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ハルノヒザシ

「ふーん」
黙ったまま睨み合っていた二人の先輩。
先に口を開いたのは望月先輩だった。
もう、その目に先程までの刺すような鋭さはない。
「確かに前田かわいいもんな」
二、三歩近付いて、俺達の前に立った望月先輩は、いつかしてくれたように、俺の髪をわしゃわしゃと撫でた。
大きい手が、きもちいい。
「バカでアホでマヌケなとこだけだけどな」
匂宮先輩は撫でられてる俺を見て、微かに笑いながら俺を見る。
優しい、慈しむような表情で。
匂宮先輩が、そんな顔をしているの見るのが初めてだった俺は、はっとして匂宮先輩の顔を見つめ返した。
嘲笑や、せせら笑う顔や、怒った顔や、不機嫌な顔、傷付いた顔や、無表情は沢山見たことあったけど。
微笑むとこの人はとても綺麗だ。
思わず俺が嬉しくてえへへと笑い返すと、「やっぱ間抜け面」と匂宮先輩にでこぴんをされた。痛いっと思わずおでこを抑えて伏せると、けたけたと笑いながら匂宮先輩が俺から身を離す。
「……!」
おでこを抑えながら望月先輩を見ると、望月先輩は片手を自分の腰に手を当てて仕方なさそうに笑った。
「じゃ、俺シャワー浴びっから。帰れ。前田」
「はい。またもし取れたら言ってくださいね」
「ああ」
さっさとシャワーの準備をして部屋を出ていってしまう匂宮先輩。
俺と望月先輩はそんな彼の姿を見送る。
「まーあそこまで素直じゃねー奴も珍しいわな。なんであんな誤解されるような言い方するかね」
「あんな感じをツンデレと言うんじゃないでしょうか」
「もー少し可愛いげがありゃいいのに。ところでどこにキスされたんだ」
「ん、瞼です」
「へえ。瞼へのキスは憧憬っていうけどな」
「そうなんですか」
キスする場所に意味があるなんて知らなかった。
「ああ、ちなみに」
「!!」
「鼻は愛玩だ」
ちゅっと軽く望月先輩の唇が俺の鼻に触れる。
不意討ちの出来事に俺の顔は瞬時に真っ赤になった。
「も、望月先輩まで…」
「匂宮ばっかずりーってことで。俺にもボタン付けやってくれよな。ボタン取れたら。ああそうだ。米食うか?実家から送られてきたんだ」
そう言って望月先輩は沢山のお米を持たせて、俺を部屋から見送ってくれた。
とことこと、米と裁縫道具を抱えて、自分の部屋へと戻る。
匂宮先輩と望月先輩。
二人とも後輩の俺から見たらすごく大人に見えて、二人に挟まれてるとやたら胸がドキドキした。
険悪な雰囲気になった時はどうしようかと思ったけど、最後はなんだか柔らかいムードになって良かった。
(匂宮先輩、俺のことウザがってなかったし…)
匂宮先輩の笑顔を思い出して嬉しくて、また一人でにやにやしてしまう俺。
匂宮先輩に認めてもらえたようで嬉しかった。
匂宮先輩とは一学期色々あったから。
色々あったけど、今は微笑みかけてくれる。
「♪」
自然に鼻唄をを歌いつつ、俺は寮の階段をリズミカルに降りていた。


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あきゅろす。
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