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小説 3
盛夏恋・1 (にょた・50万打アンケ1位)
※三橋が女の子です、苦手な方はご注意下さい。

この話は、「桜花恋」「新樹恋」「早桃恋」「雪解恋」 の続編になります。




 阿部家のプライベートビーチは、日本に2つと海外に幾つかあるらしい。
 日本にあるのは沖縄と千葉なんだそうだけど、沖縄には子供の頃以来行ってない、と、隆也さんは肩を竦めた。
「あちらの方が海がきれいだし、のんびりと過ごせそうなんですが」
 そう残念そうに言われたけど、お仕事が忙しいのだから仕方ない。
 それに私は海よりも、隆也さんと一緒なのが嬉しかった。

 8月の最初の週末。
 2泊3日、精一杯のお休みを貰って、隆也さんは私を千葉の別荘に誘ってくれた。
 避暑なら、誕生日に買って頂いた、あの高原の別荘でもよかったのだけど――。でもそう言うと、隆也さんは「何のための水着ですか」と笑ってた。

 
「水着を買いに行きませんか?」
 彼にそう誘われたのは、7月の初めの頃だ。
 年中忙しそうにしている隆也さんだけれど、7月いっぱいはいつにも増して忙しく、1日しかスケジュールに空きがなくて。だから、デートを兼ねて買い物に行って……それから。
「8月には海に行きましょう」
 優しくそう言われたので、私は「はい」と返事して、とても楽しみにしていた。

 でも、お買物の約束の日。
 ピンポーン、と呼び鈴を鳴らしたのは隆也さんではなく、お母様で……。
「廉ちゃん、お待たせ。さあさあ、お買い物行きましょう」
 満面の笑顔で腕を取られ、引きずるように家から連れ出されたのでびっくりした。

 車の前で待っていた隆也さんが、憮然としていたのでまたびっくりした。
 だって、隆也さんは大人だ。
 あまり不愉快や苛立ちを顔に出すこともなく、ため息と一緒に吐き出してしまう。
 なのに、こんな苦い顔を隠そうともしてないなんて。
 もしかしたら、これが隆也さんの「家族」の顔なのかも知れない。そう考えると、私も「家族」に入ってるような気がして、何だかふわふわと嬉しかった。

 不機嫌な隆也さんと上機嫌のお母様、2人に囲まれて、都内の老舗デパートに行った。
 お母様の行きつけのお店らしい。
 高級そうな水着コーナーには、私と同じ年頃の女子中高生などはいなくて、静かで和やかな雰囲気だった。
 でも、水着の種類はとても豊富で、すごく迷った。
 私は、そこでお母様に言われるままに、好きな色や形を選んだ。

 ただ、そこですぐに買ったという訳ではない。
「じゃあ、そんな感じで幾つかお願いね」
 そう言ってお母様は、私達を連れてさっさと水着コーナーを出てしまったのだ。
「では、明日10時にお伺い致します」
 デパートの担当さんが、丁寧に頭を下げた。どうやら明日、好みに合いそうな商品を幾つか見繕って、阿部家に持って来てくれるらしい。

「だって、試着するにもお家の方が、ゆっくりできるでしょう?」
 お母様の言い分はもっともだったけど、呆れたようにため息をついたのは、隆也さんだ。
「オレ、明日は仕事ですけど」
 でもお母様は、そんな苦情など気にもしない。
「あら、水着を選ぶのに、あなたはいなくてもいいじゃない。ねぇ?」
 そう言って私の腕に腕を絡め、少女のように笑っていた。

 隆也さんは男兄弟しかいなくて、弟さんは今、1人暮らしをしながら都内の大学に通っているらしい。
 お勉強やサークル活動などが大変らしく、ほとんど家に帰ってはいないとか。言われてみれば、私もここ数年、もしかしたら小学校以来、弟さんには会っていないかも知れない。
「もう、男の子なんかつまんないんだから!」
 お母様はそう言って、その日私をデパートの上から下まで連れ回した。

 デートは台無しになったけれど、私はその晩、そのまま阿部家に泊まることになった。
 夜になると、当然の顔をして隆也さんが部屋に来た。
「たまにはあなたがオレの部屋に来て下さいよ」
 隆也さんは私の服を脱がせながら、そんなイジワルなことを言った。
 勿論、そう簡単にはうなずけない。

「そんな、無理、です」
 だって、隆也さんは時々激しい。忙しくてなかなか会えないでいると、余計に激しい。
 8月まで、もう会えないって分かってるのに、この日だって手加減なんかされるハズもなく――。
 何度も気を失いかけては、揺らされて起こされて、そしてまた気絶するまで愛されて。朝まで、ずっとそんな感じだった。

 自分の部屋で目覚めるならともかく、隆也さんの部屋で朝を迎えてしまったら……部屋に戻るのも人目を気にして、想像しただけで恥ずかしい。
「オレがここから出て行くのだって、多分もう知られていますよ」
 隆也さんはニヤッと笑ってたけど、そういう問題じゃないと思う。
 隆也さんが見られるコトより、私が見られる方が恥ずかしい。その辺の微妙な違いを、隆也さんは理解できないみたいだった。

 翌朝、予想通り私はスッキリとは起きられなくて。目覚めた時には、隆也さんはもうお仕事に行った後だった。
 デパートの方が来られたのは、それよりもう少し後の話で――だから結局彼はまだ、新しい水着を見ていない。
「どんな水着にされたんですか?」
 何度もそう訊かれたけれど、お母様の助言もあって、本番まで内緒にしておくコトにした。


「ようやくあなたの水着が見られますね」
 高速を降り、海沿いに車を走らせながら、隆也さんが穏やかに言った。
「そんなに見たいです、か?」
 私は少し頬を染めながら、運転する彼に目を向けた。
 求められると嬉しい。好意を寄せられ、「水着を見たい」と言われるのも嬉しい。
 無理してお休みを取ってくれた2泊3日、きっと大事にしてくれると思う。だから、私も精一杯応えたい。
 できれば手料理も、食べて欲しいなと思ってた。


 けれど――。

 別荘には、先客がいた。
 私達の為にきちんと掃除をし、ビーチにもゴミ1つ落ちていないよう整えられていたハズの、阿部家の別荘。
 そこを、我が物顔で占拠していたのは、阿部家の次男で隆也さんの弟。
 シュンさんと、その仲間達だった。

(続く)

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