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†piccio notte†
†009


「ははっ、木の杭なんて古いよ」

彼は笑って言った。
ふと、何かの気配に気付く。

「……」

暗い通り道を見つめて、小夜は立ち止まる。

「危険…」

その言葉を思い出す。
人間を餌にしている吸血鬼がいるのなら吸血鬼を餌にしている獣がいるというのか?
考えが巡る。

「小夜様?」

「…変な匂い……。人間じゃない、吸血鬼じゃない、気配する」

暗い通り道から目を逸らさず、小夜は口を動かした。気配が、蠢くように、地を這って駆け巡るような、何か。

「鼻が利くね、小夜」

紅呀の発言と供に、暗い通り道から、《その何か》が飛び掛かってきた。
鋭い牙 まさに獣の姿は。

「狼……?」

ザシュッ!!!
獣が小夜に行き着くより前に血を吹き出す。見えない何かに引き裂かれたかのように、血を吹き出し倒れた。

「……今の貴方が?」

紅呀を見上げた。返事の代わりに笑みが返ってくる。

「……これは?」

「…ルーポ………狼です。言うなれば狼人間」

砂鈴が答えた。狼。狼人間。吸血鬼に並ぶ怪物だ。

「コイツは人間も吸血鬼も食べるぜ。まぁ、吸血鬼は血さえあるモノを喰うが」

紅呀は虫の息の狼に近付き、首を絞めて殺した。

「喰うか喰われるかの世界だから、ね」

血に濡れた手で小夜の頬に触れて、意味ありげな笑みを溢した。
────ぴくっ。
小夜は不快そうに頬を引き吊らせた。可笑し衝動が襲ってくる。
ベタベタのその血を拭き取るが、可笑しな衝動はやまない。

「……!」

何処からか銃を構えて、砂鈴は警戒するように見る。
ざざっ!
三匹の狼が飛び掛かってきた。
ザシュウッ。
また行き着くより前に、狼は切り裂かれた。視えない刃物によって、その肉は引き裂かれ、血飛沫を上げる。

「!?…これはッ…」

砂鈴が振り向くと同時に、小夜はその場で崩れた。

「くっ」

「小夜様!!」

砂鈴は駆け寄った。

「……ハンカチないですか?」

辛そうな顔で、血に濡れた手を見せる小夜。

「は、はい…」

ハンカチを取り出して、砂鈴は血を拭き取った。

(今の……彼女の【力】か)

疲労から砂鈴はそう悟る。
今まで暴れなかった小夜の【力】が発動して、引き裂いたのだ。
紅呀を見る。意味ありげな笑みを溢していた。

「今日はここまで。帰ろうか」

小夜の顔を覗くようにして、彼は言った。
小夜は必死に震えを抑える。辺りの充満する血の匂いが可笑しな衝動を起こす。



 


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