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火炎龍と狼(仮) (煌鷹)
第十三章:瑛鶴山へ
 「全く…《ガゼル》の奴、もう来たのか」
 部下からの連絡を聞いて、呆れる風でもなくソリッツはにやりと笑う。彼には自信があった。《ガゼル》の誰が来たのかは知らないが、自分が負けることは決してない。父親がフェンリルに助けを求めに行ったが、そのような必要など始めから無いではないか。自分の手にかかれば相手が誰だろうと知ったことではない…格上の相手にだって、真正面からぶつからなければ勝てる。結局のところは勝てばいいのだ。
 「しかしソリッツ様、万が一の場合はどう致しましょうか?相手は《ガゼル》の一人。可能性が無いとは…」
 部下が心配そうな表情で聞いた。別に主の作戦と力を疑う訳ではないが、支配者が選出した《断罪》執行者の実力は侮れない。
 「万が一などあるものか。とにかくこの地下要塞に、奴が侵入できる頃には…」
 爆発音がソリッツの表情を凍らせた。
 凄まじい音と振動が地下要塞にまで伝わってきた。
 「ソ…ソリッツ様!!地上部分が!」
 右頬に火傷を負った部下が裏道から駆け込んでくる。
 「炎の性の者か。一瞬で破壊するなど相当…」
 更にもう一度爆発音が響いてソリッツの言葉を遮った。三度目が鳴った瞬間、天井が崩れてその破片がバラバラと三人に降り掛かる。その一つがソリッツの腕を掠めて切り傷を作った。
 「へえ。こんなところに」
 青い髪の眼帯をつけた男が上から飛び降りて来た。
 「何か小細工をしているとは感じましたが、こんな安易な事だったとは…私は《ガゼル》十二番のケイオスと申します」
 ケイオスが懐からヒビの入った紅い珠を取り出してソリッツに放る。
 「このような物が大量に見つかりました。破壊や無差別攻撃は気に入りませんが、こうするより仕方がなかったので……どうでしょうか、いまの珠は私が破壊したので何も起こりませんが、ここにもう一つある新しいものをそちらに投げたら、果たして何が起こるのでしょうね」
 「や…やめろっ」
 「ほう、相当都合が悪いようですね。貴方の正直に免じてこれは外に放り出すことにしましょう」
 黙りこくっている《断罪》対象をよそに、ケイオスは勝ち誇ったような表情で穴の上に珠を投げ上げた。地上部の床に落ちた瞬間、それは大きな爆発音とともに火柱をあげ…その反動からか更に天井が崩れる。
 「建物の破壊にこれの力も使わせて頂きました。だめですよソリッツ殿、相手に力を貸してしまっては…これで焼き尽くす算段だったのでしょうが」
 ソリッツの部下の一人が勢いよく剣を抜いて喚く。
 「黙れケイオス!」
 「脅しのつもりならやめた方がいいですよ…私は無益な殺生を好みません」
 彼は相当殺気立っていたが、背後からソリッツに肩を掴まれて剣を降ろす。そのままの格好でソリッツは不敵な笑みをケイオスに向けた。
 「やめておけユノー、お前に敵う相手ではない。…おい《ガゼル》、見たところまだ幼いようだな」
 「そうでしょうか」
 「お前の目的は俺だろう?お前がここまで来るまでに力を消耗させるのには失敗したが、今見ればさして問題でもあるまい…望み通り、《断罪》の勝負を受けてやろう。十二番が強いと言われるのは、今までのお前の相手がお前を見縊ったからだ。俺はそうはならない…来い」
 では上でやらせて頂きましょうか、と言って、近くにあった棚を踏み台にするとケイオスは穴の上に飛び上がった。ソリッツの様子を見る限り、謹慎処分を考える余地はないな…彼は浅い溜息を漏らした。



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あきゅろす。
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