小説2 (鬼×神と人のハーフ) 完結
50
紫陽が夕方まで座っていた椅子。
紫陽が開いていた本。
紫陽が…。
自分は強いと思っていたが、大きな間違いだったと知って、やりきれなくなる。
もう寝ようかと立ち上がったとき、玄関のドアが開く気配がした。
〈紫陽か?〉
この夜中にそんなわけはないと思いつつも、玄関へと急ぐ。
「紫陽さん、とにかくこちらへどうぞ」
星の声がする。
紫陽だ…!
主夜はほとんど走るように、玄関へと出た。
「あ…、主夜さま…」
紫陽が主夜の顔を見るなり、大粒の涙をこぼした。
紫陽の唇は切れて、うっすらと痣ができている。
パジャマ姿でぎゅっと襟元をつかんでいるので、手首にくっきりと赤黒い指の跡がついているのが見える。
しかも素足だ。
主夜の顔が怒りのためにすうっと白くなった。
酔いもすっかり醒めてしまう。
「誰に、やられた?」
紫陽を怖がらせないよう、大声を上げないでいるのがやっとだった。
「主夜さま、今はとにかく紫陽さんを中へ」
星がいつの間に持ってきたのか、毛布で紫陽をくるみ、そっと主夜のほうへ押しやってきた。
肩を抱いてみれば、紫陽が細かくふるえているのが解る。
ひざ裏に手を入れて、ひょいと抱き上げた。
「あ…」
「もう大丈夫だ。何も心配いらない」
主夜にそう言われて、紫陽の涙がどっとあふれ出す。
「麻はもう寝てしまっているだろう。星、すまないが紫陽になにか落ち着く飲み物を作ってやってくれ」
「はい」
書庫のソファに紫陽を降ろし、唇の怪我を見ようとしたとき、首にもはっきりと指の跡が残っているのが見えた。
多分、主夜が一瞬恐ろしい形相をしたのだろう。紫陽が怯えたように主夜の指から顎を外し、毛布に顔をうずめてしまった。
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