28:【巣立つ】1 『ふぁ〜あ〜・・・』 大あくびをして目が覚めた僕は、起き上がるために布団を退かした。 『Σえ?何コレ寒いんだけど』 途端に冷気が体を襲い、座りながら退かした布団を被る。 一体どうしたんだ。何でこんな寒いんだ。僕は寒いの苦手なんだバーロー。 『えぇぇええぇ、布団から出たくない・・・』 ベッドの適温で居心地の良さに二度寝する事にした。 バフッ、とベッドに体を倒した瞬間、ノックもせずに扉が少し大きな音を立てて開かれた。 「ひずにー!!外出てみろよ!雪積もってるぞ!」 『ちょ、エースノックくらいしなさいや。それに僕はこれから二度寝・・・』 「何だひずに、何時まで布団に潜っているんだ。雪合戦しようぜ!」 僕の意思など無視するエース。止めてけれ。僕はこの布団から出たら凍死する。 「なぁなぁひずにー」 『何で上半身裸でエース寒くないの』 「メラメラだからだ」 『え、能力のおかげで寒くないとかあんの?』 それは初めて知った。じゃァヒエヒエの実のあの大将とかどうなるんだ。いっつも寒いの?うわっ、耐えらんねー。 「とりあえず外出ようぜ!」 『だーかーらー!僕はこれから寝るの!寒いのイヤ!以上!』 「えええぇええー雪合戦したら暖まるからよ!」 『てかエースにぶつけたってメラメラで溶けちゃうんじゃない?あ、ロギアだから通り抜けちゃうじゃん』 「あ、そうか」 『え、気づかず誘ってたの?』 自分の能力を把握してくれ。いや、してるんだろうけどどっか抜けている。 『まァ意味ないね、じゃ僕寝るから!おやすみなさい!』 「あ、そういえばひずに、船島に着いてるぞ」 『は?』 えぇ?何時の間に? 「昨日言ったろ?冬島に着くって」 『・・・言ってたっけ』 記憶にないんだが。ああ、自分の記憶力の無さのせいか。 「ああ、夢の中で」 『夢の中かよ!つい自分を自虐しちゃっただろうが!』 本当に何だろう。エースは抜けている。まァ言ってしまえば何時ものことだが。 『あー、でも島なら町に行きたいなー。そういえばあんまり冬物の服とか無かった気がするし。買ってこよ』 「俺も行く!」 『何でだ』 「ひずにが迷子になりそうだから」 『本当に僕を何歳だと思ってんだチクショウ』 あーもう、何で僕を子供扱いするかなァ・・・。もう立派な嫁入り前の乙女だ。 うぇっ、乙女って自分で言っといて気持ち悪くなってきた。 「パパはお前のことが心配なんだよ!」 『パパ・・・何時までも子供でいる訳じゃないんだよ。やがて大人になって親の元から巣立って行くのさ・・・』 「イヤだァァアァァア!!ひずに行かないでくれ!!!」 『どんだけ過保護だアンタ!つかうるさい!!』 てか町の方に行きたいんだけど! 『ちょっとパパ、着替えるから廊下に立ってなさい!』 「おう」 一気に静かになったな。エースがたまに分からない。 エースが出て行ったのを確認すると、僕はもそもそと布団から出て出来るだけの厚着をして部屋から出た。 「ひずにお金持ってるか?」 『あるよー』 「ちゃんと船の位置を確認してから行くんだぞ」 『分かってるよー』 「知らない人には付いて行っちゃダメだぞ」 『本当にアンタは僕を何歳だと思ってんだ』 ちょっとイライラしてきた。 「何かあったらすぐ意思疎通するんだぞ!」 『はいはーい』 結局甲板に出て島の方に降り立つまでエースはうるさかった。心配してくれるのは嬉しいがちょっとやり過ぎだ。 甲板に出た時もそうだったが、かなり雪が積もっている。ロングブーツ履いてきて正解だった。 護身用に一応小刀を持って僕は町に向かった。 * * * そこそこ大きな町だ。中心部が一番賑わっている。 さてさて服屋さんはどこだ。できるだけ厚着をしたけどやはりまだ寒い。 道行く人々を見てとてもコートが温かそうだ。そうだ、コートを買おう。 キョロキョロと見回しながら歩く。あ、あった。 僕から左斜め前、連なる建物の間に見えた看板。どうやらコート専門店のようだ。 丁度良い。と足をそちらに向けた僕の視界にあるものが飛び込んでくる。 『何だあのモフモフピンクのコート』 店の前に僕に背を向けて立っている、きっと背の高さや体格から男性だ。回りから浮いた派手さについ凝視する。 背高すぎね?つか派手なピンクだなー。 ・・・アレ、待て。待てよ。僕はアレを知っているかもしれない。いや、でも同じコート着た背が高い人ってことも考えられる・・・。世の中は広いんだ。だけどあんなの趣味にしてるのはアレしかいないか? つか何気アレを避けて人は歩いているように見える。つかアレアレって失礼? まさか、ね。店に入る時チラッと顔を見てみよう。 止めていた足を動かした。 動かした。 んんんん? うごっ、うご、か、した・・・・・・! 『って動かねェし!!ちょっ何!?』 道行く人々が不振な目で僕の事を見た。やべっ、恥ずかしいんですが。 途端、足が動き出した。でも自分の意思で動かしていない。 だが分かった。まさかまさか思っていたが・・・。 足が向かうのはこちらに背を向けたモフモフピンクコートだ。近付いた事により気づいたが、相手の指が動いている。 僕の足はモフモフピンクコートの真後ろでやっと止まった。だが自分では動けない。 そこでやっとモフモフピンクコートは振り返った。つかモフモフピンクコートって言うの疲れた。 「フッフッフッ、この俺に何か用があんのか?」 『(やっぱりィィィィイイイ!!)』 目はサングラスにより笑っているかは分からないが、意地悪そうに口角を上げてそう言った。 独特的な笑い方、サングラス、そのモフモフしたピンクのコート。 『超桃鳥・・・!!』 「はぁ?何を言ってんだテメェ」 『はっ!つい!七武海の"ドンキホーテ・ドフラミンゴ"だった!』 「死ぬか?」 『えええぇええ勘弁してくださいィィィイ!!』 ちょ、何で二言目で「死ぬか?」なんだ!脅しか!最初のは言葉の綾です! 『あの、すいません、本当にすみませんドンキホーテさん、だから能力解いてください逃がしてください勘弁してください』 「お前俺の能力知ってるのか」 『深くは知らないですがどっちにしろ命に関わるので解いてくださると嬉しいです』 もう必死になって息を継がずにまくしたてる。 「フッフッフッ、解く訳ねェだろうが。死ぬか?」 『本当に何なんですかその脅し!!』 もうイヤだこの人。口角は上げたままで完璧楽しんでいるとしか思えない。 「退屈だったから聞いてやる。お前何で俺のこと見てたんだ?」 『えっと、それは・・・』 ついどもる。何でかと聞かれれば何でだ。初心なんてとうに忘れた。てか何で知ってんだ、頭の方にも目があんのか。 『・・・分かんないです』 「はぁ?・・・・・・フッフッフッフッフッ!」 『(え、何?急に笑い出したんだけど!)』 急に大声で笑い出した。何でだ。素直に言ってみただけだったのだが。 というより周りの目が気になった。チラリと周りを見ればさっきまでの人々はどこに行ったんだ、という程に人が居なくなっている。ああ、きっと非難したんだな。僕も連れてけよ・・・! 「お前名前は?」 『・・・・・・・・・・・・エ○モ』 「エル○?しかも何だその間は。それに顔笑ってるぞ」 『ぶふっ、自分で言って受けてしまった・・・!』 「何なんだお前」 ドンキホーテさんに呆れた、むしろ哀れみの声で言われた。 「・・・本当の名前を教えろ」 終には少し凄みのある声で言われてしまい、これ以上ふざけるとヤバそうだ。 『ひずに、です』 「ふーん、そうか、ひずにか」 少し黙って僕を上から下まで見るドンキホーテさん。てかそろそろ能力解いてくれ。無駄に緊張していてもう限界がきそうだ。 「・・・センス悪いな」 『ほっとけ!!』 はっ、となるが遅い。つい反抗した態度をとってしまった。 恐る恐る顔を見る。口元は笑っているがサングラスにより目からは読み取れない。 「フッフッフッフッ!」 『・・・・・・・・・』 ただ笑っている。 「本当にお前は面白ェなァ?この俺の事を知っておきながらそんな態度でよ?」 『ほほほほほ本当にすいませんんんんん!!!今のはつい!つい出ました!!』 「フッフッフッ!許す訳にはいかねェよなァ?」 やっべ!これ何コレ!?え?逃げようか!!?でも能力で足動かねェし!! 僕が困惑しきった顔で必死に小さい脳みそを働かせていると、ドンキホーテさんは笑いを零した。 「フッフッフッ、嘘だ。そんな慌てるんじゃねェ」 『・・・え?嘘?』 「嘘じゃなかったら良かったかァ?」 『良くないです!!良くない良くない!』 「フッフッフッフッフッ!本当に面白ェなァ。退屈しのぎには丁度良い」 『(全然面白くねェよ!つか退屈しのぎって、アンタ僕の事なんだと思ってやがるんだ・・・)』 本当にいい加減疲れてきた。さっさと開放しやがれこのヤローが。 「お前はここのもんか?」 名前教えたっていうのに"お前"でしか呼ばねェな。 『・・・違いますけど』 「そうだろうな」 そうだろうな、って・・・分かってんなら聞く必要があるのか? 「じゃァお前はどこから来た?」 『遠い遠い宇宙の彼方から「嘘つけ」えぇー』 真剣な顔でそう言ってみたがダメなようだ。 『えっと、東の海?』 「何で疑問系なんだ」 『えっと、僕はどこから来たの?』 「だから何で疑問系なんだ」 コイツ頭大丈夫なのか、という感じの声音だ。まァはぐらかすに越したことはない。落とし子ー何て簡単に信じるとは思えないし、つか一応海軍側のドンキホーテさんに話したらどうなるか分かったものじゃない。 next 後半に続きます。 ←前次→ 戻る |