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こねた
◆相互依存愛死愛(お野菜編)
今日もぼくは幼馴染みの金吾を愛し金吾に愛してもらうための努力を怠らない。
寒空の下、ぼくは金吾から離れ単独行動を取っていた。



「おい、テメェ……西軍の野郎が奥州に何の用だ」
「あなたは……!」

後ろから呼び掛けられて振り向けば、そこにはぼくが最も憎み、排除したいと望み、しかし金吾のためにそれが敵わなかった人間が立っていた。
それが目に入った瞬間、ぼくは全身に白い光を纏う。
同時にその人間――片倉小十郎も腰から刀を抜いた。

「……もう一度聞こうか。奥州に何の用だ!」

辺りの人間が散り散りになるなかで律儀にも再び問い質す、親の敵とは比べものにならない程憎いそいつに向かって、ぼくは殺気をふんだんに塗して唇と舌に力を込め高らかに宣言する。


「野菜を買いに来たんですよ……!」

「野菜だと!?…………野菜?」

「そうです、野菜……!野菜ですよ!ぼくにとってはあなたの取り柄なんて野菜だけです。むしろあなたが野菜さえ作れなければあなたがたの城を今頃更地に還していたでしょうね。何せあなたがたの軍が敗走していた時、ぼくらの軍は金吾の優柔不断を建前に実質暇を持て余していましたからね。まあ尤も、美味しい野菜を作れるあなたさえいなければこんな北の土地、ぼくにとってまるで価値は無いんですけど」

話している間に沸々と怒りが沸き上がり身体から溢れる光が地面を焦がして墨色に変えていく。

「だいたい何故武士のあなたが作る野菜が美味しいんですか?本職の農民より金掛けてるから美味しいんですか?ぼくだって暇を作っては農民に頭下げて野菜作りを教わって、野菜作り十年目にしてようやく『なにこれ!まずくて食べられないよ!』から『うん、まあ食べられるけどね』に昇格したばっかりなのに!そんな未熟な腕だからまだ金吾にぼくが野菜作ってること言えてないんですから。野菜作りへの情熱が足りない?金吾への情熱と愛なら誰にも負けませんが、何か?」

「待て、そんな戯言に俺が騙されるとでも、」

「戯言?戯言ですって?何が戯言なもんですか。金吾は鍋とぼくへの依存で出来てるんです。鍋に欠かせない野菜はぼくにとっては大問題なんですよ。あなたのようなまだぼくらの軍が西軍だと思ってる耳の遅い軍師にぼくは負けませんし、あなたの主君への忠義だってそもそも主君が金吾でない以上金吾にとって有益なのはぼくに違いありませんけど。野菜だけは。野菜だけは、認めましょう、ぼくの惨敗です。ええ、認めますよ。金吾の判定で明らかな優劣がついてますからね。だからこうして憎いあなたの作った野菜を買いにわざわざ奥州に赴いてるんです。これの何処が戯言なんですか」

「……本当に、野菜を買いに来たのか?」

そんな間抜けな質問をした彼に、思わずぼくは声に出してため息をついた。

「違うでしょう。あなたが伊達の軍師なら聞くべきは、ぼくが小早川軍がもう西軍ではないと言ったことについてですよ。それとも一旦話を変えてぼくの気を逸らすつもりですか?それならいい案でしたね。まあぼくには関係ありませんけど。新鮮な野菜を手に入れるついでに伊達と徳川の繋がりがどんなものかわかりましたし、ぼくは買った野菜を持って金吾のところに帰ります。あなたは己の無能を歎いて牛蒡を一気飲みして永久に呼吸を止めて下さい」
「……ここでてめぇを無事に帰すと思うのか」

「大事な大事な金吾が待っているんです。何をしてでも鍋を作りに帰りますよ」

今さらぼくの話を聞いていた姿勢から戦闘態勢に入る彼を尻目に長々しゃべって溜めに溜めた光の力を解放して、ぼくはその場から離脱した。







「えへえぇぇん!!秋人ー!近所の子供がいじめるよぉぉー!」

宿で待っていた金吾が涙をボロボロ流して帰ってきたぼくに抱き着く。
やはりこれが一番金吾がぼくのものだと感じられる。
この瞬間のために、ぼくはたまに金吾から離れるのだ。


「金吾、ぼくが来たからもう大丈夫だ。片倉印の野菜も買って来たよ」
「ええーっ!やったぁ!小十郎さんのお・や・さ・い〜!わぁー今日の鍋は楽しみだなぁ。秋人、ありがとう!」
「……」

内心で荒れ狂う嫉妬を金吾からの感謝で相殺する。


何かに嫉妬すると時々、依存しているのはぼくだけで金吾が死んだらぼくは生きられないけど、ぼくが死んでも金吾は平気で鍋を食べているんじゃないかと思うことがある。

「だけど金吾、きみは行かなくて良かったね。片倉殿にもその他にも散々襲われたよ」
「本当に!?ぼく、行かなくって良かったぁ。秋人、怪我はない?」
「少し傷を負ったけど」
「えぇ!?秋人でも怪我するんじゃぼくなんかみじん切りにされちゃうよ!ちゃんと手当てしてね。鍋、作れなくなったりしないよね?奥州も怖い人がいっぱいなんだねぇ。小十郎さんの野菜はもっと食べたいけど、怖いなぁ」


だからぼくは今日もこうやって自分で付けた傷を見せて、世界は危険だらけで怖い敵ばかりだと金吾に嘘をつくのだ。


「金吾」

「ぼくの後ろにいれば怖いことは何もないよ」
「きみの出来ないことは代わりにぼくがやってあげる」
「ぼくがいれば全部だいじょうぶ」

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