散雪華〜貴方と共に〜 交錯する運命の歯車 人の運命は、そう簡単には変わらないーー。 いつか、一族の誰かがそう言っていた。 妖狐である事を憎むな。 人間を憎むな。誰も、その種族に生まれたくて生まれたわけではない。 これを聞いた時は、それでも人間は憎いと思ってしまった。そして同時に、人間である事を羨ましいとも思った。 そんな事をふと思い出し、本当に運命とは変える事は出来ないのだと自嘲気味に笑ってしまった。 私はその日、土方さんの命で角屋で芸子として隊士たちの接待にあたった。 その裏で行われていたのは言うまでもない。 局長芹沢鴨の暗殺計画だった。 「さあさ、皆はん。どんどん呑んでおくれやす。今日、皆はんのお相手さやらしてもらいます、よろしく」 任務は任務。 今の私はこれを受けてしまったのだから、全うしなければならない。 (個人的な感情は、計画の失敗に繋がる…) 表情には出さないけれど、やっぱり人殺しに加担しているという事もあり、後ろ暗くなってしまう。 「ほほう?今日はやけに気前が良い。 のう、土方?」 もしかしたらこの人は自分の身に何かが起きる事を予測していたのかもしれない。 そんな風にも取れる言動が多々あった。 途中で芹沢一行が席を離れ、それを追うように土方、沖田、井上、原田らが席を離れた。 本当はこの中に近藤さんも入るはずだったのだが、試衛館派が全員いなくなったら流石に怪しすぎると、局長である近藤勇は角屋に残った。 私が半ば落ち着かない気持ちで酌をしていると、芹沢さんに世話になっていると言っていた息吹くんが屯所に戻ると言い出した。 「いやいや、息吹くん。 今日はせっかくだ。呑んでいきたまえ。」 「いや、俺はもう十分呑んだからいいよ。 それにさ、多分芹沢さんが八木さんに迷惑かけてるだろうから。」 そう言って、彼は部屋から出て行ってしまった。 だけど、今八木邸で行われようとしているのは殺人だ。 「近藤さん、ここを頼んでもよろしいですか?私が彼を守ります。」 「…ああ、済まない。」 近藤さんに断りを入れて、私は息吹くんを追い角屋を出た。 彼は何も知らないんだ。 それなのに、今正に殺人が行われようとしている現場にのこのこと足を踏み入れようとしている。 芸子の衣装を脱ぐのに思ったよりも時間がかかってしまい、私が角屋を出た時にはもう近くに息吹くんの気配はなかった。 今から普通に道を走ったのでは到底追いつかない。 私は仕方なく屋根に登り、さっと妖狐の姿になった。 ーお願い。 間に合って…… 無駄な血は流したくない。 そんな思いで漆黒の闇の中屯所への最短距離をただただ急いでいた。 屯所が近づくに連れて人の気配も強くなった。 (一人、二人、三人…) ただ、その中にはあの薬の気配も含まれていた。 嫌な予感しかしない中屯所に到着すると、そこは一つの戦場だった。 薬を呑み、白髪で真っ赤な目となった芹沢さんを囲み、近藤派の幹部隊士が苦戦を強いられていた。 (…伊吹くん……!!) 芹沢さんから少し離れた植木の上に、彼は尻餅をついていた。 「伊吹くん! 怪我は!?」 「え? お前は…確か……」 「一葉よ。それよりも、これは…」 「そうだよ! どういうことだよ!? 俺が来た時にはもう戦闘は始まっていた。 芹沢さんを殺して、新選組にどんな得があるんだよ!?」 「それは、今後わかると思うわ。」 私がそう答えたのと、土方さんが芹沢さんを刺し、彼がどうと倒れたのはほぼ同時だった。 「おい!芹沢さん!」 「これが、運命……」 芹沢さんの死は、その後盛大に弔われた。 そして、最後まで状況が飲めていなかった伊吹くんは、沖田さんが川に突き落とし、死んだことにして逃がしてあげたそうだ。 私は図らずも、新選組の血に染まった幕開けに手助けをする形になってしまった。 しかも、現実ではなく、ゲームの中という半ばあり得ない世界なのに… (私が救わなければいけなかったのに…。伊吹くんだけでなく、芹沢さんも…) [*前頁][次頁#] [戻る] |