーストリアさんが呆れていた。
「あといないのは…アメリカさんは置いといて、ロマーノ君、スペインさん、ウクライナさん、ベラルーシさん、ポーランドさん、リトアニアさん、他は?」
「カナダ」
「ああ、カナダさんですね。…連絡着きます?」
「それが出ないのよ。オレからの電話は必ず取る子なのに…いつも遅刻する時は連絡くるから、おかしいな…」
「まあカナダの場合、まだ準備終わって飛行機の中の可能性は否めないが…」
カナダさんは保護者2人からこんなに心配されているのに、アメリカさんは全く心配されていないのがまた…。普段の行動の結果でしょうか。
「ヴェー…ポーランドに連絡してみる?」
「お願いします」
友人の遅刻に心配になったのか、イタリア君がケータイを取り出し、操作して耳に当てる。聞こえてくる数回のコール音。
ブチリと繋がった音が聞こえた。
「…あ、ポーランド?今どこに」
『イタリア!?マジ日本ヤバイ、どこ見てもピンクとかヤバくない!?』
「えー…あー…」
『サクラ!ちっちゃくてマジ可愛いし!これうちにも欲しいんだけど!!』
「そうだね〜、オレも欲しいな〜。
…リトアニアいる?いたら代わって」
『うん!
リトー!イタリアが代われってー!』
ケータイから聞こえる興奮した声。普段なら全く問題なくお喋りを始めるが、さすがに長話は出来ないと(珍しく)判断したイタリア君がリトアニアさんを要求。すぐに電話口に出た。
『…はい、リトアニアです』
「リトアニア?今どこ?」
『えっと…日本さん家のすぐ側ですかね…』
「すぐ来れる?」
『…ちょっと無理かな』
「わかった、オレ行くから動かないで待ってて」
『あっはい…』
通話を切ってすぐさまイタリア君は立ち上がる。怒って…はいないですが困り顔でした。
「ちょっと迎えに行ってくるね〜」
「オレも行くか?」
「ドイツ行ったら逆効果じゃないかな…。フランス兄ちゃん、マカロンたくさん、ピンク多目に用意しといて!」
「はいよー」
よろしくー、と笑うイタリア君にひらひらと手を振るフランスさん。…食べ物で釣る作戦ですか。確かに効果はありそうです。
「ポーランドったらお兄さんの作るお菓子に目がなくてねー」
「うちの紅茶も大好きだぞ、レモンティーにしやがるが」
「うちのお饅頭好きでしたね、確か」
「私のタルトもよく食べてくれましたよ」
「ボ、ボクだってピロシキ美味しいって言ってくれたよ、あの子」
それぞれがポーランドさんの好きな物を羅列していると、玄関が騒がしくなる。イタリア君の声が聞こえると言うことは…。
「本当に近所にいたのだな…」
「ええ、本当に」
玄関口を見ると、お喋りに花を咲かせたイタリア君とポーランドさんがいた。その後ろに、えーと…喉元まで出かかっているのですが…えーと。
「日本さんすみません!かなり遅れちゃいました!」
「あ、いえ」
「リトは気にし過ぎなんよ。日本がこんなんで怒る訳なくね?」
「お前は少しは気にしようか!」
ぺしーんと弱い音で叩く、そう!リトアニアさんです!忘れてなんていませんよ、ええ!
「リトいたーい」
「痛い訳ないだろ、全くお前は…」
「2人共、ケンカしてないで上がろ?フランス兄ちゃんがお菓子用意して待ってるよ」
「フランスのお菓子!」
「ああ、いつもすみません…」
ぱたぱたと駆けていくポーランドさんとは違い、こちらに頭を下げてから上がっていくのはリトアニアさん。すぐに宴会場が騒がしくなった。
プロイセン君を見つけたリトアニアさんの機嫌が若干悪くなり、ロシアさんに勧められたお酒を一気に飲み干すポーランドさんに拍手が起こる。
ケタケタと笑うポーランドさんに、ロシアさんがどんどん酒を注ぎ足す。…この人少し酔ってるな?
「これぇ、ボクが持ってきたウォトカ〜。美味しいでしょう?」
「お前にしては美味しいしー。なんかつまみないん?」
「サラミなんかどうでしょう?切ってありますよ〜」
フィンランドさんが差し出すつまみを口に運び、これこれ、と懐から酒瓶を取り出す。途端にキラリ!とロシアさんの瞳が輝く。
「スピリタス!!」
「お前は何かで薄めろし。一気じゃ倒れる」
「わぁい!これ好きなんだぁ!」
「ああロシアさん、今水を…」
「いただきま〜す」
「ちょ」
コップに注いだその原液を、ぐいっと飲み干す。ポーランドさんの制止は間に合わず、にっこりと笑ったロシアさんは、バターンッと倒れた。
「だから言ったろ!!」
「水!水を!!」
わらわらと騒がしくなった会場で、私は頭を抱える。主宰がいない時に救急人が出るのが1番困ります…。
「うふふふふふ…」
「ああヤバイ!魂出てる出てる!」
「無理矢理吐かせろ!ヴェスト手伝え!!運ぶぞ!!」
「ああ!!」
混乱の中、屈強な男性達がロシアさんを運ぶ。
夜風に吹かれて明後日の方向を向く私に、桜が降りかかる。
ああ…アメリカさんお早く…。
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