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ハルノヒザシ

「悪い。前田。今日も先帰ってくれ」
「あ、うん。ご飯は?」
「食べるよ。早く帰るから。悪いな」
「大丈夫だよ。じゃあ。また後で」
今日は金曜日。
三好が今日も、一人先に教室を出て行った。
これで一週間連続。今まで毎日のように一緒に帰っていた三好の姿は、今日も俺の横にはない。
部屋や教室にいる時は、全くもっていつも通りなので、特に避けられている訳ではなさそうだが、すっかり三好と帰るというか一緒にいるのが習慣になっていた俺は、少し寂しい気持ちで、教室から寮までの道を一人帰る。明日からの週末は、一緒に過ごすことができるだろうか。まだ、藤堂君のことも話せてないし…。
もう、すっかり11月も中旬を過ぎて、木枯らしが吹きすさぶ外を、先週くるみちゃんと一緒に町に降りて買ってきたダッフルコートの首元を抑えながら歩いていると、後ろからとん、と軽い衝撃。
「春日先輩、今帰りですか?」
そう言いながら、俺の右手に抱きついてきたのは、俺と同じくダッフルコート姿の神田君だった。
にこにこと笑うほっぺが赤い。
「うん。今帰りなんだ」
「三好先輩は一緒じゃないんですね!珍しい」
俺じゃなくても、俺と三好が一緒にいるのは当然と思っているようで、神田君が俺の右腕を抱いたまま、いつもの上目遣い気味の目線で俺を見ながらそう言った。
ひとりさみしい気分になっていた俺は、そんな神田君の末っ子全開のかわいい仕草と神田君から伝わる暖かさに、心がゆるっと癒されていく。
「ちょっとこの頃用事あるみたいなんだ」
「ああ!そう言えばこないだ三好先輩なんか背が高い人と歩いてるの見ましたよ!こないだというか一昨日ですけど。知ってます?春日先輩」
「そう、なんだ。いや、知らないな。三好のお友達だと思うけど」
 なんか背の高い人、かぁ。俺が知る限り三好の知り合いは俺をはじめ、みんな170センチちょいの人が多いし、副会長や平野先輩や夏は背が高いけど、その人たちだったら神田君も知ってるはずだから、多分俺の知らない友達なんだろうな。この頃その子といるのだろうか。
 ふと出てきた三好の目撃証言に、ついつい俺が、そんなことすべて三好の自由であるはずなのに、余計なことを考えていると、神田君の視線を頬に感じた。視線を移すと、ぎゅっと、右腕が抱きしめられる。神田君のくるりとした目が俺を映していた。かすがせんぱい、と神田君が年下の声を出す。
「一つ、変なこと言っていいですか?」
「どうしたの?なあに?」
「僕じゃダメですか?」
「えっ?なにがダメなの?」
唐突な言葉に状況が飲み込めなくて、思わず俺が聞き返すと、神田君が俺を見つめながらふっと笑った。可愛らしい中に、少しだけ、人を惑わすようなその笑顔に、夏が小学生だった時のことを思い出した。年長者の愛を誘うような、その魅力的な笑み。
「ううん。わかってます。言いかっただけなんです」
神田君は囁くように言いながら、首を微かに振った。いつの間にか俺たちは寮の前についていた。なんだか俺はぽかんとしてしまって、寮の入口の前で立ち止まる。
「春日先輩。寂しかったらいつでも僕のところ遊びに来てくださいね。あ、いや寂しくなくても遊んでくださいね。僕ね、少しだけでもいいから、春日先輩の寂しさを埋められるようになりたいです。春日先輩、大好きですから」
「神田君…」
俺、そんなにさみしそうな顔してた?と聞くと、こくり、と神田君が頷いた。


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