Season企画小説
白靴恋・1 (2015三橋誕・桜花恋の続編・にょた注意)
※三橋が女の子です。苦手な方はご注意ください。
この話は、桜花恋、新樹恋、早桃恋、雪解恋、盛夏恋、春宵恋 の続編です。
「お誕生日には、パーティをしましょうね」
隆也さんのお母様からそう言われたのは、春休み、阿部家にお世話になっていた頃のことだった。
「18のお祝いなのだから、盛大に」
と、笑顔でおっしゃってくださって嬉しい。
17歳の誕生日は、軽井沢に小さな別荘を買っていただいて、婚約者の隆也さんと2人きりで過ごした。
まだ結ばれてから間もない頃で、行為はまだまだ痛みがあったけれど、求められるたびに愛されていると実感できて、とても嬉しかったし幸せだった。
15、16歳の誕生日と比べると、その気分の差はとても大きい。
18歳の誕生日も、きっと素敵な思い出になるだろう。とても楽しみに思えた。
楽しみにしているのは私だけではないようで、隆也さんのお母様も、張り切っていらっしゃった。
私の誕生日のお祝いを、三橋家ではなく阿部家が主催するということは、婚約者として正式にお披露目するおつもりなのかも知れない。
婚約した当時にもお披露目はしたと思うのだけれど、何しろ10年前のことなので、あまりよくは覚えていない。
私が8歳、隆也さんだって、まだ高校1年生の頃だ。恐らくお披露目といっても、内々の会だったのではないだろうか。
その証拠に、隆也さんから指輪の話がちらりと出た。
「イエローとピンク、どちらがいいですか?」
何のお話かと思ったらダイヤの色だったようで、そんな風に色だけ訊かれても答えられない。
「まあ、指輪なら、私のをお譲りするわ」
お母様はそうおっしゃっていたけれど、その光栄なお申し出は、隆也さんによって断られた。
「お母さんのは、ブラックダイヤじゃないですか。廉さんには似合いませんよ」
ブラックダイヤ、と聞いて少しドキッとしたけれど、確かに「完全無欠の石」とも呼ばれると聞いてしまうと、自分には過ぎた品のように思える。
完全無欠の黒い石は、隆也さんにこそふさわしい。
1年前まで、ずっと疎まれているのだと思い込んでいた、隆也さん。その彼に、本当は愛されていたのだと知った今、さらに欲しい物など何もなかった。
私にお下がりの指輪を、とのお話が無しになったので、その代わりにお母様がドレスを用意してくださることになった。
「ミニドレスなんて、可愛いと思うのよ」
にこにことおっしゃるお母様は、本当に楽しそうだ。以前にも娘が欲しかったのだと言われたことがある。
まだ高校も卒業してはいないのだし、結婚なんてまだ早いとは思うけれど。本当の娘のように可愛がって頂いて、嬉しくない訳はなかった。
「何言ってるんですか、ミニなんてとんでもない」
「まあ、いいじゃないの。タカにファッションの何が分かるの?」
親子の言い争いを真横で聞くと、やはり戸惑いはあるものの、仲がいいなぁと感じて微笑ましくもある。
「18歳でミニを着ないで、いつ着るの? 私の年になったら、もうミディドレスだって着られないんだから」
「当たり前でしょう、公害ですよ」
隆也さんの辛辣な言葉に、「失礼ね」と文句を言われるお母様。
8歳年上の隆也さんは、私にとっては大人で紳士で仕事もできて、立派な人だったけれど――お母様にとっては息子の1人でしかないのだろう。
本人には内緒だけれど、お母様に小言を言われたり、言い負かされたりする姿は、何だか新鮮に思えて好ましい。
「廉さんもミニドレス、お好きよね?」
そう訊かれて、「はい」とうなずく。
私は議論にも参加できず、横で座っているだけだったけれど、お2人の会話を聞くだけで、なんだかとても楽しかった。
結局、着て見なければ分からないという話になって、ドレス丈については一旦持ち越しになった。
「ショートがいいか、ミディがいいか、実際に試着して決めたらいいわ。明日、仕立屋さんをお呼びしましょう」
お母様の強引な決定に、隆也さんは呆れ顔だ。
「そんなに急いで決めなくても。どうして明日なんです? 明日はオレ、仕事ですよ」
けれど、それでお母様が引き下がるハズもない。
去年の夏に水着を選ぶ時も、そう言えば似たような会話を聞いたと思い出す。
「まあ、だからいいんじゃないの。ねぇ?」
ねぇ、と話を向けられても、とっさに気の利いたことは返せなくて、私はうなずくしかできなかった。
「ジュエリーや靴も、一緒に持って来て貰いましょう」
浮き浮きとおっしゃって手を叩き、お母様が執事さんを呼んで、手配を頼む。
「三橋のお母様もお呼びして、女同士で決めましょうね」
そう提案されれば、私の方に拒む要素は何もない。
隆也さんは、はぁーっと深くため息をついていたけれど、それ以上は何も言わなかった。
春休みに、こちらのお屋敷に滞在するよう誘ってくださったのは、隆也さんだ。
「3月には少し暇になるんです」
と、前におっしゃっていた通り、毎日をゆっくりと一緒に過ごすことができた。
勿論、昼間はお仕事に行かれることも多いけれど、遊園地にも連れて行ってくださったし、朝食と夕食はご一緒できた。
そして夜も――滞在中は、毎晩私の部屋で一緒に寝た。
私の部屋、と呼んではいるけれど、実際にはたくさんある客間の1つだ。
この1年に何度かお泊りさせていただく内、随分と私物が増え、すっかり占拠してしまっている。
ウォークインクローゼットの中も、お母様から買って頂いたお洋服や小物などで一杯だった。
備え付けのユニットバスで入浴を済ませる頃、その私の部屋に、コンコンとノックをして隆也さんが来る。
ラフなTシャツに黒のナイトガウンを羽織った姿は、何度見ても素敵だ。
いつもピシッとスーツを着こなし、ネクタイをきっちりと締めた格好でいるだけに、プライベートな空間でラフな格好を見せられるとドキドキする。
けれど彼も、私のキャミソール姿に動揺したこともあるのだから、お互い様なのかも知れなかった。
(続く)
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