小説2 (鬼×神と人のハーフ) 完結
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主夜は紫陽の手から荷物を取り上げ、先に立って歩き出した。
ぷーがぽんと紫陽のフードの中に入る。
玄関を出て、主夜が紫陽の右手を握った。
紫陽は何も言わず黙ってついてくる。
紫陽が住んでいる小屋まで、歩いて10分ほどの距離があるが、主夜にとってはほんの僅かに感じる時間だ。
小屋の前で主夜は荷物を下に置き、紫陽を引き寄せた。
「ぷー、頼む。目を閉じていてくれ」
お願いすると、意外なことにぷーは素直に耳で目を覆ってくれた。
かさ、と左手のほうで音がする。
紫陽は気付いていないようだが、主夜の家を出た時から、俊也の気配が付いてきている。
紫陽に手を出すなという警告の意味も含めて、見せびらかすように紫陽を抱きしめる。
気の流れを教えた時以来、紫陽の唇には触れていない。
紫陽の気持ちがどこにあるのか解らない以上、唇にキスをするのは憚られるからだ。
今も、抱きしめた紫陽の髪と頬に軽いキスを落とす。
紫陽は、このキスを主夜の親愛の情だと受け止めているのか、黙ってされるがままになっている。
紫陽が嫌がるそぶりを見せれば、すぐにやめようと思うのだが、頬や額に小さなキスを繰り返すと、くすくすと笑ってぎゅっとしがみついてくることがある。
嫌がってはいないのだろうと勝手に決めつけ、小さなキスを習慣のように毎日繰り返していた。
「紫陽、このまま向こうへ引き返そう」
小さな体をぎゅっと抱きしめながら耳元で囁けば、紫陽がふっと小さなため息を漏らして、首を横に振る。
「…、では、玄関のカギを開けておく。来たくなったらいつでも来い」
「ありがとうございます」
紫陽はゆっくりと主夜から離れ、
「ありがとうございます」
とぺこりとお辞儀をした。
主夜は向きを変えて、自宅へと引き返す。
きっと自分は肩を落とした情けない後ろ姿を紫陽に見せているのだろうと思いながら。
夜、主夜は書庫のソファに座り、ウイスキーのグラスを傾けていた。
以前は、一日の終わりのこの時間には、満ち足りた気持ちで酒を飲んでいたものだが、最近はやけに味気ないものになっている。
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