旅人シリーズ I そして、気がつくと、僕は公園のベンチに一人で座っていた。 ぽかぽかと暖かい日差しときらきら輝く噴水の水。 手の中にあるコーヒーからは、まだ白い湯気さえ立ちのぼっている。あれから大して時間は経っていないらしい。 だが膝の上に小鳥の姿はなく、慌ててポケットをさぐると例の小瓶も消えていた。 「夢じゃなかったのか?」 いや、それとも小鳥と小瓶のほうが夢だったのだろうか。 もしかしたら、昨晩からずっと僕は夜の夢の中にいたのかもしれない。あの不思議な小鳥も、わけの分からない干物のことも、みんなみんな夢だったのかもしれない。 そうでなければ、あんな不思議なことの説明がつくわけがない。 「それにしても……」 僕はぼんやりと噴水を見つめていた。 『私の名はアラストル。いいか、よく憶えておけ』 そう言った男の言葉と鳥の綺麗な歌声が、はっきりとこの耳に残っている。 (カルキス、アラストル、リリス。どうにもどこかで聞いたことのある名前だな?) 不思議に思い、公園を出ると、僕はその足で街の図書館へと向かった。 「カルキス、カルキス……。あ、あったあった、これだ!」 「お静かに」 思わず大声を出して、図書館の職員に小声で注意されてしまう。 「すみません」 そう謝りながら、視線はやっと見つけた項目を追っていく。 (何なに?) (カルキス、別名『夜の鳥』。魔界の刑執行長官アラストルの使い魔で、普段は小さなローラーカナリアの姿をしている――?) 僕は大きく目を見開いた。 何度も繰り返しその文章を読んでから、念のためアラストルとリリスという項目も引いてみる。すると、そこにはそれぞれこう書いてあった。 [前へ][次へ] [戻る] |