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ハルノヒザシ

「ふふ、ねぇねぇ、火で焼かれるのってどんな痛みなのかなあ」
屋上から寮の自分の部屋に戻って。
すっかり勉強に飽きた僕は、さっきから思っていたことを口に出してみた。
そんな僕を、ベッドの上に腰掛けて本を読んでいた三好君は思い切り不愉快そうな視線で一瞥した。
「終ったなら帰るぞ」と低い声で言う。
「もう僕疲れた。休憩したい。ねぇ三好君苛めてよ。痛くして、お願い。そしたら頭冴えて頑張れそう」
「お前の趣味には付き合わないって言っただろ。もうやらないなら帰る」
「ふんだ。けち。いいよ、やってくれないなら」
自分でやるよ、と僕は椅子から立ち上がり台所に向かった。左手を広げてガスコンロの上に置き、右手でコンロの栓をひねる。カチリと音がした瞬間、乱暴に左手を後ろから掴まれた。
「な、に、してんだ!てめーはっ!!」
飛んできた三好君が、僕の左手を後ろに捻り上げながら言う。
「だって三好君してくれないし、答えてくれないから、どんな感じかと思って。あ、痛い痛い。いいね」
「くそっ!この変態野郎が」
せっかく良かったのに、三好君が僕の手を放してしまう。すごい怖い顔で睨んでくるので、僕は渋々机に戻った。
「あ、そう言えば聞いたんだけどさ、天気痛ってよくなるらしいんだよね。段々と…。やだなあ、この痛いのがいいのに…。体調悪いと痛み出すらしいんだけど。体調悪いのは嫌だからなあ…」
渋々英文を写しながらお喋りを続ける僕を、三好君はフルシカト。
とっとと帰りたくてたまらないらしい。彼の元へ。
僕だって痛くしてくれればすぐに帰ってくれてもいいのに。
相変わらず難しそうな本を読んでいる三好君を見ながら思う。

『もう、あんなことは、やめろ』

先日、朝っぱらから僕の部屋に訪ねてきて言った三好君。
「じゃあ、三好君が見張っててくれる」と言うと、大人しく僕と一緒に居てくれることになった。
海ちゃんから、春日君に御執心と聞いていたのに。相変わらず優しいんだね。君は。
僕のおねだりは一つも聞いてくれないけど。勉強には付き合ってくれる。ご飯も時々一緒に居てくれる。身体のことも気遣ってくれる。
僕といてくれた後は、いつも彼のもとに帰って行ってしまうけど。
ねぇ、三好君。僕、春日君に会ったんだよ。君の大好きな。優しそうな、本当にそれだけって感じの普通の男の子だった。海ちゃんが好きだったっていう、火傷の痕も見せてほしかったなあ。
三好君も海ちゃんも好きという割には、なんか普通過ぎてびっくりしちゃったけど、三好君は普通にあこがれていたもんなあ。きっと彼が君がずっと求めていた人だったんだね。きっとあの子なら、三好君を全部受け入れてくれたんだよね。本当に良い子そうだったもん。

僕に会わせたくなかったの、良くわかるよ。
こんなに嫌いな僕の言うことを聞いてまで。
あの子は住む世界が違うんだ。僕たちと。
人を幸せにできる子なんだよ。そうでしょう。
ああ、だから三好君ここにいてくれるのかな。
僕は、なんとも思わないけど。僕はそんなこと望まないけど。

僕は、もう一度、読書をする三好君の横顔を盗み見る。
このことをバラすにはまだ早いから、黙っておくね。三好君。
ここには海ちゃんがいないから。僕が求める子は君と違っていないから。
少しくらい僕と、一緒にいてくれてもいいよね。
ね。三好君。
ね。春日君。



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あきゅろす。
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