ハルノヒザシ 6 「ふーん」 黙ったまま睨み合っていた二人の先輩。 先に口を開いたのは望月先輩だった。 もう、その目に先程までの刺すような鋭さはない。 「確かに前田かわいいもんな」 二、三歩近付いて、俺達の前に立った望月先輩は、いつかしてくれたように、俺の髪をわしゃわしゃと撫でた。 大きい手が、きもちいい。 「バカでアホでマヌケなとこだけだけどな」 匂宮先輩は撫でられてる俺を見て、微かに笑いながら俺を見る。 優しい、慈しむような表情で。 匂宮先輩が、そんな顔をしているの見るのが初めてだった俺は、はっとして匂宮先輩の顔を見つめ返した。 嘲笑や、せせら笑う顔や、怒った顔や、不機嫌な顔、傷付いた顔や、無表情は沢山見たことあったけど。 微笑むとこの人はとても綺麗だ。 思わず俺が嬉しくてえへへと笑い返すと、「やっぱ間抜け面」と匂宮先輩にでこぴんをされた。痛いっと思わずおでこを抑えて伏せると、けたけたと笑いながら匂宮先輩が俺から身を離す。 「……!」 おでこを抑えながら望月先輩を見ると、望月先輩は片手を自分の腰に手を当てて仕方なさそうに笑った。 「じゃ、俺シャワー浴びっから。帰れ。前田」 「はい。またもし取れたら言ってくださいね」 「ああ」 さっさとシャワーの準備をして部屋を出ていってしまう匂宮先輩。 俺と望月先輩はそんな彼の姿を見送る。 「まーあそこまで素直じゃねー奴も珍しいわな。なんであんな誤解されるような言い方するかね」 「あんな感じをツンデレと言うんじゃないでしょうか」 「もー少し可愛いげがありゃいいのに。ところでどこにキスされたんだ」 「ん、瞼です」 「へえ。瞼へのキスは憧憬っていうけどな」 「そうなんですか」 キスする場所に意味があるなんて知らなかった。 「ああ、ちなみに」 「!!」 「鼻は愛玩だ」 ちゅっと軽く望月先輩の唇が俺の鼻に触れる。 不意討ちの出来事に俺の顔は瞬時に真っ赤になった。 「も、望月先輩まで…」 「匂宮ばっかずりーってことで。俺にもボタン付けやってくれよな。ボタン取れたら。ああそうだ。米食うか?実家から送られてきたんだ」 そう言って望月先輩は沢山のお米を持たせて、俺を部屋から見送ってくれた。 とことこと、米と裁縫道具を抱えて、自分の部屋へと戻る。 匂宮先輩と望月先輩。 二人とも後輩の俺から見たらすごく大人に見えて、二人に挟まれてるとやたら胸がドキドキした。 険悪な雰囲気になった時はどうしようかと思ったけど、最後はなんだか柔らかいムードになって良かった。 (匂宮先輩、俺のことウザがってなかったし…) 匂宮先輩の笑顔を思い出して嬉しくて、また一人でにやにやしてしまう俺。 匂宮先輩に認めてもらえたようで嬉しかった。 匂宮先輩とは一学期色々あったから。 色々あったけど、今は微笑みかけてくれる。 「♪」 自然に鼻唄をを歌いつつ、俺は寮の階段をリズミカルに降りていた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |