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小説 3
くろがね王と黄金の王妃・1 (くろがね王の続編・異世界パラレル)
こちらは15000Hit御礼・くろがね王と月の舞姫の続編になります。



 物心ついた頃から、旅芸一座の中にいた。
 そこには何人もの子供たちがいて、一緒に踊りや音楽を習った。
 皆、一か所に住処なんて構えず、町から町へ、国から国へ、ずっと旅をして暮らしてた。

 メンバーだって固定じゃなかった。
 子連れの舞姫や楽師がふらっと参加して、子供を残していなくなっちゃうこともあった。
 街で、捨て子を拾うこともあった。
 オレは、親の顔を知らない。でも、そんなの一座の中では珍しいことじゃなかった。誰にも聞いた事がなかったけど、オレも多分、そういう子供の一人なんじゃない、かな?

 楽器の方はからっきしだったけど、踊るのは大好きだった。
 でも、旅芸一座の一員として表舞台に出ることは、結局一回もないままだった。
 踊り子として踊るどころか、みすぼらしい、鈍くさい、って言われて、殴られながら下働きばかりやらされてたんだ。
 だからオレ、いつも月の下で踊ってた。
 宴会会場の楽の音を遠くに聞きながら、月だけを観客に踊ってた。


 でも、そんなオレを、王様が……聡明で勇猛な、「くろがねの王」って尊称される、タカヤ様が拾ってくれた。
 薄汚れた、旅芸一座の下働きだったオレに、王様は踊る機会を与えてくれた。
 そして、オレを、舞姫にしてくれた。

 踊りをほめてくれた。美しいって言ってくれた。
 抱いてくれた。愛してくれた。
 結婚式を挙げてくれた。
 王様の妃にしてくれた。
 これ以上、望むことなんて何もないのに……王様は、オレを甘やかしてばかりなんだ。
 今日も。

「レン、新婚旅行に行こう」

 豪華な王様の寝室の、豪華な天涯付きベッドの中で。オレの髪を優しく撫でながら、王様がいきなりそう言った。
「旅、行……?」
 オレは、まだ王様の名残を体の中に残してて、うっとりとその厚い胸に縋っていた。
「西の城の近くに、美しい湖がある。お前に見せたい」
 オレがぼんやり見つめると、王様は真っ黒の美しい目でオレを見て、精悍な顔で微笑んだ。

 いつ見ても、完璧な人だと思う。
 中身も、容姿も。身体も。そして、仕草の一つ一つも。
 それに対して、オレは、踊ることと王様を想うことの、二つにしか自信がない。
 王妃っていうのも名ばかりで、だから今はただ、王様に恥をかかせないよう、必死で勉強してるところだ。
 だから、もう少し王妃らしく振舞えるようになるまで……ホントの事言うと、お城の中から出たくはなかった。

「なんだ、湖は行きたくないか? じゃあ、どこがいい?」
 王様が、キリッと形の良い眉を、少し寄せてオレに尋ねた。
 わわ、オレ、そんな不満そうな顔したかな?
 オレは気だるさの残った体を頑張って起こし、王様の傍らに正座した。
「え、と、湖がイヤとかじゃなく、て……」

 もっと勉強しないと、人前に出るのが恥ずかしいコト。
 旅行なんてなくても、十分幸せを貰ってるコト。
 でも、王様との旅行は楽しいだろうなと思うコト……。
 そういう、思ったことを王様にたどたどしく伝えたら、王様はオレをまた胸に抱き寄せて、耳に心地いい低い声で言った。

「じゃあ、行くことに決定な」

「え……」
 オレはそんな、って思ったけど、王様に組み伏せられて、優しくキスされて、全身を愛撫される間に、もう何も言えなくなってしまった。



 王様が、無計画に旅行を言いだしたんじゃないって事は、翌朝になって知らされた。
 それを教えてくれたのは、王様の側近の一人で、オレの家庭教師をしてくれてる、ニシヒロ先生だった。
「定期的に行かれてる、領内の見回りみたいなものだから、気にされない方がいいですよ」
 ニシヒロ先生は、人のよさそうな笑みを浮かべて教えてくれた。

「そろそろ西の国境辺りは、収穫の時期ですから。そういう時に見回りして、不正がないか監視したり、農民を励ましたりされるんです」

 え、と、つまりお仕事のついでって事かな?
 というか、オレがヤダって言っても、お仕事なんだから、結局行くことになったの、か、な?
 でも……たとえお仕事でも。王様が、「新婚旅行」って言うからには、新婚旅行、だよね?
 王様の優しさに、ふひっと笑ってたら、ニシヒロ先生も一緒に笑った。

「行き帰りの行程も併せて、一か月ぐらいのことになりますからね、勿論、私も侍女たちも同行しますよ。お勉強も勿論ですけど……」
 ニシヒロ先生はにやっと笑って、声を潜めてオレに言った。
「湖でね、釣りもできますから」
「うおっ、魚釣り!?」

 一緒に行きましょうね、と先生に言われて、オレは無邪気にうなずいた。
 楽しい旅行になりそうだと、その時は、心から思った。

(続く)

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