DEKIKON
お嬢さんを下さい編D
―人類みなムラムラの産物―
神楽がいない生活は、万事屋の日常になりつつあった。
沖田と神楽は、屯所の沖田の私室で新しい暮らしを始めている。万屋事をやめるつもりはない様子の神楽にも、落ち着くまでこなくていいと銀時が言った。
通院や、引っ越しや、滞在中の父親の世話に忙しくしているだろう。万事屋に神楽のいない日々が長くなる。
世間でいう娘を嫁に出すという悲哀はこういうものかと新八は噛みしめてみる。
そんな風に括ってしまうと妙にありきたりで少しは気も紛れるが、すっかりどこかへ追いやれはしないほど、昼下がりの万事屋は静かだった。。
「なんか、寂しくなっちゃいましたね」
言葉にすれば寂しさが増すのを新八は解っていたが、それでも言わずにいられない。
「そうだな」
とぼけた顔で耳を掃除しながらも、銀魂は同意を返してきた。自分が口にしなければ、銀時はその思いを押しとどめておくしかないのだと新八は思っていたからだ。
「神楽ちゃんがいないと、万事屋もなんか静かで」
ガシャコーン
「静かで…」
ガシャコーン
「寂し……うるせーよこちとら感傷に浸ってるんじゃボケェ!」
新八は思わず窓に取り付いて叫んだ。がなり立てるような機械音は家の隣から聞こえている。
「あれ、お隣さん工事してます」
人や機械をふんだんに使っているようで、やたら大げさな現場になっている。やがて振動する建物の傍らに、見知った顔を見つけた。
「沖田さん!」
「ぱっつぁんに旦那、ちょうどいいや、ちょいと茶でも飲ましてくだせえや」
こちらがうんともすんとも言わないうちに、沖田は万屋の階段を上がっていた。
「沖田さん、隣で何してたんですか」
「はぁ喉乾いちまった。コーラねぇかな」
台所で茶を入れ始めていた新八の横を通り過ぎ、勝手に冷蔵庫を開けてコーラを探す沖田はまるで住人かのように図々しい。
「コーラコーラ…けっ、しけてら。イチゴ牛乳で我慢するか」
ないコーラを諦めて、イチゴ牛乳をコップになみなみと注ぐ。それを一気に飲みほして一息ついたようだ。二杯目のイチゴ牛乳を注ぎながら話だした。
「今日が作業の一日目だってんで、立ち会いしてたんでさぁ。」
イチゴ牛乳を片手に居間に移動する沖田に新八も続く。客人が緑茶を所望しないというなら、台所にいる意味はない。
「作業っていうのは、」
居間で沖田を迎えた銀時は、持ち込まれたコップの中身を目ざとく見極めていた。
「俺のイチゴ牛乳!」
「旦那、いけねえや。こんな甘ったるくちゃ体んなか糖分だけになりやすぜ」
「糖分だけありゃ人は走っていけるんだよ!気に入られえなら返しやがれ!」
「いやでぃコーラがねえならせめて糖分入ったもんとらねえとやってられませんや」
「てんめっイチゴ牛乳をなぁ、コーラなんて骨砕き飲料と一緒にすんじゃねえ!返せ、残ってるだけでも返しやがれ」
「銀ちゃあんただいまよぉ」
懐かしい、というよりもしっくりくるというのが正しい。神楽の声を聞いて新八はそう思った。
神楽の様子は普段通りだが、後ろに星海坊主を連れ、更に万事屋に似つかわしくない上等な紙箱を下げていることが違った。
「ふふん、お前等そこにひれ伏すよろし。」
その箱はどう見ても、愛らしく繊細なケーキたちを仕舞い込んでいると思われた。神楽は小指を立てた手で、これ見よがしに箱を見せつけてくる。
「あ、ちなみに俺からですんで。旦那、イチゴ牛乳返しますか」
神楽が菓子折りを買う金など持っていないことは、誰より銀時が知っている。ケーキの箱を差しながら口角を吊り上げる沖田に、銀時の負けは決まった。
「銀さん、ちょーどイチゴ牛乳よりケーキがいいなあって思ってたんだよねぇ」
「神楽ちゃんたち隣に越してくるんですか!」
「下の女将が、隣の物件空いてるってんで、決めちまったんで。そのままじゃ住めねぇからリフォームして」
窓の外を覗けば、かなり気合の入ったリフォームをしようとしていることは間違いない。けれど、銀時はここに住み始めてから、隣の家の新築されたのを見ている。
「建ってからそう何年も経ってねえだろ」
「いやぁあんな壁の薄さじゃ一晩で使い物にならなくなりまさぁ。壁に鉄板入れて、頭打ってもいいように弾力材入れなくちゃあ。」
「初日からどんな夫婦喧嘩するつもりなんだよ」
「いや、駄目だな地球の標準家屋じゃあ。俺も夫婦喧嘩で、何度家を建て替えにゃならんかったか」
低い声で肯定する星海坊主の言葉が冗談には聞こえなかった。新八が聞く限りでも、方々の星で稼ぎ倒しているらしい星海坊主なのに、一家が貧しく暮らしていたというのは前々から腑に落ちなかったのだ。その理由が今聞いたあたりにあるような気がしてならない。
「旦那、あいつと夜営むってのはスーパーサイヤ人とスーパーサイヤ人が死闘繰り広げるようなもんでさぁ」
「どんだけ激しい夜過ごしてんだっ!卑猥だからね、ドラゴンボールに例えても卑猥だからね!」
「お前、神楽に手出だしてよく生きてやがったな。俺は銀髪頭でも生き残るのは五分だと思ってたんだが。夜兎の女ってのはな、貞操守るのに死ぬ気で抵抗するもんなんだよ。そのために相手殺しちまうなんてのはよくあることでね。殺そうとしてくる女に勝った男にだけ、女は体を許すってわけさ。」
星海坊主の言葉を聞くにつれ、銀時と新八は青ざめていく。
「特に処女の抵抗は必死だからな。人間の男がモノにできるたぁ。俺も母ちゃんとの初夜があと一年遅かったら殺されてただろうからな。結婚したって、ちょっと気が乗らなきゃ凶暴に抵抗するからな。気をつけろよ」
「そんな理由で早婚なんですか」
血の気のない新八の呻きに、神楽はあっさりと答える。
「私マミーに言われてたよ。どんなに愛する男でも、本能のまま殺意に任せて体を守りなさいって。あんなに殺意メラメラしたの初めてだったね、負けるとは思わなかったね」
「ムラムラしてる時の10代男子の底力甘く見ちゃいけねーや」
サザエさんの〆めよろしく、一家揃ってわーっはは、と和む三人に、遠く隔たった気分を味わう地球人二人だった。
「銀さん、僕らロリコンじゃなくて、良かったですね」
「新八くぅん、沖田くんが殺されてたらぁ、俺ら真撰組になぶり殺されてたかなぁ、ハハ」
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