火炎龍と狼(仮) (煌鷹)
第十五章:計画始動
フェンリルの拠点、玉燐山。
「ソリッツが《ガゼル》十二番のケイオスに《断罪》された?」
〈ペガシス一派〉に潜入していたニーズヘッグからの報告だった。フェンリルは面白そうに言うと大声で笑い始める。彼が笑うなど珍しいことなのでニーズヘッグは不思議そうに聞いた。
「フェ、フェンリル様……どうかなさいましたか?」
「ふっ…ははは、ケイオスの奴、やるではないか」
後のノスフェラトの自白により、彼がケイオスでありファイヤードレイクであることをフェンリルは知っている。ニーズヘッグや他の義弟たちには、先日ここに訪れたのはノスフェラトという論客だとのみ知らされていた。彼をフェンリルに取り次いだ部下の一人だけは事実を知っているが、彼は口の固い信用できる者だから口止めを頼むだけで十分だった。
「しかしケイオスといえば、確か…」
「たとえ奴が因縁の相手だとしても、これを見事だと言わずに何とする……ふふ、ユノーという奴の部下は体面を保つために『死闘の末』と言ったのだろうが、勝負など一瞬でついた筈だ。ソリッツはあれで大して強くはない。奴は自分の能力を過信していただけだからな」
フェンリルは「筋書き通りだ」と呟くと目を閉じて、少し考えた後再び口を開いた。
「これから戦いが激しくなるだろう。今までのような縄張り争いではなく、嵐とも呼ぶべき波乱の渦が広がり…いずれはこの世界全てを呑み込んでいく。今までは我々も大勢力とはいえ息を潜めてきた。だが転機が訪れない以上、巨狼は春を待たずに牙を剥くしかない。そして今まで地面を這っているだけだった火炎龍はその燃え盛る翼で空を舞うこととなる。その時に天馬や毒龍、不死鳥、一角獣、獅子鷲はどう動くのか……」
「フェンリル様?」
フェンリルが何を言っているか聞き取れなかったニーズヘッグが、少し心配そうに義兄の顔を覗き込んだ。
「ふっ…戯言だ。このようなこと口にすべきでは無かったな」
それまでの嘲笑に近い笑いは苦笑に変わっていた。別にニーズヘッグに今の独り言を聞かれたところで問題はない。彼の本性も出身もフェンリルは知っている……数多い部下たちの中でも彼の事を一番よく分かっているといっても過言ではない。
「ひとまずは他の集団の動向を知りたい。ニーズヘッグ、引き受けてくれるか?」
「勿論です」
ニーズヘッグは任せて下さいと言わんばかりに大きく頷いた。それを見て満足げに微笑むとフェンリルは卓上に地図を広げ、東の方にある天蓋山を指差した。
「ファイヤードレイクの動きも気になるが…今は先ず、ここに拠点を構えるファーブニルを探るべきだな。あくまでも俺の勘でしかないが、近いうちに奴は動く。今まで鳴りを潜めていたなりの行動があるだろう」
「成程。しかしモノケロスは?」
「フェニックスと一悶着あって暫くは動けないと思うがな」
フェンリルは大きく伸びをして再び地図に目を落とした。
(ここからだ。どこまでできるか、自分の実力が問われる……)
無意識のうちにフェンリルの視線は地図の中央に行っていた。
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