京七小説 2 小春日和のぽかぽか陽気に誘われるように、七緒は外に出た。 足は自然に八番隊隊舎に向かっていた。 今の時間なら隊長はきっとどこかでさぼっているはずだ。 思った通り、京楽は屋根の上で昼寝していた。 音をたてないようにそっと忍び寄ったのだが、近くに行くと軽いいびきはぴたりとやんだ。 京楽は顔の上にかけていた傘をよけて、微笑んでみせた。 「おんやぁ。どこからきたのかなあ。おいで」 差し伸べられた手は、人でいる時よりも数倍大きく感じられる。 七緒は片手でひょいっと持ち上げられた。京楽は腹へ視線を走らせて言った。 「あ、君、女の子なんだ」 なんというデリカシーのなさ。七緒は心の中でため息をついた。 だが全裸でいるという恥ずかしさは不思議と感じない。 そういうところは猫の感覚になっているのだろうか。 「よーいしょっと」 京楽はそのまま自分の胸の上に七緒を置くと、頭をぐりぐりなでた。 「今日は七緒ちゃんが休みで、僕さみしいんだよね」 それだったらお仕事して下さいよ。 確かにそう言ったつもりなのに、七緒の口から出たのは「ナアアア」というわけのわからない音だけだった。 もちろん京楽に通じるわけもない。 言った七緒本人も、次の瞬間には、そんなことはどうでもよくなった。 なにより今の七緒は副隊長ではなく猫なのだ。 本能の赴くままに京楽に体をすりよせ、耳たぶを噛み、首筋や髭の生え際をちろちろと舐める。 「こらこら。くすぐったいよ」 そういいながらも京楽は押しのけようとはしなかった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |