小説2 (鬼×神と人のハーフ) 完結 53 〈紫陽はまだ幼い。ここで暮らす事さえ承知させれば、後のことはゆっくりでいい〉 主夜は自分に言い聞かせて、一度大きく息を吸った。 「あのな、紫陽。どうして俺がお前を置いて戸隠へ帰ってしまうなどと思ったんだ?」 「って…。陰陽の人たちが…」 「あいつらが何を言った?」 「ぼくが18歳になったら、主夜さまはここからいなくなるし、ぼくもここを出て行かなくてはならないけど、住むところがなかったら、ここに居てもいいって…」 主夜の瞳が悔しそうに眇められる。 今まで散々紫陽に怪我を癒してもらっていたくせに、ここに居てもいいとは、何という言い草だ。 「紫陽、俺がこの家で暮らせと言ったのは、ずっとという意味なんだがな」 「ず…と?」 紫陽の頭がかすかに上がった。 「そうだ。お前さえよければ、ずっと俺のそばに居てほしいんだが」 「駄目…です」 「小屋にこだわっているわけじゃない。この家は居心地がいい。俺のことが嫌いなわけじゃない。…それなのにどうしてこの家で暮らすのが駄目なんだ?」 「…つらくなるから…」 「何がつらいんだ?そのつらくなることを排除すれば、お前はこの家で暮らしてくれるのか?だったら…」 「主夜さまでもどうにもならない事です…から、もう、ぼくには構わないで…」 「この家で俺の思い通りにならないことなどあるものか。遠慮せずに言ってみろ」 「…。聞いたら、主夜さまはぼくのこと嫌いになる…。戸隠へ帰ってしまうかも…。もう少しだけでいいから、主夜さまのそばにいたい」 「紫陽、俺がお前を嫌いになることはないし、お前をおいて戸隠へ帰ることもない。心配しないで話してくれ。どうすればこの家で暮らしてくれるんだ」 紫陽が毛布の中でしくしくと泣き始めた。 主夜はうろたえて紫陽に手をのばし、ソファに腰かけて華奢な体を毛布ごと膝の上に乗せた。 「すまなかった。辛いなら話さなくていい。泣くな」 毛布越しの紫陽の背中を撫でながら、泣き止むのを待つ。 「ちがっ…、主夜さまが悪いんじゃ…ないです…。ぼくがっ…。ぼく、男だから、男の主夜さまが好きなのは変だって…解ってるのにっ。こんな気持ち、持っちゃいけないって解ってるのに…会うたびにもっと好きになって…」 主夜の呼吸が止まった。 紫陽の背中を撫でていた手も止まってしまう。 [*前へ][次へ#] [戻る] |