散雪華〜貴方と共に〜
二人目
その子はまた広間に戻った。
女子と分かったからか、手に付けられていた縄は解かれ、お茶まで出された。
「…っ、この近藤勇一生の不覚! まさか君が女子だったとは…!」
「女の子にしか見えないじゃないですか。」
「沖田さんは彼女が女子だと気付いていたのですか?」
「うん。 縛った時にね」
気付いたのなら、あんなにきつく縛り上げなくてもいいじゃないか。と井上さんに突っ込まれていたけど、あははと笑って誤魔化すのが沖田さん。
そして、彼女の話しが終わった後、近藤さんはひどく感動していた。
「そうか、君も江戸の出身なのか!お父上を探して遠路はるばる京に来たのか! で、そのお父上は何をしに京へ?」
「父は雪村綱道という蘭方医で…」
!!?
その名前が出た時、皆の表情が一瞬で固まった。
「これはこれは、綱道さんのご息女でしたか。」
「父をご存知なんですか?」
知っているも何も、彼は新選組にあの薬を持ち込んだ元凶だ。
だが、彼は少し前に診療所が火事になり、行方が分からなくなっていた。
「綱道さんの行方は俺達新選組も探している。」
「え…?」
「あ、勘違いしないでね。 彼、幕府方の協力者なんだけど、ちょっと前から行方が分からなくてね」
「でも、彼女がいてくれたら探すのが少し楽になりますね。」
綱道さんと新選組の面々は、協力者ではあったが面識はあまりない。 だから、彼の顔もはっきりとは覚えていないのが現状だった。
「昨日の事はきっぱり忘れるっていうんなら、お前の身柄は新選組で保護してやる。」
「いいんですか!?」
「殺されずに済んで良かったね。 とりあえずはだけど」
「それから、一葉の事も話しておくべきか?」
「一葉さん…?」
「自己紹介はさっきしたわね。 もう分かっているかもしれないけれど、私もあなたと同じ女よ。」
「じょ、女性だったんですか?」
「ええ。まあ、他にも秘密はあるのだけれど、それは追い追い話す事にするわ。 今は自分の事で混乱しているでしょ?」
「しかし、彼女の処遇は少し考えなければなりませんね。一葉くんのようにはいかないでしょう。」
「なら、誰かの小姓にすりゃいいだろう。近藤さんとか、山南さんとか…」
「嫌だなあ。そう言うのは言い出しっぺが責任取らなくちゃ」
「んな…!」
「ああ。トシの側なら安心だ。」
「そう言う事で、土方くん。 彼女のこと、よろしくお願いしますね」
「て、てめえら……」
こうして、彼女雪村千鶴の処遇はとりあえず決まった。
その夜、女同士で同室の方が都合がいいし、監視もしやすいと言うとこで私の部屋で二人で布団を並べた。
「一葉さんは男装で過ごされていると言うとこは、隊士さんなんですか?」
「うーん、どうだろう。 私は事情が特別だからね。戦闘なら平隊士には負けない自信あるけれど…。それから、私に対して敬語とか使わなくていいわよ。私も使ってないし。」
「えっと、うん。」
「じゃあ、もう今日は寝ましょう。 色々あって疲れたでしょう? 」
まさか新選組に匿われるなんて思いもしない出来事だっただろう。
それに、まだ彼女の男装も解いてもらっていない。
私達が寝ようとした時、廊下から声がした。
「一葉ちゃん。ちょっと…」
「…? 今行きます。」
沖田さんだった。
「何ですか?」
「ううん。特に用はないんだけどね。 土方さんがあの子の事疑ってるみたいだったから君の意見を聞きたいって思って」
「疑ってる?」
「そ。だって、話しが余りにも出来すぎてるでしょ? 薬の研究をしている綱道さんの娘さんが、江戸からはるばる来たその日に失敗した隊士に襲われた。普通に考えたら、薬の事を探りに来たって思われても仕方ないよね」
「私はあの子がそんなお芝居が出来るとは思いませんが…」
「ぼくもそう思うよ? けど、土方さんの命で、しばらくあの子は部屋から出すなって。 幹部が交代で見張りをして、怪しい動きがないか見てろってさ。」
そこまでしなくても大丈夫だと思った。
「何もそこまで…」
「まあ、最初だけやれば土方さんも疑わなくなるんじゃないかな?だって自分で連れて来た子だからね。あの子の事、相当気に入ってると思うよ?」
「あはは。それは笑えない冗談ですね。」
「ぼくもそう思うよ。 …えっと、じゃあ、千鶴ちゃんの事は伝えたからね。よろしく」
「分かりました。仕方ないです。」
それからしばらく彼女は監視対象として扱われた。
けれど千鶴ちゃんは何か悪事を考えるわけでもなく、静かに部屋にこもっていたので、次第に幹部も好感を持つようになった。
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