火炎龍と狼(仮) (煌鷹)
第二章:支配者
支配者〔司祭〕は大量の歴史書や文献を前にして悩んでいた。遙か昔のことを思い出しながら……
今まで、支配者ほぼ正確に三千年ごとに代わってきた。特別な命数を持つ〔運命の子〕が、それまで世界を統治していた支配者を倒して新たな支配者になる。延々とその繰返しでこの世界の歴史は動いてきた。
だとすれば、いつか自分も……そう思うと夜も眠れない。自分が統治者となってからそろそろ三千年が経つ。
手は尽くしてきた。自分の考えが間違っていなければ―今のところはうまく行っているが―歴史を変えられるかも知れない。そう、今までの定めに抗える可能性だってあるのだ。
彼は法治を好んでいるが、処罰方法は二つしか用いない。
謹慎処分或は死罪。
そしてその通告と処罰を、司祭の命を受けて実行するのが《ガゼル》である。そして死罪を実行することが《断罪》と呼ばれる行為。
(俺の統治は完全だ。今、世界は安定し、自由が保たれている……何故代わらねばならないのだ)
統治者は少し唸ると、ふと思い出したように近くにいた《ガゼル》の一人に言った。
「ギド、ケイオスを呼んでくれ」
「ケイオス……?ああ十二番でございますね。申し訳ありませんが出かけているようです。連れて参りましょうか?」
「いや、急ぎではない。奴が帰ったらすぐにここに来させろ」
「承知致しました」
《ガゼル》一番ギドが出て行ったのを見ると、司祭は再び床に目を落として何かを考え始めた。
(奴とフェンリルが万が一にも、お互いの関係に気づいてしまったら…)
そしてここは東、龍が棲んでいたとされる天蓋山。険しい地形で人を寄せ付けない。
天然の要塞として使われたこともあった場所だ。
そこを根城に暗躍している一団がある。天蓋山付近を縄張りとし、他の軍団と戦い、争っているのが常であった。
近頃、支配者が不審な命令を出している。法が異常になった。「司祭の許可無しに一派の長同士が会ってはいけない」だの、「大規模な戦闘の前には司祭に承諾をもとめよ」だの、とにかく不可解で納得の行かない法ばかりだ。
各地では多くの組織が結成され、支配者に対抗しようという動きまで出ている。それでも司祭は一向に対策を立てて来ない。
(何か不自然だ。司祭の気は狂ってしまったのか?)
この場所に拠点を構える軍団〈ファーブニル一派〉の長ファーブニルもまた、支配者を疑う者の一人だった。
(我々はフェンリル一派やファイヤードレイク一派とは不仲だが、そう言ってもいられない時が来てしまったな。そろそろ〔運命の子〕が現れてもおかしくない頃だが……)
「ファーブニル様!」
彼の書斎に飛び込んできたのは部下の一人だった。
「サラ・フィスか。どうした」
サラの肩は激しく上下している。
「ファイヤードレイクの……正体を掴みました!」
「本当か!よくやった!」
サラは褒められて嬉しそうに照れると、自慢げに、だが小声で言った。
「それが実は、奴は……」
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