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散雪華〜貴方と共に〜
“新撰組隊士”の脱走

芹沢さんが亡くなり、穏やかな日々が送れると思っていたが、そんな日はこなかった。




「そう言えばさ、最近段々馴染みすぎててわからなくなってきちゃってるけど、一葉ちゃんって未来から来た、“女子”だったね。」


わざわざ女子を強調して、私を挑発しようたってそうはいかないんだから。



「馴染みすぎてるって…、そこは褒めて欲しい所なんですよ? それより、雪村綱道の行方は何か分かりました?」

幕府から薬の研究を任された時に新選組に来た雪村綱道という人物がいたのだが、少し前に行方が分からなくなってしまっていた。

「ううん、何にも。 手がかりなしだね。それに、面識も薄いから顔をはっきり覚えてる人あまりいないし」

「そうですか。 私も探してみま…」


そこまで言った所で、何だか勝手場の方が騒がしくなりそっちの方に耳をすました。


「何だろうね。騒がしいな。」



「ちょっと!総司に一葉!!その猫捕まえて!」


「「猫?」」

「勝手場荒らして逃げてんだよ! バレたら土方さんに怒られるって」

「もう仕方ないな…。ほらほら〜、よっと。 …うわっ」


沖田さんが捕まえようと手を伸ばしたその手を踏み台にして、顔を踏んでジャンプ!
猫も簡単に捕まるわけにいかないから必死だ。


「あの猫…。 平助!左之さんとか呼んできて!皆で追うよ!」


「そんな事しなくても、ちゃんと話せば分かってくれるじゃない…。」



追われたら逃げる。

分かりきっている事なのだから、その辺をもう少し考えなくちゃ…




「おいで。 虐めたりしないから…」


草むらに入ってしまった猫をそっと呼ぶ。
すると、最初は警戒して唸っていた猫が、段々大人しくなり、そしてしばらくすると自分から出てきた。


「よしよし。 お腹が空いていたんだよね。」

「なあ、何で一葉はあんなに猫に好かれてるんだ?」

「さあ。それより僕は顔を踏んでくれたお礼をしたいんだけど」


「妖狐は狐の霊が先祖と言われているから、動物とは近い存在にあるの。だからみんな私の言葉は分かってくれる。 流石に動物とは話せないけれどね。」


動物が好きっていうのもあると思うんだけど。

でもまあとにかく、被害はそこまで大きくなかったみたいだったので、斎藤さんが勝手場の片付けをしていたのでその手伝いをして、土方さんにばれない内に何とか夕餉の用意をすることができた。



「例の薬を飲ませた奴らは、“新撰組”と呼ぶ事にした。 せんの字を手偏に変えたものだ。」

「ふーん。新選組として入隊したのに、隊士ですらなくなっちゃうなんて可哀想な子達だね。」

「しかし、幕府からのお達しだから致し方あるまい。我らは勤めを果たすまでだ。」


その日の夕餉の後に言われたこの言葉は、あの薬に関わってしまった者達を完全に新選組から区別するというものだった。

そこまでしてでも守りたい薬の存在。




何となくしんみりしてしまった夜の空気を打ち破ったのは、平助のこの一言だった。


「大変だ!新撰組の奴が二人、巡察だと言って屯所を抜け出して帰って来ねえ…。」

「何だって!? それで、行方は?」

「分からねえけど。奴ら、血が欲しいとか言ってたみたいだから…」

「町の人たちに被害が及ぶのは時間の問題ですね。」

「どうします土方さん? 」


「…奴らはあくまで巡察を行っているんだな?」

「ああ。そう言って出て行ったって聞いた。」

「だが、奴らは“新撰組”の隊士だ。 見つけたら屯所に戻るよう言い、刃向かうような素振りや失敗している状態なら…斬れ。」


「ああ。」
「分かった。」

平助と後から来ていた原田さんがそう返事をして部屋を出て行った。


「土方さん。私、上から探してみます。見つけ次第、お知らせします。」

「ああ。済まねえな。 …行くぞ」


その声で、私は屋根に、土方さん、沖田さん、斎藤さんは屯所を飛び出した。


逃げ出した隊士二人を探し、闇へと葬るために



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