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散雪華〜貴方と共に〜
新たな朝

屯所に戻ると、その子は沖田さんが持ってきた麻縄で後ろ手に縛られ、空き部屋に転がされた。


私はその子の事が気になって、その部屋でしばらく顔を眺めていた。


「…この子は、鬼?」


初めに見た時に私と同じような存在だと思った。
だから、部屋に入り、その子を観察した。

そしてわかったのだ。その子が鬼という存在であるという事に


しかし、鬼は古来は存在していたが次第にその数を減らし、私の生きる現代では絶滅してしまっている種族だ。

だから私達妖狐のような鬼ほど高貴な血ではないもの達がひっそりと暮らしているのだ。



「……ん…」

「目が覚めた? 今、他の人を呼んで来るわ。」



この場所が何処なのか、どうして縛られているのか分からない事だらけだろうけれど、とりあえず私はその子をそのまま残し、廊下へ出た。


「あ、井上さん。 あの子、目が覚めましたよ。」

「ああそうかい。 ちょうど今部屋へ行こうと思っていたところなんだ。」



二人で部屋に入った時、彼女は怯えながら寝転がされていた。


「やあ、目が覚めたかい? 今、縄を解いてあげるからね。少し待ってておくれ」


沖田さんに縛られたその縄は相当きつく縛られていたみたいで井上さんも解くのに少し手間取っていた。


「口の中のも出しちゃって」

「…あ、あのここはいったい? 貴方は?」

「ああ。私は井上源三郎。ここは新選組の屯所だ。それから、」

「一葉よ。よろしくね。」

「ちょっと来てくれるかい? 今朝からあんたの事を幹部連中で話し合っているんだが、あんたが何を見たのか確かめておきたいってなってね。」



広間には、幹部の皆さんがもう揃っていた。


「おはよう。昨日はよく眠れた?」

「あ…!」

「みたいだね。顔に畳の跡が付いてるよ。」

「え!?」

「よせ総司、本気にしている。畳の跡などついていない。」

「酷いなあ。バラさなくてもいいのに…」


「おいお前ら、無駄口ばかり叩いてんじゃねえよ」

「少しはこの子の身にもなってあげてください」


「で、土方さん。そいつが目撃者? 小ちゃいし細っこいなあ、まだガキじゃんそいつ。」

「お前がガキとか言うなよ、平助!」

「だな。世間様から見りゃお前もそいつも似たようなもんだろうがよ。」


「口さがない方ばかりで申し訳ありません。あまり、怖がらないでくださいね。」

「何言ってんだ。 一番怖いのはあんただろ?山南さん」

「おや、心外ですね。 皆さんはともかく鬼の副長まで何を仰るんです?」


「トシと山南くんは相変わらず仲がいいなあ。」


機から見ると仲がいいようには全く見えないけれど、実際この二人はよく意見が合う。 しかも、黒い意味で…


「ああ。自己紹介が遅れたな。 俺は新選組局長近藤勇。 そっちの山南くんは総長を勤めて、こっちのトシ…いや、土方歳三は副長で…」

「いや、近藤さん! 何でいろいろ教えてやってんだよあんたは…」

「む? ま、まずいのか?」

「これから詮議する相手に自己紹介はねえんじゃねえの?」

「ま、そういう糞真面目な所が近藤さんらしいっちゃらしいけどな。」



「局長、お気になさらずに話しを進めましょう?」


一人頭を抱えている局長にそっと声をかける。

このまま放っておいたらいつまで経っても話しが先に進まないと思ったからだ。


「ああ。 まずは、昨晩の話しを聞かせてくれるか?斎藤くん」

「夕べ、失敗した隊士らが不逞浪士と遭遇。斬り合いとなりましたが我々が処分しました。 その折、この者に目撃されました。」

「私、何も見てません!」

「本当に?」

「見てません!!」

「あれ?総司の話しだとお前が浪士達を助けたって言ってたけど…」

「違います。 私はその浪士達から逃げていて …だから、私が助けてもらったようなものです。」

「じゃあ、隊士が浪士を斬り殺してる場面はしっかり見ちまった訳だ?」


ここで黙ってしまったら肯定と取られる。

だけど、彼女は案の定黙ってしまった。


「お前、根が素直なんだろうな。 それ自体は悪いことじゃねえんだろうが」

「ほら、殺しちゃいましょうよ? 口封じするならそれが一番じゃないですか。」

「物騒な事を言うな。 お上の民を無闇に殺してなんとする。」

「そんな顔しないで下さいよ。今のはただの冗談ですから。」

「冗談に聞こえる冗談を言え」


「しかし、何とかならんのかね? まだこんな子供だろう?」

「お願いします! 私、誰にも何も言いませんから!」

「だけど、今みたいな誘導尋問、あなたには無理ね。」

「…!?」

「もういい。 連れていけ。」


斎藤さんにすっと視線をずらして土方さんがそう言うと、彼女はまた元の部屋へと連れていかれた。




「処分なし!? いいのかよ?」

「最初からそのつもりだったのでしょう? でなければ生かして屯所まで連れて来たりはしませんからね。」

「…ち。 とりあえずあいつの部屋に行ってくる。まだ確かめなきゃいけねえ事もあるしな。一葉、ついて来い。」

「分かりました。」


彼女の部屋に行くと、なんと彼女は逃亡しようと、向こうの廊下を覗いていた。


土方さんが、ため息を一つ吐いて彼女にそっと近づき、着物の首を掴んで持ち上げた。


「逃げれば斬る。 夕べ俺はそう言ったはずだが?」

「逃げなくたって斬るんでしょ? 私にはまだやらなきゃならない事があ…」



「一葉。こいつは、女子で間違いねえよな?」

「やっぱりそれで私を連れて来たんですか。 …そうですね。 男装はしておりますが、中身は歴とした女子です。 そうよね?」

「…はい。 」


「何か訳があるんだろう。 洗いざらい話してみやがれ。」


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