†piccio notte†
†010
「くぅっ…!はぁっ…はぁ…」
一人、紅呀の部屋で必死に抑える小夜。
「ッ……う…」
「酷い喉の渇きに、空腹。血が飲みたくってしょうがないだろ?」
「!?」
紅呀が小夜のすがり付くベッドの上に腰を掛けた。
「はぁ、はぁ…!?」
「血の呪縛。吸血鬼は血を吸わなければならない。知っているだろ?」
異様な雰囲気を醸し出す彼を睨み上げる。
わざとだった。
わざと血に濡れた手で触れてきて、こうなるように仕向けた。
────血を求めて、
───苦しむように…
「5日も飲まず食わず、よく耐えた方だ」
吊り上げる口元。唇を指で押さえて言う彼は、実に憎たらしい。
「欲しい……だろ?」
開けた唇から零れる己の牙に触れて、紅呀は誘う。
牙で切れた指から血が流れる。
びくりッ。
小さく小夜は震える。血の匂いが嗅覚を刺激する。甘い香り。美味しそうな香りを欲する衝動。
「───ほら」
血が落ちるその指を小夜の唇につけた。小夜は堪えるように、歯を噛み締める。
「君は血を拒むね」
突き付ける指を引き戻し、紅呀は自分で舐めた。
「俺が与えた時も拒んだ。もう食べ物だよ」
血の匂いが更に濃くなる。
彼は手首に噛み付き、血を出した。ごくりっ、息を呑み込む小夜に、紅呀は近寄る。
血液は吸血鬼に言わせれば食事。
「ほーれほーれ」
「……餓鬼」
大人気ない彼に、小夜は呆れたように吐き捨てた。
「俺、小夜より遥か歳上だから」
にやにや、面白そうに笑う紅呀。
ああ、憎い…。
「これもダメ…」
釣れなかった事に残念そうに手首を戻す。
「最後の手段」
にやり、と笑って彼はまた手首に口をつけた。
───ぐいっ。
彼に掴まれ、ベッドの上にへと引っ張られる。逃げないように腕を回して顎を掴まれた。
そして唇を重ねた。
「んっ!!」
強引に噛み締める口を開けられて、舌と共に血液が口の中が侵入した。
「ん、ふッ」となんとか飲み込まないようにするが、彼の舌で荒らして飲ませようとする。
ゴクリッ。
ついに飲み込んでしまった。
「っ…げほ!」
「傷付くよ、それ」
解放されて血を吐こうと咳き込む小夜。
「俺の血は不味くないのに」
「はぁ……はぁ……」
「ほら、もっと欲しいだろ?」
小夜の顔を押さえて、また誘う。
「はぁ……ぁ…」
小夜の口から零れる牙が震える。噛み付いた。
彼の首筋に。皮膚を裂いて。
溢れる血が口に広がる。
───ゴクリ…ゴクリッ。
獣へと化してゆく己に、嫌気が差す。
───ゴクリ…ゴクリ…
。
「小夜…」
───ゴクリ…ゴクリ…。
「ストップ」とグイッと額を押さえて首筋から引き剥がされた。
「俺の血を全部吸う気?そんなに美味しかった?俺の血」
不適な笑みを溢して、彼女の口から垂れる血を紅呀は舐めた。
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