青年Yの受難
「さーて…どうすっかな」
報告後みんなと別れユーりは単身、街中をふらついていた。
もちろん情報収集の為聞き込みはしたものの大した情報もなく多少飽きてきたのか、人の少ない街の入口まで歩いてきた。
「サボりはよくないわよ?」
「あ?ジュディか…サボりじゃねーよ。休憩だ、休憩」
「あら。じゃあ私と同じね」
「なら何の問題もねーな」
反対の道から長い髪をなびかせながらジュディスが歩いてきた。ジュディスの現状もユーリと同じであったのだ。
レンガで出来た橋のへりにユーリとジュディスは背を預けるようにしてもたれる。
「いい情報はあったか?」
「これといった情報は無いわね。逆に質問されるぐらいだわ」
「“邪神の片目”が来てるのは本当か、ってか」
「相当人気者なのね、アゲハったら」
ジュディスの皮肉にユーリは声に出して笑う。言った本人も微笑みを浮かべた。
しかし、ふと何かを思い出したのか、口元に指をそえるとユーリの方へと身体を向ける。
「貴方も人気よ?彼が探していたわ」
「あ?彼、だ?」
「えぇ。相変わらずの熱烈っぷりだったわよ」
「…それ、いつの話だ?」
「貴方達がアスピオで調べていた時かしら。船の上でユーリはどこだーって言ってたわ」
「船の上って…アイツ何やって、」
「─、!!!」
ユーリが話し終える前に、どこからともなく火の玉のようなものが飛んできた。
2人は難なくそれを避けると、飛んできた方向へ顔を上げる。視線の先にはちょうど話題になっていたザギが剣先をこちらに向けながら立っていた。
「見つけたぜ!!ユーリ・ローウェル!」
「お前いきなり街中でぶっ飛ばしてんじゃねーよ」
「ハハッ!!!…あ?オイ、お前!アイツは一緒じゃねーのかっ?」
ザギは建物の上から飛び降りると剣先をジュディスへと向けた。当のジュディスは軽く微笑みを浮かべた。ユーリは横目でジュディスの方を見る。
「アイツ?」
「アゲハのことよ。あの人、彼のことも気に入ったみたいなの」
「へぇ。そりゃよかったなー…なぁ?アゲハ!」
ユーリはザギから目を反らし、ザギの後ろの建物の影へと視線を向けた。ジュディスも笑みを浮かべながら同じ方を見る。それに少し遅れてザギも振り返った。
「バレてたか……いやぁどもども〜。ユリさんにジュディっさん!それに…素敵ヘアカラーのお兄さん」
「テメ…ッ」
「あーハイハイ。ザギさん、だっけ」
「素敵ヘアカラーか……ははっ!確かにな。ザギ!俺の事は忘れてアゲハにアタックしてくれ」
「ちょ、ヤダよ!ユリさんを追っ掛けてここまでザギさん来たんでしょ!?俺に押し付けないでよ」
「ハッハッハッ!!!ごちゃごちゃ言ってねぇで2人一気に相手してくりゃあいいんだよっ!!」
「あら、私は仲間外れなのね」
ザギは地面を蹴るとアゲハへと突っ込んだ。アゲハは横に避けると、すかさずユーリとジュディスの元へ駆け寄る。
身軽にジャンプをしたザギは着地をすると同時にアゲハとユーリの元に衝撃波を放った。
「船の上といい何なのあの人!ほんとめちゃくちゃじゃん!容赦無いじゃん〜!!」
「愛がクソ重い戦闘狂ってとこだよ、アイツは」
「…さて、私はおいとましようかしら」
目の前での3人の攻防を眺めていたジュディスが独り言をもらすように呟いた。それをしっかりと聞いていたアゲハは不満をもらす。
一連の騒動に回りにいたギルド員や住人がざわつく中、見知った顔の青年も現れた。
「ユーリ!!」
「よぉフレン」
「一体君達は何を、…ザギ!?」
「フレン・シーフォか!ハハハッ!こいつぁ盛り上がってきたじゃねぇか!!いいぜ!全員まとめて相手しろ!」
「よかったなジュディス。入れてもらえたぜ?」
「別に相手をしたいとは言ってないのだけれど」
「街中で何を考えてるんだ!ザギ!」
フレンはユーリ達の元へ駆け寄ると警戒しながらザギを見据えた。ザギは嘲笑した後、フレン目掛けて突っ込む。
剣撃音が響いた。
ユーリは苦笑を浮かべると、ザギへと足蹴りを入れたがザギはそれを後退して避けた。
「コイツに考えなんてあると思うか?フレン」
「いや、その…」
「そうね。聞くだけムダよ?……ところで…」
「あ?」
「アゲハはどこに行ったのかしら?」
いつの間にか、アゲハの姿はその場から消えていた。
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