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DEKIKON
お嬢さんを下さい編C
―ガキのくせにガキこさえちゃったりするけれど、人間大体一生クソガキ―








「押すな押すな」

「もう押すなって、絶対押すなよ!」

「痛っ!押せっていう意味じゃねーよ押すな」

「臭っ!誰か臭いぞ、耳裏を洗え」


昼下がりの真撰組屯所に、スキャンダルが舞い込んでいた。沖田隊長が星海坊主の娘に手を出した、と。
そして今、事件は応接室で起こっている。
屯所にのり込んできた星海坊主が近藤局長相手に怒鳴り立てている襖越しに10人近い隊士たちはわらわらと覗き見していた。



『夜兎の女はなぁ、身持ちが堅いんだよ、一途なんだよ。一生一人の男って決まってんだよ。それともなにか、お前んとこの坊主はうちの可愛い神楽ちゃん傷物にしておいてあっさりポイ捨てするようなクソな男なのかい遊びなのかい』

『ひぃっ滅相もごじゃいません、ただお嬢さんはまだ14歳ですし、将来を考えれば!まだ早いじゃんってぇええー髪抜けるっ抜ける!!』

スキャンダルから想像する通りの修羅場の光景が、想像とは違う成り行きで繰り広げられているのだ。



「えっ産むの?いいのか親父」

「星海坊主の娘って言ったら、万事屋んとこのだろ」

「ガキじゃねーか」

「それがさぁ、夜兎って10代前半で"初めての相手"と結婚するのが普通らしいんだよね。ていうか関係持つのがプロポーズみたいな」

「調べたのか山崎」

「今回でいうなら、むしろ逃げられないのは沖田隊長の方だね」

実際、近藤は逃げられそうにない。抜けそうな程引っ張り上げられ、けれど決して抜けないほど強靭な毛根のため、逆に悲劇である。





『夜兎の女は15歳で行き遅れなんだよ、あと一年なんだよ、ギリギリなんだよ!人間なら29歳のクリスマスなんだよ!それを過ぎたらお仕舞いなんだよ』

星海坊主は、卓越しに今度は近藤の耳をひっつかんで揺さぶり脅している。見ているだけで、耳の軟骨が悲鳴を上げそうな気がして、原田は思わず自分の両耳に触れた、



「俺はごめんだね、あんな兵器みたいな嫁さんと義父じゃあ」

どん引いた呟きに、揃って頷く。




『どうしましょう!僕29歳のクリスマスなんてもうお仕舞い間近なんですけども!実は俺のこと好きだったみたいな、同居の女友達もいないんですけども!!』

「あんたなんかもう仕舞い終わってるよ」

何故か輪をかけて悲壮な面持ちで叫ぶ近藤に、隊士の呟きはさらに冷たい。

「ゴリラに生まれた時点で終わってるな」

「ああ、ゴリ終わってる」






『こんなギリギリの時期にデキちゃって捨てられたなんて、よそ様に知れたら他に行き先なんてないでしょうが』


遂に首を締め上げられた近藤は失神寸前で、形勢は明らかだった。数分もたず、星海坊主の言い分が通るだろうことは、誰の目にも明らかである。



「それにしても沖田隊長は、ドSでロリコンじゃ犯罪だろうよ」

「俺が親父ならひねりつぶすのにねそんな男」

「あんなんが娘婿じゃ最低だ」

「最低だ」

「最っ低」

皆頷きあって気づかなかった。危険物の接近に。





ドオォォォォン






星海坊主が爆発音に目をやると、隊服を着た男たちが無惨な様子で積み重なっていた。
煙の中から現れた男に興味を移して、ゴリラ男の襟元を放してやる。

「おお、来たか総悟」

ボロボロの佇まいをなんとか正した近藤の隣に、男は並んだ。体躯はいささか痩せ気味で子供のような顔つき。

「沖田総悟です」

けれど鋭い眼差しは、星海坊主の目を惹かずにはいなかった。

「お前が、松平公を通じて呼んでくれたらしいな」

星海坊主の言葉は、局長には寝耳に水だったらしい。星海坊主もそれを知ったのは、松平に直接会ってのことだった。政府ネットワークを使えば事は政府内に公にならざるをえない。松平は決して融通の利く方ではないのだ。それを説き伏せたとあっては、星海坊主も目の前の男をただの拗ねた若造と評価するのも躊躇われた。

「お願いたいことが、ありやしたもんで。」

慇懃に膝を折って、床に手を突く。

「娘さんを貰い受けたく、お願い申しあげやす」

星海坊主も向かい合いに腰を下ろす。息一つついて、口を開く。

「倅に似てやがるな」

「やっ、息子さんもいらっしゃるんでしたか」

「馬鹿なガキがもうひとりな。神楽はブラコンでね。そうさなファザコンだったら、選ぶ相手は違っていたかもしれん。」

「そんな天パがいたら、ぶっ潰して奪ってやりまさぁ」

きっちりと思い当たることがあったらしく、面を上げた沖田は不快そうに憮然としている。

「そうかい」

のっぺりとした顔に感情が覗いたことに、星海坊主は取りあえず満足した。ニヤリと口の端を上げてみせる。

「お前さん、俺がやらねぇと言ったらどうするつもりだった」

「ねじ伏せてでも、うんといってもらいましたよ。他にやり様を知らねぇガキです」

感情の片鱗は影を潜めて、表情も言葉も冷ややかだ。こういう調子は星海坊主には馴染み深い。そして、こういう人間は言った通りにするものだ、迷いなく。

「その答えは気にいらねぇが、いかにもうちのガキらしいな。手前みたいなのを面倒見るのは俺の役目なのかもしれんな」

以前はそれを放棄したのだが。
拗ねた子供のような男が、義父となる男の言葉を理解したかはわからない。いや、理解などしていまい。だからこそ、


「お前には神楽が必要だな。」









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