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RAPTORS

 ごつごつした岩壁によりかかる人影があった。
 隼の姿を見つけ、影が揺れる。
 それが誰なのか確認して、隼は顔を顰めた。
「王子をどこに連れて行くつもりで?」
 隼が口を開くより早く、相手が訊いてきた。
 この人物――縷紅だけは、顔を合わせたくなかったと、隼は悔いた。
「根の国」
 ぶっきらぼうに隼は答える。
「何をしに?」
「同盟を結ぶ為」
「本当に?」
「疑うのか」
 縷紅は否定しなかった。ただ淡々と言う。
「貴方は根の危険さを知らないのか?」
「皮肉ってんのか?」
「いえ…王子を無事に帰して下さるよう、お願いしているのです」
「やっぱり皮肉だな。そんな遠回しな願いを汲んでやる程、俺は出来てない」
 それには何も言わず、縷紅は正面から隼を見る。
「聞き入れて下さいますか?」
「俺が王子に何すると思ってんだ?お願いされる事じゃねぇだろ。それに子供じゃねぇんだ、自分で身を守るくらい出来る」
「…守るべき人物が裏切っても?」
「だから、俺が王子に何すると思ってんだ?」
「信用出来ない。貴方が何を考えているのかも想像出来ない」
「出来なくて結構。俺は言った以上の事は考えてない。お前は何するつもりなんだ?断固として根に行かせないつもりか?俺が信用出来ないから行くなと王子に進言するつもりか?」
「何かあってからでは遅いでしょう。――貴方の返答次第では私も行こうと考えていました」
「天の人間が行ってどうする。天を倒す為の同盟なのに」
 これ以上話しても無駄だと、それ以前にこの人物と話したくないと思い、隼は止めてい足を進めた。
 一方縷紅は、まだ逃がしてはならじと更に言葉を掛ける。
 真意を確かめねば、離れる事は出来ない。己の目的の為に。
「出発は?」
「明日」
「ずいぶん急ぎますね」
「この国には時間が無い。こうしている間にも皆苦しんでいる」
 ふと隼は足を止める。
「お前は…国と王子、どっちの為に地に下りたんだ?」
「――え?」
「何故王子に過保護なんだ?確かにガキだけどな…何故、国より王子にこだわる?」
「貴方は国の方が大事ですか?」
 どちらの言葉にも、言外に「天の、根の人間なのに」という意味が含まれている。それが互いの双眸を鋭くしている。
「俺は、地の国と、王子の臣下だ。王子が地を建て直すなら、俺はそれを助ける役目がある」
「…私は自分の為に地に下りた」
「へぇ?」
「理由は言えないが、私は王子…否、黒鷹を守らなければならない」
「国はどうなってもいいワケだ」
 隼は皮肉めいて言ったが、縷紅はさらりと肯定した。
「本質的には天の人間ですから」
 隼は目を細める。
「危険なのはそっちじゃねぇの?」
「私は地の何も害す事はありません」
「その言葉、覚えておけよ」
「そちらこそ、王子の無事をお守り下さる様、重ねてお願いします」
「くどいな。ったく」
 吐き捨てて再び歩きだした隼の背に、縷紅が言葉を掛けた。
「貴方の背後には何者か居るのですか?」
「はぁ!?」
 思わず隼は振り返る。
「どういう意味だ、それ」
「僅か二歳の子供が敵対する異国に置かれた意味――それを考えていました」
「…司祭か」
 その事実を教えたであろう人物を低く呟く。縷紅は反応を返さず続けた。
「例えば――周囲の目を眩ませる為に何者かが子供を用いたとすれば…どうでしょうか。その子が定期的に根の者と接触していたとすれば」
「俺は俺以外に根の血を持つ奴を知らない」
 きっぱりと隼は言った。
 憎しみを込めた翡翠の瞳は、必ずしも縷紅のみを見ている訳ではない。
「…この国に居る根の人間は…国に見捨てられた…否、親に見捨てられただけの人間だ」
「……」
「お前がどういう想像をしようと勝手だが、それを俺に喋るのは許さない。…俺は地の人間だ。もう、関わるな」
 遠ざかる背を見ながら。
 縷紅は、翡翠の瞳の中にあるものが、悲しみだったと。
 漸く知った。そしてそれを信じざるを得なくなった。
 決して、それは、他人事ではないものだったから。



 夜。
 必要最低限の軽い荷物を確かめながら、黒鷹は鶸に言った。
「またこの国に帰って来れるかなぁ?」
 鶸は聞いてぎょっとする。
「何言ってんの、お前!?」
「いや、ちょっと思っただけ」
 鶸の驚きようを笑いながら、黒鷹は言う。
「俺が居ない間は、お前が地の王だ。非常時には指揮しろよ」
「お前より似合わねぇよ、俺が王なんて…」
「盗賊の頭とそんな変わんねぇよ」
「じゃあ王って言うな。頭って言ってくれ」
「そうだな。…それで、一週間帰らなかったら、お前が本当に王だからな」
「…は?」
「頼むな」
「ちょ、ちょ、ちょっと待て…自分が何言ってるのか分かってるのか!?」
 まくし立てる鶸を、ちらりと横目に見る。
「今聞いた事が理解出来ないのか?」
「頼む相手が違うだろう!?」
「じゃあお前は鶸じゃないのか?」
「そういう問題じゃなくって…」
「王族だろ?いい加減自覚持て」
「って言われてもなぁ」
 困り果て、がりがりと頭を掻きむしり、上目使いに黒鷹を見た。
「頼むから、ぜっっったいに帰って来いよ」
「さてなぁ…?」
「何があっても帰って来いよぉー!!」
 黒鷹は悪戯な笑みを、笑いに変えた。





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