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赤ずきん

イケメンは好きですか?と聞かれたらよほど特殊な嗜好の持ち主でない限りほとんどの女性が好きだと答えるだろう。私も大多数と同じくそうであったはずだった。今でもイケメンは好きだ。好きか嫌いかの二択で聞かれればそりゃ不細工よりもイケメンがいいに決まっている。しかしそこに、見る分には、や、ただし鑑賞用に限る、といった注釈がつくようになってしまったのはつい最近の事である。付き合うのはかっこいい人に越したことはない?馬鹿言わないでほしい。イケメンは眺めているのが一番だ。何が悲しくて、常日頃から劣等感が刺激されそうな人を恋人に置いておかなければならないのか。見た目がいい恋人を持つことがステータスであると考えられるほどこちとら見栄っ張りでも、釣り合うような見た目をしているわけでもないのだ。どうせ付き合ったところで、全然似合わないとせせら笑われるのが落ちで、それにやっかみ乙wwとか思えるほど私は図太くない。恋人にするのであれば、自分の背丈に見合った、いっしょにいて落ち着ける人がいいと、年齢にそぐわない現実主義でしみじみ思いだしたのには理由がある。

「おはよう」

きらきらというエフェクトをしょって挨拶をしてくるイケメン相手に、「おはよう」ではなく「げっ…」という言葉を返しそうになる。テニス部の朝練に参加して、汗をかいているはずなのに爽やかさしか漂っていない、学校の王子様。彼が理由そのものである。

「昨日はよく眠れた?」

「うん、まあぼちぼち」

「へぇ、いいな。俺はここ最近暑くて寝苦しくてあんまりなんだ」

「へ〜…」

「そうだ。宿題は終わった?数学の」

「ん〜、解けないやつがあったから一部まだ」

「そっか。俺も自信がないやつがあるから答えあわせ兼ねてノート見せ合わないか?」

「友達に教えてもらう予定だから大丈夫」

「そっか」

私の気のない返事を気にすることもなく佐伯くんはにこにことした顔を崩さない。何がそんなに楽しくて嬉しいんだか、私には理解することができない。もう一つ理解することができないとしたら、どうして彼が、特にこれといった特筆点もない平凡な一女生徒である私を好きになったかということだ。思い当たる様なエピソードも何もない。ある日突然、彼はこうして誰が見ても分かるくらいはっきりとしたアピールを私にし出した。イケメンに好かれて悪い気がしなかったのは数日だけ。返せない好意はなんだか重たくて、ちょっとだけしんどい。あまりにおざなりな対応をすると、女子の方から「何あの子、調子に乗ってる?」とか言い出され兼ねないのもまた怖い。学校の女子はおおむね王子様の味方である。同性の味方なんて友達くらいしかなってくれないのだ。ひどい理不尽である。さっさと告白でもしてくれたなら、断ることもできるのに、それをされることもなくあけすけな好意だけが示される。憂鬱にもなるというものだろう。はぁ……。ためいきをつくと気遣わしげに「どうしたの?」と尋ねられる。お前のせいだよ、馬鹿野郎。本人にはとても言えないのだけど。


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