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ハルノヒザシ
5・(藤堂視点)
(ああ、春日君だ)
今日も放課後三好君を付き合わせて、僕の教室でだらだら勉強をしていると、ふと三好君が窓枠に座りながら、校舎の外を眺めているのに気が付いた。近づいていって見れば、校舎の脇の道を寮の方へ、春日君が歩いているが見える。
「あ、誰か来たね。浮気してるよ、三好君」
僕がからかうのに一つも反応せず、二人の姿を見ている彼の眼差しは、切なげで。寂しげで。
そのまま切り取ってしまいたいくらい、綺麗だった。
(三好君はこんな顔もするんだな)
恋をしている顔。それも悲恋だ。
片時も彼から離れたくないんだね。本当は。
春日君が見えなくなるまで見送った後、三好君は本に目を落とす。
「三好君。ここさ、わからないんだけど」
僕が呼ぶと「どれ?」と前の席に来てくれた。
あー忘れちまった、とパラパラ教科書を捲り始める三好君の眼差しに、さっきの色はもうなくて。
放課後の教室。みーんな出ていってしまって。ここには二人しかいないのに。
僕が君の特別になることはない。
「思い出したわ、これな…」
話始める三好君の唇から白い歯が時々覗いて。指先まで整った手で三好君が鉛筆を動かして。
ああ、その歯で噛んで欲しい。ああその鉛筆で突き刺して欲しい。ああ、その手で首を絞めてほしい。
僕を、そんな特別にしてほしい。
春日君の次で構わないから。
そう思うけど口に出したら睨まれるだけなので、大人しく僕は三好君の言葉に耳を傾ける。
「……て感じ。わかったか?」
「わかん、なぁい……」
ああ、でもダメ。想像してしまったら。身体か疼いちゃって。それどころじゃない。だって三好君が苛めてくれないから。自分でやるのすら、許してくれないから…。
「どこがわかんないんだよ」」
「んっ…どこ、だろう、ね……」
「じゃあ、最初からどーやってこの問題考えてるか説明してみろ」
ああ、ちょっと待って。ほんとに待って。僕本当もうダメ。難しいこと言わないで。我慢できない。痛くして…。
「あ…、三好君、ちょっと、だけ…」
「はっ?」
「ちょっと、ちょっとだけだから…!」
そのまま僕は、三好君が持っていた鉛筆を奪い取り、自分の右手に突き刺した。


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