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26:【お化け何て怖くない?】
ある日の夜、一人のクルーが"このままでは寝小便しちまう!"というもの凄い尿意に襲われた為、急いでトイレに向かっていた。

トイレにあと10mというところでクルーは前方に不可解なものを見た。

等身大の、薄白くぼぅっと、少し揺らいでも見える何かだった。

クルーは一旦尿意を忘れてただ呆然とそれを見た。そしてじわじわと顔を青白く、歪ませる。

クルーは段々とある答えにたどりつつあった。この不可解なものは・・・

途端前方の不可解なものがぶわりと、まるで大きな手を伸ばすようにこちらに伸びてくるではないか。

クルーは渦巻く大きな恐怖により出た叫び声と薄れゆく意識の中で確信した。

―――幽 霊 

叫び声に気づいた見張りのクルーが、倒れてお漏らしをしていたクルーを発見した時にはもう、あの姿は無かった。


* * *


「何か等身大の白くてぼぅっとしてたらしいぜ」
「トイレに行く途中の道に出たらしい」
『ええええぇええ!?マジで!?お化け出たの!?』
「マジらしいぜ。何せ・・・見た本人はお漏らししたぐらいだしな!!」


ドッとその場が笑い出した。ヒィヒィ笑いながら腹を押さえ大爆笑だ。

次の日の朝、食堂で昨日の夜の出来事を聞いたクルーやひずに。

見た本人はそれに反対するように熱心に語る。


「マジだって!!俺は見たんだ!急に何か伸びたし!!それにお漏らしは、アレはもう本当に漏れそうだったからトイレに行ってた訳で・・・」
「結局漏らしちまってんじゃねェか!バカだなァ!」
「大体から幽霊ごときでビビッてんじゃねェよ!俺は幽霊なんか怖くないぜ!」
『えぇ〜、僕は幽霊ダメだな〜』
「ひずに、生きてる人間の方が怖いもんだぜ?」
『でも幽霊はイヤだな〜』
「大丈夫だひずに、出た時は俺が守ってやるよ」
「おう、俺もだ」
「安心しろ」
『ありがとう!だがキュンともしなかった』
「何でだ」


なんやかんや言ってクルー達には大事にされているらしいひずに。


「まァ、出たときは思いっきり叫べよ?」
『はーい』


誰も信じはしなかった話はただの"噂"になった。

そんな噂でも人の頭の片隅にはあるもんだ。

だがその程度で受け止められていた噂は、信憑性を得る。


複数の被害者が立て続けに出た。



「あの噂、マジだったらしいぜ?」
「噂ってお化けかよ」
「目撃者も他にいるんだとよ。結構でかくて身長4m?」
「昔の仲間の悪霊って話もあるぜ」
「親父の船に死んでから悪霊になって出てくる仲間なんていねェだろ」
『何か声聞こえるんだって〜』
「えっ、マジかよ」


信憑性を得たただの噂はどんどん広まる。元の本当の話から様々な形となって。


「マジで出やがるのかよ・・・」
「何だよ、お前この前怖くないとか言ってたじゃねェか」
「当事者達は何て言ってるんだよ?」
「何だか知んねーが、実態はあるって話だぞ?」
「はァ?あったらソレ、幽霊じゃねェだろ」
『何か幽霊から降ってくるみたいだよ〜』
「降ってくる?」
「あ、それ掴もうとした奴いるみたいだけどよ、掴んだと思ったら消えてるんだってよ」
「意味分かんねェ」


そこで"これでは士気にも関わる"ということで広まるただの噂を無くそう、と隊長達が立ち上がった訳だ。


「たく、幽霊ごときで騒ぐなんてまだまだ鍛えが足んねェよぃ」
「ゴキブリが怖くて凄いビビッてた事は言わない方がいいですよね」
「言ってんじゃねェかよぃ・・・」
「あ、心の中で思っていた事がつい口から!」
「キフリお前しばくぞ」
「まァ落ち着けよマルコ、幽霊の正体を突き止めようぜ!!」
「何でお前そんなノリノリなんだよぃ」
「虫かごに捕まえる!!」
「「アホか」」
「キフリおまっ!またタメ口!!」
「お前にとっちゃそこが問題なのかぃ?」


キフリもなんやかんやで同行していた。この3人はまだ被害には会っていない。


「ほら!虫かごも準備したんだからな!俺は本気だ!!」
「分かりましたよエース隊長、一人で頑張ってください」
「えぇー皆で捕まえに行こうぜ!」
「子供かよぃ」


わいわいと、本当に緊張感の無い状態で居た為か気づかなかった。

薄白く、揺らめく何かが近付いていた事に―――

一番に気づいたのはキフリだった。


「!? ちょ、隊長!見てアレ!」
「! 出やがったか!」
「あっ!俺が捕まえるからお前ら手出すなよ!!」
「そんな事言ってる場合ですか!」


ふらっ、と揺れたかと思うと、ドウッ!と凄いスピードで3人に向かう。

身構えるマルコとキフリ。だがエースは違った。


「よしっ!捕まえてやる!!」
「いや、幽霊だからすり抜けるだけでしょ!」
「でも実態はあるって話だったろぃ?」
「でも隊長ロギアじゃないですか!」


正面に立ち大きく両腕を広げて待ち構えだした。

本当にそれに実態があるといっても、キフリの言うようにエースはロギアだ。通り抜けたっておかしくは無い。

距離は一気に縮まり、接触した。


ドスン!!


「え?ドスン?」
「ぶつ、かった・・・!?」


ぶつかったエースとそれは転げ回り壁にぶつかって止まった。


「いたたたた!」


エースがぶつかった箇所をさすりながら自分の腹の上に乗っかっているそれに目をやった。そして目を見開く。


『な、何でロギアのエースにぶつかっちゃったんだ・・・!!?すんげェ鼻痛い!!』


近寄ってきたマルコとキフリも目を見開いた。そこに居たのは、


『ぶべっ!鼻血出てる!ぶっ、ぶっ』


出ている鼻血が口に入ったのか、噴出しながら鼻を押さえるひずにだった。


「は、ハァァァアアァアア!!?」
「ななっ、何でお前がっ!?」
「ひずに!?お前っ、いいいい何時の間に幽霊なんてなっちまってたんだァァァァア!?何時の間に死んでたんだァァァア!!そそそそそそんなァァァァアアアア(泣)」
「「『いや違うだろ!!!』」」


3人のツッコミを無視しながらおいおい泣きながらひずにを抱きしめるエース。ひずには思いっきり嫌そうな顔をしているが。


「つか何でエースにぶつかる事ができたんだよ?」
「そりゃァ、アレだろぃ。ひずにだからだろぃ」
「ああ、なるほど」
「ひずにィィィィィィ!!!」
『うるさい、ちなみに勝手に僕を殺すな』


泣いているエースと、エースからぐいぐいと離れようとするひずにをマルコとキフリは見てため息をついた。

呆れと、微笑ましさという複雑なため息だった。


* * *


次の日、ひずにが幽霊の正体だとバレた。


「ひずに〜?どういう事だ〜?」
「俺がどんだけ恥ずかしかったと・・・!」
「何であんな事したんだよ!」
「俺は数日間からかわれたんだぞ!」
「理由を教えろ!」
『よし、理由を教えてやろう!ズバリだな!』
「何でそんな偉そうなんだよ」
『僕の翼さァ、暗いところだと発光する、って事を発見したんだ!!』
「「「・・・だから?」」」
『え、反応薄。まァ、それを使って面白い事出来ないかなァ、と考えたんだ』
「「「・・・・・・だから?」」」
『そして僕は思いついた、お化け!!』
「「「だ・か・ら?」」」
『え、だから?って何さ。お化けーだから今までやって見せたように驚かしたんじゃん?』
「「「・・・・・・」」」
『白い服を来て翼で体を覆うようにしてさ。そんな感じで、まァ言えば暇潰し?』


そしてひずには止めの言葉を笑顔で吐き出した。


『皆のビックリした顔すんごい面白かったよ!お漏らしした時とか部屋に戻るまでが地獄でさ!!笑いが止まらなかったね!!』


この後ひずにが被害者総出で追いかけられた事は言うまでもない。



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あきゅろす。
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