小説2 (鬼×神と人のハーフ) 完結
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それきり、誰にやられた、何をされたと聞いても、ただ毛布の中で首を横にふるばかりだ。
「ごめん、なさい。明日にはちゃんと帰りますから、だから、今夜だけ泊めてください。玄関でもいいから、ここにおいて…」
「紫陽、そんなに怪我をさせられて、小屋に返せるわけがないだろう。なぜそんなにあそこにこだわるんだ?」
紫陽は首を横にふる。
先日、俊也と本の交換をして、嬉しそうに笑っていた紫陽の顔を思い出した。
「…俊也がいるからか?」
口にだしてしまったら、もう我慢できなかった。
紫陽はまだ主夜のものではないことは、百も承知だ。
怖がらせてしまっては、正しい答えは得られないし、悪くすると紫陽に嫌われてしまう。
そんなことは理性で解っているのに、頭に血が上ってしまった。
「そうなんだな?」
紫陽を毛布ごとつかんで揺さぶる。
紫陽は毛布の中で首を横にふっているようだが、主夜にはそれさえ肯定のしぐさに見える。
悔しさにぎりっと奥歯をかみしめた時、ドアに小さなノックの音がして、星が湯気の立つカップを二つ、盆に載せて入ってきた。
ソファの横の小さなテーブルに盆を置き、先ほどまで主夜が飲んでいたウイスキーのボトルから、カップの中にすこしウイスキーを入れる。
「主夜さま、少し紫陽さんとお話してもいいでしょうか?」
「ああ」
かっとなって真っ赤になっていた目の前が、星の出現で少し冷えた。
立ち上がり、紫陽の隣を星に譲る。
「紫陽さん、本当のことを主夜さまにお話ししてしまいなさい。…私の言うことが聞こえますか?」
紫陽が毛布の中で頷いたようだ。
「私も紫陽さんと同じことを考えて悩んでいた時期があります」
「でも、星さまには、黎さまが…」
「そうですね。でも、悩んでいたんですよ。私の場合、黎さまが言葉にしてくださらなかったら、一生悩み続けたとおもいます。…主夜さまは、鬼界一強く、美しい鬼ですが、少々鈍感なところがおありです」
「おいっ」
思わず声をあげた主夜に、星がしっと人差し指を唇にあてる。
「ですから、紫陽さんから言わないかぎり、主夜さまには何も解らないでしょう。黙っていたら、紫陽さんは一生悩み続けることになりますよ。それは、とても辛くて苦しいことだと、私は思います」
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