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火炎龍と狼(仮) (煌鷹)
第十四章:ソリッツ《断罪》
 太陽が雲に隠れ始めていた。先程ケイオスが破壊した要塞の残骸から黒い煙が燻っている。
 ケイオスは腰に差していた剣を外して遠くに放り投げた。司祭様から与えられ、帯びることを許された者の力を最大限に高めてくれるという宝剣も彼には不要だった。そもそも彼には剣自体が不要だった。任務遂行の際には帯刀を命じられているのだが邪魔なものは邪魔でしかない。
 「どういうつもりだ?ご自慢の術だけで俺に対抗しうるとでもいうのか。笑止千万だな」
 「さあ…『笑止千万』かどうかは、直ぐに分かりますよ。ではソリッツ殿、貴方が理由も無く城民を殺めたその咎を、裁かせて頂きます。覚悟は宜しいですか?」
 戦闘が小規模になってしまったことをケイオスは不謹慎ながら残念に思ったが、とりあえず型通りにそう言った。そして僅かな微笑を顔に上らせ《断罪》標的の様子を覗う。彼の部下の二人は主の命令を受けて離れた場所からこちらを見ていた。
 ケイオスは集中してソリッツの様子の変化を待った。殺気を放って攻撃してくるにしろ踏み出してくるにしろ何らかの予兆が出る。ケイオスはそれを待っていた…鋭い勘と自分の力に自信を持っている彼にだからこそできることだった。相手もそのつもりなら一瞬の虚をついて仕留めるだけの話だ。一度戦闘を始めてしまえば、決着にどれだけ時間が掛かってもケイオスが有利に事を運べる。
 だが、戦いは長引かなかった。
 ソリッツが強い殺気と共に踏み出そうとした瞬間だった。
 ケイオスは右手を一度空に掲げ、腕を下ろして掌を正面に向ける。
 まだ地面から足を離してすらいないソリッツに向けて、輝いた掌から真紅の炎が放射された。
 「この炎は…相手を焼く炎ではない」
 洞窟の中を強い風が吹き抜けるような音と、ケイオスの声だけがあった。呻き声も悲鳴もありはしない……炎の中で呆気無く、光の粉がぱっと散った。
 「その自覚を持たせぬまま、消滅させる炎」
 自身に言い聞かせるように呟くと、ケイオスはすっと腕を下ろしてソリッツの部下たちを見た。そこに殺気も怒りも存在しない無表情のケイオスに二人の恐怖の視線が向けられる。
 「貴方がたは今のところ《断罪》対象ではありません」
 ゆっくり近寄っていくが当然の如く後退りされる。一人が剣に手をかけた。
 「この山の頂上で恐らくは息子の無事を祈っているペガシス殿にお伝え下さい。これは彼一人の咎です、貴方にこの《断罪》は関係しません…と」



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あきゅろす。
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