火炎龍と狼(仮) (煌鷹)
第一章:噂
それから三時間も経った頃だろうか。
(しまった。寝過ぎたか)
外の物音にケイオスは目を覚ます。与えられた任務をこなすのが仕事だから一日中寝ていても何の問題も無いのだが、遅くまで寝ているのは流石に気が引ける。廊下で音を立てていたのは彼の先輩だった。
「アル兄貴、おはようございます」
「ケイオスか……そうだ、そなた、フェンリルの噂を聞いたことがあるか?」
今では有名となったフェンリルの噂の話を今頃持ちかける義兄にケイオスは内心呆れたが、そんな素振りは見せず答える。
「はい。兄貴は何かご存知なのですか?」
あまりいい答えは期待していなかったが、半信半疑でアルの様子を窺った。だがアルは一度開きかけた口を閉じてしまう。
「何かご存知なのですね。教えて下さいませんか」
「しかし……いや、会えば分かる。一度行ってみてはどうだ」
すると彼はフェンリルを見たことがあるのか、とも思ったが、ケイオスは敢えて追及しない。きっと《ガゼル》として各所を廻っているうちに見掛けたのだろう。
「そうですか。ありがとうございます」
「…………」
自分で話しかけておいて黙りこくるなんて困った方だ、と溜め息をつく。ケイオスはさっさとその場を立ち去った。
(自分で確めよう)
出かける準備をして、彼は邸を後にした。
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