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俺と結婚してください!
「そうだねえ」
確かにあの髪型は独創的で特徴的だ。顔は悪くないのに。彼女の意見に私は肯定を示したのだが、私のその淡白な返しがつまらないものだったのか、友人はつまらなさそうに笑っていた口を尖らせてから口を開いた。
「でも、下級生には人気あるらしいよ。カノジョも下の子なんだって」
「ふ〜ん」
有名なテニス部のことだから興味がなくてもそんな噂は勝手に耳に入ってくる。ましてや大石くんは三年間同じクラスだったのだから、そんな情報教えてもらうまでもなくとっくに知っていた。
「どこが良いんだろうね?同じテニス部ならさ〜、不二くんとか手塚くんとかいるじゃん?」
どこが良かったかなんてそんなの互いに知っていればいいだけのことを想像して、楽しそうにカノジョは笑う。半分だけ笑った口元は大石くんの髪型を笑った時と同じ表情だ。
「………優しいところじゃない?」
私は少し考えて適当に、しかし律儀に友人の質問に答えてやった。大石くんのいいところは真面目で誠実で優しいところだろう。あとは一途なところ。大した話はしていないが、一緒の空間にいた時間だけは無駄に長い。彼の表面上の人となりくらいなら把握している。そしてそれがいいところしかないということも。私の返しに意外そうに目が見開かれた。
「優しいとは思ってたんだ。全然興味ないかと思ってた。人気も出てきちゃったし、逃がした魚は大きいとか思ってる?」
ニンマリと意地悪く目を細めながら聞かれているのは三年前のあの日のことだろう。私が彼を振った日だ。女子というものはとかく他人の恋愛話が好きだ。期待のこもる目で見つめられて、私は通学路であるただの道に視線を向けた。
「別に。ないよ、興味。全然」
これはきっぱりと言い切れる。始めっからそんなもの、大石くんに抱いたことはない。それは昔も今も変わらなくて、彼は私にとってただの小学校からの同級生で、三年間偶然クラスが一緒になっただけのクラスメイトで、昔私に変なプロポーズをしてきた人だ。そこはずっと変わらない。
「相変わらずつっめた〜い」
冷たく当たられた大石くんを同情しているようでその実、ちっとも同情していない軽い口調でカノジョは笑うと、少しも話題に乗らない私に飽きたのか、またすぐに別の話題を探し始めた。誰と誰がくっついただの、駅前に新しいプリクラが入っただの、そろそろケータイを買い変えたいだの。それらは大石くんと彼女のことよりは興味が持てる話題で、私の頭は深く考えるでもなく友達の言葉に反応していった。間にはちょこちょこもう少しで行われる卒業式の話題もでる。絶対泣くと、小学校の時も言いながら結局一滴も涙を流さなかった友人の隣で私はなんとなく思った。たぶん、大石くんは泣くんだろうな。大石くんのカノジョも寂しがって泣くんだろうな。大石くんに思うところはないけど、そうやって泣けるくらいの恋が出来るのは素直に羨ましいと、小学校の頃は思った事もない感情が私の心の中にふわりと浮かんだ。

key word:「俺と結婚してください!」



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