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†piccio notte†
†008


「ちょいっと支度するから待ってろ。外に行くぞ」

吸血鬼のボス。
そんなものを感じさせない無邪気な笑顔。
だから彼はワカラナイ。

「変」

紅呀がいなくなってから、小夜は呟く。

「変…?何がです?」

砂鈴は訊いた。

「彼……変ですよね」

「え…?」

「彼、優しい……家族、殺したのに…」

首の十字架を手でいじり、彼女は言った。

「……」

砂鈴は顔をしかめた。家族を殺した相手の元に居るなんて、なんとも残酷。

「優しいから……仕返しも気が引ける……」

ぼそり、呟く小夜。

「し、仕返し!?」

問題発言に絶句する砂鈴。

「そうだ、砂鈴さん。外は何かあるの?」

思い出したように、先程砂鈴が言いかけていた事を訊いた。

「あ…。外はまだ、貴女様には……危険です」

「危険……?」

首を傾げた。吸血鬼になった今、恐れるものがあるのか?

「それを見に行くんだよ、小夜。好奇心旺盛にや良いネタだ」

戻ってきた紅呀が言った。

「いっくぞ」

ベッドの前にしゃがむ小夜の手を掴み、彼は引いた。

「行くぞ」

砂鈴にも告げる。小夜にかける声と違い、冷たく低い声。

「五日ぶりの外だぜ」

「……」

紅呀に引かれるがままに、小夜は歩いていった。

外。
それは闇の様な景色だった。空は穴が開いた黒い幕に包まれた夜。大きく円の欠けた月は、不気味に浮かぶ。
何処の街だかわからない裏通り。

「昼だと思ったか?」

「…ううん。吸血鬼は夜行性だから夜だと思ってた」

からかうような笑みを向けた紅呀に、しれっと小夜は返した。

「えー期待外れな。んな無愛想な顔すんなよ」

地下と変わらぬ明るさに驚いた。そして全く知らない街だということには驚いたが、それを知られれば彼はからかってくるのは予想がつく。

「何処行きたい?」

「…………私の家。荷物取りたい」

「それならもう運ばせてるから心配するな」

「……………………………………不法侵入者め」

憎たらしそうにぼそり、小夜は呟く。

「もっと言って♪」

異様なテンションに小夜は引いた。

「あ、そうだ」

スルッと彼は小夜のチョーカーを外した。

「龍嬰様ッ!?何をッッ」

「俺、 紅呀 だから」

ちゅ、とリップ音を立てて十字架にキスをする紅呀。

「……………………十字架効かないの?吸血鬼って」

「そこ言う?」

くすくす、紅呀は笑い出しまた歩き出す。

「効くことは効くけど、それは下級の奴らぐらいだよ。木の杭ならイチコロ♪」

「ふぅん…貴方を殺すなら心臓を木の杭で一突きしなきゃいけないのね」

躊躇いなく毒を吐く小夜。殺意を抱いている事を話しているようなものだ。隠すつもりも猫を被るつもりもないらしい。

「いーやぁ、俺は小夜の愛の言葉でイチコロだよ♪」

ふざけている紅呀に挑発は効かないようだ。
「ドン引き」とはっきり言う小夜。


 


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