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女喰い男女陵辱系時代劇エロファンタジー短編(完結)
9
身の回りの世話や体調管理など、お美代の世話は産婆が事細かにやってくれた。
当然と言えば当然だが、その費用は彦兵衛が持つ。

しかし、お美代が長屋にやって来て10日目になるが、彦兵衛は一度も見舞いに来ない。

「あの旦那様はあれ以来姿を見せないね、ま、立場もあるだろうから……」

産婆は飯の支度をしながらぶつくさ言った。
彦兵衛は産婆の言った通りだったが、その代わり、五作は翌日には来ていた。
五作はお美代の事を聞き、すっ飛んでやって来たのだ。
お美代は五作の姿を見てホッとした。
五作は死んだ赤ん坊の事は『可哀想に』とひとこと言ったが、それよりもお美代の事を心配している。
コツコツ貯めた金を使い、野菜や魚など、ほぼ毎日食べ物を買ってきては産婆に渡す。
産婆は『こんなに沢山、悪いね』と言ったが、五作は『構わない、早く治るようにしてくれ』と頼んだ。
彦兵衛がお美代に無茶な事をして、それで赤子が産まれてしまった。
五作にもそれ位はわかる。
自分は力があるのに、お美代を守ってやる事が出来ない。
歯がゆくて悔しい気持ちになるのだった。

産婆は五作とお美代のやり取りを見て、2人が思い合った仲だと気取っていた。
聞かなくてもわかる。
この朴訥な若者はお美代の事を好いている。
お美代と同じで下働きをしている事も、身なりを見れば分かる。
産婆は2人を見て深いため息をついていた。

お美代を預かった後、産婆はたまたま近所の人と話をした。
その時に彦兵衛の悪い噂を聞いたのだ。
惹かれ合う若い2人は、本来なら所帯を持って幸せになるべきだが、とは言っても……お美代の境遇は透けて見えている。
食い扶持を減らす為に奉公に出された娘は、例え逃げたところで行くあてがない。
そういう娘が旦那様の手つきになるのは、ちょくちょく耳にする話だ。
ただ、普通はもう少し年上になってからで、お美代は年を言ってはならぬと、旦那様から口止めされている。
これはいくらなんでも悪どい。
産婆は、思い切ってお上に訴え出てはどうかと思い、近所の人に相談した。
すると近所の人は急に声を潜め『あの廻船問屋、郷田屋は……裏で傾奇者を抱えている』という。
ならず者の小集団を金で飼い慣らしているらしく、近所の人は『触らぬ神に祟りなしだ、身内でもない娘の為に危ない橋を渡るのはよした方がいい』と忠告した。
産婆にはそんな危険をおかす勇気はない。
お美代に悪いと思い、役に立てぬ代わりに献身的に世話をした。


夕飯の支度が出来た頃、外の戸口の前で誰かが呼んだ。
産婆は腰を擦りながら戸を開けた。

「おお、こんな時分にすまねーな、ここにお美代ちゃんがいると聞いてな」

やって来たのは弥八郎だったが、お美代は声を聞いてわかった。

「あんたは誰だい? 」

産婆は不審に思って聞いた。

「ああ、俺は元郷田屋の若旦那、今は渡世人の弥八郎ってもんだ」

弥八郎は正直に答えた。

「えっ、若旦那……、なのに……渡世人なのかい? 」

産婆は唖然としている。
大棚の若旦那が渡世人……ちょっと信じられない事だが、しかしながら、確かに風体は渡世人だ。

「ああ、そうだ、おお、これを……お美代ちゃんと一緒に食べてくれ」

弥八郎は手土産に饅頭を持参していたので、それを産婆に差し出した。

「おやまあー、饅頭だね、いやー有難い、お美代ちゃんならいるよ、さ、入っとくれ」

産婆は饅頭をみた途端、破顔して饅頭を受け取り、快く中へ入るように言った。

「ああ、それじゃ、ちょいと邪魔するぜ」

弥八郎は土間に入り、座敷の方へ歩いて行った。
狭い長屋だから少し歩けばすぐに座敷が見えてきた。

「あ、あの……、どうも」

お美代は焦りながら起き上がり、弥八郎の方へ向いて挨拶した。

「ああ、起きなくていい、いいから寝てな、気ぃ使うこたぁねー」

弥八郎は上がり口に腰をおろして言った。

「はい……、では……すみません」

お美代は頭を下げ、遠慮がちに体を横たえると、元通りに体の上に布団をかける。

「腹の子は残念だったが、こんな事言ったらお美代ちゃんが傷つくかもしれねーが……、ここは本音で言わせて貰う、これで良かったんだ、親父の子など、産む必要はねー」

弥八郎は子が死んで安堵していた。
無事に生まれたところで、不幸な人間を増やすだけだと知っているからだ。

「はい……」

お美代は控えめに返事を返した。
子が死んだ時はショックだったが、体が癒えてくると、お美代自身肩の荷がおりたような気がしていた。

「けどよ、体が治ったら、親父はまた同じ事をするだろう、あのな、俺と一緒に来ねぇか? 」

弥八郎は考えがあってここにやって来ていた。

「えっ? 」

お美代は突然の申し出に驚き、目を見開いて弥八郎を見た。

「勘違いするな、俺がかっさらうフリをするんだ、俺はよ、ちゃんとした家を持たねぇが、博打で稼いだ金がある、長屋を借りてやるから、そこに住んで別の働き口を探せ、俺が口入れ屋に頼んでやる」

弥八郎は誤解のないように説明した。

「あのでも……」

お美代にとっては願ってもない話だが、たとえフリだとしても五作の事が気になる。

「五作か? 」

弥八郎は直ぐにわかった。

「はい」

「長屋に呼べばいい、そしたら会えるだろ? 」

「っと……、有難いお話なんですが、そこまでして貰う理由がありません、それに……そんな事をしたら旦那様がお怒りになるんじゃ……」

そこまで言ってくれて、お美代は是が非でも飛びつきたい心境だったが、弥八郎は最近知り合ったばかりで、彦兵衛の息子という立場だ。

「俺はな、親父には愛想が尽きてる、お袋が少しでもよくなっていれば……、そう思って戻ってきた、けどよ、お袋は相変わらず俺の事すらわからねー、俺は……お袋を救ってやる事が出来なかった、それもあるが、腹が立つのは親父だ、お袋を助けられねーなら、せめて……お美代ちゃん、お前を助けたい、俺は今こんな生き方をしてるが、郷田屋の若旦那として……、気の毒な奉公人を見殺しにはできねー、この機会に親父に一泡吹かせてやる」

弥八郎は自分が思っている事をあらいざらい話した。

「そうですか……、あの、本当によいのですか? 」

お美代は弥八郎の気持ちを知り、それならば……と思ったが、彦兵衛を怒らせて万一弥八郎に迷惑がかかっては事だ。
躊躇いながら聞いた。

「ああ、親父は町奴を使ってるようだが、俺は旗本奴で親しくしている者がいる、そいつに頼んで番をする人間を手配して貰う、長屋に押しかけてきても大丈夫なようにな、旗本奴は元は武士だ、腕はたつ」

弥八郎は用心棒を置くつもりでいる。
町奴も旗本奴も、どちらも同じヤクザだが、弥八郎が言った通り旗本奴の方が剣の腕は確かだ。

「あの……、弥八郎さん、じゃあ、わたし……」

お美代は話に乗る事にした。

「ああ、任せときな、今日はそれを言いに来たんだ、俺はこれで帰るが、体が治っても屋敷には戻るな、な、産婆さんよ」

弥八郎はお美代に念を押して産婆に声をかけた。

「はいよ、ああ、今茶を出します」

産婆は釜戸で湯を沸かしていたが、ゆっくりと振り向いて答えた。

「いや、茶はいい、それよりな、このお美代ちゃんだが、体が戻るのはあとどれ位だ? 」

弥八郎は大凡の日にちを聞いておきたかった。

「そうさね……、短けりゃあと7日かな」

産婆は顎に手をやって考え、おおまかに見当をつけた。

「7日か、わかった、それじゃあ、7日目にここに来る、あのな、頼みてぇ事があるんだが……、このお美代ちゃんを救う為だ、あんた頼みを聞いてくれるか? 」

弥八郎は再び来ると言って産婆に協力を仰いだ。
すると、産婆は待ってましたとばかりに表情を明るくする。

「若旦那、悪いがあんたの話聞かせて貰ったよ、ああ、協力するさ、旦那様には7日より多めに言っときゃいいんだね? 」

意気揚々と張り切って言ったが、弥八郎が説明するまでもなく、話を理解していた。

「そうだ、話がわかるじゃねーか」

「そりゃあね、あたしだって、こんな婆さんになっても人の子だ、お美代ちゃんを助ける為なら喜んで協力するよ」

産婆は胸を張って笑顔で言った。

「おお、そりゃ心強ぇ、頼むわ、あっ……、忘れるとこだった、お美代ちゃん、お菊ちゃんだがな、手紙渡しといたぜ」

弥八郎は産婆が協力的だった事に気をよくしたが、ホッとしたついでにお菊の事を思い出した。

「あっ、はい……、ありがとうございます、あの、お菊ちゃんは……元気そうにしてましたか? 」

お美代はお菊の事がずっと気になっていた。

「ああ、元の姿は知らねーが、普通に見えたな、ただな、体は元気そうでも……元気があるようには見えなかった、親父がやらかした事だが、いっぺん中に入っちまったらもう救い出す手立てはねー、いい旦那がつけば別だがな」

弥八郎はそのままを伝えたが、手紙を渡した時、お菊は窓際に座って嬉しそうに受け取った。
だが、手紙を持ったまま目線を窓の外へ移した。
なにも言わず、ただぼんやりと外を眺めていたが、生気を無くした虚ろな目をしていた。
弥八郎には生きているというより、生かされているといった感じに見えた。

「そうですか……」

お美代はやっぱり会わない方がいいんだと、改めてそう思ったが、お菊が手紙を読んで赤ん坊の事を知り、たとえ僅かでも……お菊にとって助けになる事を願っていた。





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