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散雪華〜貴方と共に〜
雪華の京

夜の京をただただひたすら走っていた。


血が欲しいなどと、物騒な事を言う。もし京の人を襲っていたりしたら…。


最悪の想定を頭を振る事で追い出し、私は隊士の気配を探した。



(近いわ…)


二人の隊士を感じ取った私は、すぐに土方さんに伝えようと身を翻し、そこで止まってしまった。


「隊士の他に誰か、いる…?」


走っている声がする。しかもただ走っているのではない。誰かを追いかけている声。


そっちに早く行きたい気もしたがまず、土方さんに居場所を報告した。


「近いです! その角を曲がって二つ目!」

「ああ、分かった!」


そう言い、私はまた屋根に飛び乗り声の方に向かった。


「…小僧!」

「畜生!どこに行きやがった?」


二人の男が誰かを探している様子で歩いていた。 だけど、その声は途中で断末魔へと変わった。


(いけない! 新撰組の隊士だわ)


私が立っている建物の下には、断末魔を響かせている男達から逃げていたのであろう子供がいる。



「ひゃははははは!」
「血…血だあ!」


失敗した隊士は、その子には気付いていない様子で、たった今殺した男の血を舐めていた。


ガタタ…!


しまった!
思った時には、遅かった。


不気味すぎる人間ではないモノを見てしまった動揺からだろう。
その子が隠れていた板に躓いてしまった。


「ああ?」


ジャリ……


隊士がその子に近づく。


私は斬る時を窺い、屋根の上に身を潜めていた。


「あひゃひゃひゃひゃ!」


その隊士が刀を振り上げたのと、私が屋根から飛び降り刀を振り下ろしたのと、斎藤さんが後ろから切り捨てたのは同時だった。



「あーあ、残念だなあ。僕一人で始末しちゃうつもりだったのに、斎藤くん、こういう時に限って仕事早いよね?」

「俺は勤めを果たすべく動いたまでだ。あんたと違って戦闘狂の気はない。」

「うわ。酷い言い草だなあ。それに、僕だけじゃなくて、一葉ちゃんだって屋根からちゃっかり切り捨ててるじゃない?」

「私は、罪のない子供に被害が及ぶのを防いだだけです。」


そう言って私達がその子を見ると、すっかり怯えた表情で腰を抜かしていた。


「おいお前ら、無駄口ばかり叩いてんじゃねえよ。」

「副長、死体の処理は如何様に?」

「羽織だけ脱がせておけ。後は監察に処理させる。」

「土方さん、この子……」



その時のその子の顔をみてすぐに分かった。

その子が女の子である事が…。あともう一つ、私と同じような存在である事が…


「つうかお前ら、副長とか土方とか言ってんじゃねえよ」

「羽織を着てる時点でバレバレだと思いますけど?」


はあ、と一つため息をつくと、土方さんはその子に向き直った。


「おいお前、逃げるなよ? 背を向ければ斬る」

刀を顔の前に突き立てられて完全に動転してしまったのだろう。その子は小さな声を漏らすと、気を失ってその場に倒れた。


「あーあ、土方さんが脅かすから気を失っちゃったじゃないですか。この子、どうするんです?」

「…屯所に連れ帰る」

「あれ?始末しなくていいんですか?さっきの見られちゃったんですよ?」

「そいつの処分は帰ってから決める」



「私が連れて行きます…」


抱き上げたら多分女の子だという事がばれてしまう。

私は少女を抱き、その子の今後の身を案じながら屯所への帰路についた。



その時に私は分かっていたのだろうか?

その出会いがその子の運命を大きく変えてしまう出来事であったという事に……




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