女喰い男女陵辱系時代劇エロファンタジー短編(完結) 10 弥八郎がやって来て7日が経った。 産婆は彦兵衛の使いでやって来た手代に、あと20日はかかると大袈裟に言っている。 そして約束通りこの日、昼過ぎに弥八郎が迎えに来た。 「産婆さん、あんたは知らぬ存ぜぬで通せ、居なくなったと言っときゃいい」 弥八郎は産婆に上手くあしらうように言った。 「任せときな、あたしだってやる時はやる、町奴なんか屁でもないさ」 産婆は力強く返事を返す。 お美代は体ひとつで弥八郎に頼る事になり、産婆に繰り返し礼を言って長屋を後にした。 目指す長屋は町外れにある。 弥八郎はお美代を連れ、町外れを目指して歩いたが、途中で商家のような佇まいをした家に立ち寄った。 商家と言っても郷田屋のような大きな店構えではなく、連なる家々に紛れてひっそりと建っている。 2階はあるものの、こじんまりとした建物だ。 お美代も一緒に中へ入った。 玄関には誰もおらず、帳場もない。 「おい、江衛門、いるか? 」 弥八郎は家の奥に向かって叫び、お美代は落ち着かない様子で見ていたが、やがて足音がして奥から男が現れた。 腰に脇差をさした袴姿の男で、歳は30位に見えるが、髷はところどころほつれ、パッと見浪人に見える。 「おう、弥八郎、なんだ、その娘が話をしていた娘か? 」 「ああ、そうだ、今日から長屋へ住まわせる、だからよ、お前に用心棒を頼みにきた」 お美代は2人のやり取りを聞き、この江衛門という浪人紛いな男は、旗本奴なんだと思った。 「ああわかった、しかし、夜はどうする、俺が寝泊まりしちゃマズいだろう」 「いや、居てもらわなきゃ困る、町奴を使うとなれば、夜中でも襲ってくる可能性があるからな」 「いや、しかし……、拙者はこの通り独り身だ、こんな可愛らしい娘と狭い長屋で寝所を共にしたら……、少々具合が悪いのではないか? 」 江衛門は困惑気味に聞いた。 「江衛門、貴殿は武士だ、武士はおなごにうつつを抜かすような事はねー、違うか? 」 弥八郎は確かめるように聞く。 「ああ、そうだ、確かに……、だがな、そうは言っても……、それは……そうであるべきという理想だ、現実は違う」 しかし、江衛門は自信なさげに答える。 「江衛門殿! 」 弥八郎は突然大声を出して江衛門を呼んだ。 「な、なんだ……」 江衛門は勢いに押され、引き気味に聞き返す。 「あなたは旗本奴に身を置いているが、俺は江衛門……貴殿を信頼できる人間だと常々そう思っている、あなたしか他にはいねー、ここはどうかひとつ……、武士として俺の頼み事を聞いて欲しい」 弥八郎は頭を下げて頼んだ。 「そ、そうか……そこまで言われたら……断るには忍びない、わかった」 江衛門は断りきれなくなり、長屋に行く事を承諾した。 「すまねー、恩に着るぜ」 弥八郎は笑顔で礼を言った。 「そうだな、では……衝立を持っていこう、仕切りを作れば大丈夫だ、我ながらいい案だな」 だが、江衛門は弥八郎から目を逸らし、独り言のようにブツブツ呟いている。 お美代はそれを見てなんだかホッとした気持ちになった。 江衛門が眉間に皺を寄せて真剣に考えているからだ。 このお侍さんなら信頼できそうな気がした。 「じゃ、先に行ってるわ、待ってるぜ」 弥八郎は江衛門の事をよく知っている。 だからこそ、用心棒を頼んだのだ。 「あいわかった」 江衛門は返事を返し、弥八郎は踵を返した。 「お美代ちゃん、行こう」 「はい」 弥八郎に促され、お美代は江衛門に向かって頭を下げ、弥八郎の後について行った。 四半時も歩かぬうちに長屋へ着いた。 すると、中に五作がいた。 「お美代、よかったな、本当によかった、弥八郎さんのお陰だ」 五作は戸口を開けた途端、お美代の前に駆け寄ってきて、嬉しそうに言った。 「ああ、五作、大丈夫だったか? 誰にも見られずに来れたか? 」 弥八郎は念の為聞いた。 「はい、大丈夫です、誰も見てませんでした」 五作は隙を見て抜け出してきている。 「そうか、だったらいいが、あのな、誤解しちゃあれだから言っとくが、ここに用心棒を置く、親父はすぐに気づくだろう、町奴がきたら連れ戻されちまう、俺の知り合いに旗本奴がいる、そいつに用心棒を頼んだ、あいつならお美代ちゃんに手を出す事はねー、江衛門という名だ、だからよ、勘違いするなよ」 弥八郎は訳を話し、江衛門の事も話した。 「はい、江衛門……わかりました」 五作は江衛門と言う名を頭の中に刻みつけた。 お美代は2人の会話を聞きながら、長屋の中を見回した。 すると釜戸の前に木箱があり、野菜などが入れてある。 座敷の方を見れば布団が畳んで置いてあるし、行灯まで隅に置いてあった。 「あの……これは……、野菜や布団がありますが」 お美代は2人に向かって遠慮がちに聞いてみた。 「野菜はおらだ」 「他は俺だ」 先に五作が答え、次に弥八郎が言った。 「あ、あの、すみません、こんな事までして頂いて」 「おらは構わねぇ」 「俺もだ、こうするように言ったのは俺だからな、親父の奴、お美代ちゃんの事を気に入ってるみてぇだからな、ざまあみろだ」 またしても先に五作が答えたが、弥八郎はしたり顔で彦兵衛の事を言う。 お美代は彦兵衛の事を聞いて不安に駆られてきた。 「あの……、わたしは用心棒までつけて頂いて大丈夫だと思いますが、弥八郎さんは大丈夫なんですか? 」 弥八郎は傾奇者を追い払ってくれたし、渡世人として生きてきた。 腕っぷしは強そうだが、相手が複数だったら……。 お美代は弥八郎の事が心配だった。 「ああ、大丈夫だ、俺もそれなりに用心する、しばらくは旗本奴の奴らと行動を共にする、多勢に無勢だと不利だからな」 弥八郎もその辺りは考えている。 「そうですか……、でも気をつけてください」 ただ、それでもやっぱり心配になる。 もし自分のせいで怪我をするような事になったら、詫びて済むような事じゃない。 「ああ、心配してくれてありがとよ、気をつける、それよりな、ひとりで出歩くのは禁止だ、用がある時は江衛門と共にゆけ」 弥八郎は嬉しげに笑って礼を言ったが、逆にお美代の事を案じている。 「はい、わかりました」 お美代は頭を下げて頷きながら、弥八郎に対して、言葉では言い尽くせない位感謝していた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |